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『大原社会問題研究所雑誌』書評欄オンライン版



日本労働者協同組合連合会編
『ワーカーズコープの挑戦――先進資本主義国の労働者協同組合

評者:福田 富夫


 1992年6月,中高年雇用・福祉事業団全国連合会(現在,日本労働者協同組合連合会と改称)の主催によって,「発達した資本主義国における労働者協同組合の意義と発展の可能性」というテーマの国際シンポジウムが開催された。本書あとがきによれば,その「貴重な業績を参加者だけのものにしたくない」,「働く人の協同組合=ワーカーズ・コープの実像に多くの人が接して欲しい」との思いが,本書を誕生させたとのことである。本書の構成と執筆者は以下のとおり。

I 労働者協同組合=ワーカーズ・コープの意義と可能性(手島繁一)
II 社会的経済の要としてのワーカーズ・コープ――フランスの労働者協同組合
 ・長い歴史と先進的な活動(石塚秀雄)
 ・民主主義・連帯・参加に基づく協同組合企業(ベルナール・リオネ)
 ・フランスの労働者協同組合あれこれ
 ・ベルナール・リオネ氏に聞く
III 新しい地域社会モデルを実現したモンドラゴン――スペインの労働者協同組合
 ・転換点にたつモンドラゴン(石塚秀雄)
 ・モンドラゴン協同組合連合体の戦略適用(ホセ・アントニオ・ゴイチア)
 ・モンドラゴンの協同組合あれこれ
 ・ホセ・アントニオ・ゴイチア氏に聞く
IV 「第三セクター論」からヨーロッパ統合市場への挑戦――イタリアの労働者協同組合
 ・ECに立ち向かうレガの新戦略(手島繁一)
 ・イタリアの生産・労働協同組合運動(ファビオ・ファブリ)
 ・イタリアの労働者協同組合あれこれ
 ・ファビオ・ファブリ氏に聞く
V 国際的に認められた事業団運動の現状と展望――日本の労働者協同組合(中田宗一郎)
VI 労働者協同組合運動の課題
 ・社会変革における協同組合運動(菅野正純)
 ・協同組合企業の自立と経済民主主義(角瀬保雄)
 ・協同組合運動における「労働の在り方」(中川雄一郎)
VII フランス労働者協同組合法の紹介
 ・フランス労働者協同組合法について(石塚秀雄)
 ・フランス生産労働者協同組合法

 I章は,本書全体を通ずる総括的論文である。II・III・IV章の各章は,冒頭に日本人研究者の手になる各国の協同組合についての概略的な説明が置かれ,次に各国人による自国の協同組合についての論稿(これがシンポの報告に当たるものか?),そして当該国の協同組合に関するコラム,各章の最後に各国人との質疑応答が配列されるという構成になっている。V章は日本の労働者協同組合についての論稿,VI章は3人の識者の,おそらくは報告に対するコメントである。VII章はフランス労働者協同組合法制の簡単な紹介と,フランス生産労働者協同組合法(1978年7月19日付,法78−763)の翻訳である。

 本書を貫く問題関心は鮮明かつ実践的である。ワーカーズコープすなわち労働者協同組合は,「そこで働く労働者が,自ら出資して所有者となり,自ら経営と管理の責任をもつ」「労働者自主管理企業」であり,「これまでの資本主義的企業が当然前提としてきた,所有と経営の分離,経営と労働の分離と対立を目的意識的に克服し再統一」しようという運動と事業である,と定義づけられている(I章,16頁)。その目的は,労働者の労働に対する自己決定権を取り戻し,労働を自己実現と人間能力の発達の機会に変えることである,とされている(17頁)。ソ連・東欧における「国有化という所有形態による公企業主導システムの崩壊」(12−13頁)を眼前にして,労働者協同組合こそ「利潤至上主義的な私企業と市場のシステムの変革をめざす運動」である,という位置づけがなされる(18頁)。このシンポジウムに参加したのはこうした問題意識を多かれ少なかれ共有する労働者協同組合であるようだ。
 しかしながら本書を一読してわかるのは,ともに社会変革を志向するにしても,西欧3国の労働者協同組合と日本のそれとの間にはやはり相違が存在するということである。労働者協同組合のアポリアの一つ,おそらくは最も根本的なアポリアは,企業性と協同組合員間の平等性をいかに統一するかということであると思われるが,前者が企業性に重点をおいてこの問題を解こうとするのに対し,後者はあくまでも組合員間の平等原則を厳守しようとしているようである。仏・西・伊の労働者協同組合は,EC統合市場の出現とも相俟って,一般企業と対等に伍していくため,効率性を重視し事業体規模の拡大をめざそうとしている。一般組合員と経営に当たる理事との能力差の容認(55頁),組合員間の報酬格差の容認(モンドラゴンでは1対6,110頁),外部資本の導入(伊の新協同組合法における賛助組合員・協同組合参加株規定,150−152頁,167−168頁),協同組合員以外の労働者の雇用の是認等がそれである。こうした中にあって,たとえ間接民主主義的な方法であれ,一人一票原則による組合員の民主的運営さえ確保されていれば,労働者協同組合の原則を踏み外したことにはならない,というのが欧州の考え方である。それに対して日本の場合は,企業性に比重をおくよりも,事業計画の決定・実行にいわば直接民主主義的に全構成員が参加することを通じて人間変革を図る,というところに大きな重点がおかれている。日本労働者協同組合連合会が自らの運動を定式化した7原則の中に,「労働者が企業の主人公」になる,「『自立と協同と愛』の人間に成長」する,という項目を掲げていることにそれは現れている(187頁)。したがって欧州の企業性重視路線によって採られた上記の諸措置に対しては懐疑的ないし否定的である(例えば,「働く者は出資しなければならず,働かない出資者はきびしく制限する」,および「労働に応ずる剰余の分配」の原則の確認,あとがき233頁)。この相違は運動の歴史の長短によるだけではなく,二つの経済社会の違いにも起因するように評者には思われる。一部を除いて企業が必ずしも効率的でない彼の地においては,労働者協同組合がみずから効率化して他企業と競争しうる余地があるのに対し(126頁),効率性原理が隅々まで支配している日本の「企業社会」で生き延びるためには,対抗運動の側としてもまずは“思想的”結束を強めざるをえないのではないかと考えられる。

