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『大原社会問題研究所雑誌』書評欄オンライン版




吉田和夫・奥林康司編著
      『現代の労務管理』



評者:高木 督夫



 本書は12名の研究者による島弘教授の還暦記念論文集である。このような場合一般にそうだが,編著者もいうように「各章の執筆者は各自の判断で自己の立場を選び,それぞれの立場から問題を検討することにしている。労務管理のどのような問題を分析するかは重複しないように調整した。しかしそれをどのような立場から取扱うかは各執筆者に一任し,編集上の統一を強いて追求していない」。当然ながら各執筆者が想定する読者層も異なるのであろう。一定の予備知識を要求する論文もあれば,初学者向けの解説的論文のような印象のものもある。要するに書評困難な論文集であって,紹介を主とせざるをえない。構成は,第1〜5章の「第1部・労務管理の生成」,第6〜11章の「第2部・労務管理の今日的課題」からなり,全体を「序章」が概観する形をとっている。
 冒頭の編著者の「はしがき」は,日本企業の労務管理が現在大きな転換期を迎えていること,その直接的要因として,技術革新,労働力不足,経営の国際化を指摘,それを背景として「序章・労務管理研究の現代的課題」(奥林康司)は,今日の労務管理研究の課題として「労務管理発展の国際比較」と「今日の日本企業が直面している労務管理上の諸問題の解明」を掲げる。前者が第1部展開の論拠になる訳である。後者の課題に関しては,その発生の背景として,労働力の種類の多様化,雇用形態の多様化,生産様式の根本的変化,労務管理の重点の作業現場の労働能率向上から企業組織全体のトータルな生産能率向上への移動の4点を指摘,そこから第2部で展開される労務管理をめぐる諸問題(管理者,事務労働者,技術者,パート労働者,女子労働者,中高年労働者の管理をめぐる諸問題)を導きだしている。
「第1章・アメリカ労務管理の生成」(百田義治)は,アメリカ労務管理の生成過程を「科学的管理運動」の側面から検討しており,「第2章・アメリカ労務管理の成立」(伊藤健市)は,同じ生成過程を雇用管理の展開,とくに当時の労務管理担当者の「専門職業化」を推進していた雇用管理者協会をはじめとする組織・団体の分析を通じて吟味している。「第3章・イギリス労務管理の生成」(岩出博)は,イギリス労務管理の源流を「先進的使用者」の個人的な人道的動機に基づく「福利厚生施策」に求める理解の一面性を排し,時代的要請,事業運営上の内発的圧力,使用者の個人的価値観等の諸力の複合関係の重視を強調する。「第4章・ドイツ労務管理の生成」(佐々木常和)は,第1次大戦までのドイツの工業化過程における各段階の経済的社会的条件を背景に,石炭,鉄鋼業の経営社会政策について事例研究を行っている。いずれも経営史分野での実証的論文である。これに対し「第5章・日本労務管理論の生成」は,わが国における経営学の一環としての労務管理論の発生がどこに求められるかを追求した経営学史分野での労作であって,馬場敬治,増地庸治郎,池内信行,とくに村本福松の諸先学の主張が検討されている。以上第1部の諸論文が本書の課題の一つである「労務管理発展の国際比較」にそれなりに貢献していることは確かだが,すべて労務管理生成期に焦点を合わせた歴史的研究であって,「現代の労務管理」との距離が余りに大きすぎるという印象は否めない。
 第2部の前半部分に当る第6,7,8章はホワイトカラー労働者の労務管理を取り上げている。「第6章・管理者の労務管理」(仲田正機)は,労務管理が現場の管理から管理者へと対象領域を拡大していく必然的過程,いいかえると「従業員としての管理者」・管理労働者の形成・増大過程の展開を,豊富な知識を基礎にアメリカの事例を中心として分析している。問題の新しさの故と,評者の専門分野の相違の故であろうが,先進的な知識を与えてくれる論文である。仲田氏は論文の最後の部分で,管理者の労務管理が現代企業管理の展開のなかで客観的に果たす役割を自ら問われ,次のように指摘される。現代企業の管理業務が「従業員としての管理者」ないし管理労働者によって担当され,管理業務における協業関係が拡大し,管理労働分野でも労働の社会化が進む。この管理労働の社会化は同時に管理の階層化であり,資本による賃労働への支配と抑圧の機構でもある。資本と賃労働の「この対立は,現代企業の展開にともなう労働の社会化=管理の階層化の進展に対応して拡大する必然性をもち,その過程でホワイトカラー労働者の階級帰属性の問題が重要な意義をもつであろう。この問題をめぐっては,近年,内外で研究が著しく深められてきている。機会をあらためて検討したいと思う」と。ホワイトカラー労働者の階級帰属性,評者流にいいかえれば労働者階級内部構成論における現代ホワイトカラーの位置づけの問題の重要性はあまりに周知である。管理労働者の階級帰属性の問題は企業内の階層的地位,職能,所得,公務・民間企業の別,さらにわが国なら企業規模等の指標と不可分だし,それを抜きにした管理労働者一般では,管理者の労務管理を行う企業側にしても,経営参加を考える労働者側にしても,管理労働者の把握として不十分ならざるをえないであろう。問題把握の具体化を進められる氏の研究の展開を刮目して待ちたい。
 「第7章・事務労働者の労務管理」(渡辺峻)は,わが国非製造業部門の事務労働者・商業労働者を対象とした,近年激増しつつあるいわゆるコース別管理(複線型雇用管理)の特質と問題点を,巨大銀行の事例分析と一般的な動向調査を対比させつつ検討したものである。分析はコース別管理が実質上差別的機能を強化している点を厳しく批判しているが,事実に即して説得的である。「第8章・技術者の労務管理」(庄村長)はわが国のME化を背景とした「テクニシャン」(「幅広い技能と技術的知識を有し,技能行動の意味を技術的知識と関連づけて理解することができ……技術者と技能者の橋渡し,および両者の中間的業務を担当する技術的多能工または実践的技術者」)の育成問題を手際よく整理している。将来これに関連して技能と技術の結合化による労働者の性格変化や企業別労働市場変化への影響といった問題が生ずるかもしれない,といったことを考えさせられる。第2部後半の「第9章・パートタイム労働者の労務管理」(正亀芳造),「第10章・女子労働者の労務管理」(筒井清子),「第11章・中高年労働者の労務管理」(大橋靖雄)はそれぞれの主題について全般的に紹介したものである。総じて執筆者の何人かの別の著作を読んだ経験からすると,平均20ページ弱という論文集の制約から蓄積の発揮が制約された印象が残る。




ミネルヴァ書房,1991年5月刊,viii+238頁,定価2,500円

たかぎ・ただお 法政大学工学部教授

『大原社会問題研究所雑誌』第397号(1991年12月)



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