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『大原社会問題研究所雑誌』書評欄オンライン版



総評政策局 編
『戦後労働運動の到達点――総評労働運動の軌跡と役割



評者:早川 征一郎



はじめに

 戦後日本の労働運動史,ひいては政治社会史全体において,総評労働運動史は一体何であり,どういう意味づけを持っていたのであろうか。
その総括は容易なことではないが,今後おそらく多くの人たちによって,さまざまな視点や問題側面から行われるであろう。
 ここでは,そうした総評労働運動史の本格的総括の前進のために,総評の当事者みずからによる「総括」ともいえる文献を取り上げることにしたい。本書は,その表題と副題が示すように,戦後労働運動における総評労働運動の意義について,総括の視点の提起という形をつうじ,事実上の総括を行なった興味ある文献である。
同書は,総評政策局が毎年編集していた総評調査年報の最終版(1989年版)でもある。

 まず目次を掲げておこう。
  はしがき
  はじめに――本調査年報で意図したもの
  序 章 総評労働運動の歴史的課題と軌跡
  第1部 労働運動固有の運動領域
  第2部 労働運動の部門別運動領域
  第3部 労働運動と政治・社会の関係領域
  終章  総評労働運動の歴史的位置と役割

総評運動総括の視点
 「はじめに」では,この調査年報最終版で意図した「総括」のねらいが示されている。すなわち,「戦後労働運動の到達点,別言すれば総評運動の到達点をその長所と欠陥,社会政治的機能,運動の必然性と偶発性,正統性と歪みなどを,社会・経済・政治,文化・思想などできるだけトータルにシステム的にとらえておきたい」。それというのも,「未来に向けて,総評労働運動の『良き遺産』の継承のためには,多少みずからにメスをいれる勇気をもってのぞむべきだという判断からである」。
 こうした編者の意図に立った場合,ではどのような組合観によるか,どのような運動上の視点に立脚して「総括」を行おうとするかが問題となる。この点,「はじめに」ではなく,むしろ「終章」で明らかにされている。そこで順序は逆になるが,「終章」から見ていき,その上で序章および第1部〜第3部に立ち戻ることにしよう。
 ところで,「終章」における編者の「総括」視点の提起は,いろいろな運動上の配慮があるせいか,必ずしも明快ではない。だが私なりに,その視点を読み取ると,おそらくつぎのように整理できるであろう。第1に,労働組合の政党や経営からの「自律性」の強調であり,第2に,労働組合による賃金,労働諸条件の維持,改善といった「固有の領域」(古典的労働組合観)だけでなく,民主主義の国民感覚を大切にした,平和,民主主義擁護など国民的大衆運動との結合の強調といった視点である。もっとも,前者で政党からの「自律性」といった場合,「終章」では,64年春闘への共産党の「介入」が例に出され,社会党との関係は不問に付されている。
第2の視点に関連して,春闘,平和,安保・三池,消費税反対運動などが指摘されている。こうした点から判断すると,編者の視点は概ね,かつての「日本的労働組合主義」の系譜を引きつぐものであり,その視点に立って,「総評労働運動の『良き遺産』の継承」を主張したいのが真意に近いと思われる。



 「序章」は比較的短いが,上記の視点に立った総評労働運動史の概観である。その中で,生産性向上反対運動,60年安保と三池闘争やILO条約批准闘争など労働基本権闘争が重視されている。また春闘の発展が,70年代前半の国民春闘までの記述で終わっている点に,おのずから編者の春闘評価が表われている。また行政改革にも,明確に反対の立場から記述されている。こうした点は,,「総評労働運動の『良き遺産』」として,編者がどのようなものを考えているかを示しているものとして興味深い。
 第1部は,労働組合「固有の」運動領域として,賃金,雇用,労働時間,労働基本権問題での運動が取り扱われている。ここで労働組合「固有の」というとらえ方には,古典的な意味での労働組合主義的な運動の考え方に立つものと解釈できるであろう。この「固有の」という考え方は今日,まさに古典的であるが故に,私には疑問のあるところでもあるが,ここでは疑問の指摘だけに留める。
 第2部,労働組合の部門別運動領域は,肝心の「部門別」の意味が明らかではない。それと同時に,第1部を労働組合「固有」の領域として区別したこととの関係も明らかではない。その点はさておくとして,第2部は具体的には,労働者の生活問題,地域労働運動,社会保障・福祉,中小企業労働者,女性労働と分かれている。おそらく総評の各局編成とも関連して,これまで取り組んできた諸領域をまとめて記述したものと思われる。なかでも,地域労働運動と中小企業労働者問題は,総評がとくに力を入れて取り組んできた領域であり,また苦労の多かった領域でもあるだけに,とくに興味深い。
 第3部,労働組合と政治・社会の関係領域は,第1章を,労働組合と政党,とくに総評と社会党との関係に当て,第2章を,社会の変化への労働組合の対応といった一般的な問題の叙述となっている。ここでは,とくに第1章の総評・社会党ブロック形成についての必然性の指摘と,そのブロック形成では処理しきれない70年代後半以降の諸事態の進行(野党共闘など)の叙述はそれなりに興味深い。だが,肝心の視点,すなわち労働組合の政党からの「自律性」という視点との関係で,総評と社会党との関係について大胆な切り込みがなされておらず,全体として「状況」肯定的な叙述に終始している感は否めない。



終わりに

 以上の叙述を経て,前述の「終章」へと至る。本論における若干の疑問点については,すでに指摘した。だが編者の視点そのもの,および「総評労働運動の『良き遺産』」だと考えられているものについて,たとえそれらが,運動史上,幾多の問題点を含んでいるにしても,私にとっても概ね同意できる点である。
 編者はその上で,新「連合」発足にあたり,その中で「総評労働運動の『良き遺産』の継承」を願っている。どうやら「終章」のこの結論に,最大の問題が潜んでいるようだ。編者の「願望」と共に,危惧と苦渋がそこににじみ出ているように,私には感じられた。ともあれ,こうした文献を契機に,総評労働運動の総括が今後,活発化することを大いに期待したい。




1989年10月,労働経済社,定価2,200円

はやかわ・せいいちろう 法政大学大原社会問題研究所教授

『大原社会問題研究所雑誌』第381号(1990年8月)


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