外国人が日本国内で就労することは,戦後一貫して「出入国管理及び難民認定法」(いわゆる「入管法」)によって原則的に禁止され,限定された範囲で許可されているにすぎない。しかし,八0年代以降の経済の国際化の進展は,「モノ・カネの自由化から,ヒトの自由化」へといわれるように,さまざまな形態での日本国内での外国人労働者の就労を増加させるにいたった。とくに,八五年九月の先進国蔵相会議(G5)以降の急速な円高の進行は,日本とアジア諸国との経済格差・賃金格差を拡大し,これら諸国からの不熟練労働者の日本国内への流入を増大させた。
だが,一般に「単純労働者」といわれる彼らの就労は,現行法のもとでは「非合法」の形態をとらざるをえず,「不法就労」外国人労働者問題として,社会的にクローズ・アップされることになった。その結果,現在の「入管法」体制による人的鎖国状態のもとでの「閉鎖社会」「同質化社会」ともいわれる日本の戦後社会体制が,外国人労働者問題という経済の論理によって揺らぎはじめたということができる。
国内労働市場の開放を意味する外国人労働者問題は,労働力商品の国際的移動であるが,それは「商品」一般の移動とは異なり,基本的人権をそなえた「人間」の移動,さらには人種・言語・国籍・宗教・文化を異にする「人間」の移動である。したがって,外国人労働者の受け入れは,それがしばしば低賃金労働と結合しているために,国内労働者の賃金や労働条件を引き下げることによる国内労働者との競合問題,低賃金部門の温存による産業構造高度化の遅れ,景気後退期における失業の増加をもたらすこと,長期的には,家族の呼び寄せと定住化はスラムを形成し,彼らにたいする国内住民の民族的・社会的な差別や偏見を生み出すこと,さらに,社会保障,二世,三世など子弟の教育問題などの社会的費用負担の増加をもたらす危険性がある。外国人労働者問題とは,労働過程内部の問題にとどまらず,人権・住宅・社会保障・教育・文化をはじめとする,あらゆる社会生活上の問題へと波及せざるをえない。
こうした外国人労働者の本来的な性格とそれにともなう問題の複雑性は,受け入れのあり方をめぐって,政府の関係機関をはじめ,労働組合・支援団体などのさまざまな政策や提言,およびそれらのちがいを生み出している。
外国人労働者問題は,日本の国際化のあり方を問う問題でもある。それがはらむ問題の多様性・複雑性からして,今後もなお多くの動きが生ずるものと思われるが,ここでは,一九八七,八八年を中心にして,日本における外国人労働者問題の動向を,できるだけ客観的に整理することにしたい。
日本労働年鑑 第59集
発行 1989年6月26日
編著 法政大学大原社会問題研究所
発行所 労働旬報社
2000年2月22日公開開始