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日本労働年鑑 第56集 1986年版
The Labour Year Book of Japan 1986

第二部 労働運動

VI 権利闘争


1 労働者派遣事業法反対運動

概況

 政府が一九八五年三月一九日に国会に提出した「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律案」(労働者派遣法案)をめぐって同法案の危険性・問題点を指摘する労働者、労働団体、弁護士、学者、そして日本弁護士連合会などが同法制定に反対する運動をくりひろげた。

 同法案は六月二日に成立し、八六年七月一日から施行となるが、衆議院段階で四点、参議院段階で二点計六点にわたって政府原案の修正がなされるとともに、衆参両院において法の運用にかんする付帯決議がなされた(本年鑑第三部−II「政府の労働政策」参照)。

労働法制改悪反対討論集会
 「労働法制の全面改悪に反対する中央討論集会」を開催し、約三〇〇人の労働組合関係者が参加した。
 集会は田端東大助教授、藤本弁護士、徳住弁護士、清水信州大学助教授らの報告のあと、参加者の討論をおこなった。

 この討論集会は「労働者の権利の全面的後退というべき事態が進行している」という認識の下に、これらの状況を切り開き、権利闘争を発展させるために総合的な観点にたって労働諸法制の改編全体像を歴史的に点検し、将来の方向をさぐり、当面目指されている立法の問題点を明らかにし、労働法制反動化に反対する基本的認識と闘いの方向を討論する」ことを目的として開かれた。

 集会は以下のアピールを採択した。
【討論集会アピール】

 現在国会において審議されている雇用機会均等法は、雇用における男女差別の解消を口実として、女子労働者の保護を後退させ、かえって女子労働者の働く権利を危ういものとしている。昨年労基法研究会が発表した中間報告は、一日九時間、週四五時間の労働時間制、更には一日及び一週の労働時間の「弾力化」等を打ち出しているが、これは歴史を逆行させるとともに、国際労働基準に著しく反するものである。また現在検討が進められている職安法の改正、派遣事業法、パート労働関係の整備は、労働者全体の雇用の安定と労働条件の維持、向上に逆行する事態の進行を一層促進しようとしている。(中略)

 このような一連の労働諸法制の見直し、改編は資本の労働力政策、労務政策に立法的裏付けを与える本質を持つものであり、財政破たんを名とするしわ寄せを国民生活に押し付け、危機を脱出しようとする臨調行革路線と軌を一にする、「戦後政治の総決算」の労働法制版と言わねばならないものである。

 我々は、本集会の名をもって、全国の労働者、労働組合に対し、政府自民党財界の目指している労働諸法制の改編が、職場に、そして労働者の生活と権利にもたらすであろう事態を正確に見定め、これまでの権利闘争の弱点を克服し、職場、地域などあらゆる場、あらゆる機会をとらえ、次の点に重点をおいて反撃の闘いを組織していくことを訴えるものである。

1 労働諸法制の抜本的改悪の全体像を職場に明らかにし、労働法制を巡る問題を権利闘争の重要な課題として位置付ける。
2 労働立法の改編、職場の労働力再編を看取し、労働法制の改悪に反対する闘いを強化する。
3 労働条件のありかた、考えかた(一方的改悪は断固許さないなど)を権利思想として労働者に定着させる。
4 年次有給休暇の完全取得、時間外労働の規制強化などの時間短縮闘争を基本から組み直す。
5 国際労働基準の導入など「労働者の要求実現を目指す労基法改正など立法闘争や、ILO条約批准闘争を展開する。
6 次のような目標の下に協約闘争を強化し、組織していく。
 イ、労働時間を含む労働条件の確定。
 ロ、要員と事前協議。
 ハ、派遣、パート労働についての組合の関与権を確立し、派遣、パート労働者の導入及び労働条件についても組合の交渉力、規制力を強化する。
 ニ、総ての労働条件についての産業別基準を確立する。

7 派遣労働者、パート労働者等の組織化を促進する。

労働者派遣法反対討論集会

 八五年四月三日松岡三郎明大教授、小島成一郎弁護士、大島次郎マスコミ・文化共闘会議、大牟礼藤男都職労委員長、小西勝男金融共闘議長、坂野哲也労供労組議長などが呼びかけ人となり、「労働者派遣法に反対する討論集会」が総評会館で開かれた。これには約五〇〇人が集会に参加した。

派遣法阻止緊急集会

 四月二三日労働者派遣法阻止!4・23緊急集会が開催された。これは「4・3労働者派遣法に反対する討論集会」の実行委員会が呼びかけたもので、千代田公会堂に約一〇〇〇人の労働者が参加した。

派遣法反対緊急大集会

 五月二八日労働者派遣法反対緊急大集会が総評・東京地評主催で開かれた。日比谷野外音楽堂での集会には約六六〇〇人の労働者が参加し、その後国会請願デモ行進をおこなった。

