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『大原社会問題研究所雑誌』書評欄オンライン版



阿部五郎・後藤太刀味著
『探索・近代山形の社会主義運動』



評者:吉田 健二




 本書は,生起した「事件」とそれに関係したリーダーたちの思想と行動の検討を通して,近代山形における社会主義運動の実像を明らかにしたものであり,「東北の近代史研究双書」(あづまプリント刊)の一冊として刊行された。著者はともに山形在住の社会運動家である。
 1986年に刊行された『山形県史』(第5巻)は,1章を設けて近代山形における社会運動の成立と展開を紹介している。その詳細で客観的な分析は,他の県史と比し「出色の出来栄え」(本誌第356号)と高く評価された。本書は,この『山形県史』や,山口實『青春群像―社会運動の創始者たち』(1981年)などの先行研究の成果を活かしてまとめたものである。
 本書は,社会主義運動のリーダーやその遺族,関係者から精力的に聞き取り調査を行い,その証言を随所に収めている。この結果,従来は不明であった「事件」の事実関係が明らかにされ,近代山形の社会運動の実像がより豊かになった。例えば,山形県警は1930年9月,米沢市の劇団「黎明座」の団員らを検挙し,うち共青米沢班の活動家ら5人を治安維持法違反容疑で起訴した。いわゆる「米沢共産党事件」と呼ばれ,当局はこれを日本共産党の「陰謀」として扱い,『山形県警察史』(1971年)も重視して紹介した。著者は丹念に調査を重ねた結果,同事件が,警察の完全なデッチあげであることを明らかにしたのである。
 本書のもう一つの特徴は,近代山形の社会運動を担った社会主義者を発掘し,彼らの足跡を紹介し,その群像を明らかにしたことであろう。彼らは従来,紹介されるこどは少なかった。実際,本書の第3章に著者の阿部氏がとくに収めた県下の社会運動家7人のうち,『日本社会運動人名事典』(1979年)に収録されているのは,橋本新七だけである。さらに県下の社会運動家を発掘・調査し,できれば「山形県社会運動人名事典」として編さんされることを評者は期待したい。
 ところで本書は,近代山形の社会主義運動の形成・展開を1924(大正13)年における旧制山形高校社研と政治研究会(谷地町)の結成に求め,「この2つの流れが合体して,昭和初期の県内社会主義運動を強力にリード」(38頁)したと把握する。評者も同様に理解する。だが先行運動として,明治期に初期社会主義者の活動があったのであり,笹川潮風(彼も『日本社会運動人名事典』に収められていない)を除き,本書は全体として,初期社会主義者に関しては手薄である。また,県下の無産政党は左派の労働農民党と中間派の日本労農党とに2分されるが,本書では,前者と日本共産党の関係者のみを扱い,後者の運動には言及していない。「社会主義者の群像」を明らかにするとしながら,日労党の結成を担った小島小一郎や斎藤壽男らに関しても,なぜか「探索」の対象とされていない。





1992年9月,あづまプリント,340頁,2,000円

よしだ・けんじ 大原社会問題研究所兼任研究員

『大原社会問題研究所雑誌』第417号(1993年8月)



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