一九八四年一一月一日、第二次中曽根改造内閣が発足し、新自由クラブの山口敏夫氏が労働大臣に就任した。山口労相は、慣例に従い、八五年二月二一日、衆議院社会労働委員会で、後記の所信表明をおこなった。内容は、国会で審議される予定の法案および、予算に盛り込まれた主要施策をまとめたものであり、高齢化や最近の構造変化を意識して編成された九項目よりなっている。同様の所信表明が、参議院社会労働委員会でも同日におこなわれた。
前年度のものと比較して、労働政策の基本的編成に変化はみられないが、景気回復の持続により不況業種・地域対策がやや比重をおとし、代わって労働者派遣事業の規制や職業能力開発など立法課題がとりあげられている。
(前略)人生八十年時代の到来と新たな技術革新の急速な進展という未曽有の変化の中で、勤労者の雇用を確保し、その福祉の向上を図ることは、国民経済と国民生活の安定のための基本的な課題であります。 私は、このような見地から、二十一世紀を展望しつつ、積極的かつ効率的な労働行政を進めてまいる所存でございます。
第一は、高齢化社会の進展に対応した対策であります。
高年齢者の働く喜び、生きがいを確保し、活力ある経済社会の実現を図るためには、高年齢者の雇用就業機会を確保することが重要な政策課題であります。このため、「六十歳定年の一般化」の早期実現に向けて一層の努力を傾注するとともに、今後高齢化の波が移ると見込まれる六十歳台前半層に対する雇用就業対策を積極的に推進してまいります。
これとあわせて、中長期的な視点に立ち高年齢者の雇用就業対策の基本的なあり方を見直すこととし、定年の法制化問題に関する審議が行われている雇用審議会等における論議を踏まえつつ、法的整備を含め、人生八十年時代に的確に対応する施策の樹立に努めてまいります。
第二は、経済社会の変化に対応した能力開発対策であります。
技術革新の進展、高齢化社会の到来など経済社会の変化が進む中で、勤労者生活の安定充実を図るためには、職業生活の全期間にわたる職業能力の開発向上を積極的に進めることが必要であります。このため、職業能力開発体制を整備し、事業主の行う自主的な職業能力開発をさらに促進するとともに、公共職業訓練のより効果的な実施を図るための法律案を今国会に提出いたしましたので、よろしく御審議のほどお願い申し上げます。
第三は、産業構造・就業構造の変化に対応した対策であります。
産業構造・就業構造の変化に伴い、労働市場の構造変化が進展しております。このため、失業の予防を中心とした積極的な雇用対策を展開するとともに、労働力需給のミスマッチが拡大することのないよう労働力需給調整システムの整備を図ることとしております。特に、労働者派遣事業について、労働力需給の迅速かつ的確な結合を促進するとともに、派遣労働者の保護と雇用の安定を図るための法的整備を行うこととしており、そのため今国会に関係法案を提出する所存でありますので、よろしく御審議のほどお願い申し上げます。
また、ME化を中心とする技術革新への円滑な適応を進めるための職業能力開発対策、労働安全衛生対策、労使等のコンセンサスの形成を推進するとともに、ME化の進展が高年齢者の職域拡大等に積極的に寄与することができるよう研究開発を計画的に進めてまいります。
第四は、労働時間等労働条件の向上と勤労者福祉の増進のための対策であります。
勤労者の健康を確保し、経済社会及び企業の活力の維持増進を図るために、また、国際化への対応や長期的に見た雇用の維持確保の面からも、労働時間の短縮を進めることがぜひとも必要であります。このため、新たに「労働時間短縮の展望と指針」を策定し、労使はもとより各界各層の国民の御理解を得ながら、総合的に労働時間対策を進めることとし、特に、ゴールデンウイークにおける連続休暇の普及に全力を挙げて取り組んでまいります。
また、労働災害の防止に万全を期すとともに、勤労者財産形成促進制度の普及、勤労青少年の福祉増進対策、パート労働対策等の推進を図るほか、サービス経済化の進展等に対応した労働保護法制のあり方の検討等を進めてまいります。
第五は、雇用における男女の均等な機会及び待遇の確保であります。近年著しく増大しつつある女子雇用者が職業生活において、その能力を有効に発揮できるようにするため、また、国連の女子差別撤廃条約を批准するため、雇用における男女の均等な機会と待遇の平等を確保するための法制の整備が必要であります。いわゆる男女雇用機会均等法案については、昨年五月、第百一回国会に提出し、現在継統審査となっておりますが、今国会において、引き続き御審議の上、その早期成立についてよろしくお願い申し上げます。
第六は、障害者等特別の配慮を必要とする人々に対する施策であります。
障害者の方々の社会的自立を促進するため、障害者の雇用機会の確保に努めるとともに、重度障害者、精神薄弱者に重点を置いた施策を進めてまいります。
第七は、労使の相互理解と信頼の強化であります。
我が国の安定した労使関係は、社会の安定と経済の繁栄に大きく貢献しており、国際的にも高く評価されております。現在、労使関係をめぐる環境は大きく変わりつつありますが、そのような変化の時期においては、これまで形成されてきた良好な労使関係を維持発展させることが肝要であります。今後とも、労使の率直な対話を一層促進し、その相互理解と信頼を強化するための環境づくりに努めてまいります。
第八は、国際化時代にふさわしい労働外交の積極的推進であります。
近年、各国間の相互依存関係の深まりと我が国の国際的地位の向上に伴い、労働外交の分野においても、積極的な活動が要請されております。特に、我が国の労働事情に対する国際的理解を促進するため、欧米諸国に対する三者構成ミッションを派遣する等国際交流を積極的に進めるとともに、アジア地域等の開発途上国に対し、職業訓練を中心とする広範な「人づくり協力」を推進してまいります。
最後に、行政改革の着実な推進であります。
先般閣議決定された行政改革の推進に関する当面の実施方針に沿って、労働省としても、着実に行政改革を進めてまいることとしております。その一環として、都道府県労働局の設置と地方事務官問題の解決を図るための法律案を第百一回国会に引き続き今国会に再提出する所存でありますので、よろしく御審議をお願い申し上げます。
以上、労働行政について私の所信の一端を申し述べましたが、これらはいずれも国民生活にとって重要な問題であり、国民が労働行政に寄せる期待には極めて大きなものがございます。特に、労働力人口は、二十一世紀に向け、現在の約六千万人から六千五百万人へと約五百万人増加し、かつ、その八割近くが高年齢者であると見込まれており、このような中で、その雇用機会を確保し、活力のある豊かな経済社会を実現していくことは、国政の最重要課題であり、政府全体として取り組まなければならない問題であります。私は、社会政策や産業政策と密接な連携をとりながら、地方自治体とも緊密な協力関係を保ちつつ、労働行政を進め、国民の期待にこたえてまいる所存でございます。(後略)
日本労働年鑑 第56集 1986年版
発行 1985年12月5日
編著 法政大学大原社会問題研究所
発行所 労働旬報社
2001年8月15日公開開始