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『大原社会問題研究所雑誌』書評欄オンライン版



岩本 勲 著
『現代フランス政治過程の研究――1981〜1995



評者:佐伯 哲朗



 本書は,「政治過程とほぼ同時進行的に書き進めた」『フランス社会党政権の転換点』と『現代フランス政治の変貌』を底本とし,「ミッテラン大統領の統治過程が一応は完結した段階で,……もう一度,結果から逆に過程を見直して加筆訂正を行い」「14年間を鳥瞰する形で」まとめたものである。著者は本書で「フランス政治の諸事件とその経過をバランスよく記述する政治史の形をとらず,選挙や世論調査,また特筆すべき政治的事件を手掛かりにして,フランス政治の諸断面を解明する手法」をとっている。

 本書は,次のような構成をとっている。
 はじめに
 序 章 現代フランス政治の激動
 第1章 ミッテラン大統領の誕生と社会党内閣の成立
 第2章 最初の予算
 第3章 左翼の敗北と政府の政策転換―1982年統一県議会選挙―
 第4章 国有化政策
 第5章 地方分権化政策
 第6章 フランス共産党第24回大会
 第7章 社会党の敗北とFNの進出―1986年国民議会選挙―
 第8章 コアビタシオン
 第9章 「左翼中道」化路線を歩む大統領と社会党
 第10章 混迷するフランス政治とヨーロッパ―1992年のフランス地方選挙,ドイツ州選挙,イタリア国会選挙―
 第11章 亀裂深めるフランス政治―1992年マーストリヒト条約批准レフェレンダム
 第12章 社会党政権の崩壊と右翼の回帰―1993年国民議会選挙―
 第13章 FNの陰りと労働運動活性化の兆し―1994年統一県議会選挙―
 第14章 依然として不安定な欧州政治―1994年欧州議会選挙と欧州主要国の選挙―
 第15章 危機にたつフランス民主主義―1995年フランス大統領選挙・市町村議会選挙―
 第16章 ネオ・ナチ台頭を許す社会的雰囲気
 
 各章の内容を紹介するのは,本稿を概説的な叙述にしてしまい,また煩雑でもあるので,ここでは省略し,本書の基本的特徴をみておくことにしたい。
 本書は,専門研究論文をまとめた単行書ではなく,かといって初歩的な入門書でもない。評論集に近いものと考えてよいだろう。
 本書を構成する各章は,個々の対象についての政治評論とみてよい。対象はフランスの政治以外にも拡散している。各論の注に記されている文献からわかるように,主に新聞記事にもとづいて叙述している。従って,本書全体を通しての一貫した視点なり方法は存在しないようである。本書の表題が「研究」となっているのも,序章の表題が漠然としているのも,本書が対象として多くのことを取り上げていることのあらわれであると考えられる。
 フランスの現状分析としては,本書の刊行以前にも,研究書としては葉山滉『現代フランス経済論』(日本評論社,1991年),概説書,評論集としては,渡邊啓貴『ミッテラン時代のフランス』(芦書房,1991年,増補版・1993年),清水弟『フランスの憂欝』(岩波書店,1992年),長部重康『変貌するフランス―ミッテランからシラクへ―』(中央公論社,1995年)などの単行本が出版されている。それ故,扱う対象自体はこれまでに日本で紹介されているものであるが,本書なりに新聞記事を詳しく紹介している場合もある。
 評論集としての本書の価値は,著者の視点にある。評者のみるところでは,著者は古典的なマルクス主義の立場に立って,左翼批判,議会制民主主義の危機,国民戦線などの問題を論じている。ただし,この視点も評論の個々の文脈におけるものにとどまり,本書全体の叙述に方法的に具体化されているものではないと評者には思われる。
 本書の特徴としては,日本ではそれほど詳しく紹介されていないフランス共産党の動向を紹介している。その点についてはそれなりに評価できる。

 さて次に,本書の表題になっている「政治過程」という用語について,言及しておきたい。著者は,207頁1行目のケースを除くと,「政治過程」という用語を政治学において常識的に使われる用語法とは違った意味で用いている。通常,政治学では政治過程とは,政策決定過程を指すが,本書では,「政治過程」は,政治史(あるいは歴史過程)とでも表現すべき意味内容を指している。
 また著者は,ヨーロッパ連合を理想郷樹立の第一歩であるかのようなプロパガンダを批判する文脈のなかで,「希望と現実,宣伝と真実をそれぞれ取り違えないこと」(237頁)を 主張している。その限りにおいては,評者も全く同感である。ただし,そのことは本書の表題と中身との関係についてもあてはまると言えば皮肉がきつ過ぎるだろうか。本書は「政治過程」の「研究」なのだろうか。

 なお蛇足ながら,評者が気付いた範囲で,誤記,誤植を指摘しておきたい。したがて(36頁,正しくは,したがって,以下同様),taravail(173頁,travail),ミッテンラン(211頁,ミッテラン),キャンペー(213頁,キャンペーン),キャーンペーン(231頁 ,キャンペーン),カロンリグ王朝(233頁,カロリング王朝),ならなっかた(233頁,ならなかった),ペテルスベルグ宣言(238頁,ペテルスブルク宣言),80代の(248頁,80年代の),赤字がが(249頁,赤字が),ブリュセル(252頁,ブリュッセル),Bash(346頁,Basch),岸田英尚(378頁,竹田英尚),中木康雄(378頁,中木康夫),伊東るり(379頁,伊藤るり),ビルボーム(379頁,ビルンボーム)。特に,人名についての誤まりは,著者の正確さの程度を示しているとも考えられる。




岩本勲著『現代フランス政治過程の研究―1981〜1995―』
晃洋書房,1997年2月,A5版,viii+384頁,定価本体4600円

さへき・てつろう 法政大学大原社会問題研究所兼任研究員

『大原社会問題研究所雑誌』第480号(1998年11月)




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