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『大原社会問題研究所雑誌』書評欄オンライン版



ヒュー・ウイリアムソン著/戸塚秀夫監訳
『日本の労働組合 ――国際化時代の国際連帯活動

評者:井上定彦

 本書は,日本の労働組合の国際活動に関する専門書である。評者も数年前海外の大きな空港の本屋で偶然これをみつけ,多少驚いた。本書は国内でどの程度知られているかわからないが,おそらく海外の研究者ではそれなりに知られている本だと思われる。以下の行論にみるように,評者は本書についていくつかの批判をもっている。しかし,このような本が海外で出版されたにもかかわらず,国内で知られないままでいた可能性があっただけに,翻訳の労をとられた戸塚秀夫先生をはじめとする方々にまずもって敬意を表したいと思う。

 ヒュー・ウイリアムソン氏は1964年生まれ,ロンドンの代替産業技術センターで労働関係の調査を手がけ,後にアジア労働資料センターの研究員として香港に駐在。LSE大学院で学んだあと,現在はドイツ放送局のアジア担当のジャーナリストとして活躍中の方だそうである。

 日本の研究者にとって,もともと日本の労働組合の国際活動というテーマを正面から取り上げることには,この分野に類書が殆どみられないことに示されるように,多くの躊躇があったように思う。というのも,労働組合の機能を分析するときに,こうした領域から切り込むことは,もっともやりにくい仕方であると思われるからである。もともとそれぞれの国の労働組合の機能と構造の総体をバランスしながら分析することは大変に難しい。企業内的な労使関係の評価についても,日本的特性とされてきた内的フレッキシビリティーの視点から90年代になってEUをはじめ再評価されていることもある(通称「ドロール白書」,「成長,競争力,雇用――21世紀に向けての挑戦と方途」1993年12月)。いわんや,それぞれの社会との連続性の上に立つ労働組合の国際連帯活動を比較することはさらに至難のことである。そこにはさらに,外国語で書かれた文献に依拠するしかない場合,さまざまのバイアスやリスクを負う困難も加わることになる。

 ウイリアムソン氏は,これらのはかりしれないほどの困難をおして,筆者の大変な努力の積み重ねで445頁(訳書)の大著を,20歳代後半の2〜3年の間にものにされた。

 主として英文の文献と多数の聞き取り調査にもとづいて執筆されたパワーに敬意を表したい。

 各章の構成は以下の通りである。第1章 日本と冷戦−戦後労働運動の国際関係史,第2章 総評・同盟,IMF・JCの国際関係史 第3章 ナショナル・センター 連合,全労連,全労協 第4章 奇跡に立ち向かう−民間労組の国際活動 第5章 多国籍企業対策−日本,アジアそして国際連帯,第6章 労働組合の権利をめざして闘う公共部門の組合,第7章 労働外交−日本型スタイル 第8章 国際労働財団,第9章 JILAFの招待プログラム 第10章 労働組合の国際協力−JILAFのアプローチと比較する,第11章 国際労働問題に関わる労働組合以外の団体 第12章 結論−奇跡に立ち向かう。著者は日本語は解されないようだが,本書はこの章立てにみられるように,多数の英文にもとづく日本の労働組合に関連する情報や,これまた非常に多数の直接面談による聞き取り調査によって組み立てられている。したがって,日本の労働組合の国際活動を説明してくれという要請があったときに,日本人にとっても何かと便利なたくさんの情報を収録している。

 さらにこの本は,こうした情報提供にとどまらず,著者の意図としては日本の労働組合の国際活動について明確な見解を打ち出した研究報告ということだと思われる。

 そこで以下では,そうした趣旨にできるかぎり沿うかたちで,コメントしてゆきたい。

 まず,最初に二,三の単純な誤解あるいは不注意な記述と思われる箇所について指摘したい。

 ひとつは,JILAF(国際労働財団)や連合についての叙述である。本文288頁には,「JILAFの基本的な目標にも,その特定のプログラムの目的にも,発展途上国の労働組合をどのように改善あるいは強化しようとしているか,ということは明記されていない(288頁)」としている。しかし実際にはJILAFの公益法人としての定款にあたる「寄附行為」では「本財団は,・・・・諸外国が行う社会開発活動に協力し,もって労働組合関係者の国際的相互理解の促進をはかるとともに,内外にわたる民主的かつ自主的な労働運動の発展に資することを目的とする」と明示されている。また次のような記述もある。JILAFの設立を含め,「日本以外の労働組合運動家たちは理解しがたく受け入れがたいような労働組合モデルを採用している日本の組合と関係をもつことを迫られ,さらにそのモデルが日本の工業その他の投資にともなって「輸出」されようとしている事実に直面した。」(15頁)。このようにJILAFの設立を直線的に「日本モデル」の輸出とむすびつけるなら,日本の多くの国際支援活動は殆どがODAに依拠しているだけにそれらの活動はすべて「日本モデル」の輸出活動になってしまうように思う。

