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日本労働年鑑 特集版 太平洋戦争下の労働運動
The Labour Year Book of Japan special ed.

第四編 治安維持法と政治運動

第一章 治維法・特高・憲兵による弾圧


第一節 治安維持法と特高警察(つづき)

 また、大審院・控訴院・地方裁判所の検察局には、それぞれ専門の「思想係検事」(「思想実務家」)が配属されていたことは先に図示したとおりであるが、司法省ではさらに、一九三八年六月には「思想研究会」を設けて将来の思想事件に関する対策を講じ、判検事六名を選定し、三九年八月には全国控訴院別に思想ブロック会議を開いて対策をねり、四二年一月には大審院検事局思想部の機構を拡大した。司法省の思想関係執務参考調査資料として、刑事局「思想部報」「思想調査」「思想研究資料」(通巻六三冊、特集九九冊、一九二七〜一九四三年)、「思想資料パンフレット」(通巻一五冊、特集三九冊、一九三八〜一九四三年)、「思想月報」(一〇九冊、一九三四年〜一九四四年)、「思想特報」(一九四一年)、「思想内報」(一九四四年)など確認できるだけでも尨大な量が作られていた(小森恵「帝国憲法下における社会・思想関係資料」、みすず、一九六〇・一一〜六一・四月号)。

 終戦後、全国の特高警察(前出の「陛下の特高警察官」)は廃止されたが、連合軍の指令にもとづいて日本政府が罷免した特高警察官の数は四、九五八名であり、同じく保護観察関係の官吏は九七七名であった(連合軍最高司令部、一九四五・一一・七発表)。一九四六年一月四日には、総司令部の命令にもとづいて公職追放に関する勅令が発布され、八年間以上または一九四一年三月以降四年間以上にわたって特高警察に従事した者でその期間中に警部以上の職を占めたことのある者、また特高警察または思想検挙に従事したあいだに、重要思想刑事事件(一九三七年の労農グループ事件、日本共産党事件、日本労評事件、一九三八年の教授グループ事件、日本共産主義者団事件、一九四一年の国際共産党事件、燈台社事件、一九四二年の日本聖公会事件、きよめ教会事件、東洋宣教会きよめ教会事件、一九四三年の第七日基督再臨団事件)の処理にあたって主要な役割を演じた者(実際の処分は警部以上)が、公職から追放されることになった。

検挙数
 治安維持法による被検挙者総数は八万人に近いと思われるが、一九四三年までに検事局の受理した被疑者数は、「満州事変」以降一七、九二〇人、日中戦争以後六、四一七名(起訴一、六八六名)である(第32表参照。司法省「刑事統計年報」による。一九四四年以降は全国統計がない。また検事局受理人員には、検挙されながら検事の拘留状が発せられずに釈放されたもの、あるいは検察側と無関係に憲兵などによって検挙されたもの――救世軍の弾圧、沢田行政裁判所判事の検挙等――などを含まない。別に内務省警保局編「社会運動の状況」各年版によれば、治維法違犯事件検挙者数(および起訴者数)は一九三七年一三八六(二一〇)、一九三八年五五二(二一二)、一九三九年三二三(一五二)、一九四〇年六三二(一〇一)、一九四一年九三四(一五九)、一九四二年三二九(一四五)であり、また小林五郎「特高警察秘録」によれば、検挙者(および起訴者)は、一九三七年一、二九一(二一〇)、一九三八年五五三(二二一、一九三九年三八九(一五一)、一九四〇年七一九(一〇一)、一九四一年九〇一(一六一)、一九四二年三一七、一九四三年二八四、一九四四年二二〇、一九四五年九月末七九、となっている)。治維法によって起訴されたものの職業別および年齢別人員(前出「社会運動の状況」)は第33表および第34表のとおりであり、また治維法適用通常第一審判決科刑別人員調、(前出「司法統計年報」)は第35表のとおりである。終戦後、連合軍最高司令部の指令にもとづいて一九四五年一〇月二二日までに釈放された政治犯は五〇七名(連合国人・中立国人・白系ロシア人三九名をふくむ)、政治犯であって別に殺人罪、窃盗罪等により釈放されないままのもの三七名、司法省による保護観察を解かれたもの二、〇二六名であった(同年一一月七日、総司令部渉外局発表)。もちろん、取調中にあるいは獄中において死亡した犠牲者もたいへんな数にのぼった(その一部は、解放運動犠牲者合葬追悼会世話入会「解放のいしずえ」に掲載されている)。

 なお、一九四一年一二月九日には、対米英宣戦布告にともなう非常措置として、「内偵中の被疑事件」の検挙二一六名(令状執行一五四)、要視察人の予防検束一五〇名、予防拘禁を予定するもの三〇名(令状執行一三)、計三九六名の非常検束がおこなわれた。

日本労働年鑑 特集版 太平洋戦争下の労働運動
発行 1965年10月30日
編著 法政大学大原社会問題研究所
発行所 労働旬報社
2000年2月22日公開開始


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