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『大原社会問題研究所雑誌』書評欄オンライン版




手塚 和彰 著
『労働力移動の時代』




評者:鈴木 宏昌




 最近,日本でブーム化している外国人労働者関連の本の中で,注目すべき研究の一つは間違いなく手塚教授の『外国人労働者』(1989年日本経済新聞社)である。マスコミなどにも登場し,外国人労働者問題に関して活発に研究を行っている手塚教授の新著がこの本である。この本は新書版なので,紙面数に制限があること,広い読者層を想定して,幅広くテーマを扱っているので,前述の同氏の本に比べると表面的な部分も見られる。しかし,全体的には,よくまとまったものとなり,西ドイツの経験などに関しては,明快かつ専門性の高いものとなっている。文化論的な切り口が多いこの分野の本の中では出色な専門的入門書となっている。
 この本の構成としては,第一章から第三章までは外国人労働者問題の位置付けといった感じが強く,中核は第四章のドイツの外国人労働者の経験となっている。この西ドイツの経験に関する章(第四章)は量的にも長く,この本全体の約半分となっていて,充実している。その後,この西ドイツの経験を踏まえて,日本の現状に関しての考察が行われ,著者の個人的な見解が述べられている。
 各章毎にみて行くと,第一章はグロバリゼーションの流れとして,日系企業の国際化を扱っている。企業の国際化の流れの中で,「ヒト」の国際化がでてくる点を指摘することが,この章の目的と思われる。第二章は,日本の海外旅行ブームをみたもので,辛辣にパック型の旅行を批判している。また,日本人の考えているドイツと現実のドイツとの格差を示した例として,西ドイツの日本祭でローレライを日本語で歌う日本人婦人の話しには身につまされる。外国の中に溶け込む努力が少なく,どこの外国にもある日本人村に安住している日本人に対する皮肉である。第三章は,外国人労働者問題の本質と題され,所得格差と労働移動などの問題の位置付けを行っている。 OJT を中心とする研修プランを軸とした外国人労働者の受け入れには強い疑問を示している。不法就労の問題では,西ドイツ,アメリカの実例を吟味している。とくに興味深いのは,西ドイツの不法就労対策である。違法者に対する罰則が強化され,最近取締りも厳しくなっている。 26万件という不法就労事件数(1987年)が問題の大きさを物語っている。
 第四章は,この本の中心で,西ドイツの外国人労働者問題が手際よくまとめられていて,読みがいがある。まず,2国間協定の歴史的な流れが紹介されている。西ドイツの求める労働力が東欧から流入,そしてイタリア,ギリシャ,スペイン,トルコヘと変遷していく過程が手短かに紹介されている。それにしても,敗戦から1960年までに2,600万人という東欧からのヒトの流入の大きさは印象的である。また,熟練労働者の流入については,送り出し国の抵抗があること,その結果として,不熟練労働者が大半を占める結果になった記述も明快である。外国人労働者の滞在の長期化とともに,西ドイツ生まれの子供比率が非常に高くなってきている統計も意味深い。全般的に外国人労働者の失業率は高い。しかし,地域的に外国人が多いから失業率が高くなるのではなく,経済好調でも求人の多いところに人が集まらない西ドイツ人の移動性の低さに原因があると指摘している。
 最近の東欧の変動の影響についても触れられている。束欧からの流入により西ドイツでは今後,外国人労働者の受け入れの必要はなくなると外部環境の変化を分析している。ここらは,以前の本に書かれていない部分であり,目新しい。さらに,この章を通じて,西ドイツ政府が強圧的に外国人労働者を送り帰しているのではなく,統合化のために多くの努力が行われていることが紹介されている。西ドイツの外国人労働者の問題は,過去の政策の責任として自覚され,オンブスマン制度などにより,統合化へのポジティブな努力がなされている点など公平に書かれている。
 第五章は,このような西ドイツの経験から,日本がどのように外国人労働者問題に対処して行くべきかについて手塚教授の意見が明快に述べられている。外国人労働者の滞在は長期化する傾向が強く,ローテーションシステムなどを現実性の薄いものとしている。そして,外国人統合政策の難しさを指摘した後,一般的に不熟練労働においてのみ外国人労働者を受け入れることは「内なる開国」の努力に反すると結語している。手塚教授の具体的な提言としては,熟練,資格を要する職業での受け入れと思われる。外国の資格の承認などについて日本は本格的に取り組むべきだと記している。また,不法就労の問題についてはきびしく対処することを必要とし,今年の入管法の改正は当然としている。
 以上が新著の『労働力移動の時代』の骨子だが,ここで一点だけ個人的な読後の感想を述べてみたい。
 外国人労働者問題は,一国の経済,社会に直結するので,立場により,人により意見,判断が大きく振幅する。欧米においても,日本においても同様だろう。そして,外国人労働者問題の意識は時代の流れの中で変化するので,各国の経験は,ある程度相対化して考えられるべきだと考えている。この点,手塚教授の本の中で,何個所か引っ掛かるところがあった。西ヨーロッパの経験が,ときに「法則」として断定されている点である。私には,外国人労働者の定住化,長期化の問題にしても,日本で西欧と同じことが起こる必要はないし,低賃金部門への外国人労働者の集中も蓋然性は高いが,必ず起こるという性質でもないと考えている。言い換えれば,政策的選択の余地があるように思っている。
 また,熟練労働者の受け入れには,多くの人が賛成しているように思われる。しかし,熟練労働者という質の良い外国人が日本に大量に来るのだろうか。 1995年以後には,わが国の労働力不足は顕在化し,経済成長の大きなボトルネックが人手不足と予測されている。果たして,熟練労働者,有職業資格者の受け入れのみで十分なのだろうか。長期的な解決策としては疑問を持っている。
 とは言え,手塚教授の新著は,専門性を持った優秀な入門書である。多くの人がこの本を読み,外国人労働者問題を考えることが期待される。




中央公論社新書,1990年1月刊,新書版201頁,定価540円

すずき・ひろまさ 早稲田大学商学部助教授

『大原社会問題研究所雑誌』第386号(1991年1月)



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