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『大原社会問題研究所雑誌』書評欄オンライン版



梶田孝道・伊豫谷登士翁編
『外国人労働者論──現状から理論へ



評者:佐伯 哲朗



 近年,日本でも外国人労働者問題の制度,現状,諸外国の事情の紹介などについて文献が多数出版されているが,そのような議論には2つの特色があるように思われる。第一には,この問題が総合的な把握の対象となりにくい点である。言うまでもなく,この問題は,経済学,社会学などという既成の学問領域を横断する問題であり,それぞれの領域における研究としては,すぐれたものであったとしても,総合的な研究成果と言えるものはほとんど見られなかった。第二には,この問題は現在,同時進行中の事柄であり,客観的な議論の対象となりにくいという点である。外国人労働者の問題については,現象の背後にある構造についての社会科学的な把握が十分であったとは言い難い。
 学問的な課題として考えてみると,このように,客観的な構造全体を認識する道をつくること,そのために,諸社会科学を総合する方向を示すこと,が要請されている。そのような点を踏まえて読むと,本書は,これまで,日本で出版された本の中では珍しく,体系的な内容を含んでおり,この問題について総体的な認識を持つのを可能にしてくれる。
 本書の構成は次のようになっている。

序章 外国人労働者問題―理論形成に向けて [伊豫谷登士翁・梶田孝道]
I 法・国家と移民
 移民・国家・世界経済―歴史的・理論的考察のために  [木前利秋]
 外国人受け入れの法的論理              [広渡清吾]
II 国際労働力移動
 避けられない課題―戦後日本経済における外国人労働者 [伊像谷登士翁]
 「外国人労働者問題」と労働市場理論         [式部信]
 外国人労働者送り出し国の社会的メカニズム
 ―フイリピンの場合                 [菊池京子]
III 社会変容と文化葛藤
 同化・統合・編入―フランスの移民への対応をめぐる論争[梶田孝道]
 移民労働者の地理的集中と住宅問題
 ―西ヨーロッパ諸国の比較              [下平好博]
 「ジャパゆきさん」現象再考
 ―80年代日本へのアジア女性流入           [伊藤るり]
 都市的秩序の崩壊
―メキシコにおける都市の〈インディオ化〉       [清水透]

