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日本労働年鑑 第57集 1987年版
The Labour Year Book of Japan 1987

第二部 経営労務と労使関係

IV 産業合理化と労働組合


1 産業動向と合理化

3 電子・電機産業
電子・電機産業の概況

電子・電機産業では八五年から、前年までの高成長に急ブレーキがかかった。しかも、八五年後半からの円高により、低成長から停滞へと局面は大きく転換し、各社の経常利益はいずれも大幅に低下した。

 家電業界は内需が比較的堅調であるが輸出の落ち込みがそれを大きく上回っているので低迷状況にある。内需では大型カラーテレビがヒット商品となり、ビデオディスクやCDコンポなどのAV(オーディオ・ビジュアル)関連製品や電子レンジも好調である。VTRも売り上げを伸ばしている。他方、輸出は、カラーテレビを中心とした対中国輸出が同国の外貨事情の悪化により、八五年後半から激減している。また、円高による輸出採算の悪化に加え、アジアNICsの追い上げによる価格低下が避けられない。こうして家電業界全体としては企業収支はきわめて悪化し、八六年九月の大手各社の中間決算では、いずれも前年比五〇〜八〇%の減益となっており、通期でも二年連続大幅減益となった。

 情報・通信機器業界は内需は順調だが、輸出が円高により若干落ち込んでいる。電子・電機業界のなかでは相対的に好調な分野である。内需では都市銀行の第三次オンライン化等により汎用大型コンピュータの伸びが著しい。これに向けてIBMが超大型機「三〇九〇」を市場に投入したため、これにたいして日立、日電、富士通の国産各社は対抗機種をいち早く発表して積極的に売り込んだ。ミニコン、オフコン、パソコンも、変動はあるものの、OA化、FA化の波にのって比較的好調である。また、これに連動して周辺機器が順調に伸びた。通信機器でも、ボタン電話、パーソナル・ユース向けファクシミリも好調に推移している。通信機器の輸出では円高のなかでも、コンピュータが好調を維持しているものの、有線電話機などで韓国製の低価格品との競合がアメリカ市場で強まるなど、八五年後半には、不振におちいっている。

 電子部品業界は、八四年までもっとも好調な分野であり、電子・電機産業をリードしてきたが、八五年からは一転して代表的な不況分野となつた。その最大の理由は半導体不況である。アメリカの半導体不況は業界史上最大級のものであり、このためアメリカ向け輸出が激減している。しかも八五年から八六年半ばまで日米半導体摩擦が激化しており、八六年七月三一日の日米半導体交渉の決着は日本の対米輸出に制限をあたえるものとなった。国内市場向けでも不振におちいり、価格は暴落の一途をたどることになった。また、半導体以外の電子部品分野においても、完成品メーカーからの値下げ要求の強化、アジアNICsからの部品調達の増大で、いっそうのコストダウンを強いられている。

機械化・自動化と合理化
不況のなかでも機械化・自動化はひきつづき進められている。

日刊工業新聞社は家電、音響、OA、コンピュータ、通信、計測などの業界にたいして「電子部品自動挿入・装着機の市場動向調査」をおこなったが、その結果が八五年一二月初めに明らかになった。それによると導入済み企業は五三・二%と過半数を超え、未導入企業の約三〇%が二年以内の導入を計画している。電子部品実装の自動化はエレクトロニクス・関連業界の大きな流れとなっているのである。

 FA化、FMSもひきつづき各社で旺盛に進展しているが、その例をあげておく。三菱電機西条工場は、世界でもっとも自動化の進んでいる半導体工場であるが、八六年の夏、一メガビットDRAMの量産に向けて、生産はすべて自動化し、装置の操作もロボット、搬送も無人搬送車と、その意味で無人化工程を完成した。ただし、各工程ごとに抜き取り検査を実施しており、女子労働者がCRTで調べており、ここだけは自動化が達成されていない。このように自動化が極限まで進んでおり、生産現場に人の数は少ないが、諸装置がひんぱんに止まり、メインテナンス要員がかなり必要である。従業員数は、三交代制で勤務し、六五〇人であるが「他工場でこれだけのことをするには二〇〇〇人ぐらい必要。それをこれだけの人数でおこなっている」(『日本工業新聞』八六年七月七日付)といわれており、人員合理化が進んでいる。

 静岡日本電気は、韓国や台湾の追い上げに対応できるように、オフィス向けボタン電話機、ポケットベル、伝送単体機器などの自動組み立てラインを八六年三月完成し、稼働させた。このラインはロボットによる組み立てを容易にするため、ネジなどの部品点数を大幅に減らし、部品をもっぱら上から組み込む一方向組み立て方式を導入した。さらに、今後、自動倉庫とつなげて物流を自動化し、人手に頼っている検査工程も各種センサーを導入して自動化し、八七年度末までに完全無人化工場を完成する予定である(『日経産業新聞』八六年三月二五日付)。この自動化によりメインテナン要員以外の従業員の合理化がなされることになる。

ソフト労働者の技術革新への意識

 電機労連の調査(八五年二、三月実施、同年一一月二日発表、回答者二七二五人)によれば、ソフト労働者はハイテク社会の花形職業といわれるが、その労働実態は過酷なものである。深夜、休日にわたる長時間勤務を強いられ、超過労働時間は、男子のーヵ月の平均は四五・七時間で、四〇時間以上が六割以上に達している。派遣勤務者のうち三分の一は採用時に派遣があることを知らされていない。技術者不足の指摘も六一%あり、仕事上の不満のなかで人手不足がトップになっている。将来の不安では四一・二%が「技術変化についていけなくなる」でもっとも多く、二七%が「仕事がきつく肉体的、精神的についていけなくなる」で第二位である。教育訓練を受ける機会のある人は四割にすぎず、受けた人も六割が不満を訴えている。このため、「仕事にすぐ役立つ訓練」や「まとまった期間の集中的訓練」を要求する声が強くだされている。

