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『大原社会問題研究所雑誌』書評欄オンライン版



大山博・嶺学・柴田博 編著
『保健・医療・福祉の総合化を目指して
             ――全国自治体調査をもとに




評者:坂本 重雄

 

1 本書の特徴,執筆意図

 保健・医療・福祉の相互協力や連携がわが国における政策課題として提起されるのは,1981年老人保健法制定以降である。当初は医療費抑制政策としての側面が強く感じられたが,1990年福祉八法改正にともなう老人保健福祉計画の策定,地域保健法の制定をめぐり,保健・医療・福祉の三者の連携が現実的な実務的課題として徐々に地域の現場において問題となってきている。
 本書は,「保健・医療・福祉の『総合化』」という視点から,基礎自治体レベルで,実態的に現状や問題点をとらえるとともに,研究者としての論理構成を行ない,現実の再解釈と検討を経てあるべき政策の方向を探るという計画に加わった研究者による「福祉システム研究会」の調査,研究の成果である。研究会では,法政大学大原社会問題研究所の参加をえて,多摩地区地域社会研究センターとの共同事業として,全国の自治体に対し,「保健・医療・福祉の連携システムのあり方に関する調査」を実施している。第1章「総合化の意義と課題」から第4章までの総論的な考え方の論述をうけて,第5章以下では,「全国連携調査」等によるデータに基づいた経験的な分析の研究成果が展開され,終章では,総合化の現代的課題が整理され,巻末には,付章と参考資料「調査」報告書の要約が収録されている。

 

2 「総合化」についての総論的考え方の展開

 第1章「保健・医療・福祉の総合化の意義とその課題」(武川正吾)は,1.「総合化」の概念について明確な検討を加えている。「総合」は多元的な諸システムの間の結合的な社会的過程であるとし,総合化の段階を,連絡,調整,協力,統合の4段階に分け,総合化というとき,どの段階の総合化であるかを明確に意識する必要があるという。
2.「総合化」が求められる理由として,a) 提供者側の定形的なサービスと利用者の連続的なサービスの必要をつなぐために,サービス提供側の連携・統合が望ましく,利用者への「効果」が大きい,b) 利用者間の「公正」,c) 供給者側の「効率」があげられる。
 また,3「総合化の実現が遅れた理由」として, a) 医療が普遍主義的であったのに対し,福祉が選別主義の遺産を引きずってきたこと,b) 老人医療による老人福祉の肩代りが行なわれ,老人福祉の充実が遅れたこと,c) 保健・医療・福祉の各供給組織,セクターのタテワリ性・財源の負担者,割合の差異があげられる。総合化の障害を除去する方法として,三者間のサービスの質的量的差異の解消,担当者の対等性,行政のタテワリ克服,自治体行政の一元的運営があげられる。総合化への課題として,三者の隣接相互領域間,領域内の横断的部分間の連携,三者と他の社会政策領域(住宅や年金など)との総合化,社会サービス目標の多元化(供給の主体,方法)との関係の総合化も指摘されよう。

 第2章「保健・医療・福祉の『総合化』の政策理念」(炭谷茂)。
 戦後わが国の社会保障制度は,1946年生活保護法に始まり福祉3法が整備され,1961年に国民皆年金,皆保険など社会保険の基盤形成が進められ,1970年代には福祉6法の法体系,1971年児童手当法制定により,日本の社会保障の法体系が整備された。これらの個々の制度の個別的発展をとげるなかで,各制度間の連携の不十分さや効率の悪さや無駄が指摘され,それらの各制度の連携,総合化が要請され始めた。その実例は,a) 福祉部門から発展した高齢者対策であり,医療保障への偏りが批判され,老人保健施設は三者の連携を企画し,b) 難病対策は医療部門から発展しホームヘルプなど福祉施策を導入した。兵庫県五色町などでは,三者の総合化の効果測定により医療費の低下,要援護者の機能回復への貢献が指摘される。三者の連携をこえ雇用,教育,文化との総合化,「人間にとって何をしたらよいか」の視点へのサービス概念が拡大している。

