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アメリカ便り番外編(その3)−クリーブランド博物館で考えたこと
OISR-Watch2000年12月30日号

五十嵐 仁


世に反省の種は尽きまじ

 この間、年末・年始の休みを利用しまして、デトロイト→クリーブランド→ピッツバーグ→ワシントン→フィラデルフィア→ニューヨークと、アメリカ北東部をめぐる「ニューイングランド一人旅」に出ております。今、その旅先で、これを書いています。

 この博物館に行きまして、「なるほどなー」と感心することがいくつかありました。これは、本編の方でも簡単に触れていますが、日本の博物館や大学の研究所などでも参考になる点があるのではないかと思いました。

 この点について、もう少し敷衍して、今回、この欄で私見を述べさせていただこうと思います。

展示・研究・教育の総合的・有機的一体化の必要性

 クリーブランド博物館は、動物・植物・鳥類・鉱物・地学・天体など、自然科学の歴史についての博物館です。規模はそれほど大きくありません。展示物には、最近まで「人類最古の化石」とされていた「ルーシー」という名前の原人の化石や恐竜の骨格標本などがありますが、その他の点では、これといった特徴はあまりないという印象です。

 私がここを訪れて関心を持ったのは、別の点にあります。それは、このような展示だけでなく、この博物館が多様な活動を行っていることがかいま見えたからです。展示形式の活動は、その一部でしかないようです。

 この博物館の地階には、オハイオ州についての展示がなされています。その他、「Discovery Center」というかなり広い体験学習室があり、子供達がボランティアの小母さんに指導されて何か作業をしています。教室もあるようです。また、一般の人の立ち入りが禁止されている研究員の実験・作業室のような所もあります。

 そして、一階に戻ってきましたら、係員が箱からウサギやフクロウ、蛇などを順番に出して、子供達やその父兄を相手に説明しています。フクロウの鳴き声をまねて口笛で吹いて見せたり、首の回りに蛇を巻き付けて、口を開けて見せながら舌の機能について説明しています。前列にいる子度達は、食い入るようにこの様子を眺めていました。

 これらを目撃しながら、私は、これからの博物館や研究所は、こうでなければならないと思いました。「こうでなければならない」とは、展示・研究・教育の総合的・有機的一体化の必要性ということです。もちろん、博物館は基本的に博物館ですから、展示や映像などのディスプレイ中心になりますし、研究所は研究所ですから文書・資料の収集・保存や閲覧サービス、研究業務が中心になります。

 しかし、同時に、複合化といいますか、総合化といいますか、展示や研究・教育の面にもそれぞれが相互に触手を伸ばしていくということが、もっと考えられて良いのではないかと思いました。

八王子「子供科学館」を例に

 例えば、八王子には「子供科学館」という施設があります。私も娘を連れて何回か行ったことがあります。大きなプラネタリウムがあって、天体観測など、色々な活動はやっていますが、この活動と学校での教育とどう結びついているのか、という疑問があります。施設としても、中途半端な印象です。

 小学校では「社会科見学」という時間があって、バスに乗って清掃工場などに見学に出かけます。これと同じように、「子供科学館」の内容をもっと充実させて、ここに「理科見学」に出かけるということを考えても良いのではないでしょうか。

 八王子の小学校や中学校には、それぞれ理科実験室のようなものがあります。日常的に必要な部分を除いて、これらの学校に共通する大規模な学習施設として「子供科学館」を整備し、市内全域の理科教育の拠点として共同利用するということを考えるべきでしょう。これは、昨今懸念されている子供の理科・科学離れへの対策としても有効であると思われます。

 また、このような施設と研究との結合ということも、もっと検討されるべきでしょう。「子供科学館」は、科学についての一般的な関心を高めるための展示というだけでなく、例えば、八王子の自然や生態系についての展示も行うべきでしょう。そして、このような自然環境を保護し、生態系を守るための研究を「科学館」の機能の一環として組み込むべきではないでしょうか。

 これは、できるかどうかの話ではなく、望ましい姿としてどうあるべきかという話です。可能かどうかは、また別の問題です。しかし、これまでこのような形で検討され、構想されたことがあったでしょうか。

大原研究所の場合

 このような、展示・研究・教育の総合的・有機的一体化の必要性という視点は、大原社研の場合、どういう問題に繋がってくるのでしょう。先にも述べましたように、大原研究所の場合、資料の収集・保存・管理や研究活動が中心です。これに加えて、展示・教育への触手の拡大という課題が出てきます。

 展示という場合、研究所の貴重資料を常設展示するということが考えられます。一般の人を対象にした大規模な展示施設は差し当たり無理でしょうが、研究所への来所者に対して、「へー」と思わせるような珍しいものを常時展示しておく、ということは考えられるでしょう。どこに、何を展示するかはこれから考えなければならない問題ですが、重要なことは、現物の資料を実際に見られるようにするということです。

 もし、資料の安全や保管上問題があるというのであれば、「レプリカ」でもやむを得ません。実物に近いものを見せるということが重要です。

 もう一つ、展示という場合、「バーチャル展示」があります。イターネット上での展示です。これは、現在、着々と進行中です。私が手伝えなくて申し訳なく思っていますが、私がいなくても全く滞っておりません。

 教育面への拡大という場合、基本的には、大学生や大学院生向けの研究・学習教材として、大原研究所の資料をもっと活用してもらうように工夫すべきではないかということです。

 具体的には、第1に、実際の授業で大原研究所の施設をもっと活用していただくよう、各学部や、場合によっては他大学にも働きかけたらどうでしょうか。社会・労働関係ゼミや講義の一環として、研究所に来て実際の資料を見せながら講義をしたり、討論したりする。この臨場感が大切でしょう。

 第2に、展示や情報の発信に際して、もっと授業での教材作りを意識したものにしたらどうでしょうか。こちらの授業では、スライドやビデオが多用され、学生は具体的なイメージを描きながら先生の講義を聴いています。研究所でも、社会・労働関係の講義やゼミで使える教材として、大原の資料を位置づけ直してみたらいかがでしょう。

 第3に、大学生や大学院生向けに研究所ツアーのようなものを行い、積極的に研究所をアピールするべきではないかということです。法政大学の学生や大学院生でありながら、また身近に存在していながら一度も訪れたことがないという学生や院生は少なくないと思われます。何らかの形でその機会を作るということが、ここでの課題になります。用がなくても、「ただ覗くだけ」でも良いわけです。ただし、しょっちゅう覗かれては困りますから、新年度の適当な時期に期間限定で行うべきでしょう。

 そして、第4に、地域や社会にも開かれた研究所にしていくということであれば、このような研究所ツアーに一般の人の参加も呼びかけるのがよいと思います。もし、ツアーの実施期間が決まったら、ホームページやこのメール・マガジンで呼びかければ良いでしょう。「行ってみたいけれど、きっかけがない」という人もいるかも知れませんから……。

むすび

 以上は、主として大原社研についての話になってしまいましたが、他の大学付属研究所でも同様のことが言えるように思われます。すでに、このような経験があるところは、是非、その経験をお聞かせ下さい。また、このような点での経験交流や意見交換の機会を持つ必要性もあるでしょう。

 現在、大学生の減少や大学の役割の変化、大学教育のあり方などをめぐって、様々な議論が起きています。大学付属研究所のあり方やその役割についても多様な議論があり、研究所の新しい方向を模索する試みも色々な形で行われています。

 私がクリーブランド博物館で考えたことは、一種の夢物語に過ぎないかも知れませんが、このような議論に何らかの参考になればと思い書かせていただきました。今後の討論の素材にでもしていただければ幸いです。

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