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『日本の労働組合100年』の刊行について
OISR-Watch1999年11月19日号

編集責任者 五十嵐 仁


 大原社会問題研究所は、大原孫三郎によって、1919(大正8)年2月9日に設立されました。その後、1937年に研究所は東京に移り、戦中・戦後の困難な時代を生き抜き、1949年には縁あって法政大学と合併し、その付置研究所になりました。

 振り返って見れば、1999年で、大原社会問題研究所は創立80周年、法政大学との合併50周年を迎えたことになります。80年といえば人間では「傘寿」にあたり、50年といえば半世紀です。この間、研究所は「時代の観察者」として、また「時代の記録者」として存在し続けてきました。

 また、1997年は、日本で初めて労働組合が結成された1897年から100年という記念すべき年でした。7月には労働組合期成会が発足し、12月には日本最初の近代的労働組合である鉄工組合が誕生しています。こうして、この年から、今日に至る労働組合の歩みが始まります。

 『日本の労働組合100年』は、この大原社会問題研究所の創立80周年と日本の労働組合誕生100周年を記念して企画されたものです。また、出版元の旬報社にとっては、創立50周年の記念事業でもあります。

 同時に本書は、100年以上にわたる日本の労働組合の運動と、それを記録し、資料を収集し続けてきた大原社会問題研究所の80年間にわたる活動がなければ、とうてい実現できないものです。それは、歴史の上に立って、歴史を記念するという、これまでにない企画となっています。

 また、本書の企画は、1897年から今日までの労働組合の組織と活動を、その背景となった社会運動や政治・経済情勢とともに正確に記述することを意図しています。100年以上にわたる運動の記録を過不足なく正確に記述するという課題は、個人の研究者ではほとんど不可能であり、恒常的な集団研究の場としての研究所にとってこそ良くなしうるでしょう。80周年記念事業として、研究所の総力を挙げてこの課題に挑戦することを試みた最大の理由が、ここにあります。こうして、大原研究所の集団的作業として本書の企画が取り組まれました。

 このようにして企画された本書ですが、そこにはユニークな特色がいくつかあります。

 第一に、単なる組合史の概説書とするのではなく、これまでの研究成果を十分に踏まえた上で、編年史的な記述としたことです。本文の記述は1年ごとになされています。まず、その年の「見出し」があって、次にその年を概括した「リード」があります。これに本文が続くわけですが、このような叙述形式は、労働運動史関係のものとしては、本書が初めてではないでしょうか。

 労働・社会運動は、1年で完結するとは限りません。しばしば数年にわたる場合もあります。従来、このような編年史的記述があまり試みられなかったのはそのためだと思われます。実際、編集委員会のなかでも懸念する声がありました。

 しかし、数年にわたるような運動であっても、その中心的な高揚は特定の年に生じています。そして、それはある年の運動として記憶されることになります。さらに年を中心にして記述することによって、その年の「社会的な相貌」がくっきりと浮かび上がって来るという効果もあります。編年史的記述は、このような点でのプラス面を持っています。それは読者の実体験とも重なり、「ああ、あの年にはこんなことがあったなー」という形で記憶を呼び覚まし、その時代を追体験する手助けにもなるでしょう。こうして、私たちは編年史的な記述に踏み切ったわけです。

 第二に、本文だけの記述にとどめず、人物紹介、囲み記事(トピック・基礎知識)、文献紹介、写真、図版などが適宜、挿入されていることです。こうして全体として、多角的かつビジュアルなものとし、これによって読者の理解がさらに深まるように工夫されています。特に力を込めたのは写真で、人物・文献などを含めて約300点が収録されています。

 人物紹介では、運動に関わった主要な人物約160人の経歴を紹介するだけでなく、可能な限り写真を掲げるように努めました。囲み記事は、本文に準ずる項目(トピック・基礎知識)を取り上げて解説しています。本文もできるだけ中見出しを掲げて記述内容が分かるように工夫されており、囲み記事とあわせて、事典としての利用も可能になっています。

 文献紹介では、特に労働・社会運動に影響を与えた書籍や雑誌、新聞など約70点を取り上げ、写真を掲げて簡単な解説が付されています。紹介されているものは、書名が良く知られてはいても入手が困難な、戦前の文献が中心です。

 欄外に掲載されている文献は、本文を記述する際に参照したものや、関連する事項についてさらに知識を深める上で参考になるもので、本文での記述や紹介されている人物、囲み記事についての学習を進める上で、貴重な手助けとなるでしょう。

 第三に、この種の文献としては異例なほど、付録の「第II部資料編」にも力を込めており、資料集としても役に立つようになっていることです。資料としてここで掲載されているのは、文献資料、組織系統図、問題別年表、統計資料です。

 まず、文献資料については、100頁以上にわたって原資料が収録されています。収録対象となっているものは、労働組合運動に関わる基礎的文献・資料ですが、網羅的なものとはせず、大原社会問題研究所が80年にわたって収集してきた研究所所蔵の原資料の収録に重点を置いています。他の資料集などで参照可能なものについては割愛しているため、1920〜40年代の資料が多くなっています。ただ、そこにはこれまで紹介されていない数多くの資料が含まれていて、初めて目にするものも少なくないでしょう。

