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『大原社会問題研究所雑誌』書評欄オンライン版



社会政策学会年報編集委員会編
『日本の企業と外国人労働者』

評者:依光 正哲




 

 本書は,1989年5月に開催された社会政策学会の第78回大会での報告の記録という性格を持っている。この大会の共通論題は,本書の表題と同じ「日本の企業と外国人労働者」であるが,まず最初に本書の目次を示しておく。

《共通論題》日本の企業と外国人労働者
 1) 国際分業の新展開と日本企業               戸塚 秀夫
 2) 外国人労働者流入の諸問題                鈴木 宏昌
 3) 日本企業のアジア第三世界進出と製造業女子労働者の実態  塩沢美代子
 4) 日本企業の国際化と現地人材戦略             白木 三秀
 5) 日本企業の対米直接投資と労使関係戦略・試論       仁田 道夫
 6) 英国進出企業の労使関係                 石田 光男
 7) 日本企業と外国人労働者                 熊沢  誠

《自由論題》
 1) 女子パート・タイム労働と雇用平等法           高島 道枝
 2) 男女雇用機会均等法と性役割分業の変革          塩田 咲子
 3) いわゆる「ホワイトカラー」と「不安定就業」          中山  徹

 本書のような学会大会の報告書という性格をもち,論文集の形をとっている書物を書評することは,困難な作業である。そこで,評論の視点を明確にし,焦点を絞って評論することとする。評者は,「共通論題」の設定とそれを受けた諸論文との距離に限定して論評することとする。
 評者は,この共通論題が決定される経緯やこの共通論題で論ずべきテーマの設定,さらに個別の報告者の選定過程に関するインフォメーションを全く持ち合せていない。そして,学会大会に出席することができなかったために,当日の状況を知らない。従って,本書をある意味で客観的な評価をすることができる立場にあるのではないかと考えている。
 まず最初に,本書を通読した印象から述べることとする。《共通論題》の「日本の企業と外国人労働者」という大きなテーマに取り組んだ論文は,鈴木論文「外国人労働者流入の諸問題」だけであり,他の論文は,共通論題とは別のテーマで一括されるべき性格のものである,との印象を受けた。別のテーマとは,「日本企業の海外事業展開に伴う労使関係問題」である。従って,共通論題を「日本の企業と外国人労働者」としながら,なぜ別のテーマである「日本企業の海外事業展開に伴う労使関係問題」を論ずることに比重が傾いたかということが第一の疑問であった。
 評者のこの疑問に対応するものが熊沢論文「日本企業と外国人労働者」である。この論文は,「共通論題」の総括討論の際の座長が,大会報告,討論,そして共通論題の諸報告者の論文原稿をふまえてとりまとめた「総括論文」となっている。
 熊沢論文によれば,「日本の資本に雇われる外国人労働者が急速に増えつつあ」り,「外国人労働者の受入れをめぐる諸問題と,日本企業の海外進出の惹起する諸問題の双方を,労働に焦点をすえて解明する試み」がこの共通論題の設定の意義である,とされる。そして,「受入れ問題」と「進出問題」は,前者が「日本(経済,企業,労働者など)にとって外国人労働者はどのような存在か」というスタンスをとるものであり,後者が「世界または外国(経済,企業,労働者など)にとって日本はどのような存在か」というスタンスをとるものである,と大別している(熊沢論文,129−130頁)。確かに,このように総括しないと,本書に掲載された諸論文を「日本の企業と外国人労働者」というテーマにはめ込むことが出来なくなる。
 しかし,上記のように日本国内の外国人労働者と進出先の現地労働者を一括して「日本の資本に雇われる外国人労働者」と把握することには根本的な疑問が残る。外国人労働者問題の原点は,国境を越えて他国で働く労働者の問題であり,送出国と受入国との文化的背景や労使慣行が同質であるか異質であるか,といった点はさし当り無関係である。そして,日本の企業が海外に進出し,その進出先でその国の労働者を雇用することによって生ずる労働者の問題を,外国人労働者問題として扱うことはできない。
 日本の企業進出を「外国人労働者問題」と関連させて論ずる方法はあろう。例えば,戸塚論文の追記に指摘されている「排出の論理と吸引の論理」(21頁)に関して言えば,日本の企業が進出することが進出先の「排出圧力」とどう関係するか,という論点,あるいは進出企業が日本へ「研修生」を派遣することに伴う問題の解明,などが日本企業の海外事業展開と外国人労働者問題とを結ぶ論点となるであろう。しかし,本書の「共通論題」の設定にはそのような視点がない。
 共通論題に関するもう1つの疑問は,この問題に関する「この学会に相応しい新しい問題提起」(3頁)がなされているのか,という点である。率直に述べれば,「日本における外国人労働者問題」についての新たな問題提起,新たな知見を発見することができなかった。非常に奇妙なことに,「日本における外国人労働者問題」を論ずる報告がこの共通論題の中に設定されていない。「この学会はその種の報告を準備できなかった」(131頁)のであれば,共通論題を変更するなり,本書のタイトルを報告論文の内容にふさわしいものにすべきではなかったかと思う。





御茶の水書房,1990年5月,vi+314頁,定価3,500円

よりみつ・まさとし 一橋大学社会学部教授

『大原社会問題研究所雑誌』第394号(1991年9月)




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