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『大原社会問題研究所雑誌』書評欄オンライン版




早川 征一郎 著
『国・地方自治体の非常勤職員──制度,実態とその課題




評者:清水 敏




 非常勤職員は,いわば公務部門におけるパート労働者である。私の属する領域である労働法の分野からみた非常勤職員問題は,いわゆる「雇い止め」をめぐる問題が中心である。すなわち,非常勤職員は,本書でも詳細に取り扱われているが,通常1年以内の期限を付して任用され,多くの場合任用の更新がなされる。しかし突如任用期限の到来を理由に雇い止めされることも少なくなく,雇用の安定と処遇の改善を求めて非常勤職員が訴訟を提起する事例は枚挙に暇がない。
 しかし圧倒的多くの判例は,原告(非常勤職員)敗訴の結論を示しており,また,最高裁もかかる下級審の判断を追認しているのが現状である。これは,現行法の解釈テクニックによる解決方法にはおおきな「壁」が立ちはだかっており,かかる手法による問題解決には限界が見えたといえるかもしれない。そして今後は非常勤職員の勤務実態を踏まえて立法政策論としてこの問題を検討すべき段階にきていると思われる。
 このような観点から非常勤職員問題を解決しようとするとき,非常勤職員をとりまく諸条件をトータルに把握することが不可欠となる。本書は,まさに非常勤職員の実態を実証的に明らかにし,その処遇改善の展望を切り開こうとするきわめてタイムリーな,かつ意欲的な研究成果であるといえよう。

 さて本書の構成は,まず序章「日本の公務労働―その総体的考えかた」から始まり,第1章「国(国家公務員)の場合の非常勤職員問題」,第2章「最近の地方自治体と地方公務員などをめぐる諸問題」,第3章「地方自治体における非常勤問題」,第4章「政府,自治体の政策動向と非常勤職員の組織化・労働組合運動」そして終章「自治体の非常勤職員問題解決の基本的視点と課題」で終わる。つぎに,各章ごとにその内容を簡単に紹介し,必要に応じて若干のコメントをしたい。
 第1章は国の非常勤職員問題を取り扱っている。しかし著者も言及しているように,国家公務員たる非常勤職員の処遇は,地方公共団体の非常勤職員のそれにも決定的ともいうべき影響を与えており,その意味では公務部門における非常勤職員問題を考察するにあたってきわめて重要な意味をもつ。著者は,まず第1節において戦後における国の非常勤職員の発生の経緯を詳細に追っている。そこでは戦後一貫してとられてきた厳しい定員管理と非常勤職員の存在とが密接なつながりを有していることが見事に解明されている。
 第2節では,戦後の非常勤職員制度等の変遷および非常勤職員制度発生の経緯が詳細に述べられている。国家公務員法本文の文言にはない非常勤職員制度がなぜ発生したかについて簡潔に要約されており興味深い箇所である。そして1969年の総定員法の制定を境に非常勤職員の数は増大し,重大問題となっていくこと,さらに1980年代の「行革路線」は,非常勤職員問題を抜き差しならない問題としていったことが指摘されている。
 第3節は,非常勤職員を含む不安定雇用職員の法的位置づけがなされている。ここで注目されるのは,著者が任用中断期間に言及していることである。労働法からみると,この任用中断期間を設ける慣行こそ,非常勤職員制度の建て前と実態とのギャップの象徴であると思われる。すなわち,これは1961年の閣議決定が今日でもきわめて強い拘束力を有していることを意味するとともに,この閣議決定が非常勤職員の任用実務からかけ離れていることをものがたっている。この点に着目した著者の慧眼に敬意を表したい。
 第4節は,国の非常勤職員の実態が取り扱われている。この第4節こそ,本書の中心であり,データの制約があるにもかかわらず,それを駆使して非常勤職員の実像を見事に浮かびあがらせている。
 前記のように,今後立法政策問題として非常勤問題を検討する場合,ここでの叙述は議論のベースとして踏まえられねばならないと思う。また,従来非常勤職員の勤務条件は一般的に正規職員のそれに比して大きな格差があるという前提にわれわれはたっていたが,これは必ずしも実証的な裏付けが存在したわけではなかった。本書は,まさにわれわれの主張が部分的,あるいは特殊な事例ではないことを見事に裏付けており,その意義はきわめて大きいといわねばならない。

