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日本労働年鑑 第57集 1987年版
The Labour Year Book of Japan 1987

特集 国鉄分割・民営化問題

I 分割・民営化論の台頭から具体案の作成まで


2 臨調「基本答申」の特徴

分割・民営化方針の確認

 臨調の第四部会は八二年初めから分割・民営化で固まったとの報道もあったが、第四部会としては四月一七日に国鉄の分割・民営化の方針を確認し、四月二〇日には素案をまとめた。五月一七日に電電公社・専売公社の民営化、国鉄の分割・民営化を内容とする部会報告を提出した。第四部会報告の内容は、八二年七月三〇日の臨調基本答申(第三次答申)にすべて盛りこまれたが、基本答申ではいくつかの手直しがなされた。それは、分割案を具体化し「七ブロック程度」としたこと、政府側の意向をうけて国鉄再建監理委員会を「行政委員会」(国家行政組織法三条)とせず、単なる「付属機関」(同八条)としたことなどである。

 国鉄に関連する基本答申の内容をみると、まず最初に公社制度の理念と現状の問題点を指摘し、つぎのように述べる。

 「公共性と企業性の調和という理念に基づき設置された」公社は、現状をみると「企業性が発揮されているとはいえず、その結果、果たすべき公共性さえ損なわれがちであり」、公社制度への疑問が生じているとし、制度改革の必要性を説き、つぎのような公社制度の問題点をあげる。第一に、「公社幹部の経営に対する姿勢について」、国会や政府による外部干渉が経営責任を不明確にし、安易感を生み、労使関係でも当事者能力が不十分なため、賃金を除く「他の勤務条件で安易な妥協」をする。第二に、労働者の側にも倒産の恐れがない「公社制度の上に安住し、違法な闘争をおこなうなど、公社職員としての自覚、義務感」に欠けがちである。第三に、「公社に対する国民の過大な期待」が「公社の経営に負担をかけ、効率性を阻害する要因となっている」。以上の問題を解決するためには、「単なる現行制度の手直しでなく、公社制度そのものの抜本的改革を行い、民営ないしそれに近い経営形態に改める必要がある」という基本的立場を明確にして国鉄問題の分析に進む。

 基本答申では、国鉄の分割・民営化の理由をつぎのようにいう。国鉄を民営化する理由として、第一に現在の国鉄にとってもっとも必要な、(1)経営者の経営責任の自覚と経営権限の確保によって、困難な事態の打開に立ち向かうこと、(2)職場規律を確立し、生産性を高めること、(3)「政治や地域住民の過大な要求等外部の介入を排除すること」などの課題を実現するのにもっとも適した形態であること、第二に「幅広く事業の拡大を図ることによって、採算性の向上に寄与することができる」経営形態であることをあげる。つぎに分割化の理由として、第一に現在の巨大組織では、管理の限界を超えていること、第二に国鉄の管理体制は地域ごとの実態とかけ離れた「全国画一的な運営に陥りがちであること」、第三に「地元の責任と意欲を喚起すること」が分割で可能となる、という三点を示した。

新経営形態移行までの緊急対策
 以上の理由で国鉄の分割・民営化を提言した基本答申は、加えて新形態移行までの間の緊急対策としてつぎのような措置をあげた。

(ア)職場規律の確立を図るため、職場におけるヤミ協定および悪慣行(ヤミ休暇、休憩時間の増付与、労働実態のともなわない手当、ヤミ専従、管理者の下位職代務等)は全面的に是正し、現場協議制度は本来の趣旨にのっとった制度に改める。また、違法行為に対しての厳正な処分、昇給昇格管理の厳正な運用、職務専念義務の徹底等人事管理の強化を図る。

(イ)新規採用を原則として停止する。また、業務運営全般について、私鉄並みの生産性をめざすこととし、そのため、作業方式、夜間勤務体制、業務の部外委託、職務分担のあり方等の抜本的な見直しをおこない、実労働時間の改善を図るとともに、配置転換を促進し、各現場の要員数を徹底的に合理化する。

(ウ)設備投資は、安全確保のための投資を除き原則として停止する。なお、整備新幹線計画は、当面見合わせる。
(エ)貨物営業は、鉄道特性を発揮できる拠点間直行輸送を中心とし、業務のあり方を抜本的に再検討し、固有経費における収支の均衡を図る。

