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日本労働年鑑 第59集 1989年版
The Labour Year Book of Japan 1989

第五部 労働・社会政策

I 労働政策


11 第一一二回国会における労働関係法案

 第一一二回通常国会には、労働省主管のつぎの六つの法案が新たに提出された。すなわち、(1)労働組合法等の一部改正法案、(2)労働安全衛生法の一部改正法案、(3)港湾労働法案、(4)特定不況業種関係労働者の雇用の安定に関する特別措置法の一部改正法案、(5)駐留軍関係離職者等臨時措置法及び国際協定の締結等に伴う漁業離職者に関する臨時措置法の一部改正法案、(6)勤労者財産形成促進法の一部改正法案である。これらのうち、(1)(3)が修正されたが、その他は政府原案どおり成立した。このほか、(7)運輸省主管の船員法が、労働基準法改正に対応して改正されている。このうち、(6)(7)は別項で紹介している。
 これらの法案の国会における審議状況は、第60表のとおりであった。継続審議となっていた職業安定法等の一部改正は審議未了、廃案となった。

労働組合法等の一部改正

 公共企業体の民営化、臨時行政調査会の意見等にともない、中労委および国労委(国営企業労働委員会)の統合が問題となっていたこと、および不当労働行為事件審査の迅速化の必要から、労働省は、関係委員会、労使団体等の意見を聞いたうえ、法案を作成し、第一一二回国会に提案した。その提案理由説明のうち、内容に関する部分は以下のとおりである。

 本法律案は、……中央労働委員会と国営企業労働委員会とを統合するとともに所要の改正を行おうとするものであります。……
 第一は、統合後の中央労働委員会の委員についてであります。
 委員の数は、使用者委員、労働者委員、公益委員各一三人といたしております。

 委員の任命権者は内閣総理大臣とし、公益委員については労使委員の意見を尊重して作成した委員候補者名簿のうちから国会の同意を得て任命することとし、また、使用者委員及び労働者委員については、それぞれ関係労使の推薦に基づいて任命することとし、そのうち各九人については民間企業関係労使の、また、各四人については国営企業関係労使の推薦に基づくことといたしております。

 第二は、国営企業の地方における労使紛争の処理についてであります。

 現行の国営企業労働委員会の地方調停委員会は廃止いたしますが、統合後の中央労働委員会に地方調整委員を置くこととしました。なお、この地方調整委員は、従来中央労働委員会が扱うこととしていた民間企業の事件のうちの一部についても担当することができることといたしております。

 第三は、中央労働委員会における紛争調整手続についてであります。

 使用者委員及び労働者委員についてはそれぞれの推薦母体別に、公益委員については会長の指名により、国営企業担当と一般企業担当を定め、紛争調整の開始決定やあっせん、調停、仲裁等に参与させることといたしております。

 第四は、国営企業の事件に関する不当労働行為の審査等のための審査委員会の設置についてであります。……国営企業の事件の特殊性にかんがみ、重要な事件を除き、国営企業担当の公益委員のみで処理することができるようにいたしております。

 最後に、この法律の施行期日は、委員の任命のための準備行為に関するもの等を除き、昭和六三年一〇月一日といたしております。

 この法案については、公益委員の任命方式等について、労働組合の一部に反対があり、国会の審議でも問題とされ、衆議院の審議にあたり、自民・社会・公明・民社各党の共同提案により、任命方式の変更、その他二点の修正がおこなわれたうえ、成立した。修正の一点は、NTTの民営化に当たり、労調法附則に設けられていた特例調停制度に関して三年後見直すとなっていたことをうけて、廃止したものである。他の一点は、在籍専従期間の延長が実態上不可欠との認識のもとに延長したものである。法律案にたいする修正の要綱は以下のとおりである。

【法律案に対する修正要綱】
一 中央労働委員会の公益委員については、労働大臣が使用者委員及び労働者委員の同意を得て作成した委員候補者名簿のうちから両議院の同意を得て内閣総理大臣が任命することに改めるものとすること。
二 日本電信電話株式会社に係る調停事件についての実情の公表等の特例措置を廃止するものとすること。
三 国営企業の職員が労働組合の役員として専ら従事する期間の上限は、国営企業の運営の実態にかんがみ、……当分の間、七年以下の範囲内で労働協約で定める期間とするものとすること。

