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ウェッブ・スタイリストの生活と意見[11]
OISR-Watch1999年12月14日号

野村一夫


■レトロモダンの身ぶり、あるいはカードボックスの小宇宙から

 そろりそろりと年の瀬が近づいてまいりました。非常勤講師稼業のウェッブ・スタイリストとしては、自転車操業的講義ノート作成の終末が見えてきて「ゴールまでもう少し!」という心境になります。と同時に、過酷かつユーウツな採点評価の季節を控えて、つかの間の平安と漠然とした不安を感じる季節でもあります。

 そして世間では、いよいよ到来するミレニアムで大騒ぎ。考えてみれば、2000年と言ってもたんなる数字の並び方にすぎないわけで、ただひとつ「2000年問題(Y2K)」だけが大騒ぎするにふさわしいイベントであるように思うのですが、しかし、人びとがミレニアムに何か意味を見いだしてさまざまな行いをすれば、それ自体が原因となって有意味な社会現象も生じてくるという可能性はありえます。社会学で「予言の自己成就」と言われるメカニズムですね。とくに20世紀近代の回顧と総括をこの機会におこなうことにでもなれば、ミレニアムを契機として何か新しい一歩を踏み出すきっかけにもなりましょう。

 というわけで、当研究所では「20世紀近代の回顧と総括」を知的支援するために『日本の労働組合100年』という画期的な大企画を実現させたところです。昨日12月13日に旬報社から発売されました。これについては前回の "OISR-WATCH" と今回のお知らせをご覧ください。

 "OISR.ORG" でも、その副読本的参考資料としてご覧いただきたい企画を「ミレニアム特集」として行っています。題して――

   OISR.ORG20世紀ポスター展
     法政大学大原社会問題研究所所蔵資料2600点で見る
     戦前期日本の〈モダンの力〉

 当研究所には大量の所蔵資料があります。そのうち戦前のポスター資料についてはほぼ整理ができています。ポスターが中心ですのでポスター資料と呼んでいますが、じつは旗やビラや回覧文書もふくまれています。それらを合わせて約2600点強あります。今回の企画はこのすべてをスライドショウ形式でオンライン展示するというものです。戦前のポスター資料「すべて」というところがすごいでしょう?

 このポスター展のプロデュースは私がやっていますが、言うまでもなくコンテンツ自体は長年にわたってスタッフがこつこつと作り上げてこられたものです。元所員の是枝洋さんの手によってデータベース形式ですでに全内容も公開されています。http://oisr.org/kensaku/poster.html

 ですから、より正確に言えば、この企画は研究所のカードボックスの一部をネット上に公開しただけなのです。

 そのカードボックスは研究所入口の閲覧サービスカウンターのちょうど正面にあります。ボックスを引っぱり出してカードを繰ると、そこにはポスターの白黒縮小コピーがひとつひとつ糊付けされていて、それに関する基礎データが手書きで書き込んであります。蔵書カードのようにそっけなくはありません。カードを繰ってその白黒の縮小コピーを眺めているだけで、20世紀前半のある種の熱気を感じとることができます。そしてそれらの一枚一枚が細かく分類されて並んでいるのです。カードボックスを外から見ただけでは、だれもこのような整然たる小宇宙が内部に広がっているとは想像できないでしょうね。

 それを作成されたのが、元所員の谷口朗子さんです。ですから今回のポスター展では監修者として登場していただきました。谷口さんは長く当研究所所員として資料整理に携われてこられた方で、現在は退職されていますが、週に何回かは来られて資料整理をされています。

 今回、谷口さんに書いていただいた思い出話によると、資料整理は20年以上前にはすでに始まっていたとのことです。

「思い起こせば(随分古い言い方ですが)20数年前、麻布校舎の4階の大教室の片隅にマップケースが据えられて柏木の土蔵よりポスターが運び込まれ(この時、だれが作業をしたのか私も加わっていたのか全然記憶にないのですが)アルバイトの久保村君と整理を始めました。ラッピングなど夢のまた夢の頃ですので傷む前に写真にでも撮って、それを閲覧者に見てもらえばよいと久保村君が自前のカメラを持参して白黒の手札版の写真を作ってくれました。余りいじると危険なので重複なども気にせず端から写したものです。」

