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『大原社会問題研究所雑誌』書評欄オンライン版




全日本民間労働組合連合会
『連合「組織方針」作成に向けた中間報告
        ――産業別組織の機能の現状調査報告書




評者:浅見 和彦




 労働組合の報告や調査を書評の対象にするという習慣はないかもしれない。しかし,社会政策学会第80回大会(1990年5月)において,中村圭介・石田福蔵の両氏がこの調査にもとづいた報告をおこなわれ,中村氏は「わが国産業別組織の類型と機能」(『季刊労働法』第154号,1990年2月)という研究論文も書かれている。たんにナショナルセンターの報告・調査とはみなせないのである。
 〈自由にして民主的な潮流〉と〈階級的民主的な潮流〉とがナショナルセンターレベルで組織的に分岐する結果をもたらした労働戦線統一問題に関連して,運動理念や政策の相互批判がおこなわれてきたものの,各潮流に結集する組合の組織構造や機能,組織基盤の客観的・分析的な比較研究はほとんどおこなわれてこなかった。その点でも,このような調査報告が―しかも運動潮流の一方の側から―刊行されたことは意義のあることである。

II

 この報告・調査は,当初,旧「連合」の『れんごう政策資料』第51号(1989年10月)に掲載され,その後,単行本化されたものである。中味は主として二つの文書によって構成されている。一つは,組織専門委員会の「連合『組織方針」作成に向けた中間報告」(以下,「中間報告」と略)で,いま一つがその中間報告付属資料で調査作業委員会の「産業別組織の機能の現状報告書」(以下,「調査報告」と略)である。そのほかに「調査表」と「調査集計表」が添付されている。分量からすれば中間報告自体は短く,調査報告のほうが大半を占める。
 まず中間報告のほうは,「産業別組織の機能の強化にしぼって課題の整理および若干の提起を試みたもの」である。また調査報告のほうは,全民労連加盟の各産業別組織の機能を「さまざまな領域について相互比較ができるような形でこれを把握」することを目的にしている。調査作業委員会が設置されたが,実際に調査を進めたのは,細川三代次(組織行動局次長〈当時〉),吉沢哲(元ゼンセン同盟)両氏と,前述の石田(元私鉄総連),中村(雇用職業総合研究所〈当時〉)両氏の四人である。
 後者の調査報告は,「日本にある産業別連合体または産業別組合の実態を全体的に明らかにし,いわば日本産業別連合体論(産業別労働組合論)を構築しようとした研究」(中村,前掲論文)といってよい性格をもつものである。従来,個々の,あるいは少数の単産の組織構造と機能を扱った研究はあっても,「全体的に明らかにし」たものはなかったからである。ただ,唯一の先行研究として氏原正治郎氏の「日本における産業別組合論に関する覚書」(氏原ほか編『講座=現代の賃金2』1977年,所収)をあげることができるだろう。そのような意味で,48組織を集約対象としたこの調査報告は画期的意義をもつといってよいのではないだろうか。
 調査報告は,まず産業別組織の組織的特徴の類型的把握と構造的特徴の解明をおこなっているが,その際の仮説はそうした諸特徴が「産業別組織の諸機能に大きな影響を及ぼす」であろうというものである。そして,そうした「類型は産業別組織の機能をみる上で一定の説明力をもちえている」と結論づけている。同時に,それぞれの産業別組織の「組織の歴史,競合組織の有無,リーダーシップの違い」も,産業別組織の機能を規定する要因であると指摘している。また,いずれの要因にせよ,「人為的に動かすことのできないあるいは変えることのできないものではない」と強調している。
 詳しく紹介する紙幅はないが,「産業別組織の組織と構造」「産別組織の交渉機能と統一闘争の指導体制ならびに賃金・労働条件の最低規制の取り組み」「組織拡大活動」「雇用・合理化対策,産業政策,連帯・共済,日常活動における産業別機能」について相互比較ができるような調査アイテムを設定するための苦心が随所に読みとれるし,実際に調査を進めた人びとの鋭い問題意識も感じられる。また,調査対象となった産業別組織自身も初めておこなったであろうと思われるような,ファクト・ファインディングとしての意義がある内容が実に多く,日本労働組合に関するデータブックとしての価値もきわめて高いのである。こうした一国の主要な全国的労働組合の組織構造や機能を類型論的な分析をとり入れて比較検討した研究は外国でもきわめてめずらしいだろう。評者が見当のつくイギリス労働組合に関する最近の研究ではR.Undy et al., Change in Trade Unions,1981があるくらいではないかと思う。

III

 とはいえ,類型化については,“あの単産とこの単産がなぜ同じグループなのか”といった異論や批判はただちに出てくるだろう。それにたいしては,方法的な手続きをふんでの仮説である,と応えればよいのであろうが,その類型化の方法自体にも批判は起こりうる。類型化の手続きが一種の意識調査であるということは別にして,一つだけ挙げておくと,産業別組織の組織基盤を問題にするとき,組合が組織化している企業の「市場支配力」を目安にしておきながら,結論にあたる終章では組合自体が支配している「労働市場におけるシェア」であるかのように置きかわってしまっている。労働組合の労働市場支配力・規制力なのか,それとも(労働組合が依存する可能性の高い)企業の市場支配力なのか,という区別が自覚されていないような印象を受ける。もっといえば,こういう目安をもってくること自体に問題はないのだろうか。また,最初の類型化はいわば作業仮説であったわけだから,機能分析の結果にもとづいた再構成がおこなわれ,深められたほうがよいのではないかという印象をもつ。そういう異論ももつが,この調査報告は日本の産業別組織の実態を全体的に明らかにする上で,必須の文献となることはまちがいないと思う。
 最後に,調査対象となった「連合」加盟の産業別組織のリーダーはこの報告・調査の結果を読んで,どのような感想をもったのだろうか,是非知りたいと思う。また,全労連加盟組合のリーダーはどうだろうか。できればこれと同様の調査を,全労連加盟組合やその他の反「連合」組合,また全建総連など純中立の組合も実施してもらいたいと思う。今回の調査報告には含まれていない全自交労連などの「連合」加盟組合はもちろん加わってもらえるだろう。そうした調査は日本における産業別組織全体の類型と機能を明らかにするための学術的な研究として発展させうる資料となるし,運動潮流間の客観的な相互比較も可能になるだろう。





全日本民間労働組合連合会 1989年10月,A4判・26+233頁 頒価1,500円

あさみ・かずひこ 法政大学大原社会問題研究所兼任研究員

『大原社会問題研究所雑誌』第383号(1990年10月)



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