 また,連合の対外政策について,「日本の外向的軍事的な自己主張の復活に連合が支持をあたえていることに示されるような,連合の保守的な外交姿勢は・・・」とみている。しかし,すくなくとも評者の知るかぎり,連合本部の公式の政策文書やその後の沖縄の基地問題をめぐる議論,さらに最近の周辺事態法をめぐる公式見解からも誤解のように思う。むろん,連合という幅のある組織のなかには多様な見解があることは事実である。

 さらに,日本の「主要な組合運動は,自らの自由意思で資本の利益に従順であるようにみえる。そのことだけでも日本以外の多くの労働組合活動家達にとっては忌まわしいことである。それは御用組合主義と民族主義の不愉快な混合物であり,最近では帝国主義的な手法も混じっていると思われる(15頁)」といわれると,連合に対する客観的な分析というより,著者の予断がにじみ出ているように感じるのは評者だけではないかもしれない。ここまでいうと,連合に批判的な職場活動家達の多くも首をかしげるのではなかろうか。おそらくこれは,海外の先鋭な運動家からみれば,そのように映る部分があるという感情を述べたものなのであろう。

 またいまひとつ,ゼンセン同盟の交流活動の拡大の動機について,「アジア諸国の雇用条件を日本並にし,・・・・日本の繊維産業の雇用を確保することにあった」「その他の活動は,副次的なもの」(151頁)であったとする見方が示されている。しかし,これはすくなくとも日本とアジア諸国との間の経済格差が圧倒的に開いたここ30年については,いかにもありそうにないことである。この産別組織は,評者の知るかぎり,西欧型の国際連帯活動にもっとも近い活動をしているように思う。

 このような事実関係の部分的な問題点の他に,評者にとって知りたいのは,このような日本の労働組合の国際活動を評価する際に著者は何を判断基準としているのかということである。

 このような分析内容に関する「対話」をするためには,労働組合についての共通認識が必要であろう。しかし,評者には本書を読み進むほどに著者の判断基準がわからなくなってくる。労働組合機能というものをどう理解するのか,さらに日本の労働組合の機能と構造をどのようにみるのか,すなわち日本の労働組合の国際活動を考えるのに先立つ基本認識についてである。それはもう少し具体的にいえばこういうことである。日本に限らず労働組合は熟練工を中心に,雇用と賃金率という自分達の利益をまもるために発達した。そこではまずは労働ダンピングのリスクのある未熟練工の参入規制が大切であった。しかしそれが同時に産業に関する民主主義を育てる「場」ともなっていったのである(ウエッブ夫妻の『産業民主制』)。また労働組合運動の歴史をみると,労働組合運動が当該国での社会の自主的秩序にそって発展するために,どうしてもその国のナショナリズムや関連産業,職種の利益にとらわれ,「労働者の国際連帯」という特別の大義に照らした場合には,しばしばそれに反する行動をとったのが現実であった(たとえば第一次大戦で独,英の労働組合がそれぞれの国のナショナリズムに立って戦争遂行に協力してきた)。

 しかしこのような現実があっても,労働組合が職場の民主主義組織の側面を必ずもち,有力な社会組織のひとつであるだけに,何らかの国際連帯活動を行おうとする努力は失わなかったのである。同じ雇用労働者としての「痛み」を理解するとき,できるかぎりの国際支援活動を行ってきたことも事実である。つまり,労働組合運動は,国際連帯の大義という理念だけを出発点にして成立しているとはいえない。身近な仲間の仕事と生活の利益を守ることを原点としており,その延長線上にひとつの工場の仲間,ついでひとつの産業の仲間,さらには一つの国の仲間の連帯の必要性を日常活動によって実感し,最後には国境を越えた労働者連帯にもみずからのリソース(組合資源)を分かつことも厭わなくなる。つまり,労働者の国際連帯活動についてもその活動範囲の一部に入るようになっているということである。

 むろんこのような労働組合主義の発展には,西欧世界でいう意味での社会(民主)主義運動という,高次の理念にもとづいて多くの若い知識人が流入し,それによって労働者の狭義での利益追求運動を越えた普遍性を労働運動にあたえ,それにもとづく「力」をもたらしている(西欧諸国の多数派となっている社会民主主義政権)というのが20世紀の歴史であったと思う。

