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『大原社会問題研究所雑誌』書評欄オンライン版




鈴木 裕子 編・解説
『日本女性運動資料集成』
          第4−7巻 [生活・労働 I―VI ]



評者:大野 節子



 本書『日本女性運動資料集成』は10巻の資料集と別巻「索引 事項・人名・団体名」からなる。近年精力的に次々と女性史の分野で著作をだしている鈴木裕子氏の,資料編集での意欲的な取り組みである。戦前の女性運動全体を包括する資料集刊行の計画は,現在「第4−7巻 生活・労働」と「第10巻 戦争」がおわり,今後「第1―3巻 思想・政治」と「第8−9巻 人権・廃娼」の刊行が予定されている。既刊の5冊とも収録資料の量は800ページ近くにのぼり(A5判8ポ2段組),原資料はじめ新聞雑誌やパンフレットなど当時作成された種々の資料を集めている。本書の価値は大きいが完結までにはなお2―3年を要すると思われるので,まず「生活・労働」全4巻を紹介したい。本格的な書評が完結後になされることを期待したい。
 この4冊は「無産婦人運動」の資料集である。編者の説明はないが,「無産婦人運動」の巻を「生活・労働」と呼んだのは,戦前の女性運動のもう一つの流れである「女権的市民運動」との違いを,それが「生活・労働」の現実から生まれた運動だというところに求めたからであろう(II23ページ参照)。
 4冊は次のように構成されている。
 I 女性労働者の組織化
 II 無産婦人運動と労働運動の昂揚
 III 十五年戦争と女性労働者・無産婦人運動
 IV 生活・労働の現場での女性運動
である。I−IIIは冒頭の労働組合期成会の若干の資料を除けば,「おおむね一九一四年ころから」敗戦までを時期を追って3冊に分け,内容的には「女性労働運動・無産婦人運動」の資料を,労働組合婦人部,労働運動争議,「無産婦人団体」すなわち関東婦人同盟をはじめとする各婦人同盟を三本柱にした編集である。最後のIVでは,戦間期の「生活・労働の場において多岐にわたって展開された女性の運動を七つの編に分かって収録する。」7編は,
 1)職業婦人の組織と運動,2)農村女性の組織化と小作争議,3)婦人水平社の創立,4)消費組合運動,5)産児調節運動,6)母子扶助法制定運動,7)無産者託児所運動
の順に配列してある。
 このように4冊は諸分野,諸系列の「無産婦人運動」を網羅した構成をとっている。ここで一つの疑問を述べれば,農民運動関係[IV 2)]の扱いである。戦前の農村と農民は現在のそれと質量ともに違うことはいうまでもないであろう。当時「無産階級」とは少なくとも「労農」の両者を含んだ呼称であり,また運動の実態にも沿っていた(一例を挙げれば,1926年末の総同盟3万,評議会3万5千にたいして日本農民組合5万2千。『日本労働年鑑』による)。編集上IVに収録するにせよ,また編者の研究対象が農民運動とは比較的縁が薄く収録資料も少ないにせよ,農民運動の分野ではさらに一考あってしかるべきではなかったろうか。女性労働者とは異なる,家族労働の農業に夫婦で従事し,夫が戸主として組合員だというなかでの,農村女性のあり様と結びつけた組合婦人部,あるいは未組織の農村女性と運動を資料とともに解説でもふれてほしかった。
 次に,資料集編纂という点から本書を紹介し,編者のご苦労は承知の上で注文も述べさせていただきたい。まず収録資料の特徴,位置づけについての説明が必要であるが,これは別巻に収録予定の「解題」でおこなわれるようである。農村・農民組合[IV 2)]では農民自治会婦入部にも日農と同様に一章をあてているのは,編者の問題関心によるものと思うが,この場合は編者は解説で自治会重視の意味を説明するのが妥当ではなかろうか。
 次に資料集の基本にかかわることを三つあげたい。一つは所蔵機関名の明示がないことである。利用には記号ででも資料1点ごとの所蔵機関の記載が必要である。それは資料集の信頼度にもかかわることである。これに関しては終りにも述べたい。
 第二は,資料番号の欠如である。第三は,各資料の書誌情報のうち,見出し,発行の日付,出典以外は省略されていることである(但し「資料の末尾に出典が明記されていないものは,原資料類である。」凡例)。例えば出典では,雑誌『未来』(I 390ページ参照)のように知られていないものは,婦人労働調査所出版部という発行所を記入するのが適当であろろ。
 解説は各巻とも数10ページにわたる。組織ごと,テーマごとに記述された解説は運動の分析評価に及んでいる部分もあるが,前述の農民運動のように当該組合の一般的な説明に終わっている場合も見受けられる。しかし「『男主女従』のスタイル,家父長制の運動スタイル」をもったままの無産女性運動[I 25ページ]といった,編者の明快な視点は各所に示され,それが各資料,各解説をつなぐ特徴であろう。解説の内容について一つ記せば,全国婦人同盟の綱領に「我等は我国の国情に即して……」という 「明らかに労農党=関東婦人同盟を意識した一句が挿入されている」のに注目すべきだとしているが[I 49ぺージ],問題の「一句」はまず労働農民党の綱領にあったものが,後に日本労農党綱領が踏襲し,その結果全国婦人同盟綱領にもなったのである。以上種々記してきたのは,資料集の作成になにがしか関わってきたものの反省があるからである。
 最後に,資料所蔵機関名の記載のないことに関連して述べたい。凡例は「編集・刊行にあたって」「とくに……のご厚意を得た」と,各巻の主要な資料所蔵先であろう,大原社研などの機関名を列挙している。これを,紹介者(大野)は資料集への掲載承諾への謝意かとも思ったが,同時にこのような出版計画を機関が承諾するだろうか,疑問をもった。大原社研では 「掲載資料には,法政大学大原社会問題研究所所蔵資料である旨を明記」することが条件の一つとのことである。さらに不二出版および鈴木氏に尋ねたところ,許可願の手統きはしていない,所蔵機関については「解題」でふれる予定ということがわかった。
 したがって少なくとも大原社研を,凡例で「とくにご厚意を得た」機関というのは不正確で誤解を招きかねない。大原社研は公開の文書館として広く閲覧やコピーのサービスを提供し,鈴木氏も熱心な閲覧者のひとりときく。
 「ご厚意」とは,このサービスヘの謝意とも解せるが,それは資料集出版事業とは異なる次元のことである。やはり,資料集出版にあたっては,大原社研に許可願を出し,その正当な手続きを踏んで刊行するのが当然のルールであると考える。



不二出版,1993年11月−1995年5月刊,4冊,定価各巻とも15,000円

おおの・せつこ 法政大学大原社会問題研究所兼任研究員

『大原社会問題研究所雑誌』第455号



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