 総評は三月二八日政府案の撤回を求める方針を決定、東京地評は五月一〇日労働者派遣法緊急対策本部を設置し、反対運動にとりくんだが、この集会は、4・3集会、4・23集会を発展させる形で総評・東京地評が主催して開かれたものであり、労働者派遣法反対の最大の集会となった。

 集会は、主催者を代表して総評内山副事務局長、藤本東京地評事務局長のあいさつのあと、総評弁護団宮里幹事長、日本社会党、日本共産党のあいさつ、単産報告、現場報告がなされ、決議文が採択された。

労働者派遣法に反対する意見

 法律の上程と前後して、日本弁護士連合会、民主法律家協会、総評弁護団、自由法曹団、労働法学者有志などが意見書や声明を発表しているが、以下に青木宗也(法政大)、中山和久(早稲田大)、竹下英男(早稲田大)、松林和夫(群馬大)ら労働法学者有志五一名の「労働者派遣法に反対する労働法学者の声明」(四月二二日)を掲げる。

【声明】

一、第一〇二通常国会に、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律案」(略称「労働者派遣法案」)が提出された。本法案の中心部分である労働者派遣事業の制度化に関しては関係労働組合等から多くの反対意見が提出されている。すなわち、労働者派遣事業に労働力需給のミスマッチ解消の機能があるとしても、使用者責任の回避や中間搾取等種々の弊害が指摘されており、それらの弊害がいかに抑制されうるかが最大の課題である。法案では、特定労働者派遺事業については届出制としているが、これは労働者供給事業の原則的禁止の堅持とも矛盾し、実際上行政的規制が及ばなくなるおそれがある。また、派遣事由や期限の限定もなく、中間搾取への行政的規制がまったく規定されていないのも問題である。さらに、対象業務の範囲は政令によって決定できることになっているが、その業務にかかわる事業主および労働者はもちろん、労働者全体の雇用の安定にとって重大な問題であるから、法定事項とすべきである。その他、事業運営の適正化については万全が期されるべきである。

 派遣先事業主の使用者責任が原則的に否定されている点にも問題がある。法案は、派遣先の使用者責任についてはまったく規定しておらず、みなし規定による労働基準法等についての使用者責任の振り分けについても、派遣先の責任を極力限定し労基法の形骸化を招いている,また、派遣先への労働組合法の適用については一切規定されていない,このように派遣労働者への労働法規の全面適用という観点はなく、労働者の保護という頭初喧伝された立法目的は著しく後退している。われわれは、政府が法案を撤回して、国民的合意を得る措置をとることを要請する。

二、この法案には、中央職業安定審議会の審議も経ずに、突如新たな内容が盛り込まれている。すなわち、従来論議されてきた労働者派遣事業制度化に加えて、一般企業も届出さえすれば、そして労働協約または就業規則に定めさえすれば、その個別的同意を得ずに従業員を自由に派遣できる制度が導入されている(法案第三二条二項)。

 一般企業における労働者「派遣」は、従来の法理からすれば出向である。出向についての学説・判例の法理は必ずしも一様ではなく、労働協約や就業規則に出向義務づけ規定があれば労働者に対し拘束力を有するという判例もあるが、出向規定の内容は一様ではないし、また民法第六二五条等を理由に個々の労働者の同意が必要であるとの学説が支配的である。われわれは、法理的に片付いていない問題に対して政府が労働者の権利を無視して一方的に立法によって決着をつけるやり方には反対せざるをえない。

 この一般企業の派遣自由化条項は、実は、これまでに事実上存在する企業グループ内派遣会社をも合法化するものであり、労働者は就労する場所はそのままで自分だけが不安定な派遣労働者として派遣されてしまうことも可能になった。このように、一般企業の派遣自由化条項の創設は、これまでの日本的雇用慣行や労働法制のあり方にも重大な影響を与えるものである。

三、本法案は、本来、今後の高齢化、産業構造の転換等に対応しての労働力需給のミスマッチの解消を目的として、労働者派遣事業の制度化として準備されてきたはずである。昭和五五年四月の労働力需給システム研究会の提言から、昭和六〇年二月五日に中央職業安定審議会に諮問された法律案要綱に至るまで、一貫して労働力需給のミスマッチの解消がその主題であった。前述の一般企業をも対象とする派遣自由化条項は、労働者本人の同意なしの出向や企業グループ内派遣会社への身分移管というなし崩し的解雇にもなりかねない事態を可能にするものであり、労働力需給のミスマッチの解消どころかミスマッチの創出を招きかねないのである。このような重要事項が、国民的合意はおろか、審議会的合意をも得ずに、突如法案として提出されたことは遺憾であり、われわれは手続的民主主義に反するものとして反対せざるをえない。

日本労働年鑑 第56集 1986年版
発行 1985年12月5日
編著 法政大学大原社会問題研究所
発行所 労働旬報社
2001年8月15日公開開始


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