 組織系統図について、本書が特に力を入れたのは「戦後主要産業別組織系統図」であり、これによって産業レベルの労働組合組織の戦後の歩みが理解できるようにすることでした。個々の産業や、特定の時期については、これまでもこのような系統図が作成されることはありましたが、これだけ系統的にまとまって、戦後全体にわたる産業別労働組合組織の変遷が図示されるのは、恐らくこれが初めてのことでしょう。

 問題別年表については、冒頭に主要項目年表があり、過去100年以上にわたる内外の主な出来事が簡潔にまとめられています。続いて、本文の記述と関わりの深い個別の問題についての詳細年表が作成されています。これらの年表を参照することによって、本文で記述されている事項について、さらに詳細な知識を得ることができ、また、当該項目についての、時間的な流れや事件相互の関係、国内外の関連や前後関係を一目で理解することができるでしょう。このような主要項目年表や問題別年表も、個々の問題についてはこれまで作成されることがなかったわけではありませんが、これだけ長い期間にわたって、系統的に、まとまった形で収録されるのも、恐らく初めての試みになるでしょう。

 統計資料についても、問題や時期によっては、これまで収録されることがなかったわけではありませんが、このように系統的かつ長期にわたって収録されることはなかったでしょう。とりわけ本書の特色は、労働・社会関係の関連資料を幅広く収録するという点にあり、同時に、可能な限り戦前・戦後の長期にわたってカバーするという点にあります。しかし、統計によっては、戦前にはなかったり、あっても数年おきであったり、途中からであったり、さらには調査の方法や統計の取り方が変わったり、対象や項目が変化したりと、一筋縄ではいかない苦労がありました。できるだけ長期統計として役に立つものをめざしましたが、これについては大方の評価を待つというところでしょうか。

 第四に、本書に収録されている原資料、文献、写真、ポスターなどについては、戦前を中心にできるかぎり研究所所蔵のものを用いるように努めたことです。この点では、本書はまさに、当研究所の過去80年におよぶ活動の蓄積を前提としており、その歴史の積み重ねの上に可能になったものだと言えるでしょう。

 この点で、当時はその価値も不明で、見方によっては「紙屑」にすぎなかった資料を、地道に黙々と収集し、整理し、閲覧に供してきた研究所の諸先輩の努力に、深く感謝したいと思います。これらの人々の努力と忍耐と、ある意味での献身がなければ、このような企画は無理だったでしょう。無名の人々によってまかれた一枚のビラに、運動の意味と価値を見いだし、それを歴史の屑篭から拾い出す作業を80年にわたって引き継いできた諸先輩の努力に、本書が報いるものになっていれば幸いです。

 ということで、第I部の本文は1年平均5頁、100年で約500頁、第II部の資料編は原資料100頁、その他100頁で200頁、全てあわせれば700頁という大冊ができあがることになっています。実際には少しずつページ数が増えていますので、800ページを越える可能性があります。ただし、詳細な目次と索引が付きますので、大きい割には利用しやすいものになるでしょう。

 本書は、すべての大学・短大の研究者にとって、本格的な学術研究書、資料集または参考書として利用されることをめざしています。労働組合史や労働問題はもとより、恐らく、歴史・政治・経済・社会・経営・商・法律・教育・福祉・社会政策などの分野においては、その研究を志すものが必ず参照しなければならない基本的な文献・資料になるものと思われます。これらの分野を専攻されている研究者、およびこれらの方々が利用される図書館や研究室に常備されることをお薦めします。

 労働組合や社会運動団体にとっても、本書は常に参照されるべき座右の書となることでしょう。特に、教宣部などの専門部と労働組合史や労働・社会運動史の編集に携わる役員にとって重宝なものであり、その書記局や事務所に常備されることをお薦めします。

 中学校や高校の社会科の先生にとっても、本書は参考図書として役立つでしょう。専門的ではありますが、叙述は平易で、写真や図版、用語解説も豊富ですから、自身の理解を深めるだけでなく、授業の教材としても役立つでしょう。特に、原資料で示される「生の声」は一級の歴史史料であり、学生や生徒の歴史意識を養う点で大いに役立つものと思われます。日本史・世界史・現代社会・政経・倫理・公民などを担当する先生と学校の図書館にお薦めします。

 このほか、本書は、企業の資料室、労働問題の研究機関、労働・社会問題を担当される弁護士、マスコミ関係者、著作家などにとっても、その実務や研究、仕事や業務に資するところ大であると思われます。また、公共図書館・議会図書館および官公庁の関係部局でも広く閲覧していただけるレファレンスブックとなることでしょう。

 定価は本体3万5000円ですが、2000年3月までは刊行記念特価として、3万3000円でご購入いただけます(税込み特価:34,650円)。お申し込みは最寄りの書店、または旬報社あてにどうぞ。大原社会問題研究所や五十嵐宛に直接申し込んでいただいても結構です。

 発売は12月13日の予定です。よろしくお願いいたします。

旬報社:〒112ー0015 東京都文京区目白台2ー14ー13
    TEL:03ー3943ー9911
    FAX:03ー3943ー8396

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