 第3章「自治体の『総合化』のシステムづくりと地域保健福祉計画の状況」(炭谷茂)。
 本章では,1「総合化」を困難にする原因として,a) 行政組織のタテ割り,それによる組織間の権限争い,連携の不足を指摘し,医療と福祉の関係職種間の意思疎通,医療ソシアルワーカーの調整の困難さがあげられる。この連携をどのような手法や形で実践するか,日本の実状に合ったケアマネジメントの手法の実践が急務とされている。
 2.各分野からシステム作りとして,a) 保健機関から連携としてケア・コーディネーションの機能が重視され,b)医療機関から病院機能強化の柱として福祉員制度など住民参加が自治体の医療費を減少させている。3「総合化」システム作りとして,a) 老人保健福祉計画の策定に当たり,各種施策の方針との調整が有効で,b) 自治体組織のタテ割りとの調整,c) 三者の機関の施設の集中化,利用の協力関係が指摘されている。

 第4章「ニーズを基準にした『総合化』システムの必要性」(柴田博)。
 連携や「総合化」をめぐる多くの論議においてその連携の概念図やモデルがすべて,サービス供給者側の都合や事情で作られており,個々の供給システムのサービスの合算や合理的調整があれば住民のニーズに応えられるはずだという楽天的な前提条件がまず批判される。個々のサービス供給システムがどれだけニーズを充足しているかを実証的に把握できなければ連携のモデルに出来ないという当然のようで貴重な視点が提起される。
 1「埼玉県富士見市におけるサービスのニーズと供給」をめぐり,在宅ケアを求める側のニーズを90項目に整理し,それを医療,経済生活,日常生活,社会関係の4領域に分類し,さらに細分類する。これに対応するサービスと資源のリストが実施主体別に作成され,サービス資源は,福祉事務所主管事業,健康増進センター主管事業,その他に大別される。
 2 保健・医療と福祉は専門的分化されているだけに,福祉と保健の行政における組織的統合は行政のリストラを促進し職員の削減につながるという不安を生み出している。各々の役割分担は利用者の健康の段階により左右される。比較的健康な時期には保健サービス,急性期には医療サービス,回復期から慢性期には福祉サービスの役割が大きく,総合化といっても健康の段階,ライフステージにより,各々が主役となり脇役となると論ずる。

 

3 『保健・医療・福祉の連携システムのあり方に関する調査報告書』(全国連携調査)
等によるデータに基づく経験的分析

 (一)本書第5章から12章においては,「全国連携調査」(その要約は「参考資料」(273頁以下に収録)等によるデータに基づく経験的な分析による研究成果が展開されている。その検討項目のテーマは以下の通りである。
第5章「ニーズ情報,サービス情報の共有化」(竹内文生),
第6章「情報ネットワークシステムの現状と課題」(八名和末),
第7章「サービス調整のための組織の現状と展望―『高齢者サービス調査チーム』を中心に」(平岡公一),
第8章「総合化におけるケアマネジメントの位置づけ」(佐藤晴美),
第9章「『総合化』における医療の役割」(一戸眞子),
第10章「総合化における保健の役割」(荻原康子),
第11章「ニーズとサービスを結ぶ在宅介護支援センター――総合化と在宅介護支援センターの役割」(高橋良太),
第12章「『総合化』と地域ネットワークの関係」(高萩盾男)。
これらの論文は「全国連携調査」の結果にもとづき八項目のテーマに沿いその経験的分析として執筆されている。調査結果に反映された自治体レベルでの総合化への取り組みの状況が詳細に検討されている。しかしその経験的分析の結果を紹介することは紙幅の関係で断念し,終章のまとめの方法にしたがい四つの事項への分類にしたがい要点を紹介したい。

 1 施設・設備等のハード面。これらの組織の機構の資源の不足と保健・福祉の部署の遊離により連絡が困難で,三者の統合的施設の連携,窓口の統合を進めるものと,保健福祉センターでの統合によるものの二つの流れがみられる。情報システムの導入は未整備である。