 第2章および3章は,地方公共団体の非常勤職員問題の論述に当てられている。第2章は,第3章において非常勤職員問題を分析,検討する前提として,近年における地方公共団体の動向と地方公務員をめぐる諸問題が取り扱われている。そこでは,地方公共団体において,いわゆる第3セクターの急増,民間委託の推進という現象が見られ,その結果,自治体職場では正規職員や非常勤職員のほかに民間企業の従業員などさまざまな身分を有する労働者が働いている実態にあることが指摘されている。
 続いて3章1節において非常勤職員の増大と留意点が述べられている。そこで注目されるのは,今後の非常勤職員問題の検討にあたって外部委託の進展との関係を看過できないと指摘されている点である。まさに同感するところであり,地方公共団体の業務であっても地方公務員が常にそれを遂行しているわけではない実態をどのように評価すべきか,改めて検討すべき段階にきていると思われる。第2節は,非常勤職員等の種類と任用の法的根拠とその問題点が指摘されている。
 第3節および第4節は,非常勤職員の実態が取り扱われているが,ここでは,非常勤職員であるホームヘルパー,学童保育指導員を例に挙げて職種と業務への対応の仕方がさまざまであることが指摘されているが,注目される。すなわち,これら職員の身分取扱いも民間労働者,嘱託職員または非常勤職員などさまざまであれば,その権利関係も複雑になるからである。
 第4章では,非常勤職員等に対する政府等の政策動向と労働組合の課題がとりあげられでいる。また,終章では,非常勤職員問題解決の基本的視点と課題として,非常勤職員の実態把握と待遇改善の必要性,非常勤職員の本務化などに言及している。紙数の関係で詳細に紹介できないが,ここにおける若干の疑問点については,後述することとしたい。

 本書はきわめて限られたデータしか入手できない環境のなかで,非常勤職員の実態を相当程度明らかにした。かつてこの種のデータを集めようとして挫折した経験のある評者からすると,この限られたデータを入手することさえ容易ではなかったと推測され,執ようにデータ入手に努力した姿勢に心をうたれる想いがする。非常勤職員の実像を浮き彫りした本研究の背後には著者の粘り強い努力があったことをまず指摘しておきたいと思う。
 また,民間におけるパート労働者問題は,パート労働法の制定に際してさまざまな議論がなされ,一定の研究成果も公にされている。しかし,公務員はパート労働法の規制の外におかれたこともあって,非常勤職員問題に関する研究成果は法律学からの若干の研究を除けば,ほとんど存在せず,その意味で本書は,非常勤職員問題のトータルな研究の最初の成果であると思われる。
 その意味では,本書は非常勤職員問題に相当な知識を有している者に対しても新しい視点や知識を提供することは間違いない。また,これから非常勤職員問題を学習しようとする者にとっては,本書1冊で問題状況全般を概観できる意味をもつと思われる。あれこれの論文等を集める労を省くだけではなく,問題をトータルに把握することができるので,是非一読を勧めたいと思う。

 本書においては,法制度についての叙述が随所に見られる。著者は,専門外である法律学の分野に対してもかなりの目配りをしており,関連する文献を相当消化していることが窺われ,まさに頭の下がる想いがする。ただあえて法律学の立場から是非触れていただきたかった点を簡潔に記しておきたい。
 それは,非常勤職員と労働基本権の問題である。周知のように,国家公務員には労働基本権の制約があり,とりわけ争議行為が禁止されている。この労働基本権制約の代償として正規職員には人事院勧告制度が適用される。最高裁は,人勧制度によって公務員の生存権が確保されることを一つの根拠として労働基本権の制約を正当化してきた。この最高裁の論理は,非常勤職員に関しては妥当しない。すなわち,非常勤職員は正規職員なみに労働基本権は制約される一方で,生存権確保のため正規職員に適用される人勧制度の適用がないのである。こうして最高裁の論理を前提としても,非常勤職員は生存権確保の道が全く閉ざされてしまっている。
 この結果,本書で言及されているように,非常勤職員の給与は,給与法22条2項によって「常勤の職員の給与との権衡を考慮し」て各庁の長が決定することになっているのである。こうして労働組合(職員団体)との「団体交渉」も前提とせず,また人勧の適用も除外し,使用者(各庁の長)が一方的に給与を決定できるという,今日の労働条件決定ルールに照らすと「異例中の異例」ともいうべき仕組みのなかに国の非常勤職員はおかれていることは看過すべきではなかろう。
 これに対して地方公務員である非常勤職員の場合は,やや様相を異にする。すなわち,地公法3条3項3号の特別職非常勤職員は,地公法の規定が全面的に適用除外されているため,労働基本権に対する制約は存在しないと解されている。一方,地公法22条の一般職非常勤職員は,国の場合と同様に労働基本権は制約される。しかもある非常勤の職を特別職とするか,一般職にするかの統一的基準は存在せず,その決定は各地方公共団体に事実上委ねられている(以上は,本書において触れられているところである)。
 この結果,同一もしくは類似の職務に従事していても,職員が勤務する地方公共団体が異なれば,争議行為が許される場合も,逆に禁止される場合も生じてくることになる。このように労働基本権の保障について明らかに不合理な結果を生じているのである。
 人事院勧告制度に詳しい著者は,以上の点について十分な認識をもっていると推測され,このことは当然のこととして触れなかったと思われる。しかし,非常勤職員問題をこれから学習しようとする読者を念頭におくと,労働法の立場からは,労働基本権保障について放置できない制度的欠陥をもっていることを是非指摘していただきたかった。

