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『民主評論』の復刻・刊行について
OISR-Watch2000年2月13日号

五十嵐 仁


 もう、ご覧になった方もあると思いますが、2月7日付『朝日新聞』一面の下 段、右から三つ目の囲みに、法政大学出版局の宣伝が掲載されていました。その 一番下にあったのが、『民主評論(全5巻)』の刊行案内です。

 そうです。懸案の『民主評論』の復刻版が、「戦後社会運動資料」復刻シリー ズの一環として、出版されたのです。また、この出版は研究所創立80周年記念事 業の一部として企画されたものでもありました。復刻版の奥付は「2月9日」と なっています。奇しくもこの日は、81年目の大原社会問題研究所の創立記念日 でした。

 今回復刻された『民主評論』は、その表題どおり、「民主日本」を領導するこ とをめざして刊行された「評論誌」です。「評論誌」というのは、敗戦直後に創 刊され、事実の報道や時事解説などだけでなく、時代の動向を分析して戦後改革 のための主張を前面に打ち出し、政策的な提言や論評などをも試みた雑誌のこと です。

 『人民評論』(伊藤書店)、『自由評論』(霞ヶ関書房)、『社会評論』(ナ ウカ社)、『世界評論』(世界評論社)など、このような「評論誌」は戦後改革 期に多く創刊されました。1945年11月、戸田慎太郎(木内誉治)の協力を 得て、有賀新(あらた)が創刊した『民主評論』は、このような「評論誌」を代 表するものの一つであり、戦後の論壇や政治・社会思潮にも大きな影響力を持っ ていました。

 本誌には、戸田慎太郎をはじめ、伊藤律、伊豆公夫、岡林辰雄、風早八十二、 神山茂夫、関根悦郎、中西功、永田広志、羽仁五郎、細川嘉六、服部之総など、 錚々たる理論家が寄稿し、戦後初期における革新的な世論をリードしました。 『民主評論』は49年6月に、第5巻第6号(通巻36号)で廃刊になります が、この間、民主・革新陣営の理論誌としての役割を果たしたと言えるでしょ う。

 本誌で扱われている問題は、農地制度改革、天皇制、民主統一戦線、憲法の改 定、日本経済の再建、食糧問題、労働組合の課題、財閥解体、銀行・産業の国有 化などです。いずれも、当時の時代の焦点となったテーマであり、本誌はこれら のテーマで特集を組み、時々刻々と変化する情勢を分析しつつ、読者に対して論 点と課題を明らかにしました。とくに当面する「民主革命」との関連で、天皇制 と憲法改定問題を重視し、幅広い分野の理論家を動員して、その分析・解明につ とめています。

 このように、本誌には戦後民主改革期において新生日本の進路を論じた、若々 しい息吹が感じられる論攷が多数掲載されています。それは当時の理論状況を知 る上での第一級の史料であるだけでなく、戦後の出発点における政治・社会運動 の特質を知る上でも、また日本ジャーナリズム史の特異な一断面を研究する資料 としても極めて貴重なものです。

 ただ惜しむらくは、敗戦直後の激動期であり、政治・社会情勢も不安定で、資 料保存の体制も十分に確立されていないという状況が災いし、『民主評論』など 「評論誌」の多くは散逸して学術機関にも十分にそろっていませんでした。大原 社会問題研究所は、1989年4月以来、これら「評論誌」の意識的な収集につ とめ、ようやくこのたび、『民主評論』を復刻することができました。

 また、この復刻版には、吉田健二研究員の精力的な調査に基づく、懇切丁寧な 「解題」が付されています。これは『民主評論』をめぐる事実の掘り起こしだけ でなく、戦争直後の民主的な政治・社会運動の状況や人的な関係、出版ジャーナ リズムの動向についての第一級の研究となっています。この「解題」も従来の研 究に新たな一ページを加えるものであり、それ自体の価値も大きなものがあると 言えるでしょう。

 本誌、「解題」ともども、この機会に是非一度手にとってご覧になり、若々し い「新生日本」の時代の息吹に触れていただきたいと思います。

法政大学大原社会問題研究所編
復刻シリーズ/戦後社会運動資料 第6回配本
民主評論社『民主評論(全5巻)』法政大学出版局、14万円



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