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『大原社会問題研究所雑誌』書評欄オンライン版



紹介

M.フォトゥナート/S.メスナーニ著
関口 英子訳

『イタリアの外国人労働者』

福田 富夫




 

 本書は2部からなっている。前半はルポルタージュであり,後半は訳者による解説である。ルポはチュニジァ出身の青年,メスナーニの体験にもとづく。週刊誌『エスプレッソ』に掲載されたルポを作家フォルトゥナートとの共同作業で本にした,というのが本書の成立ちである。ルポの対象となった時期は1989年末からの3ケ月。 90年4月に週刊誌掲載,原著出版は同年9月とのことである。
 チュニジアの外国学部を卒業し,貧困からの脱出と西欧的価値観にあこがれてイタリアヘ旅立った著者は,当地の外国人労働者が置かれている苛酷な現実に自らも巻き込まれる。大部分の外国人労働者が,極端な低賃金の3K労働−その報酬でさえしばしば踏み倒される―,路上販売,売春,ひいては麻薬密売や窃盗等の犯罪に追い込まれていくという現実である。著者は渡伊前にイタリア語を自由に操れるよりになっていたが,イタリア人のようにイタリア語を流暢に喋ることでかえって事態が複雑化する。結局,外国人である自分は他の多くの外国人のようにたどたどしいイタリア語で喋ることしか期待されず,また外国人らしく振る舞うことしか期待されていないのだと悟らされる。イタリア人社会に受け入れられず,かといって,絶望からともすれば犯罪に走りがちな外国人同胞にも全面的に同一化することができない著者は,アイデンティティの動揺を来す。
 外国人労働者の代弁者としてではなく,彼らに対しても批判的な目を向ける著者の姿勢は,訳者も言うように,この種の本にありがちな 「悪としての西欧社会と対峙する善としての出稼ぎ労働者」というステレオタイプとは異なったイメージを読者に与えることに成功している。著者の描写によって浮かび上がってくるのは,これも訳者の巧みな表現を借りれば,「寛容であるかと思わせる一方で,時には絶望感に襲われるほど差別意識の強い,また優しく受け入れてくれるかと思えば,非情で暴力的でもある」イタリア社会の現実である。
 長い間移民の送り出し国であったイタリア,ファシズム期においてもナチス・ドイツほど苛酷なユダヤ人弾圧政策を採らなかったイタリアは,自らを人種差別のない国と信じてきたし,アジールに対しても寛大であった。しかし,移民送り出し国が移民受け入れ国となり,外国人労働者が目立つようになるにつれ人種差別が表面化してくる。
 本書後半の訳者解説は注・参考文献も含めて70頁余の本格的なものでありルポの背景をなす80年代以降現在までのイタリアの外国人労働者の実態が丹念に跡付けられている。と同時に,出国圧力の強いアフリカ諸国と吸引力の強い北中部欧州諸国との間に位置し,また国内に依然として南北問題を抱えるイタリアの外国人労働者問題の複雑な様相を叙述する筆は簡にして要を得ており,有益である。
訳文はこなれていて読みやすい。好著といえよう。





明石書店,1994年,iii+230頁,2,860円

ふくだ・とみお 法政大学大原社会問題研究所兼任研究員

『大原社会問題研究所雑誌』第442号(1994年9月)




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