 つまり,それぞれの国の労働組合活動を分析するときに,その社会的基盤や機能をまず認識することが必要である。日本の長い熟達した研究者が容易に労働組合の国際活動というような難しい分野を手がけなかったのには理由があり,そのような分野を扱うときにはよほど慎重な吟味が必要なように思う。

 著者が日本の労働組合の連帯活動を批判的に分析した同じ手法(あるべき高次の理念にそって現実を切る)で,イギリス労働組合の国際連帯活動について分析すればどうなるのであろうか。オランダやスウェーデン労組の国際連帯活動のようにもっとも洗練されたものですらも,その中に独自のナショナリズム(国際的位置にもとづく)や産業の利益が入り込んでいる現実を程度の差はあるとしても見出さざるをえないように思える。

 欧州には第一次世界大戦の前から世界を欧州を中心とする政治・社会運動家の国際主義の思想があったものの,むろん,その時代にはODAのような有力な財源はなく,労働組合の国際連帯活動はか細かったように思う。  第二次世界大戦後は有力な労働者政党が交互に政権についたために,その政党の力に依拠して,殊に欧州大陸では実質的には労働組合が母体となる公益法人が設立され,ODA資金を受け入れた。それでもイギリス労働運動の系統をひく優れた指導者ベバン氏(労働党副党首)ですらも,当時の植民地独立運動や労働者の国際連帯活動に熱意をもっていたとは聞かない。

 労働組合は「正義の剣」という顔と「既得権」擁護という「二つの顔」をもつ(フランダース)ということは国際活動についてもいえることである。

 著者の海外援助についての理解は以下のような図式があるように思える。

 欧州から遅れて発達したアメリカは第二次大戦後はソ連ボルシェビズムに対抗して欧州復興を支援し,途上国支援ではAFL・CIOを軸に労働者交流をはじめ海外支援に乗り出した。それはアメリカ国家の世界統治と一体であった。日本は1980年代には「経済巨人」となり,その海外進出を円滑化するために国がODA支援を拡大した。日本の労働組合はAFL・CIOの後を追ってそれと類似した目的をもってJILAFを軸に労働者の国際連帯の活動を急拡大している。

 本書の原題のタイトルは「COPING WITH THE MIRACLE」である。ここには,「巨人となった日本の経済発展の奇跡に関わって日本の労働組合も新たな国際関係をつくるべく対処している」ことを描くという目的が示されている。  1980年代前半,比較的早く二回の石油危機を克服した日本は,マイクロエレクトロニクスをはじめとする産業発展にささえられて順調に世界市場での存在感を高めた。それに続き,アジアの新興市場は急成長をとげ,21世紀は「アジアの世紀」という見方がやや誇大に世界にひろまった。1980年ころの「うさぎ小屋」で有名ないわゆる「EC対日秘密報告」がその走りであったのかもしれない。海外での会議に出席する機会の比較的多かった評者は,1980年代後半から1990年代はじめにかけて,日本とアジアの経済興隆,輸出拡大が欧州の高失業や社会保障危機の背景にあるのではという一種の「黄禍論」をとうとうとのべる一部の欧州人を知っている。欧州の高失業は欧州内部の構造要因から生じていることは,後にドロール報告やOECDのJOB STUDY で明らかにされたが,当時の欧州でのアジア諸国への「違和感」表明は,ジャーナリズムの格好の題材とされていた。

 著者の誠実な意図に反して,本書が海外で発行されたのは,こうした背景があったことは否定しえないように思われる。

 評者の本書に対する評価は厳しすぎるかもしれない。しかし,むすびとして述べたいことは,海外支援活動を行っているひとびとだけでなく,日本の労働組合運動家に本書を是非読んで頂きたいということである。国際舞台で比較的高い知的トレーニングを積んだ方々からしばしば助言を頂く幸運に浴する評者からみれば,このような見方は決して偏見にたった少数者のものというわけではない。むしろ知的で理想に満ち,積極的に人間社会の進歩に人生をかけるような若い活動家はこのような見方をしがちである。それにもかかわらず,こうした活動家は労組の海外支援活動という任務を放棄せず,成長していく。このことは,評者が知っているICFTU系の多くの国際活動家だけでなく,JICAなど日本の海外援助やILO活動にあたっているひとびとについてもいえることである。誤解が少なからずあるとしても,本書全体を通読しそのなかから積極的な側面を読み取り,より良き日本の国際連帯事業にしていく努力が絶えず私たちに求められていると思う。


ヒュー・ウイリアムソン著 戸塚秀夫監訳 『日本の労働組合−国際化時代の国際連帯活動』 緑風出版,446頁,4500円,1998年

いのうえ・さだひこ 連合総合生活開発研究所副所長

『大原社会問題研究所雑誌』第488号(1999年7月)


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