労働安全衛生法の一部改正
 別項にのべたとおり、第七次労働災害防止計画と一体をなすものとして労働安全衛生法が改正された。

 法案の準備段階では、中央労働基準審議会の「労働安全衛生法令の整備について」の建議(八八年一月二九日)とそれにもとづく法案要綱の諮問という手続きがふまれたが、全体としては、最近の労働災害、職業病等に関する課題に対応するために、行政当局が重要視した事項がとりあげられている。国会に提出された法律案要綱によると、法案の内容は後記のとおりである。

 参議院社会労働委員会では、七項目の附帯決議があった(産業医の確保、ME化・サービス経済化にともなう労働災害・職業病防止のための関係法令の見直し、監督官の増員など)。衆議院でも同様附帯決議があつた(林業における振動障害の総合対策が加えられたが、他はほぼ同じ内容)。政府案は両院とも全会一致で可決された。

【労働安全衛生法の一部を改正する法律案要綱】

第一 安全衛生管理体制の充実
一 安全衛生推進者等
 事業者は、一定の規模の事業場ごとに、安全衛生推進者等を選任し……なければならないものとすること。
二 衛生委員会等
 衛生委員会及び安全衛生委員会の調査審議事項に、労働者の健康の保持増進に関することを加えるとともに、産業医のうちから事業者が指名した者を、それらの委員会の構成員とするものとすること。
三 安全管理者等に対する(事業者の)能力向上教育(努力義務)

第二 機械等及び化学物質に関する規制の充実
一 機械等の改善命令制度

 労働大臣又は都道府県労働基準局長は、機械等で規格を具備していないもの等を製造し、又は輸入した者に対し、当該機械等の回収又は改善を図ることその他当該機械等が使用されることによる労働災害を防止するため必要な措置を講ずることを命ずることができる……。
二 化学物質の有害性の調査
 ……一定の技術的な基礎を有すると認められる機関において、労働大臣の定める基準に従って行わなければならない……。

第三 健康の保持増進のための措置
一 作業環境測定の結果の評価等
 事業者は、作業環境測定の結果〔を労働大臣の定める基準に従って評価し〕、労働者の健康を保持するため必要があると認められるときは、施設の設置又は整備、健康診断の実施その他の適切な措置を講じなければならないものとすること。
二 作業の管理
 事業者は、労働者の健康に配慮して、労働者の従事する作業を適切に管理するように努めなければならないものとすること。
三 健康教育等
(一)事業者は、労働者に対する健康教育及び健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置を継続的かつ計画的に講ずるように努めなければならないものとすること。
(二)労働者は、事業者が講ずる(一)の措置を利用して、その健康の保持増進に努めるものとすること。
四 指針の公表
 労働大臣は、健康の保持増進のための措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとすること。
五 (労働者の健康の保持増進に関する)国の援助

第四 建設業等における労働災害防止対策の充実
一 計画の届出制度
 〔事前届出を要する〕計画の作成に当たり一定の資格を有する者を参画させなければならない計画に、建設物又は機械等の設置等に係る工事のうち一定の工事の計画を追加するものとすること。

第五 その他
一 技術上の指針
 労働大臣は、労働災害の防止のための技術上の指針を定めるに当たっては、中高年齢者に関して、特に配慮するものとすること。
二 (事業者の)安全衛生教育(努力義務)
三 その他所要の規定の整備を行うものとすること。

第六 附 則
 この法律は、昭和六三年一〇月一日から施行するものとすること。
 ただし、第一の一及び第四の一に関する規定は、昭和六四年四月一日から施行するものとすること。

港湾労働法の全面改正

 港湾労働法は一九六五年に制定されたが、その後、環境条件の大きな変動を生じ、労働の態様から、公的施策が必要とみなされ、総理府の港湾調整審議会で改善案が検討されていた。八七年一〇月一日、常用労働者派遣により需要の変動に対処する制度の創設につき、労働大臣に意見書が提出されたことをきっかけに、労働省で所要の手続きを経て、新法案が作成された。新法提案が必要となった理由および法案内容を、提案理由ではつぎのように説明している(内容の第二については、後記のコメントを参照)。

