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『大原社会問題研究所雑誌』書評欄オンライン版



師岡 武男・仲 衛 監修
『証言構成:戦後労働運動史』



評者:吉田 健二



 戦後も47年,半世紀近い時間がたつ。そして世界と日本が新しい時代を求めて大きく変わりつつある現在,この間の労働運動の歴史を改めて問い直すことは,21世紀へ向けた日本労働運動の課題や方向を確定するためにも不可欠な作業である。本書は,戦後の労働運動を担ってきたリーダーたちから四人の労働記者がインタビューを試み,その証言を集めたものである。

 本書はじつに大部な証言集である。証言者は古賀専,三戸信人,滝田実氏など戦前以来の組合活動家から,鈴木市蔵,和田春生,岩井章,宇佐美忠信,竪山利文,宝樹文彦,宮田義二,さらに現役で第一線にたつ山岸章,藁科満治氏など23人を数え,総頁は巻末資料と合わせて,A4版の大型本で657頁にも及ぶ。このような大部な本書を証言ごとに紹介批評することは,紙幅の関係からも到底できない。本稿では,筆者が通読して若干,気がついた問題について紹介するにとどめたい。

 本書の特徴は,インタビュアーも証言者もその論点として,1989年11月の連合の結成によって戦後労働運動が終焉したと捉え,それまでの運動を「イデオロギー過剰の労使激突の時代」(11頁)と位置づけていることである。とくに旧総同盟・同盟系の証言者からは,労働組合主義の重要性について改めて強調された。また旧総評系の証言者からは,政党との系列化やブロック化を前提にしてきたことがむしろ労働運動の社会的,政治的影響力を低めてきたとして批判的に語られている。
 本書で注目されるのは,連合の成立によって結実した労働戦線の統一に関する証言である。第二次労戦統一への動きは1978年春闘の敗北を機に模索されたといわれ,民間労組共同行動会議,政策推進労組会議,全民労協をへて進捗していった。証言では,じつにそれより早く,1975年11月の「スト権スト」以降,労戦統一への取り組みがなされていたこと,その際旧同盟から労働組合主義,労働運動の民間主導,国際自由労連への加盟が原則的方針として打ち出された結果,旧総評が大きく動揺し,これに反発した左派系労組が統一労組懇を結成した過程が,当事者によって子細に語られている。


 本書の各証言は,既存の文献ですでに紹介されている内容が多く,戦後労働運動史における通史的評価に変更を迫るものではない。しかし証言者はいずれも,自らかかわった運動を現時点で冷徹にみつめ,山岸章氏の言葉を借りれば 「21世紀の日本的労使関係をどう構築していくか」(431頁)という見地から語られたものであった。その意味で,転機にある現在の労働運動が本書から学ぶ点は非常に多く,戦後労働運動史研究でも基本文献としてあげられるだろう。
 最後に一言付け加えれば,永野住(重)雄,加藤悦夫(閲男),「五全共(協)」など誤植が散見された。もちろん,このことによって本書の価値が減じるものではない。




SBB出版会,1991年6月,657頁,定価3万8000円

よしだ・けんじ 法政大学大原社会問題研究所兼任研究員

『大原社会問題研究所雑誌』第405号(1992年8月)



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