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『大原社会問題研究所雑誌』書評欄オンライン版



佐野 稔 著
       『日本労働組合論』



評者:平井 陽一


 生きた労働運動にふれた佐野論文を読んで感じることは,左派労働組合運動にたいする著者の熱く,かつ優しいまなざしである。と同時に不満におもうこともある。それはこの優しさが災いしてか運動にたいする批判的な視点がややもすると抑制ぎみになっていることである。このことについては最後にふれることとして,紹介にうつろう。
 この本は,独立して発表された論文をまとめたもので前半は過去10年間に書かれた労働組合論に関する論文集,後半は山林労働者の運動を中心とした組合運動の報告からなる。第1章「大河内労働組合論」では,大河内一男の戦後危機期に提唱された「生産主義的労働組合論」を今日の社会においても説得力をもつものとして批判する。すなわち,この理論の特徴は戦後危機ののちに展開された技術革新期=生産性向上期においても労働組合の分配的機能・任務に対する生産的機能・任務の優位性の強調,経営協議会の重視,国民経済的・民族的視点の重視として特徴づけられるとした。大河内理論は主体的条件の欠落した客観的主義・経済主義的な宿命論であるとも指摘する。
 第2章「大友労働組合論」は,主体的条件を重視する立場から大河内理論の客観主義的偏向を批判する大友福夫理論の紹介である。第3章「戦後労働改革と労働運動」は,東大社研の「労働改革」研究で提起された戦後危機をめぐる論点を中心に整理し研究史的意義を評価したものである。第4章「社会政策理論と労働問題研究」は,社会政策論争から労働問題研究・労働経済論へ論争の焦点が移行した経過と問題点を考察する。以上の4つの章は,戦後の社会政策・労働問題研究でどのような論争がおこなわれてきたのかを著者の関心にそいながら手際よくまとめたものであり,戦後労働問題研究の解説となっている。入門編としても読める内容である。
 第5章「現代労働運動のあたらしい芽」は,1)大企業下の少数派運動,2)中小企業における倒産反対・工場占拠・自主生産のたたかい,3)地域合同労組=ユニオンの活躍,4)国鉄労働運動問題などをとりあげ,それらの積極的な意義を熱く説いている。以上がこの本の前半の内容である。
 後半の第6章「全山労運動の現状と問題点」は、圧倒的多数が未組織におかれている民間林業労働者の組織化への取り組みを全山労,農村労組,森林組合労務班の実例によって考察し,はっきりとした全国的・産別的な組織結集の必要を提唱している。第7章「労働者協同組合運動と山林労働運動」では,1)工場占拠・自主生産をおこなう「労働組合管理企業」,2)龍山村森林組合,3)全日自労の「事業団」運動のなかに労働者生産協同組合へ連なる内実をみる。第8章「白ろう病闘争のあゆみと問題点」はチェーンソーの使用を原因とする職業病の告発リポートである。
 以上,この本をごく簡単に紹介した。最後に著者への注文めいたことを記しておきたい。それは,現代労働運動のあたらしい芽として紹介されている様な運動について,やはり諸運動の成果と同時に,内部にかかえる問題点をもより具体的に取りあげたらということである。たとえば著者が報告した全金南大阪港合同支部の運動にしてもいくつかの困難をかかえていることは割合知られているからである。
 ともあれ運動にたいする著者の熱いまなざしに敬意を表したい。





1988年12月刊,日本評論社,2,500円

ひらい・よういち 法政大学大原社会問題研究所兼任研究員

『大原社会問題研究所雑誌』第371号(1989年10月)



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