OISR.ORG へようこそ 法政大学大原社会問題研究所
 

『大原社会問題研究所雑誌』書評欄オンライン版



宮元 義雄 著
『官官接待と監査――情報公開と市民オンブスマン



評者:早川 征一郎


 「官官接待という言葉は最近の流行語となっているが,官官接待をめぐっての究明はまだまだ不十分であり,特に問題になっているカラ出張や食糧費の水増し等による裏金づくりの原因,接待の背景をなす社会の構造等について深遠な考察が欠けているのではないかと思われる」(8頁)。本書の執筆者は,序章で以上のように述べたうえで,官官接待について多角的な考察を行なっている。

 本書の執筆者は,奥付け上の著者紹介によれば,宮崎県総務・財政課長や自治省大臣官房調査官,全国知事会事務局次長などを歴任し,日南市長を勤めたあと,現在は市長村職員中央研修所の客員講師をしている。それだけに,官官接待の実情とそれをめぐる問題について,見聞は広いと思われる。その点は,以下に紹介する本書の目次にも反映している。
序章  官官接待の現況
第1章 官官接待の経費
第2章 情報公開
第3章 監査委員制度
第4章 住民による監査請求及び訴訟
第5章 市民オンブスマン
 一見して明らかなように,本書はたんに官官接待の実情を明らかにしているだけでなく,官官接待に関する情報公開や監査制度,さらに市民オンブスマンの活動にまで及んでいる。以下,各章について,簡潔に内容を紹介しておこう。

 序章では,まず,1.官官接待の問題点として,先に引用した一文のような問題関心を提起している。ただし,「私は社会の構造からみた官官接待の発生のメカニズムまで解明する知識はもたないが,いささかの経験を通して解明研究を試みることとした」(8頁)として,課題を限定している。
 2.官官接待の分析では,まず,官官接待とはと問い,「官官接待は,いかにも官〈国家公務員――引用者注〉と官〈地方公務員――引用者注〉との範囲の狭義にとられがちであるが,ここでいう官官接待は国と地方との関係の意味よりはるかに広く,国会,政府(国の出先機関を含む),公社,公団等をも包含しなければ税金の使途の適正化を図ることにならない」(11頁)と,きわめて広く定義していることが注目される。
 そのうえで,以下,官官接待に関し,多角的な問題指摘を行なっている。たとえば,公社・公団など外郭団体に対する地方自治体の接待を無視してはならないこと,いわゆる東京事務所の存在と役割の重要性などである。

 第1章は,官官接待の経費について,まず接待経費の仕組みとして,カラ出張の手法,カラ食糧費の手法などを紹介したあと,以下,経費の項目別に詳しく解説している。
 まず,交際費であるが,その使途の範囲が曖昧であり,これまで裁判などで多く争われてきたことを紹介している。ついで,食糧費であるが,それが本来の会議用の食糧費から逸脱し,もっぱら接待用に多額に使われるようになって問題化していることが指摘されたあと,判例,行政指導などの内容が紹介される。
 さらに,報償費の流用も指摘されているが,食糧費についで問題の多いのがカラ出張旅費の流用である。そのほか,臨時職員や嘱託の雇用期限が切れて雇用の実態がないのに,雇用期間を延長して裏金化するカラ雇用,正規職員のカラの時間外手当の捻出,予算科目の節の一種である需用費(食糧費,消耗品など9つの説明種目がある)を節内の流用使用に回すケース,また,とくに任意の負担金(分担金)の流用,さらに贈り物といった直截なケースが指摘されている。
 こうした官官接待に対し,現状認識と究明ということで,市民オンブスマンの活躍による情報公開,とくに裁判での公開開示判決など,徐々に究明が進みはじめていることが指摘され,秋田県で知事の辞職へ発展したことが述べられている。

 

 第2章は,情報公開の意義について述べている。国の情報公開はまだ制度化されていないが,現在,情報公開法案が準備されている。本書の段階では,政府の行政改革委員会の行政情報公開部会の情報公開法案要綱案(平8・11・1)が紹介されている。
 ついで,地方の情報公開について,条例が制定されている事例などが紹介されている。ただし,議会の情報公開としての問題点として,議会経費が各条例でも除外されているケースが多く,そのことをめぐってトラブルが発生していることの指摘は重要であろう。
 そのうえで,情報公開についての最高裁の判例,宮城県の情報公開条例の事例と仙台地裁の判例などが紹介され,最後に情報公開の状況が示されている。現在,都道府県では47全部が条例を制定しているが,市町村3,300のうち,300余りが制定している状況で,情報公開条例の制定は,市町村レベルではまだ数のうえでは少数である。

 第3章は,監査委員制度についてである。監査委員は,自治監査を主眼に,戦後に導入された制度であるが,必ずしも住民寄りとはいえず,しばしば監査を受ける側と「ぐる」の関係にあることも指摘されている。
 そのうえで,監査委員の職務権限が考察されているが,状況としては,自治体監査は岐路に立っており,住民監査請求の急増で定例監査に手が回らないと言われている。だが,執筆者は,住民監査が急増したといっても,都道府県ではここ3年間で19件に過ぎないこと,監査委員の常勤化などをつうじ,対応は十分に可能であるとしている。
 第4章は,住民による監査請求および訴訟についてである。ここでは,監査請求の状況,住民訴訟の状況が,実態的に明らかにされている。住民の側からすれば,監査請求や訴訟のやり方を含め,最も興味ある章であろう。
 第5章は,市民オンブスマンについてである。一部の県,市では,条例により制度化しているところもあるが,まだ少数である。この章では,これまで市民オンブスマンが果たした役割を評価するとともに,その制度化の問題点にもふれている。つまり,制度化によって,第2の監査委員になってしまうおそれがあることである。もっとも,著者は最近のオンブスマンの活躍をみると,「やはり現在の純然たる市民オンブスマンが残ることが予想される」(219頁)とし,その独自的役割を評価している。

 

 以上,本書の内容について,ごく簡潔に要約して紹介した。全体として,官官接待とはどういうものか,その経費捻出のからくり,これに対する住民側の対応としての住民監査や訴訟,市民オンブスマンの活動に至るまで,よくまとまった概説書となっている。
 また,ときに自らの経験,とくに日南市長時代の経験も挿入されている。たとえば,東京事務所を廃止したこと,市長在任中,いかなる贈り物も受け取らなかったことなどである。
 ただ,注文をつければ,第一に,執筆者も認めてはいるが,官官接待が日常化する日本社会の構造にいくぶんでも分析のメスを入れてほしかったことである。序章で,断片的にふれてはいるが,そういう接待が日常化せざるを得ない状況はもっと書けたのではないだろうか。
 第二に,その点と関連し,中央省庁への批判の弱さが気になる点である。官官接待が日常化する根源的要因は,中央省庁の絶大な権限と「3割自治」下の地方自治体との関係にあるからである。
 とはいえ,そうした注文は,執筆者の経歴からすれば,無いものねだりで,おそらく無理かもしれない。むしろ,官官接待を批判しつつ,住民監査や市民オンブスマンの活動,役割に注目する執筆者の硬骨漢ぶりを評価すべきであろう。



宮元義雄著『官官接待と監査』
学陽書房,1997年4月刊,230頁,定価(本体2,400円+税)

はやかわ・せいいちろう 法政大学大原社会問題研究所教授

『大原社会問題研究所雑誌』第476号(1998年7月)




先頭へ
書評一覧へ
電子図書館へ
研究所ホームページへ