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社会・労働関係サイト探検(6)
OISR-Watch1999年7月31日号

二村一夫


 今回は日本の労働関係の研究機関のサイトを訪ねてみたい。探検というより、紹介・論評が主になろう。独断と偏見のコメントで、不適切な内容と感じられる方があるかもしれない。その点は、あらかじめお許しを願いたい。

★日本労働研究機構(JIL)
http://www.jil.go.jp/index.htm
 まずとりあげるべきはJILのサイトであろう。現在のコンテンツの豊富さもだが、スタッフの数、財政的な基盤、さらには活字メディアでの充実度を考えると、今後さらなる発展・充実を期待しうるし、ぜひ頑張ってもらいたいからでもある。
 ご存知の方も多いと思うが、このサイトの現在の主要内容はつぎの通りである。
労働省発表資料 | 統計調査 | JILデータベース | 出版物 | 海外労働情報・
国際情報 | ネットワーク・データベース| Japan Labour Bulletin |など。
人によって違いはあろうが、私自身がこのサイトで役に立つと感ずるのは、統計調査、労働省発表資料、海外労働情報などである。
◎ 統計調査は内容豊富で、「企業の事業展開と雇用に関する実態調査」(平成11年6月)、「リストラの実態に関する調査」(平成10年12月)など、その時々の問題に関して実施された調査がPDFファイルなどで提供されている。とりわけ役にたつのは「最近の統計調査結果から」で、労働省だけでなく経済企画庁や総務庁など諸官庁の月例統計や労働経済に関する最新の統計調査で、月ごとに整理されている。このほかラスパイレス賃金指数、国際比較、主要労働統計指標など最新の労働統計について知ることが出来る。こうした最新情報が家にいながら無料ですぐ手に入るのは素晴らしい。
◎ 労働省発表資料は、もちろん労働省のホームページからもアクセスできるが、ファイルはJILが作成している。大臣官房・労政局・労働基準局・女性局など資料を作成した各局別に、また発表年月別に整理されているほか、キーワードで検索することも出来る。
◎ 海外労働トッピックスは、リアルタイムとはいかないまでも、世界各国の労働事情について最新の情報を知ることができる。さすがに、「22の主要国に海外委託調査員を設置して労働情報を収集している」というJILだけのことはある。ただし、2カ月分が233Kという膨大なファイルにまとめられているので、オンラインで読むのは少々つらい。DLして読むことをお勧めする。
◎ データベースは、今はまだ「労働委員会関係命令・裁判例」だけであるが、今後は、労働問題専門家、労使関係記事情報、労働政策等のデータベースを提供する予定だという。

 もうひとつ、JILのサイトで注目されるのは英語での発信に力を入れていることで、海外の日本関係リンク集でもJILはかならず採録されている。なかでもJapan Labour Bulletinのオンライン版は、英語で読める日本の労働関連情報のなかでは質量ともにトップレベルである。

 JILのサイトについて希望したいのは、トップページの改善とデータベースをもっと使いやすくすることである。
◎ トップページは、画像を使って親しみやすいものに仕上がってはいるのだが、コンテンツに関する説明がほとんどないので、ここでどのような情報が入手できるのかよく分からない。画像はそれほど大きなものではないから、とりたてて重いわけではない。しかし、このトップページからは、そのコンテンツの豊富さが伝わってこない。
◎ データベースは、JILが中心になって労働省と関連団体との間で作成している「労働情報センター」(LINC=Labour Information Network Center)の多様なデータベースがあるのだが、インターネットでは利用できるものが限られている上に、利用者登録が必要であったり、telnet接続であることなど使い勝手が良いとはいえない。来月からは、これまでniftyのLINCにあった、週刊労働ニュースの全文検索が出来るようになるとのことで、さらなる改善を期待したい。

 また、ごく最近、このサイトで「労働情報ナビゲートシステム」の運用が始まった。これは、労働関係のホームページの内容をデータベース化し、キーワード検索により直接その情報のあるページへリンクするシステムである。まだ発足したばかりで改善の余地はあるが、検索対象サイトが適切に選ばれれば、労働関係のサーチエンジンとして大いに役立つであろう。

