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日本労働年鑑 第59集 1989年版
The Labour Year Book of Japan 1989

第二部 経営労務と労使関係

IV 産業動向と合理化の実態


1 鉄鋼業

好況・合理化のメリットを謳歌

 一九八八年の鉄鋼業は、八七年央からの景気回復と大合理化のメリットを享受し、各企業の業績は速いピッチで回復した。すなわち、八五年以来の景気後退と円の対ドル・レートの急騰によって大きな打撃を受け、八七年三月期決算では大手五社で約四〇〇〇億円の経常欠損(資産売却を除く)を出した。しかし、八八年三月期決算では約一〇〇〇億円の実質黒字を計上、さらに同年九月中間決算では経常利益二一〇九億円を計上(中間配当を復活)、翌八九年三月期の通期決算では四六〇〇億円に達する見込みである。

 このような状況の激変は景気の回復と政府の内需拡大政策によって国内需要が急速に持ちなおし、八八年の粗鋼生産量が一億五六七万トン(前年比七・三%増)と三年ぶりに一億トンに達したこと、前年初頭に策定された大合理化計画が好況にもかかわらず実行され、大幅なコスト削減が実現されたことによる。

 他方、一九八八年の輸出は二三四七万トン、前年比八・六%減となったが、日本の輸出圧縮、欧米鉄鋼業の生産能力削減のもとで需要が回復し、地域では東南アジア・中国向け、品目では自動車・家電向けの表面処理鋼板など鋼板類の輸出価格が上昇し、収益回復に寄与した。

 とはいえ、この間、輸入は一一一三万トン(八七年は七四八万トン)、前年比四八・九%増となり、史上最高の輸入量となった。すでに八七年度に対韓国鉄鋼貿易は金額的にはともかく、数量的には日本の入超に転じたが、八八年では内需拡大を反映して韓国・ブラジル・南アフリカ・台湾などから棒鋼・厚中板・熱延コイルなど加工度の低い製品の輸入が著増した。日本の経済成長率が高く、国内鉄鋼メーカーが採算重視の輸出戦略をとりつづければ、今後もこの傾向がつづくとみられる。

合理化と新規事業の展開

 一九八七年初頭、鉄鋼大手五社は、円レートの上昇・新興鉄鋼生産国との競争に対処すべく大合理化計画(大規模製鉄所への生産集中)と四万人余の要員合理化、新規事業への進出など(詳細は『日本労働年鑑』第58集参照)を発表した。その後、八七年、八八年の好況下で設備がフル稼働状態に入ったため、圧延設備など一部設備の休・廃止が繰り延べられたものの、高炉とその関連設備など、基本的にはほぼ計画に沿って合理化が実施されてきた。この合理化の影響は好況によって緩和された場合もあるが、釜石・室蘭・広畑・八幡など製鉄所の比重が高い、いわゆる企業城下町での雇用状況は予想どおり深刻な状況となっている。

 他方、新規事業への進出は、エレクトロニクス、情報通信、新素材、地域開発など多方面にわたり、多数の関連会社が設立されているが、いずれの分野も鉄鋼企業にとって未知であるか、あるいは競合企業が多いかのどちらかで、成功の可能性があるのは、技術的蓄積がある素材関係、システムエンジニアを活用した情報処理事業などにかぎられそうである。したがって、今後、新規事業分野の整理が進められるとみられるが、これを打開する一つの方策として他企業への資本参加・提携がある。八八年七月、新日本製鉄は精密機械メーカーである三協精機製作所の株式を取得して資本参加(一八・一%)し、業務提携の契約を結んだと発表した。この提携について、三協側には安定株主を得るというメリットがあり、新日鉄側には三協のもつ精密機械技術・光学技術を生かして、エレクトロニクス・情報通信・新素材事業の拡充をはかるというメリットがあるとされる。資本参加方式による他事業分野への進出はこれが初めてであり、注目されている。

海外進出と技術協力の新たな展開
 一貫生産を特徴とする装置産業である鉄鋼業では、自動車・電機産業のような製品別・工程別海外進出はおこなわれていない。しかし、従来からみられる製鉄所建設協力に加え、海外進出も進みだした。

 まず、八八年一一月、川崎製鉄がアメリカの有力鉄鋼メーカーであるアームコ社と資本提携を決定、アームコ社が普通鋼部門全体を分離独立させて新設する鉄鋼一貫メーカーに出資し、おもに自動車産業向けの高品質表面処理鋼板の生産をめざして全工程の近代化にとりくむもようである。この川崎製鉄の提携は、アメリカに生産拠点を築いた日本の主要自動車メーカーにたいして自動車用表面処理鋼板を供給することを目的としている。すでに八四年にナショナルスチール社に五〇%の資本参加したNKK(日本鋼管)、インランドスチール社とくんだ新日本製鉄、LTV社(かつてアメリカ鉄鋼業の主要企業であったジョーンズアンドラフリン、リパブリックスチール、ヤングストン・シート・アンド・チューブの三社を傘下に収め、鉄鋼・エネルギー・宇宙・軍事を主事業分野とするコングロマリット企業。鉄鋼業では第二位)と提携した住友金属工業とともに、自動車産業の対米進出に対応した布石である。これで大手四社の対米展開の軌道は敷かれたことになる。

 他方、各国の製鉄所建設への協力も、新たな広がりをみせはじめている。その一つは、インドのバンプール製鉄所(インド鉄鋼公社経営の一貫製鉄所、一九二二年稼働)の全面改修近代化プロジェクトについての大手五社の協力である。総事業費は三〇〇〇億円にのぼるとみられるが、当面、詳細設計調査を円借款(五十数億円)を利用して実施することとなった。

 もう一つは中国である。これは、中国・山東省の石臼所製鉄所建設プロジェクトヘの協力で、大手五社が企業化調査・資金協力の検討をはじめた。計画では、粗鋼年産三百数十万トン、総投資額四〇〜五〇億ドルで、上海・宝山製鉄所と同規模となり、日中合弁を希望されている。とはいえ、投資規模からいって国家プロジェクトによるほかないうえ、経営まで責任を負うことに慎重論もあり、現在のところ流動的である(『日刊工業新聞』八八年一一月一二日付、『朝日新聞』八八年二月六日、四月一五日、五月二〇日、五月二九日、六月一四日、七月三〇日、一一月二三日、八九年一月二〇日付、『日本経済新聞』八八年一一月一八日付、『エコノミスト』八八年一二月一九日号)。

日本労働年鑑 第59集
発行 1989年6月26日
編著 法政大学大原社会問題研究所
発行所 労働旬報社
2000年2月22日公開開始


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