鉄鋼業は八一年度をつうじて国内需要の伸び悩みによつて需給バランスが改善されず、粗鋼生産は二年連続減少した。労働生産性(産出量/労働投入量)は八一年に六年ぶりに二・六%の低下となった。しかしながら鉄鋼大手は原料などのコスト上昇を鋼材値上げ・コストダウンとシームレスパイプの輸出好調とによってカバーして高い収益水準を維持した。
省エネ合理化によるコスト削減はひきつづきすすめられ、連続鋳造比率は前年より一〇%程度上昇し七〇%台となり、また、オイルレス操業は八一年度末にほぼ一〇〇%近く達成された。製銑、製鋼、圧延の三工程が組み合わされて、それがコンピューターでコントロールされるという連続鋳造の進展は鉄鋼大手における合理化にともなう人員削減と小刻みな配転とを促進している。また大手企業では定年延長がなされたので定年退職というかたちをとった現場労働者の削減は小幅であった。このほか、鉄鋼大手では製品構成の変動にともなう企業内および関連会社とのあいだの配転・出向がおこなわれた。
中小の普通鋼メーカーは建設業界の不振を中心とした需要の伸び悩み、生産減にともなう固定費負担の増加、輸入増などによる市況低迷により、減収減益となった。とくに、小棒生産の普通鋼電炉メーカーは赤字経営つづきであった。なかには廃業に追い込まれるメーカーもあった。このため生産カルテルを二度にわたって延長して八二年四月まで継続し、普通鋼電炉工業会を中心に新たな構造改善策が出された。その重点は、八五年度を目標年度として企業過多体質を脱却するため三二五万トンの余剰能力を削減し、現状六八事業所を四五事業所程度に集約しようというものである。このような業界再編成がおこなわれれば、業界では七五〜七八年以来、再度の人員合理化がなされる可能性が強い。このため、鉄鋼労連では企業倒産、人員整理に対処するため、産業別組織として強力な闘争を組織する必要のある組合にたいしては、「○○労組合理化対策特別委員会」を設置して、闘争の指導・支援をおこなうと決定している。
自動車産業八二年三月期決算は増収利益横ばいであった。欧米諸国が軒並みに生産大幅減・減益となったにもかかわらず、わが国の自動車産業は生産・利益の横ばいを維持したのである。これは、対米輸出自主規制、西独・ベネルクスを中心とした欧州の日本車規制がなされたにもかかわらず、アフリカ向け輸出が著増し、中近東向け輸出が好調なため、また、燃費効率のよい日本の小型車が根強い海外需要を確保することができたためであり、個人消費の不振、産業活動の停滞により国内需要は停滞的であったにもかかわらず、燃費効率のよい大衆車・FF車を中心にした乗用車、複数保有の拡大や女性需要の拡大を背景とした低価格・低燃費の軽四輪商用車が三年連続二〇%台の需要増となったためである。こうした小型車需要への機敏な適応はFMSによる「合理化」によって達成された。このため、生産横ばいにもかかわらず、設備投資は大幅増となった。とくにFF化を中心とする小型車開発投資、合理化、生産性向上投資などが目立った。
また、貿易摩擦を回避して海外市場を確保するために欧米諸国における現地生産化がすすめられつつある。「合理化」面ではひきつづき産業用ロボツトの導入が目立っている。トヨタでは、世界小型車戦争の最大ライバルであるGMが生産ラインの大幅なロボット化を打ち出していることに対抗して、八一年末に今の五五〇台から三年後には一千台以上にするというロボットの大量導入計画を発表した。現在の主流であるスポット溶接用の増設に加えてアーク溶接用、塗装用の導入をねらっている。日産座間工場では溶接工程の九七%(通常乗用車の溶接個所は三千ポイント強といわれるが、その九七%)がロボット化されている。また、日産栃木工場には乗用車の無人塗装ラインを導入した。密室構造のラインに一三台のロボットを用い、上塗り、中塗り、下塗りを完全自動化したのである。この無人塗装ラインは今夏にも日産追浜、村山両工場にも導入されようとしている。溶接ロボットは一台で熟練工一人分の働きをし、かつ、昼夜兼行のため人員合理化への影響は大きい。たとえば追浜工場の車体組立て職場ではロボット導入前、二〇人で編成されていたチームが溶接の自動化によって七〜八人に減った。余剰人員は配転によって他の職場・職種に移った。他方、溶接職場ではチームの人数が減ったため一人でも休めばそれだけ他の労働者が多くの仕事をかかえこむことになり、仕事内容も複雑化し、労働強化がすすんだ。しかも、従来の溶接工は電気技術を新たに習得し、高度化する技術においつくために教育・訓練を受けざるをえなくなっている。
