OISR.ORG へようこそ 法政大学大原社会問題研究所
 

『大原社会問題研究所雑誌』書評欄オンライン版



児玉 勝子 著
『十六年の春秋
       ──婦選獲得同盟の歩み



評者:大野 節子

 婦選獲得同盟は,1924年12月に市川房枝,久布白落美らが設立した婦人参政権獲得期成同盟会が翌年4月に改称したもので,婦人参政権獲得運動の主流をなす団体であった。本書はこの婦選獲得同盟(以下,同盟と省略)の16年の歴史をコンパクトにまとめた好著である。著者児玉勝子は,28年に長野県から上京して同盟の職員となり,32年から37年までは中央委員(本書では児玉琴枝となっている)でもあったという経歴や『婦人参政権運動小史』(1981年)を著した蓄積などからいって,同盟史の著作者として最適任者であろう。
 同盟は40年9月に臨時総会を開いて解散したが,戦後史にも貴重な意味をもち続けている。例えば,本書は,同盟解散にあたってその後事を託された婦人問題研究所の活動が継続したことを「終戦後一〇日にして戦後対策婦人委員会を組織し,いち早く婦選運動に再起できた」一つの理由にあげている(198頁)。幣原内閣の婦人参政権決定はGHQの指令(5大改革指令)に押しつけられてのことではなく,指令到着1時間前の内閣独自の判断によるものだという事実が最近明らかにされたが(『朝日新聞』90年10月27日),それには婦選獲得同盟以来の活動が大きな力になったであろうことは想像に難くない。
 本書を紹介するのは,こうした同盟への関心からだけではない。原資料の活用,それにもとづく基礎的事実の尊重という,当然ではあるが実行するのは容易ではないやり方で一貫した本書に,団体史の一つの見本をみるからでもある。一般に原資料の利用方法にはまず公開がある。婦人問題研究所―現在の財団法人市川房枝記念会はほぼ完全に保管してきた同盟の関係資料を公開している。また最近盛んな復刻の意義も大きい。しかしこれら二つには利用者や所蔵者などに多くの労力,資金,時間を要求する。しかし本書によって,同盟という一つの団体の全容に接することが可能なのである。
 実例で示せば, 同盟の16回すべての大会の重要決定事項,中央役員全員の氏名が,ときには資料の全文も掲載して紹介され,各種の運動での全参加団体名,全出席者名もわかり,これによって読者は,著者の簡潔で感情と議論を抑えた筆致を通して,左派の関東婦人同盟までを含む婦選獲得共同委員会の幅広い運動なども知ることができるのである。婦選法案の議会提出問題でも同様で,24年以来の対議会運動が会期ごとに,法案や建議案の内容,提出議員名も網羅して伝えられている。同時に事務所のもようや財政問題など,資料だけではわかりにくい部分は著者の体験者としての強みが発揮され,その実状がよくうかがえる。ただ,本書は同盟設立総会の日から書き始められており,それ以前の創立事情にまではさかのぼっていない。
 最後になったが,本書の内容を紹介しよう。それは三つに大別できる。1)地方支部も含む同盟組織自体の歴史。2)同盟設立の目的である婦人参政権獲得の活動―万国婦人参政権及平等市民権協会などの国際的活動,全日本婦選大会,議会での婦選案審議。3)「婦人市民運動」。この部分は,著者が婦人参政権獲得を要求する理由としてあげる,婦人・子供に不利な法律の改廃,政治と台所の直結,選挙の革正と政治の浄化,世界平和という4つの課題に関する運動にあてられる。この分野でも同盟が多岐にわたる運動を展開したことが豊富な資料の裏付けをもった事実によって述べられている。それだけにまた,そこには平和運動は含まれていないという事実も,見出すのである。




ドメス出版,1990年,201頁,2,060円

おおの・せつこ 法政大学大原社会問題研究所兼任研究員

『大原社会問題研究所雑誌』第389号(1991年4月)



先頭へ
書評一覧へ
電子図書館へ
研究所ホームページへ