 2「調整チーム」ケース検討会の連携システム作り。意思決定,調整,提言のいずれのための機関であるかが明確ではないが,役割分担のため,ケース検討会,代表者会議,研修会(提言の場)に分け役割分担を明確にする解決策が注目される。これらの検討会へのかかりつけ医や医師会の参画状況は4割前後で他の機関に比べて低調である。小地域を単位とした民間のインフォーマル部門との連携は未整備であるが,今後は公私協働型の連携システム作りが期待される。

 3 連携システムの運用上の問題。情報の共有化とフィードバックは一定の情報システムの構築も必要であるが日常的コミュニケーションにより業務内容の相互理解ができあがると考えられている。医師会,医療機関の地域での連携に対する無理解が重視されており,話合い,連絡などの解決策があげられている。異職種間での処遇方針や考え方の相違について話合い,コーディネーターの必要,専門性を高めるための人材育成があげられる。過疎化や高齢化の進んだ自治体での問題の検討やその整備への援助が必要とされている。

 (二)終章「保健・医療・福祉の総合化の現代的課題」(大山博)は,「全国的調査」を以上の4つの事項に分けて,主要なアンケート結果と自由記述を関連づけながら分析し,保健・医療・福祉の連携に関する全国的な動向と問題点の全体像を画き,また問題解決に向けての方策もかなり提示している。しかし過疎地や都市部,ニーズや資源の地域による特性により連携問題の所在や解決策が異なり,普遍化できるかどうか疑問なことも多い。これらへの対応は一定の条件によるタイプ別のヒアリング調査を積みあげていく必要があろうと論じ,以下のように結論づけている。

 「『全国連携調査』を通じて『調整チーム』のような総合化システムが資源不足,官僚制,専門職主義,情報の共有化やコミュニケーション不足等により十分機能していない自治体が多く,ケース検討会で対応している状況からみると,総合化の第二段階の「調整」レベルの事例は少数であるといえよう。「今後,介護保険の導入により多元化が一層進み調整が複雑化し,在宅介護センターの役割,とくにケアマネージメントのあり方が重要な課題となってくる」。これに関連して,付章「介護保険導入と自治体の課題」(町田隆男)が取りあげられている。

 