さらに今後、自動車産業の低成長が予測されているのでロボット導入による雇用減はこれまでのように配転によってカバーすることができないことが予想される。日産は八一年四月、八二年四月と高水準を維持した高卒直接要員の採用を八三年度には半分以下にする計画である。こうしたなかで、八一年九月の自動車総連定期大会で塩路会長が自動車労組にとってロボット導入問題が重要であると発言した。これを受けて日産労組はロボット導入問題を中央経営協議会の重要議題とするよう会社側に提案した。これはロボット化に反対するものではなく、労使協調のもとにいかにロボット化をすすめていくかを協議しようというものである。
電機産業日本産業のほとんどが不況に陥っているなかで、八一年末までは電機産業は基本的に好況を維持してきた。八二年三月期決算で多くの企業で増収増益を維持した。しかしながら、その後、国内需要の停滞と世界不況の影響を受けて、生産を低下させてきている。重電では電力の設備投資の停滞により生産を低下させ、家電・音響では国内消費の停滞によりカラーテレビ、オーディオなどが全般的に生産を低下させ、VTRのみが好調な輸出に支えられて高水準の生産を維持した。また、家電・音響の不振にともなって電子部品の生産も鈍ってきている。ただ、コンピューター、半導体などの通信・情報では国際競争の強化による輸出急増と国内におけるOAの普及とを反映して生産拡大傾向にあり、それが電機産業全体の景気を支えている。
設備投資はLSIなど半導体関連で生産能力拡大投資と「合理化」投資がなされ、家電関連で「合理化」投資がすすめられた。「合理化」投資は前年にひきつづき自動挿入機の採用を中心に自動化装置の導入として進展した。また、OAの導入も急速にすすめられた。このため、男子労働者の雇用が横ばいに推移したなかで総合電機、通信、家電を中心に生産現場および事務部門の若年女子労働者の削減がひきつづき実施された。
電機業界でもロボットの導入が本格化してきた。今のところ導入テンポは自動車産業には及ばないが、この業界では自社開発のメリットを生かして自社の生産工程にマッチしたロボットの導入が本格化しつつある。すでに日立・東芝などの総合電機メーカーはロボットを軸にした生産の自動化、省力化にとりくんでいるが、松下(家電メーカー)も八一年秋に「ロボット委員会」(導入の青写真をつくる企画部門、本体を開発する研究・開発部門、利用技術を開発する部門の三つから成る)を発足させ、全社的規模で工場の特性に応じたロボットの導入に向けて体制をととのえつつある。とくに八二年秋には組み立て工程を担う知能ロボットの大量導入による超自動化のモデル工場の完成をねらっている。またパイオニア(音響機器メーカー)でも自社開発の組み立てロボットを生産現場に投入する。すなわち、八二年内にはカーステレオ(川越工場)とチューナー(静岡工場)の生産ラインに抵抗器やコンデンサーなどをプリント基盤に自動挿入する口ボットを導入して組み立て工程の九〇%を自動化する。さらに、沖電気(OA機器)でも組み立て工程の自動化に向けて大量のロボットの導入をねらっている。
こうしたロボット化の急展開のなかで電機労連は、当面は雇用減がみられないけれど、近い将来に問題が顕在化するおそれがあるとして、次の三点を指摘している。一つは、省力化が全工程に波及し「無人化」に向かったとき、「配転」だけでは対応できなくなる。第二点は、ロボット化は減価償却のための二四時間フル操業を強いることになり、労働条件の悪化をまねくおそれがある。三点目はマイコンに対応できない高齢者や女子労働者にしわよせがくるおそれが強い。また、絶えざる技術革新をおこなうために高級技術者が長時間、高密度労働を強いられており、このため、コンピューター工場である日立神奈川工場では自殺者さえ出たのである。
造船業造船業では八一年後半から受注が急落している。八二年度には前回の不況時(七七年、七八年)並みに落ちこむ可能性が強い。とくに受注の六〇〜七〇%を占める輸出船受注が急減している。その原因は世界的な景気後退、省エネルギーによる先進工業国の石油輸入の減少により海運市況が悪化してきたこと、中小型タンカー、プロダクトキャリア、バルクキャリア、自動車専用船などの新造船需要が一巡したこと、などにある。
