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日本労働年鑑 第57集 1987年版
The Labour Year Book of Japan 1987

第三部 労働組合の組織と運動

IV 権利闘争


3 最高裁労働判例の動向

 今期(一九八五年七月一日〜八六年一二月三一日)において最高裁が言い渡した労働関係事件の判決の主要なものを日時順にあげると、(1)エヌ・ビー・シー工業事件(三小八五・七・一六)、(2)明輝製作所事件(二小八五・七・一九)、(3)斉生会中央病院事件(三小八五・七・一九)、(4)西日本アルミニウム工業事件(二小八五・七・一九)、(5)全運輸近畿陸運事件(二小八五・一一・八)、(6)京都新聞社事件(一小八五・一一・二八)、(7)大阪職安所長事件(一小八五・一二・五)、(8)旭ダイヤモンド工業事件(二小八五・一二・一三)、(9)紅屋商事事件(二小八六・一・二四)、(10)電電公社帯広郵便局事件(一小八六・三・一三)、(11)福岡県教委事件(一小八六・三・一三)、(12)第一学習社事件(一小八六・三・一三)、(13)山口放送事件(三小八六・四・一八)、(14)東洋シート事件(一小八六・五・二九)、(15)旭ダイヤモンド工業事件(三小八六・六・一〇)、(16)東亜・ペイント事件(二小八六・七・一四)、(17)岩手女子高校事件(二小八六・七・一四)、(18)日本鋼管鶴見造船所事件(三小八六・七・一五)、(19)小樽労基署事件(一小八六・一〇・二)、(20)苫小牧労基署事件(三小八六・一〇・七)、(21)大阪市教委事件(一小八六・一〇・一六)、(22)大阪府教委事件(一小八六・一〇・二三)などがある。

 各判例のうち重要と思われるものについて、事案の概要と判決の要旨を紹介し、若干のコメントを付することとする。
【エヌ・ビー・シー工業事件(最三小八五・七・一六労働判例四五五号)】
 本件は精皆勤手当の支給に際し、生理休暇日数を欠勤日数に算入し、各手当を減額したことにつき、減額分の賃金支払を求めたものである。
 一審(東京地八王子支判七四・五・二七)、二審(東京高判八〇・三・一九)ともに原告が敗訴し、本判決もこれを維持した。

 判決は具体的事実関係を詳細に認定したうえ、本件の事実関係のもとでは生理休暇日数を欠勤扱いとすることを肯定しているが、生理休暇の権利性という観点からは問題視される判決である。

〔判決要旨〕

 労働基準法一二条三項及び同法三九条五項によると、生理休暇は、同法六五条所定の産前産後の休業と異なり、平均賃金の計算や年次有給休暇の基礎となる出勤日の算定について特別の扱いを受けるものとはされておらず、これらの規定に徴すると、同法六七条は、使用者に対し生理休暇取得日を出勤扱いにすることまでも義務づけるものではなく、これを出勤扱いにするか欠勤扱いにするかは原則として労使間の合意に委ねられているものと解することができる。

 ところで、使用者が、労働協約又は労働者との合意により、労働者が生理休暇を取得しそれが欠勤扱いとされることによって何らかの形で経済的利益を得られない結果となるような措置ないし制度を設けたときには、その内容いかんによっては生理休暇の取得が事実上抑制される場合も起こりうるが、労働基準法六七条の上述のような趣旨に照らすと、このような措置ないし制度は、その趣旨、目的、労働者が失う経済的利益の程度、生理休暇の取得に対する事実上の抑止力の強弱等諸般の事情を総合して、生理休暇の取得を著しく困難とし同法が女子労働者の保護を目的として生理休暇について特に規定を設けた趣旨を失わせるものと認められるのでない限り、これを同条に違反するものとすることはできないというべきである。

【紅屋商事事件(最二小八六・一・二四労働判例四六七号)】

 本件は、賞与の支給額算出に際しての人事考課率について、併存する二組合の組合員の平均考課率に著しい格差が存したことを不当労働行為として救済申立をおこなったものであり、同一の平均考課率をもって賞与を支払うことを命じた青森地労委命令(七六・七・二四、七六・一二・一八)、中労委命令(七七・一二・二一)の適否が争われた。

 一審(東京地判七九・三・一五)、二審(東京高判七九・一二・一九)とも労委命令を維持し、本判決もこれを維持した。

 賃金や昇格等の組合間差別事件において両組合の各平均支給率を比較するいわゆる「大量観察方式」による不当労働行為認定が労働委員会の実務において定着をみているが、本判決はその判示内容からみて、「大量観察方式」を肯定したものと評価でき、その意義は大きいと思われる。

〔判決要旨〕

 まず、参加人組合結成前の昭和四九年度夏季及び冬季の各賞与における人事考課率の査定においては、後に参加人組合員となった者らの平均考課率とゼンセン紅屋労組員となった者らの平均考課率との間にほとんど差異がなかったのであり、このことは、これらの者の勤務成績等を全体として比較した場合その間に隔りがなかったことを示すものというべきところ、その後参加人組合が結成されこれが公然化した後において、参加人組合員らの勤務成績等がゼンセン紅屋労組員又は非組合員のそれと比較して劣悪になったことを窺わせる事情はなく、したがって、本件各賞与における人事考課率の査定時においても、参加人組合員らとそれ以外の者らとの勤務成績等に全体として差異がなかったものというべきである。他方、本件各賞与における人事考課率を参加人組合員らとそれ以外の者らとの間で比較してみると、その間に全休として顕著な差異を生じていることが明らかである。そして、これらの事実に参加人組合が結成されこれが公然化した後上告会社において同組合を嫌悪し同組合員をゼンセン紅屋労組員と差別する行動を繰り返していること、昭和五〇年度夏季賞与の考課期間の後に参加人組合を脱退して非組合員又はゼンセン紅屋労組員となった者らの同年度冬季賞与における平均人事考課率がにわかに上昇し従前からゼンセン紅屋労組員又は非組合員であった者らの平均人事考課率に近似する数値となっていることなどの前記認定事実を合わせ考えると、参加人組合員らとそれ以外の者らとの間に生じている右のような差異は、上告会社において参加人組合員らの人事考課率をその組合所属を理由として低く査定した結果生じたものとみるほかなく、また、右の査定において、上告会社が個々の参加人組合員の組合内における地位や活動状況等に着目しこれを考課率に反映させたというような事情は全く窺うことができないのであるから、本件の事実関係の下においては、上告会社は、本件各賞与における参加人組合員の人事考課率を査定するに当たり、各組合員について、参加人組合に所属していることを理由として、昭和五〇年度夏季賞与については参加人組合員全体の平均人事考課率とゼンセン紅屋労組員全体の平均人事考課率の差に相応する率だけ、同年度冬季賞与については参加人組合員全体の平均人事考課率とゼンセン紅屋労組合員及び非組合員全体の平均人事考課率の差に相応する率だけ、それぞれ低く査定したものとみられてもやむを得ないところである。以上によれば、本件においては、上告会社により、個個の参加人組合員に対し賞与の人事考課率の査定において組合所属を理由とする不利益取扱いがなされるとともに、組合間における右の差別的取扱いにより参加人組合の弱体化を図る行為がされたものとして、労働組合法七条一号及び三号の不当労働行為の成立を肯認することができる。

日本労働年鑑 第57集 1987年版
発行 1987年6月25日
編著 法政大学大原社会問題研究所
発行所 労働旬報社
2001年8月1日公開開始


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