4 本書の成果・問題点と感想

 1 1981年老人保健法制定以降,保健・医療・福祉の相互協力や連携がわが国の社会保障制度改革の重要な政策課題の一環として提起されてきた。それは急速な高齢化社会の到来を迎え,高齢者医療への適正,効率的な対策として提起されながらも,他方,1980年以降の臨調・行革体制下の社会保障費用の抑制策として位置づける批判的な把え方もみられる。しかし,その後も高齢・少子化は急速に進行しバブル経済崩壊後の政府財政の厳しさのなかで,社会保障予算は増加の一途をたどっている。保健・医療・福祉の連携や総合化がどのような理論構成,実務的政策課題を通じて,高齢者の医療・福祉の実質上の改善に貢献するかを解明できるのであれば,その連携や総合化を単なる社会保障費用の抑制策として批難できるものではない。本書で提起される「総合化の理論的課題」は,あとの調査結果の経験的分析の前提条件であるだけでなく,独自の説得力をもつ理論の提起にほかならない。
 第1章の「総合化」の概念の段階的構成,それが求められる理由,その実現が遅れた理由とその障害除去の方法と総合化の課題提起は,保健・医療・福祉の連携に止まらず,年金や住宅など社会政策領域全般との総合化も視野に入れ,日本の社会保障制度の適正・効率化を提言する。第2章・第3章はわが国の社会保障制度発展のなかから,高齢者対策,難病対策の実例にそってサービス概念の拡大を指摘し,自治体の「総合化」システム作り,地域保健福祉計画の状況を分析する。ただこの2つの章での総合化の効果や地域での実践については未だ評価は尚早かもしれない。第4章「ニーズを基準にした『総合化』システムの必要性」は,従来,供給システム側の調整だけを考えてきた方法への積極的提言として示唆ぶかい。
 2 全国の基礎自治体を対象とする調査データに基づいた経験的検討がその中心的部分であることが本書の特色であり,調査に基づいた多角的分析として貴重な成果といえよう。実証分析に先立つ理論的な論点整理は既に要約したように秀れた内容が展開されている。ところが本書の「全国連携調査」は自治体の高齢者福祉主管課を通じたもので,保健・医療の側からの調査を実施していないこと,アンケートの結果をさらに深めるヒアリング調査を実施していないこともあり,普遍化することが困難であると調査の制約が指摘されている(終章,245頁)。筆者の地域保健福祉計画の策定をめぐる自治体調査の経験から,アンケート調査のみで「連携」の実態の把握は極めて困難であると考えられる。介護保険法制定までの厚生省指導の自治体行政への連携の推進策に対しては自治体側がどの程度内部調整を経てアンケートに解答したかは疑問である(坂本・山脇編『高齢者介護の政策課題』(1996年,勁草書房)135頁以下)。第5章から第12章までの調査結果に基づく詳細な検討と筆者各自の経験的分析は,調査結果の中から自治体の「総合化」への取り組み状況を看取しようと努められている。
 しかし率直な感想として,これらの成果から,現実の自治体行政の総合化への取り組み状況や具体的提言,示唆をくみとることはかなり困難であるように思われる。もっとも現在の時点でそのような期待を持つのは時期尚早かもしれない。地域保健福祉計画の策定に始まり厚生省主導の多くの調査が実施され,自治体の施設やホームヘルパーの未整備,大幅な不足が周知の状況で,これらへの財源対策も不透明なままで,しかも自治体の状況や移行を十分に尊重しないまま,介護保険法制定が促進されてきた。介護保険法実施の前提条件ともいうべき施設やヘルパーの充足を前提とした上で現実に「連携」や「総合化」が具体的に検討されその推進が期待されると考えられる。自治体へのアンケート項目が周到に準備されたとはいえ,調査から得られた提言や示唆は,従来から論じられてきた問題点や経験的分析を前進させるような論点は少ないように思われる。自治体現場では,付章「介護保険導入と自治体の課題」に示されるような介護基盤整備に忙殺される段階であって「総合化」への取り組みやその展望をもつことは著しく困難な状況におかれているといえよう。
 3 保健・医療・福祉の連携,総合化への理論的,実務的調査や提言は,介護保険法の実施を契機として更に現実味をもつことは疑いない。莇昭三・横山寿一「どうつくる医療と福祉のいい関係―保健・医療・福祉の連携をめぐって(1)(2)(3・完)」(賃金と社会保障1217・18号,1220号,1227号)は保健・医療・福祉を扱う自治体現場における経験や実態の認識を前提として,三者の連携や総合化の方向を示す成果である。保健・医療・福祉の各部門の個々の専門領域の守備範囲,その役割は,日本の国内でも地域により格差があり,地域を越えた普遍化は困難であろう。さらにその総合化は当面,地域によっても異なる態様を示すことになろう。莇昭三・横山寿一対談は,北陸地域・金沢周辺地区での実態のもとでの医療・福祉の連携の具体例を取扱う事例研究の一端と考えられる。介護基盤の整備,その充実をまたずに実施される介護保険法の運用実績のつみあげられる段階において,各地域ごとの連携,総合化の試みがさらに具体的に実践されることになろう。日本の医療と福祉の充足水準の地域間格差や連携の政策遂行の遅延への批判や提言がどの段階で有効性をもつかも論者により異なるといえよう。
 本書の企画や執筆意図からやや逸脱した感想をのべたことについてはご容赦頂きたい。本書の全体を興味深く通読しての感想としては,これまで保健・医療・福祉の連携,総合化の問題をとり扱おうとした研究文献はけっして少なくないが,本書のように,総合化の概念から出発して新論点を提起し,その理論的検討,全国自治体調査に立脚した経験的分析を試みた上で,保健・医療・福祉の総合化を目指した研究・調査の総合的成果として画期的な作業である。今後の理論研究および政策的・実務的検討に寄与すること疑いのない研究成果であるといえよう。




大山博・嶺学・柴田博編著『保健・医療・福祉の総合化を目指して―全国自治体調査をもとに』
法政大学多摩地域社会研究センター叢書2,

光生館,1997年11月,A5判288頁,定価3,800円

さかもと・しげお 専修大学法学部教授

『大原社会問題研究所雑誌』第481号(1998年月)




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