造船業は受注から建造着手に約一年かかり、受注から納期までに約二〜三年かかる。したがって現在は過去の受注残をこなしている段階であり、造船現場の仕事が急減しているわけではない。そこで、一方では、前回の合理化以降、多能工化、時間外労働の拡大などによって労働密度が高められており、他方では低操業体制への漸次的な移行によって出向・応援が強められようとしている。
造船合理化の問題は、八二年三月一八日におきた佐世保重工における修繕中タンカーの火災事故に集中的に表現されている。この事故により、本工四人(うち三人は艦艇造修部からの応援)、下請工六人、計一〇人が死亡した。佐世保重工は八一年九月期決算で「史上最高の経常利益」を計上したが、それは賃金カット、ベア、ボーナスの三年間凍結、労働時間の延長、人員の大合理化(約半減)など、労働者への低労働諸条件の押しつけによって達成されたものである。同社では造船受注の回復とともに「看板方式」(ある作業に必要な作業時間を現場ごとに削減率目標を掲げて短縮する運動)というかたちの労働強化策をとったが、このなかで労災事故がは多発した。下請もふくめて七九年に三二件、八〇年に二四件、八一年に二八件もの労災事故が発生した。八一年八月、九月には下請労働者の転落事故で三人の死傷者がでた。佐世保労基署は八二年二月下旬に同社の立ち入り検査をおこない、安全対策の確立を求める一四件の勧告、指導と一部溶接具の使用禁止を求める命令を出した。ところが、その直後の三月一八日、タンカーの火災で一〇人が死亡する大事故が起こった。労基署の勧告・命令にもかかわらず同社が十分な安全対策を講じなかったために、この事故が発生したのである。事故の当日、溶接作業の現場では、その作業に必要な溶接火花を受ける火受け皿や消火ホースを備えず、火気見張り員も配置していなかったという。また、現場では火気にふれると危険なビルジ(廃油)も残ったまま作業がすすめられた。この事故に関してSSK労組労愛会は、「修繕船工事の増加で、急ぎ集められた素人の下請け工も多く……こんどの事故は、本工を増やさず、下請けに頼る会社の安上がり経営が原因だ」として会社に抗議した。
佐世保重工ほど大きな災害ではなくとも、工事消化とコスト・ダウン方針にともなう労働強化によって、他の造船会社でも死亡事故をふくむ労働災害がおきている。低操業体制への漸次的移行にともなう合理化も開始されている。ただ、今のところ、残業規制や応援派遣が若干みられる程度である。すなわち八二年四月に三菱重工では「操業対策本部」を設けて残業を取り止め、原則として所定内労働時間内の操業体制に入り、六月から広島造船所を中心に七四人を三菱自販に三年間派遣することにした。他の会社もこれに類似した対策をとろうとしている。
また、造船業界でもロボットの利用に向けて技術開発に着手している。造船所の作業の合理化は鋼板の加工と切断においては進展しているが組み立て、溶接、船台上の作業などではすすんでいない。ロボットの導入では他産業に遅れている。しかし、八二年四月に日本造船工業会、日本造船研究協会、日本造船振興財団の三団体は労働力不足、産業の地盤低下、新興国の追い上げなどに対処して造船技術の超近代化に向けて研究開発を開始した。そのテーマは、(1)NC制御プレスによる鋼材曲げ加工、(2)三次元座標測定機の導入によるブロック建造、(3)溶接ロボット導入、(4)塗装ロボット導入、(6)溶材なし溶接法の開発などである。とくに造船所に適した携帯可能でしかも自ら動いて作業をするような新タイプの知能ロボットの開発をおこなっている。こうした研究開発の成果が現われれば近い将来造船業にもロボット導入にともなう合理化問題が顕在化するであろう。
このほか、造船大手では設計部門の合理化のために「設計合理化委員会」などを設置してマイクロエレクトロニクス機器の設計への導入をはかっている。従来から造船部門では図面の標準化やCAD(コンピューター採用デザイン)化がなされていたが、これを造船以外の分野にも導入しようというのである。このため、設計労働者は合理化に向けた準備作業と日常作業との双方をかかえ、九時、一〇時の深夜作業が恒常化している。さらに、ワードプロセッサー、パソコン、大型複写機などの導入によってOA化も急進展している。これによって設計部門および事務部門の人員削減がすすめられ、配転、出向が実施されている。
日本労働年鑑 第53集 1983年版
発行 1982年11月30日
編著 法政大学大原社会問題研究所
発行所 労働旬報社
2001年9月4日公開開始