 つぎに,本書の叙述に対する疑問点を述べておきたい。
 1)まず,労働基準法14条の評価の問題である。著者は,現在自治省等でなされている非常勤職員制度の見直し作業のなかで検討項目とされている労基法14条の見直しに慎重な見解を示している(232頁)。しかし非常勤職員問題の焦点は,給与等の勤務条件の改善とともに雇用の安定の確保であろう。雇用の安定の観点からみると,労働契約は1年を超えることができないとする14条によって,非常勤職員の雇用の安定が妨げられてきた面があることは否定できないのではなかろうか。
 すなわち,1年を超える任用が禁止されているため,短期の任用とならざるをえず,非常勤職員は常に解雇(任用期間到来を理由とする雇い止め=任用更新の拒否)の脅威にさらされているのが実態であろう。解雇の脅威は,非常勤職員の生活を不安定にするのみならず,労働組合への組織化を妨げる要因の一つになっているのではなかろうか。
 非常勤職員からみると,職員団体に加入したことが解雇につながらないかという恐れをもつこともあながち否定できないからである。また,解雇の脅威は,職場や職務への愛着および同僚との仲間意識を育むことを妨げ,ひいては労働組合への参加を妨げているとも考えられる。その意味では,1年を超えて数年に及ぶような期間の定めは,非常勤職員の雇用の安定に資する面があると考える。

 2)つぎに,「準」公務員制度または短時間職員制度の評価の問題である。これも自治省の前記検討課題の一つとして掲げられているものであるが,その内容は不明であり,「当面,事態の成り行きに注目したい」(233頁)としている。他方,終章のいわば運動論の課題のなかで,「恒常的な業務は,当然,常勤の職員が責任を持つべきである。そのためには,そうした業務に携わっている非常勤職員の本務化(本採用化)をつうじ,本来の姿に戻すべきである。それは,自治体の住民に対する最低限の責任事項でもある」と述べている。
 この部分に着目する限り,「準」公務員制度や短時間職員制度に対する著者の消極的な姿勢を読みとることができる。確かに,従来の公務員法は,恒常的な業務を担当するのは正規職員(=常勤職員)であるとの前提で運用されてきたことは否定できず,またかかる運用が現行公務員法制の予定するところであったともいえよう。
 しかし高齢者の雇用対策および女性の雇用拡大を見据えた場合,今後の法制または運用においても恒常的職務は常に正規職員(=常勤職員)が担当することを前提にすべきか否かは慎重な検討を必要とするように思われる(たとえば,東京都では非常勤職員制度を定年退職者の再雇用の場として積極的に活用しようとしている)。問題は,勤務時間の長短にかかわらず,担当する職務に見合った「公正な」勤務条件が保障される仕組みをいかにつくりあげるかではなかろうか。
 なお,この問題は,非常勤職員の処遇の改善を図る場合の方法の問題でもある。すなわち,現在の行政を円滑に運営するために非常勤職員は不可欠な存在となっており,これを所与の前提としてその処遇改善を図るべきなのであろうか。それとも非常勤職員は政府等の厳しい定員管理のもとでやむをえず出現したものであり,本来制度上も実際上も存在すべきではなく,正規職員として定員化することによって処遇改善を図るべきなのか。いずれにしても,さらに非常勤職員の実態を踏まえて検討すべき課題であろう。

 最後に,本書に触発された結果,私なりの非常勤職員問題の今後の課題と思われる点に触れておきたい。非常勤職員の勤務条件が正規職員に比して劣っていることは本書の随所で指摘されている。この主張をより説得力あるものにするには,非常勤職員の担当している職務内容の考察が不可欠となろう。
 一般的に,非常勤職員が正規職員と同一もしくは同価値の職務を遂行しているのか否かは,現在および今後の非常勤職員問題を検討する上で欠くことのできない論点である。勤務条件について非常勤職員と正規職員との間に格差が一般的に推測されるとしても,それが不合理だというためには同一または同価値の職務の遂行が前提となろう。
 さらに,そもそもこの点について政府および地方公共団体当局は,いかなる立場に立脚して法を運用してきたのかも興味ある問題である。そして民間企業においてパート労働者を管理職に登用する動きがあることおよび郵政省が非常勤職員の処遇改善を一つの目的として正規職員と全く同一の職務に従事する短時間職員制度を導入したこと等を考慮すると,この考察は非常勤職員制度の今後の在り方を検討する上でも不可欠であろうと思われる。いうまでもなく,これは一研究者の手にあまる作業であり,共同研究の課題である。





自治体研究社,1994年12月刊,252頁,定価2,000円

しみず・さとし 早稲田大学社会科学部教授

『大原社会問題研究所雑誌』第444号(1995年11月)



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