 なお、これに関連して企業内の職訓短大の設置の動きがある。八五年一〇月、職業能力開発促進法が施行され、企業内で「職訓短大」設置ができるようになったが、その初めてのケースとして、八六年一月一四日、日本電気は同大学校の設置申請を神奈川県知事に提出した。次いで松下電器も申請し、いずれも八七年四月発足をめざしている。

雇用・就業構造の再編

 電子・電機産業では雇用・就業構造の再編が他産業にくらべても急速に進展している。これまでと同様に、機械化や生産調整に応じて配転が実施されていることはいうまでもない。近年、とくにめだっているのは親会社の基幹工程や技術管理の部門に系列子会社の労働者や派遣労働者が大量に組み込まれていることである。たとえば日立では、多くのFA化された工場では、旧機種や生産の安定した機種の生産ラインを、一部の労働者を含めて系列会社へ業務移管し、そこで生産された製品は、完成外注品として日立が買い取り、日立マークをつけて市販される。また、本工場内の組み立て作業などの一部の工程が下請化され、ラインのなかに別会社がつくられ、その管理者は日立からの転属者、労働者はパートが多い。本工場の技術、管理、製造などほとんどの部門には、系列子会社などから数百人単位で大量の労働者が各職場に派遣されている。コンピュータ、通信、家電部門において、この五年間で正規従業員数は一万五九三五人から一万八七四九人への一七・七%の増加にたいし、系列子会社の従業員数は八七一九人から一万七三六七人へと九九・三%も増加し、全体のなかで系列子会社従業員数の割合は三五・四%から四八・一%に増えている。また、日本電気三田事業場は、かつて電話機、交換機などの主力工場だったが、地方日電への生産機種の移管、府中、我孫子工場への現業部門の移動にともない、現在ではソフト中心の職場となり、その従業員構成は、日電従業員三一二六人(四一・二%)、ソフト系列子会社五二五人(六・九%)、派遣会社二四四四人(三二・二%)、関連会社一四九六人(一九・七%)となっており、正規以外の従業員が多数を占めている(以上の事例は、島紀男「独占大企業の職場の実態(上)」『経済』八六年七月号による)。

円高と雇用削減

 電機産業は他産業にくらべて活発な海外進出をおこなっており、電機労連の「海外進出状況調査」(八四年調査)によれば、同労連傘下組合のある七〇企業は七四四件の海外現地法人を設立しており、そのうち製造業は三三四件にのぼっている。その現地従業員数は一九万八一〇八人(国内従業員数の約一〇%)に達している。これを電機産業全体で推計すると、現地雇用数は二六万七四四六人で国内雇用へのマイナス効果は二一万一五九六人である。ただ、現地企業への日本人派遣など国内雇用へのプラス効果一一万六五八八人もあるので、国内雇用減少は九万五〇〇八人である。こうした海外生産と海外雇用の拡大傾向は、急激な円高により加速され、それが国内雇用減に直結するケースも生まれている。

 山水電気は八六年五月に希望退職者を募集したが、六月には全従業員の四分の一の三八〇人が応募した。福島県と静岡県の二工場を中心に人員削減が実施されたわけであるが、その一方で八月から台湾で低価格のミニコンポの生産をはじめた(『日経産業新聞』八六年一○月六日付)。ソニー系のソーワの子会社、新潟ソーワは、操業一〇年を迎えた八六年一〇月二〇日、全面閉鎖された。円高でテレビ生産が割高となり、海外生産に移すことになったのである。これにより従業員二一三人が解雇されたが、再就職できたのは半数であり、ゴルフ場や段ボール会社など畑違いの仕事で給料も二〜三割ダウンしている。中高齢者は再就職も困難である。

 円高による輸出減が雇用削減をもたらすケースもある。オーディオのアイワは、八六年七月全従業員の二割強の七〇〇人の希望退職者を募集し、三割弱の九〇〇人を削減した。アイワ岩手工場では、円高で製品がさばけないとして、三〇〇人(全従業員八六〇人)の希望退職者を募集した。これに二九〇人が応じたが、そのうち二〇〇人余は、近隣の弱電企業やパン工場、生コン会社などに再就職した。岩手工場は、一一月一六日 従業員五七〇人の新会社「岩手アイワ」として再建された(ソーワとアイワの二事例は「朝日新聞」八六年一二月一一日付夕刊)。

 このほか、重電メーカー東洋電機製造は、八六年一二月初めに約五〇人の希望退職者を募集し、八七年五月までに自然退職者、出向などを含めて、全従業員の約九%の一五〇人を削減する。

 円高不況は深刻度を増しているが、このなかで八六年一一月一九日に、八七年初めから一二年ぶりに電機の大手会社が、一時帰休を実施することが報道された。日立製作所、三菱電機、富士電機は、重電、家電、半導体の全事業部門を対象に従業員の約一割の一時帰休を実施する予定である。具体的な実施方法は、指名制、ワークシェアリング(仕事の分割・分担−従業員が交代で月に数日ずつ休む)方式などを考慮しており、政府の雇用調整助成金を活用する。電子・電機産業の雇用合理化は新たな段階に突入しようとしているのである。

日本労働年鑑 第57集 1987年版
発行 1987年6月25日
編著 法政大学大原社会問題研究所
発行所 労働旬報社
2001年8月1日公開開始


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