(オ)地方交通線の整理を促進するため、遅延している特定地方交通線対策協議会の早期開催を図るとともに、残余の対象路線についても昭和六〇年度までに結果が得られるよう早急に選定をおこなう。なお、対策が進まない場合、たとえば特定地方交通線対策協議会開始日の義務付け、協議期間の短縮等の改革をおこなう。また、上記以外の特定地方交通線を含む地方交通線についても、私鉄への譲渡、第三セクター化、民営化等を積極的におこなう。

(カ)分割会社との関係を配慮しつつ、自動車、工場および病院の分離等を推進する。

(キ)永年勤続乗車証、精勤乗車証および家族割引乗車証を廃止する。その他職員にかかわる乗車証については、たとえば通勤区間に限定するなど業務上の必要のためのみに使用されるよう改める。また、国鉄以外の者に対して発行されているすぺての乗車証についても廃止する。なお、他の交通機関との間におこなわれている相互無料乗車の慣行を是正する。

(ク)期末手当、業績手当等の抑制について検討する。

(ケ)国鉄運賃については、当該地域における私鉄運賃、線区別原価等をも十分配慮して定める。また、安易な運賃改定はおこなわない。なお、文教政策、社会福祉政策等の観点からの通学定期割引等の運賃上の公共負担については、国として所要の措置を講ずる。

(コ)兼職議員については、今後、認めないこととする。
(サ) 資産処分の一層の促進を図るとともに、関連事業についても営業料金等の見直しをおこなう等積極的な増収に努める。

 基本答申は、改革の推進体制として国鉄再建関係閣僚会議、国鉄再建監理委員会の設置、改革手順として国鉄緊急事態宣言をおこない、緊急措置事項を決定することなどを通じて新形態に国鉄を移行させる、との方向を示した。

基本答申にたいする政府の対応と各党の見解

 臨調の基本答申を受けて、鈴木首相は「国民が一番関心を寄せているのは国鉄再建。国鉄再建監理委員会法を早急にとりまとめて、最も近い国会に提案し、承認を受けて設置したい。これが国鉄改革と再建へのスタート台と考えたい」と語った。八二年九月二四日の閣議において政府は、基本答申にもとづいて、国鉄の「非常事態宣言」を発し、「国鉄再建関係閣僚会議」の設置を決め、同時に答申にある緊急対策一一項目を一〇項目にまとめて決定した。

 国鉄再建監理委員会設置法案は、一一月一九日の閣議で決定され、臨時国会提出を決めた。鈴木首相のあとをうけた中曽根内閣は、国鉄再建の緊急対策を確実に実施するため、中曽根首相を本部長とする「国鉄再建推進本部」を一二月七日に設置した。かくして、臨調答申にもとづく国鉄改革の本格的実施は中曽根内閣の手によって実行されることとなった。

 臨調の基本答申が七月三〇日に提出されたが、各党の見解はつぎのような声明や談話で明らかである。

 自民党(二階堂幹事長)は、行政の改革と財政の再建は、今日のわが国の最大の政治課題、国民の声であり、その推進はわが党の基本政策だ。わが党は、あらゆる困難を克服して、行政改革の推進、財政の再建に全力をあげる決意だ、との談話を発表した。

 社会党の党見解では、答申は社会党のめざす行財政改革と一部で一致するが重要な点では意見を異にするし、国民の合意を得られないものが多い、三公社の民営・分割は利用者に利益をもたらさず反対だ、と述べた。

 公明党は、第二次臨調の基本答申を尊重し実行することが重要。答申の基本的方向性はおおむね妥当と評価する談話を出した。
 民社党の大内政審会長は、答申を基本的に評価するが、国鉄再建監理委員会は全面的権限をもつ強力な機関にすべきだとの見解を述べた。

 共産党は、答申は行政改革とは名ばかりで、国の政策・国家機構を財界の戦略に基づき一挙に切り替えようとする「ファッショ行革」の正体を示すもので、断固として反対していくとの市川臨調対策委員長談話を発表した。

 全体的にいえば、中道三党は基本答申を評価しているが、社共は反対の立場を明らかにしたといえる。

日本労働年鑑 第57集 1987年版
発行 1987年6月25日
編著 法政大学大原社会問題研究所
発行所 労働旬報社
2001年8月1日公開開始


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