 法政大学に麻布校舎があったこと自体、知っている人は少ないのではないでしょうか。「柏木の土蔵」というのは、当研究所の所蔵していた土蔵で、さいわい戦災で焼け残ったものだと聞いています。

「分類整理も無産政党の整理を始める前でしたので戦前の政党が数年で離合集散を繰り返している事などは知らず政党別に区分し『同じ名前の人が色々の政党から立候補してますよ』などと久保村君に云われたりしながら暗中模索を繰り返しておりました。これが後の整理で人名別にする事になったわけです。」

 無産政党の離合集散については、そのうち参考資料をつけたいと思っていますが、たいへんややこしいのです。それもこれも当時の政治的熱気のせいでしょう。

「退職間際に戦前のポスターだけでもカード化したいと、この時には大原の資料が電子図書館化するなど夢想だにしておりませんでしたので、久保村君の撮った写真をゼロックスで縮小コピーしてカードに貼って一応戦前の部だけは完成しておりました。退職後、戦前資料のマルチメディア・データーベース化ということで科研費が取れたから手伝わないかといわれて研究所に出入りするようになってからの作業は、昔に比べると少々乱暴に扱っても傷む心配もなく随分楽になりました。」

 このようななりゆきで現在のカードボックスが作成されたということです。一朝一夕でなるものではありません。

 地味なカードボックスではありますが、さすがに気がつく人はいるもので、これまでにも「全部ゼロックスコピーしてください」という閲覧者がいらっしゃったそうです。さすがですね。そんな閲覧者の方も、あるいは今までそのような世界をご存じなかった方も、これからは、みなさんいつでも全部をご覧になれます。

 本来はきわめて専門的な研究に寄与しようという企画ではありますが、そうではなくても、美術的なまなざしで戦前期の日本に横溢した熱い〈モダンの力〉をご堪能いただくこともよろしいかと思い、スライドショウにしました。今となってはレトロモダンな身ぶりが20世紀という時代を考えさせてくれるでしょう。

 現在、鋭意オーサリング作業中で、11月に第一陣として約1600点弱を公開しました。画像がないファイルもあり、ときどきでかい画像がでてきてビックリすることがあるかと思います。これはデータベースの方で公開している画像を代用しているためです。完成時にはだいたい名刺大にそろう予定です。あと1000点の画像が出来しだい、全体の調整作業に入ります。

 このような「公開しながら構築する」というやり方を私は「ガウディ方式」と呼んでいます。「ガウディ方式」とは「公開しながら構築中」ということで、ほんとは「サグラダファミリア方式」というべきなんですが、長いので「ガウディ方式」にしておきました。つまり、これです。↓
http://www.shibata.nu/~gaudi/familia.html

 私も研究所内でじっくり仕事する時間がないので、こうやっておいて家で点検しています。ウェッブはみんな「公開しながら構築中」ですから「ガウディ方式」なんですが、公式コンテンツでもありますからお断りを入れています。ご承知おきください。

 計画では、まずいったん全資料を基礎データとともに一覧できるようにして、しかるのちに、解説つきセレクションをいくつか作成していくということになります。ただし現状では解説できる研究員がいらっしゃるのかどうか(時間や条件をふくめて)わかりませんので、とりあえず「ど素人」の私が図像学的な見地(?)からいくつかの「コース」を設定するつもりではいます。ま、私の場合、お笑い路線になるような気がしないでもないので、できれば回避したいとは思っていますが。

 というわけで、"OISR-WATCH" をご覧の方で(そこそこ真面目な)解説つきセレクションをつくってみたいという方がおられましたら、お気軽にお知らせください。テーマのはっきりした閲覧コースが複数あるのが理想だと思いますが、なかなか解説できる方がいないのです。なお、基礎データの公開完成は年を越しそうな気配です。今しばらくお待ちください。ちなみにウェッブ・スタイリストのお気に入りは「産業福利協会」です。なかなか美しく、直截な表現が印象に残ります。

OISR.ORG20世紀ポスター展(http://oisr.org/poster/)

(のむらかずお・兼任研究員・社会学)

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