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日本労働年鑑 特集版 太平洋戦争下の労働運動
The Labour Year Book of Japan special ed.

第一編 労働者運動

第一章 労働組合の壊滅


第一節 機能の停止

 二・二六事件による戒厳令が解除された直後、一九三六年八月、労農無産団体協議会に属する合法左翼の四労働組合(日本労働組合全国評議会、東京交通労働組合、東京市従業員組合、東京自動車労働組合)は、社会大衆党にたいし、「反ファッショ統一戦線」結成のため、無条件に門戸を開放し、組合員の入党を受けるよう申し入れた。また同年一一月、全評第三回大会は、社大党を中心に無産階級の政治戦線統一、労働組合の全国的統一方針を決定し、反ファッショ人民戦線運動を提唱した。これらの動きは、中日戦争前夜にあつて、軍国主義に抵抗する最後の灯であったかにみえる。他方、一九三七年上半期は、労働争議の件数・参加人員が、ともに第二次世界大戦前の最高を記録したのである。さらに、一九三七年四月の総選挙では、無産政党が一〇一万〇五〇一票を獲得し、この得票数でも、第二次大戦前の最高を記録した(一九三六年には無産政党の得票六六万五四〇七票)。議席数をみると、社大党三七、日本無産党一で、とりわけ社大党は、議会第三党の地位を占めたのである。

 しかし、一九三七年上半期の労働争議が第二次大戦前の最高を記録したとはいえ、労働組合の組織率は五・六%(第二次大戦前の最高は一九三一年の七・九%)にすぎず、当時の労働組合が、国民のあいだで孤立しつつあった事実を示している。共産党も、一九三五年には、すでに中央指導部を破壊されていた。このような情勢のなかで、国家主義へ転向しつつあった社大党と、その指導下にあった全日本労働総同盟は、前述した全評などの提唱に応ぜず、社会民主主義諸派の共同闘争まで拒否することになった。そこで、この運動は、労農無産団体協議会と、それを支えていた全評を拠点としてすすめざるをえず、しかも、せいぜい幹部間の交渉に終始したため、きわめて小さな勢力しか形成できなかった。

 一九三七年三月、労農無産団体協議会は日本無産党を名乗った。ところが、同年一二月、日本無産党や全評は、コミンテルンの方針にもとづき人民戦線運動の展開をくわだてたという口実で、四百余人の幹部や活動家が逮捕され、結社を禁止されたのである。内務省当局は、「正統的形態における活動の余地を失った共産主義運動が、合法左翼・人民戦線の擬装の下にその再起を企図した」(本年鑑、昭和一二年版)と怖れたのであった。この弾圧にたいして、右翼労働組合の大同団結体たる「日本労働組合会議」(一九三二年結成)は、「苟も国家的立場に反するが如き傾向に対しこれが禁圧の必要たることは多言を要しない」と声明した。こうして、戦争に反対し、団結してたたかうための最後の機会は失われた。

 日中戦争の開始にともない、労働者運動も一九三七年七月をさかいにして、極度に低調化し、争議件数も激減した。当時、激化しつつあった都市交通労働者の争議、たとえば神戸市電従業員組合のストライキは、開戦一週間後に壊滅させられた。争議部を争議統制部と改称し、争議最少化の方針をとってきた全総は、同年一〇月の大会で、つぎのような宣言を発した。すなわち、いまや「過去三十年にわたる労働運動の成果を提げて労働報公の誠を致し、国家の重責に任ぜんとする立場」にたち、「非常時局の関頭に於て之が成敗を決するものは産業及労働の合理的組織と生産力の発展を導く労働者の熱情的協力」にほかならないという考え方にもとづいて、同盟罷業の絶滅を期すとしたのである。また、一九三八年の国家総動員法案にたいして賛成演説をおこなった全総の指導者西尾末広は、「国家総力戦に備えるため」、「戦時社会政策の徹底、労働政策の確立」を、とくに要望した。

 一九三七年下半期には、東京交通労働組合も、従来の方針を変更して「産業に協力し、団体協約を結び、以て紛争議の最少化を期す」といい、「挙国態勢」の強化に協力することとなった。また、日本労働組合総聯合も、「労働者が、産業に協力し其の使命の遂行に労資一体にて努力せんことは、日本として、必然の道程であって此の心構への有る処、争議は跡を絶つであらう」と声明した。

 右のとおり、当時の代表的な労働組合が、あいついで、みずから労働争議の制限ないし禁止をおこなったため、労働組合の機能は、ほとんど停止するようになったのである。

日本労働年鑑 特集版 太平洋戦争下の労働運動
発行 1965年10月30日
編著 法政大学大原社会問題研究所
発行所 労働旬報社
2000年2月22日公開開始


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