★東京大学社会科学研究所
http://jww.iss.u-tokyo.ac.jp/
 つぎに、労働専門の研究所ではないが、最近大きな変貌をとげつつあるサイトとして東大社研をとりあげよう。この研究所は、なぜか長い間、英語サイト主体のホームページをつくってきたが、ごく最近、充実した日本語ページを開設した。もっとも、制作者が目指しているのは単なる日本語ページではなく、多言語ページであるらしい。もともとインターネットの特質のひとつは世界に開かれている点にあるが、このサイトはその特徴を生かして、7カ国語もの多言語によるホームページの実験を始めている。おそらく、世界中でも、あまり例のない企てといって良いのではなかろうか。

 これまで、東大社研の英語サイトは、季刊の英文ニューズレターSocial Science Japan NewsletterやDiscussion Paper Seriesがオンラインで読めるほか、「現代日本の政治経済」を中心とするインターネット上での国際的討論フォーラム SSJ Forum(約500人参加)を運営するなど、海外への情報発信という点では社会科学系の研究機関の先頭を走ってきた。

 これに加えて、昨年から「言語/権力(Language/Power)フォーラム」が開設されたのである。SSJ Forumが英語による意見交換の場であるのに対し、L/Pフォーラムは、インターネット上で多言語による交信を可能にすることをめざす実験的な、しかし意欲的な試みである。このフォーラムのテーマは、オンライン共同体、共通語としての英語、多言語社会、機械翻訳、文字コードなどインターネットにおける多言語共同体の問題を社会と技術の両面から検討するという。投稿用言語は「Unicodeのテキストで表現できればどんな言語でもよい」が、当面は、モデレータ・チームの言語理解能力から「日本語、英語、中国語、韓国語、フランス語、ドイツ語、ロシア語」のいずれかに制限されている。Webで、7カ国語による討論が交わされるという意欲的な企画である。このL/Pフォーラムのアドレスはつぎの通り。
http://lp.iss.u-tokyo.ac.jp/
投稿先メールアドレス:lp@iss.u-tokyo.ac.jp

 もうひとつ、東大社研のサイトで注目されるのは、社研の付属施設として設けられた日本社会研究情報センターが運営している《SSJデータアーカイブ》と《朝日新聞の切り抜きデータベース》である。朝日新聞データベースは、原則として利用者IDの取得が必要であるが、現在はguestとして誰でも利用することが可能である。具体的な内容は、直接アクセスしていただくことにしたい。
 SSJデータ・アーカイブ(Social Science Japan Data Archive)は、日本の統計調査、社会調査の調査個票データと調査方法等に関する情報を収集・保管し、学術目的での二次分析のために提供することを目的としている。
 調査個票データを寄託しているのは、つぎの10機関で、現在、約230データセットが提供されているという。
 連合総合生活開発研究所   生命保険文化センター
 日本能率協会総合研究所   全国大学生活協同組合連合会
 国民金融公庫総合研究所   社会経済生産性本部生産性研究所
 中小企業総合研究機構    関西生産性本部
 高年齢者雇用開発協会    日本経済新聞社
 《SSJデータアーカイブ》のうち、このNewsletterの読者が関心をもたれるであろうものは「統計関連情報の検索」である。ここには、あの労働調査論研究会編の『戦後日本の労働調査』に収録されている調査と「官庁労働統計」の検索が出来る。これらの調査のうち、調査票が保存されているものは、現在入力作業中で、いずれは調査の個票データが公開される予定であるという。戦後労働史の研究にとっての宝庫がいよいよ開かれることが予感される。

 もっとも、筆者の率直な意見を言わせていただけば、専任の研究スタッフだけでも50人という大研究所のホームページとしては、まだまだもの足りない。何より、英語サイトで読めるようなペーパーさえ、日本語では読めないのである。
 この研究所の研究員個々人が自分のホームページを開設して発信し始めたら、社会科学系の研究機関で、このサイトにかなうものはなくなるであろう。ただし、最近では、研究員個々人が署名した発言が増えつつある。個々の研究員がHTMLファイルのオーサリングをするようになれば、このサイトの展開には目が離せないであろうが、それにはまだしばらく時間がかかりそうに思える。