 港湾労働法は、港湾運送に必要な労働力の確保と港湾労働者の雇用の安定その他福祉の増進を図るため、一定数の日雇港湾労働者を登録し、優先的に雇用せしめるとともに、港湾労働者の雇用の調整を行うことを目的として、昭和四〇年に制定されたものであります。

 その後、昭和四〇年代後半から五〇年代前半にかけて、コンテナ輸送の増大等港湾における輸送革新が著しく進展し、最近におきましても更にその度合が強まってきているところであります。また、これに伴い港湾労働者の常用化が進んできているものの、港湾荷役の波動性に伴う臨時的な労働力需要の充足については、なお企業外の労働力に依存しなければならないという事情があります。

 このような状況の下で、港湾運送に必要な労働力については、企業外に確保する労働力を含め、荷役機械の操作等を行う技能労働力を安定的に確保することが喫緊の課題となっております。

 このため、政府といたしましては、従来から登録日雇港湾労働者に対する訓練の実施等港湾労働者の能力の開発及び向上に努めてきたところであります。しかしながら、今後、企業内に雇用される港湾労働者につきましては、その雇用の改善を図ることにより良質な技能労働力を安定的に確保するための基盤を整備するとともに、その能力の開発及び向上を図るほか、企業外に確保する労働力につきましては、計画的かつ継続的に能力の開発及び向上を図りつつ、港湾荷役の波動性に対応した需給調整を行うために、常用労働者によって確保することを原則とすることが求められているところであります。……

 次にその内容の概要を御説明申し上げます。
 第一に、港湾労働対策を整合的かつ計画的に実施するため、労働大臣は港湾ごとに港湾雇用安定等計画を策定することといたしております。
 第二に、港湾労働者の雇用の改善、能力の開発及び向上等を促進するための施策を明らかにいたしております。

 第三に、港湾労働者の雇用の安定等を図ることを目的として設立された公益法人を港湾労働者雇用安定センターとして指定することとし、これが港湾労働者の雇用の安定に関する調査研究、雇用管理に関する相談援助及び訓練等の業務を行うとともに、企業外に確保する労働者を常用労働者として雇用し、労働者派遣を行う体制を整備することといたしております。

 最後に、この法律は、昭和六四年一月一日から施行することといたしております。……

 国会における審議では、衆議院社会労働委員会で原案に批判的な論議があり、つぎの三点の修正がなされた。

 (1) 事業主は、その常時雇用する労働者以外の者を港湾運送の業務に従事させようとするときは、〔政府案は努力義務としているが〕、港湾労働者雇用安定センターにたいし、労働者の派遣を求めなけれぱならないものとすること
 (2) 港湾労働者の雇用の届出を怠った者等にたいする罰則を設けること
 (3) 法施行後三年を経過した時点で、施行状況を勘案して必要な見直しをおこなうこと

 また、両院の委員会で、ILO一三七号条約(常用化の奨励、雇用または収入の最低限の保障、登録制度の維持などを規定)の批准にむけた条件整備に努めること、センターの運営について関係労組の意が反映されるよう指導すること、登録日雇港湾労働者に必要な経過措置をこうずること、違法雇用の取締りの強化等に努めることなど、同内容の七項目の附帯決議がおこなわれた。

 労働省事務当局による広報によれば、新法下の政策の柱のひとつは、提案理由説明の第二に関するもので、港湾運送事業者の管理の適切化である。すなわち、四条一項につぎの規定をおいている。

 「事業主は、募集、雇入れ及び配置を計画的に行うことその他の港湾労働者の雇用の改善に資する措置を講ずるとともに、港湾運送の業務の遂行に必要な能力を付与するための教育訓練を行うことにより、港湾労働者の安定した雇用の確保その他の港湾労働者の福祉の増進に努めなければならない。」

 これを補足するものとして、国・地方公共団体による援助、事業主による雇用管理者の選任、公共職業安定所長による雇用管理に関する勧告の規定がおかれた。

 他の政策の柱は、荷役の波動性に対処する措置である。その内容は、提案理由説明第三にあり、公益法人である港湾労働者雇用センターに常用雇用される労働者派遣に依存することにしている。なお、事業主が、日雇労働者を港湾運送の業務に従事させる場合は、公共職業安定所の紹介を受けなければならないとしている。