 本書のメリットは,労働者協同組合運動の最近の動向が簡潔にまとめられていることである。資本が大企業と自由業に二極化し中小企業が消失しつつある中で,労働者協同組合が“健全な”中小企業として存在しうる点にその可能性を見いだそうとするフランス。従来の地域グループの連合体を部門別・分野別に再編成して「規模の経済」を追求することで,多国籍企業と対等に競争しようとするスペインのモンドラゴン。中小企業,協同組合,従属労働者等の「人民資本主義」勢力を糾合して,協同組合のみならずあらゆる企業がその力量に応じて自由に競争できるような,公正で開かれた市場への転換を追求すると同時に,腐敗と非効率の代名詞である公企業の協同組合移管・公務員の協同組合員化をも展望しつつ公共サービスの充実と効率化をめざそうとするイタリア。全日自労の「失業者闘争」の中から生まれ,中高年雇用・福祉事業団の設立(1979年)を経て,各単位事業団を労働者協同組合として再編し,自治体と連携して環境・福祉サービス分野へも進出しようとする日本。こうした国際比較からそれぞれの労働者協同組合の特徴についての理解をより深めることができる。国際シンポの成果を広く一般の閲覧に供し,労働者協同組合の実情を知らしめるという本書の目的は達成されたといえよう。
 ただし,このシンポに参加した労働者協同組合が必ずしも各国のそれを代表しているとは限らないようである。どちらかといえば社会変革の志向をもった労働者協同組合が寄り集ってシンポを開催したというのが本当のところであろう。したがって本書で言及されている労働者協同組合が各国の経済社会で占めている比重がどれほどのものなのか――全体的な構図の中での当該労働者協同組合の位置――が十分叙述されているわけではなく,今一つわかりづらい。
 ともあれ,労働者協同組合が一方で資本主義市場経済原理に準拠しながら企業活動を進め,他方でその経済システムのオルタナティブをめざすというのは確かに興味深い“実験”である。 20世紀末の労働者協同組合が,ウェッブの「衰退テーゼ」(はたして労働者協同組合が資本主義的市場経済において発展しうるのか,「自己搾取」や同一産業・職種の労働者の労働条件を切り下げる可能性はないのか,結局は衰退していくことになるのではないか)を乗り越えることができるであろうか。(この論点に関しては,塚本一郎「労働者協同組合における労働者統制の意義――ウェッブの生産者協同組合批判に関連して」,本誌417号,1993年8月号参照)
 最後に,本書の編集について一言。個々の論書評と紹介稿に書誌データが記されていないばかりか,本書のどこにもその説明がない。したがって,なにが(どこまでが)シンポジウムの報告ないしは記録で,どの部分が本書作成の段階でつけ加えられたのか(あるいは削除されたのか)が,関係者以外は全く伺い知ることができない。こうした理由から,専門的な読者にとっては,本書の利用価値を下げるものとなっているのは残念だ。当該シンポの忠実な記録が別に存在するのなら,せめてその書誌データでも記載されていればと思う。




労働旬報社,1993年,234頁,定価2,500円
ふくだ・とみお 法政大学大原社会問題研究所兼任研究員
『大原社会問題研究所雑誌』第422号(1994年1月)




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