★労働科学研究所
http://www.isl.or.jp/
 1921(大正10)年に、大原社会問題研究所の社会衛生研究部門が独立して創立された兄弟研究所である。現在は文部省所管の財団法人。日本の労働科学研究のパイオニアであるだけでなく、今なおこの分野における中心的な研究所のひとつである。その時々の話題になったテーマ、たとえば、電磁波、加齢と暗順応、ILOプロジェクト、自動車運転と眠気、化学物質リスクマネジメントなど興味深い問題が解説されている。
 このサイトが他の研究所のサイトと比べ比較的充実しているのは「研究グループ紹介」であろう。現在ある、1)労働ストレス研究グループ、2)ヒューマン・テクノロジー・インタラクション研究グループ、3)システム安全研究グループ、4)快適職場環境マネジメント研究グループ、5)化学物質健康リスクマネジメント研究グループ、6)職業性疾患疫学研究グループ、7)労働・社会生活、福祉研究グループの7グループについて研究グループの特色、主な研究課題、最近の研究成果などが紹介されており、研究参加者については「研究者ディレクトリ」がまとめられている。

★(財)連合総合生活開発研究所(連合総研)
http://www.mars.dti.ne.jp/~soken/index.htm
〈連合〉のシンクタンクのサイトである。自己紹介のほか、数多くの研究報告、委託調査報告、月刊のレポート=『DIO』(Data Information Opinion)のオンライン版などが掲載されている。ただし、報告がほとんど要旨だけであるのはもの足りない。 なお、ときどきリンク先のファイルがなかったり、まったく別のファイルに繋がったりするものがある。また2つの報告を1つのファイルに入れ、しかも文書内アンカーを設けてないので、e-textリンク集に掲載しようと思っても、後半の報告に直接リンクさせることが出来ない。インターネットの生命はリンクである。HTML文書の作成に際して、もう少し細かい気配りをしてほしいと思う。

★労働運動総合研究所(労働総研)
http://www.iijnet.or.jp/c-pro/soken/index.html
〈全労連〉のシンクタンク。『労働総研ニュース』季刊の英文ジャーナルRodo-Soken-Journalがオンラインで読める。全体として、ただ活字情報をそのまま掲載しているだけで、もう少しインターネットの特性を考慮したホームページ作りが必要ではなかろうか。

★生活経済政策研究所
http://www.hi-ho.ne.jp/seikatuken/
 旧「平和経済計画会議」が名称変更し、1997年2月から再発足した研究所である。「介護労働力の確保と配置に関する調査研究」といった調査報告、あるいは高木郁朗日本女子大教授の「労働運動の明日とは何か」など、研究所のプロジェクトによる調査や学者研究者の提言が掲載されている。報告書が活字出版物の宣伝的なものに終わっているのは残念である。

 以上、日本の労働関係の研究所のサイトを眺めてきて感じたことがある(実は労働関係の研究所だけの問題ではなく、日本のホームページ全体にいえることだが)。それは、すでにJILのところでも述べたのだが、全体としてトップページの作り方にもうひと工夫欲しいということである。どのサイトも画像やフレームを使い、綺麗に作り上げている。しかし、それぞれのホームページが、どのような読者層に向けて、どのような情報を発信しようとしているのか、その内容やポリシーがかならずしも明確ではないのである。トップページの作者が、いっぱんにその組織の性格やホームページ全体の構造を理解した上で制作していない、とまでいっては言い過ぎだろうが、十分に配慮していないように思われる。現在のデータの転送速度では、画像中心のトップページにはまだ無理がある。さらにいえば、テキスト中心なら音声読み上げソフトのおかげで視覚障害者にも内容が分かるのだが、画像データばかりだと、こうした人びとには理解できないホームページとなってしまう。こうした点も考慮し、もっとテキスト重視のトップページの制作をしてほしいと思う。

(にむら かずお・名誉研究員)

〔付記〕

 東大社研日本社会情報センターの佐藤博樹氏から、東大社研サイトのデータベースに関する記述についてつぎのような指摘を受け、本稿ではその点を補正したものを掲載したので、実際に配信したものとは、若干の違いがある。

 「ご紹介の内容について、2点だけコメントさせてください。第1に、《SSJデータアーカイブ》に利用にIDは、不要で誰でも利用できます。第2に、統計情報の検索も利用価値がありますがそれはおまけで、本来のねらいは磁気化された個票のデータアーカイブ構築と個票データの学術研究への提供です。ちなみに、現在、約230データセットを提供しています。」

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