特定不況業種雇用安定法の一部改正

 特定不況業種関係労働者の雇用の安定に関する特別措置法は、石油危機以降、特定産業が構造的危機に当面し雇用問題を生じてきたことから、失業の予防、再就職の促進等のため、もともと、八三年に五年間の期限で「特定不況業種・特定不況地域関係労働者の雇用の安定に関する特別措置法」として、その前身の臨時措置法を引きついで成立した。このうち、地域に関する部分については、地域雇用開発等促進法により対策が強化された(『日本労働年鑑』第58集四四六ページ)。特定不況業種雇用安定法は、八八年六月末までに廃止するものとされていた。しかし、後掲のような認識のもとに労働省は、中央職業安定審議会の審議を経て、同法の一部改正案を国会に提出した。提案理由説明による背景とおもな内容は、以下のとおりである。

 我が国の景気は現在のところ拡大局面にあり、最近の雇用失業情勢は……総じて改善傾向にあります。しかしながら、こうした中でも石炭、造船、非鉄金属等の構造的不況に陥った業種においては、相当程度の雇用調整が行われるなど依然として厳しい状況にあります。また、……内需主導型の産業構造への転換を図ることが国民的課題となっており、その過程において、産業・職業間の労働力需給の不適合の拡大や雇用調整の増加など各種の雇用問題が発生するおそれがあります。

 このため……影響を受けることとなる労働者に関し、失業の予防を中心とした雇用の安定のための施策……が重要な課題となっております。……
 この法律案の内容につきまして、概要を御説明申し上げます。
 第一に、法の廃止期限を七年間延長して、昭和七〇年六月三〇日までとすることとしております。

 第二に、特定不況業種に係る事業所以外の事業所のうち、事業規模の縮小等に伴い相当数の労働者が離職等を余儀なくされるおそれがあると労働大臣が認定した事業所を、特例事業所として本法の失業の予防措置の対象とするとともに、下請事業主の範囲を拡大することとしております。

 第三に、特定不況業種事業主が作成することとされている現行の再就職援助等計画を……雇用維持等計画とするとともに、特例事業所の事業主は、失業の予防のための措置に関する計画を作成し、公共職業安定所長の認定を受けることができることとしております。

 第四に、事業の転換による雇用機会の確保など関係労働者の失業の予防に特に資すると認められる措置を講ずる事業主について、雇用保険法の雇用安定事業として特別の措置を講ずるとともに、事業主が在職者の職業の転換のために必要な教育訓線を円滑に実施できるようにするため、職業訓練の実施について特別の措置を講ずることとしております。

 なお、この法律は、一部の規定を除き、〔一九八八年〕七月一日から施行することとしております。

 以上のうち、第三の意味するところは、旧法で事業規模の縮小等の際に再就職援助計画を作成することになっていたのを、雇用維持等計画に改め、まず、関係労働者が失業を経ることなく転換をはかり、再就職は第二次的な位置づけとしようとするものである。第四の雇用保険法による雇用安定事業のなかで、これを支援しようとしているわけである。第四の措置の具体化は、別項の政省令の改正等によってなされた。

駐留軍関係および漁業離職者に関する臨時措置法の期間延長

 駐留軍関係離職者および漁業離職者については、「駐留軍関係離職者等臨時措置法」および「国際協定の締結等に伴う漁業離職者に関する臨時措置法」により、特別な就職指導の実施、職業転換給付金の支給等の施策がおこなわれてきた。その有効期間が、それぞれ八八年五月、六月までであるが、国際情勢の変化等により、なお離職者が発生すると見込み、それぞれ有効期間を五年間延長することを内容とする両法の一部改正法案が提案され、成立した。

【参考資料】 (1)『労働時報』、(2)『職業安定広報』、(3)『職業能力開発ジャーナル』、(4)『労働基準』、(5)『婦人と年少者』、(6)『週刊労働ニュース』、(7)『衆議院社会労働委員会会議録』、(8)労働省新聞発表資料、(9)『第六次雇用対策基本計画』、(10)その他

日本労働年鑑 第59集
発行 1989年6月26日
編著 法政大学大原社会問題研究所
発行所 労働旬報社
2000年2月22日公開開始


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