 本書の基本視角は,1)理論研究と実証研究との中間媒介的領域(中範囲の理論)におく,2)諸専門分野からのアプローチを交差させることにより問題を複眼的な視点から取り上げる,3)送り出し国(地域)と受け入れ国(地域)の双方を視野に入れる,4)日本の特殊性論に対する批判として,日本の問題の相対化を図る,という4点にまとめられている。
 本書の価値を高めているのは,問題の全体を見渡そうという意図に基づく構成である。本書は,外国人労働者の問題群を,1)法・国家と移民に関する問題群,2)国際労働力に関する問題群,3)外国人の滞在に伴う社会的・文化的問題群の3つに大別する。
 まず編者である伊豫谷登士翁・梶田孝道両氏による序章「外国人労働者問題―理論形成に向けて―」があり,本書全体の問題などを説明している。本書が単なる論文の寄せ集めではなく,きわめて周到に準備されたものであることを示している。
 本論として,合計9つのサブ・テーマが選ばれ,そのテーマに該当する論文が配列される。
 以下,構成に沿って内容を簡単に紹介しよう。第1部「I 法・国家と移民」では,「国家と家族」,「外国人・移民の法的地位」というサブ・テーマが設定される。木前利秋「移民・国家・世界経済」は,社会理論の文脈の中で,この問題を検討するとともに,外国人労働者と国家,家族との関係を考察している。広渡清吾「外国人受け入れの法的論理」では,ドイツの事例が紹介され,外国人を受け入れる場合の法類型が提示される。
 第II部「国際労働力移動」では,「日本経済と外国人労働者」,「移民と労働市場」,「労働力輸出」という3つのサブ・テーマが設定される。伊豫谷登士翁「避けられない課題」では,日本への外国人労働者の流入をグローバルな視点から説明する。移民労働の流入が技術革新を遅らせるという議論に代表されるような,移民労働の流入が産業構造の型を規定するという理論を批判する。伊豫谷氏によれば,日本経済は「外国人労働者の流入を不可避とするような型」へ移行し,外国人労働者の流入が労働市場の区分化を一層拡大しており,問題解決の出発点は,労働市場の区分化や社会的隔離化のディレンマを認識することにある。また,氏は,援助や直接投資が不安定就業人口を拡大し,移民圧力を強めこそすれ,弱めることはないと主張する。日本社会の排他性,特殊性を強調する議論を批判しつつ,まずは形式的な平等の確立に向かうべきであるとの「発想の転換」を提唱する。
 式部信「『外国人労働者問題』と労働市場理論」は,伊豫谷論文を受けて,移民の流入は受け入れ国の労働市場に悪影響を及ぼすとする,移民労働者に対する二種類の反対論を取り上げて批判する。すなわち,国内労働者の雇用条件に甚大な被害をもたらしているという確かな証拠は認められない。移民労働と技術革新との関連についても,移民の流入が技術革新を遅らせるとは単純にいえず,むしろ技術革新の動きと仕事の編成の仕方とが同時並行的に進行しないという点が指摘されている。
 式部氏は,資本主義周辺経済から資本主義中心経済への国際労働力移動の原動力を,資本主義中心経済すなわち,受け入れ国の蓄積機構の動向に求める。つまり,外国人労働者を「国際的な賃金格差を背景とする資本主義中心経済の労働力動員の一形態」として捉え,外国人労働者問題を「内生的な」問題としてとらえる。従って,問題なのは,日本経済の雇用構造の方である。日本経済の仕事構造は,仕事口の絶対数の増大,仕事の序列構造の姿形の変化,という2つの変化を経験し,良質の仕事口を補完する低賃金・悪条件の仕事口を大量に生み出す。国内労働者の忌避する仕事口を埋めるために,外国人労働者の導入が進められ,その意味において,外国人労働者問題は,「日本の分業システムの発展そのものが生み出した社会・経済問題」であると結論づける。
 菊池京子「外国人労働者送り出し国の社会的メカニズム」では,送り出し国フィリピンの側の事情が検討される。労働力輸出がもたらした成果と課題の分析がなされ,意図したほどの実績を挙げていない点が指摘される。
 第III部では,「エスニック・コンフリクト」,「セグリゲーション」,「女性移民」,「共同体」と4つのサブ・テーマが設定される。梶田孝道「同化・統合・編入」では,移民に対する受け入れ国としてのフランスの対応をめぐって議論をしている。下平好博「移民労働者の地理的集中と住宅問題」は,イギリス,ドイツ,オランダ,フランスの4ヵ国を取り上げ,各国別に移民の居住パターンの比較がなされる。各国が採用した移民政策が移民の居住地の選択,ひいては住宅選択に大きな影響を及ぼしたとしている。伊藤るり「『ジャパゆきさん』現象再考」は,アジア女性の出稼ぎを,労働に位置付け,「性愛」の商品化を支える客観的構造についての把握がなされている。清水透「都市的秩序の崩壊」は,メキシコにおける移動についてのフィールドワークであるが,国境を越える移動の問題との関連を議論する。農村から地方都市へ,地方都市から大都会へ,さらにはアメリカ南部へ,という連鎖が上位の社会空間を脅かすことを指摘している。
 外国人労働者に関する研究は,これまで国際経済学の系列に属する研究(例えば森田桐郎編『国際労働力移動』東京大学出版会,1987年)と,国際社会学の系列に属する研究(例えば,梶田孝道『エスニシティの社会学』有信堂,1988年)との2つの流れがあったと評者は考えているが,本書において,その流れが1つにまとめられたと言うことができる。本書は,客観的な事実認識,理論的な把握という点で,社会科学としての現在の研究水準を示している。




弘文堂,1992年,3,200円

さへき・てつろう 法政大学大原社会問題研究所兼任研究員

『大原社会問題研究所雑誌』第410号(1993年1月)



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