八八年二月に発行された昭和六三年版『海外労働白書』は、諸外国とくに欧米諸国における外国人労働者問題を考察した「移民・外国人労働者問題の現状と政策」の結語において、「移民・外国人労働者問題は、経済構造の調整、労働市場の情勢、教育・社会保障を含む社会的影響、開発途上国における雇用開発など、国内のみならず、世界的な視点から、その対応を慎重に検討すべきもの」とのべている。また、「外国人労働者受入れの経済社会的影響」という項目では、ヨーロッパ諸国における多くの否定的側面、たとえば「代替可能な国内労働者の賃金水準の低下」「競合する国内労働者の失業発生や低賃金温存の可能性」「特定地域への居住の集中によるスラムの形成」「二世増加にともなう教育問題」「受入国国民による差別や偏見」などを列記している。
日本建設業団体連合会(日建連)と東京商工会議所は、ヨーロッパの経験を学ぶために、八七年一二月と八八年五月にあいついで独自の調査団を派遣している。八八年二月一六日に発表された日建連の「欧州元・下請関係等調査報告」によれば、調査から受けた問題点として以下のような九つの課題を提起している。
(1)わが国建設労働者の賃金低下、(2)底辺労働者は外国人という差別化の進行と建設業のイメージ・ダウン、(3)ブローカーによるヤミ労働の横行、(4)専門技術・技能職への進出によるわが国労働者の失業、(5)外国人労働者の待遇改善の要求と、新たな国際摩擦の可能性、(6)不況時の外国人労働者の高率な失業増大、(7)言語、住宅、教育、社会保障、職業訓練、宗教等権利の保障、(8)滞在年数の長期化・定住化、(9)帰国政策の促進の困難さ
わが国の外国人労働者の受け入れ問題は、質的にも量的にも多くの問題点をはらみ、その圧倒的部分がアジア諸国からの「単純労働者」と呼ばれている不熟練労働者で占められている「不法就労者」問題をどうするのか、単純労働者を受け入れるのか否かをめぐつて多くの議論を生み出すことになった。
先にみた、この間題に関する労働・法務両省の見解は、一方は、明確にその受け入れを拒否し、他方は、「慎重に検討すべき課題」としているとはいえ、ともに否定的・消極的な姿勢を貫いている点では共通している。その背景には、これらの労働力を急増させるアジアの開発途上国における労働力排出要因にたいする認識、受け入れた場合にヨーロッパの経験が示しているような国内労働市場におよぼす影響、社会生活上の影響などにたいする危惧がある。第5表には、単純労働者の受け入れ問題についての意見の対立が要約的に示されている。
第5表 単純労働者の入国問題に関するおもな意見日本労働年鑑 第59集
発行 1989年6月26日
編著 法政大学大原社会問題研究所
発行所 労働旬報社
2000年2月22日公開開始