一九八五年を一〇〇とした総務庁統計局の全国消費者物価指数(総合指数)でみると、八六年一〇〇・六、八七年一〇〇・七、八八年一〇一・四であった。対前年上昇率は、八七年は〇・一%増であったが、八八年度は〇・七%増と、やや増加がみられた。景気拡大にもかかわらず、物価上昇率はきわめて低い。
この総合指数の対前年上昇率の動きをみると、八○年に第二次オイルショックの影響で七・七%増と高い数値を示したものの、その後は八四年二・三%増、八五年二・〇%と安定した動きをみせ、八七年は〇・一%増と二九年ぶりの低い上昇率であった。これは、円高と原油安、天候にめぐまれて生鮮食品が下落したことによる。八八年度は、円高と原油等の輸入原材料の価格低下の傾向は前年度と同様ながら、生鮮食品は八六年以前の価格へもどっている。
一〇大費目別による消費者物価の対前年上昇率をみると、他の費目が下落ないしは微増にとどまっているのにたいし、教育は三・四%の上昇率であり、八五年以降一貫して上昇している。これは八七年度にひきつづき、国公私立学校の授業料と補習教育費が値上がりしたことによる。また、私立大学との均衡をはかるうえから、国立大学授業料が八七年度入学者から引き上げられ、同様の措置が八九年度にも実施された。
住居の上昇率は、対前年度二・一%増であった。この数値をみるかぎり、八七年、八八年の地価高騰の家賃へのはね返りは比較的小さかったといえよう。一方、光熱・水道費は、八五年以降一貫して下落傾向にある。円高と原油安の差益還元策として、電気・都市ガス料金が、八六年六月、八七年一月、八八年一月と三度にわたって引き下げられ、また灯油も値下がりしたからである。
食料は、八八年夏季の天候不順で野菜を中心とする生鮮食品が三年ぶりに値上がりしたが、円高による輸入食品および輸入原材料価格の下落、米価の引き下げなどによって、全体として前年比〇・七%上昇のほぼ安定した動きとなった。
交通・通信費は〇・五%下落した。これは、大手民鉄六社の運賃が引き上げられたものの、八八年二月から遠距離電話料金が約一〇%引き下げられ、また、ガソリンも前年にひきつづき下落したことによるものである。つぎに、特殊分類に組み替えた指数で動きをみると、商品は八六〜八八年と三年連続して下落しているが、サービスはこの間、上昇傾向で推移している。これは、サービスが非貿易財に近いため輸入価格低下の効果が小さいこと、また景気や需給要因による価格変化がみられないこと、労働集約的であるため賃金の影響を受けやすいことによろう。
物価の国際比較、東京は割高傾向円高差益還元によって、電気・ガス、食料品などの基礎的費目が安定基調を維持した。しかし、後段の『国民生活白書』のなかでもみられるように、物価への不満は国民の間で依然として大きい。それは、物価上昇率そのものは安定しても、日本の物価水準が国際的にみて割高と感じられるからである。これは、国内と国外の小売価格の差、いわゆる内外価格差の問題である。
経済企画庁は、八七年一〇月、八八年一月に個別品目の小売価格を国際比較する調査を実施した。東京、ニューヨーク、ハンブルグ、ロンドン、パリの世界の五主要都市の小売価格を対象とし、各国通貨で表示した価格を、単純に調査時点での為替レートで円換算したものである(第24表)。調査品目の品質・規格を厳密に均一化することは調査の性格上困難ではあるが、国民の生活実感を裏づけるような概要はここに示されていよう。
価格比をみると、東京は他都市と比較して食料品が高い。他都市並みなのはここ二〇〜三〇年来物価の優等生でありつづけている鶏卵のみで、牛肉などは消費者物価では下落傾向にあるが、依然として他都市の二倍近い価格である。理髪料・パーマネント代・洗濯代などは全般的に東京のほうがやや割安である。比較の容易なガソリンは、日本では値下がりしているとはいえ、東京がもっとも高く、日本からの輸出や欧米で現地生産がおこなわれているカラーテレビも、その価格は日本がもっとも高い。
このように、東京の物価水準が欧米諸都市と比較して割高となっている一要因として、為替レートが円高になっている点を指摘できる。そこで、購売力平価(PPP Purchasing Power Parity=同じ内容、同じ量の消費財・サービスが購入できる各国通貨単位の比較値)を比較してみよう。
八七年の時点でアメリカと比較した場合、為替レートは一ドル一四五円であるが、購売力平価は一ドル二四五円であり、アメリカでは一ドルで日本の二四五円分に相当する財・サービスを購入できることを意味する。換言すれば、国際比較上、日本の賃金水準が為替レートのドル換算によって大幅にアップしても、それを国内で消費するかぎり、消費内容の向上がもたらされているというわけではない。現在の為替レートと購売力平価の差が大きいことによって、日本の物価の割高感は打ち消しがたくなっている。購売力平価そのものは、品目の内容、食生活の習慣、教育・医療保健制度の国別の相違などによって比較の絶対的基準とはなりえないが、他によりよい指標がない現時点では、物価の一つの目安とはなるだろう。
日本労働年鑑 第59集
発行 1989年6月26日
編著 法政大学大原社会問題研究所
発行所 労働旬報社
2000年2月22日公開開始