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日本労働年鑑 第28集 1956年版
The Labour Year Book of Japan 1956

第二部 労働運動

第一編 労働争議


第三章 主要な争議

第八節 近江絹糸の争議
   (あの音)
 三ヵ月の闘いは終った
 私は再び C列七号についた
 そして僅か一カ月
 ああなんということだろう
 わずか一ヵ月たたぬというのに
 同志たちの血が 秋雨の中にまだ流れているというのに
 夏川のあの眼は もうキラキラと光り
 生産!生産!と追いたてる
 ムチの音がひびき渡る
 その音は冷たく その音は暗く
 その音はすべての眼をかくし 耳をふさぎ 口をおさえ
 そして乙女の胸をくいやぶり
 私たちのまわりにひびいてくる
 私たちがあの音にふるえ おびえたのはたった三ヵ月まえのことだったのに
 そして私たちはあの音から完全に解放されたと
 思っていたのに!
 もうあの音は 私たちをとりまいている
 しかし 私たちは今度こそ
 あの音に 耳をふさがれまい!あの音に 眼をつぶるまい
 あの音に おびえまい!
 私たちはこんどこそ
 あの音にぶつかっていこう
 いたいだろうか 血が流れるだろうか
 私たちは 二度と 太陽と水のない工場はごめんだ
 ヒロちゃんもゆきちゃんも
 一歩も退くな!
 みんな みんな 立ち上ろう!
        (詩集「わたぼこり」より)
   (女工小唄−近江絹糸の数え歌)
 一つとせ 人のいやがる大宮の近江絹糸のカゴの鳥
 二つとせ 両親離れて来たからにゃ 三年満期はつとめましょう
 三つとせ 皆さん私のふりを見て 哀れな女工さんと見ておくれ
 四つとせ 夜は夜中になかされて 朝は四時から起される
 五つとせ いつ来てみても大宮の絹糸のうわさはたえかねる
 六つとせ 向う通るは終電車 乗ってゆきたい我が故郷
 七つとせ 長い労苦の血の涙 こうしてくらすも国のため
 八つとせ 山家育ちの私でも 絹糸のばくめし食いあきた
 九つとせ ここで私が死んだなら両親兄妹なげくだろう
 十とせ  とうとう三年過ぎました 明日は嬉しい 汽車の窓
 × × ×
 一、電灯もついた 日も暮れる 想い出すのは家のこと 家の両親今頃は どうして月日をすごすやら
 二、母さん私が出る時は○○駅まで見送って 白いハンカチふりながら お取よ元気でいておくれ
 三、廻る時計の針でさえ 一日一度は会うものを私と母さん一年に 一度逢うやら逢わぬやら
 四、母さん今頃 たかまくら 私は夜業の真最中 廻るエンジンの火の車 落る涙は台の上
 五、母さんよく見てよくさとれ 私の仕事は立仕事 髪の毛みたいなこの糸を 気長く思えばつながるる
 六、母さん書いたたよりには けんかするなよけがするな 見知らぬ絹糸の男には 甘い言葉をかけるなよ
 七、広い工場の棉の中に コックリするの母の夢 嬉しかった目をさましや 動く機械の火の車
 八、あんまり母さん恋しさに 寮の二階にかけ上り はるか向うを眺むれば 母さんに似たような人が行く
 九、母さん私がかわいなら 一度面会に来ておくれ 所は名高き静岡の 近江絹糸というところ
 十、広い工場でわからねば 寮でいうなら○寮よ 工場でいうなら○○の可愛い乙女と呼んどくれ
 (注)○○は各人によってちがう言葉で歌われる。

    (静岡大学教育学部歴史学研究会資料集より)

参考資料
 ○「近江絹糸スト現地に見る」(読売新聞、五四・六・一一)
 ○「型の変った近江絹糸スト」(朝日新聞、五四・六・一三)
 ○「侵された信書」(読売新聞、五四・六・一四)
 ○「紛糾つづく近江絹糸」(日本経済新聞、五四・六・一六)
 ○「近江絹糸夏川社長と一問一答」(朝日新聞、五四・六・一七)
 ○佐藤正子「奴隷解放に挺身する」(文芸春秋、一九五四年八月号)
 〇三宅晴輝「なぜ法は取締らぬ」(文芸春秋、一九五四年八月号)
 ○共産党滋賀県委員会「近江絹糸ストの三ヵ月」(前衛、一九五四年一一月号)
 ○日本経済調査会「日本経済四季報」第六集・第七集(大月書店)
 ○滋賀県商工部労政課「近江絹糸彦根工場争議状況」
 ○「近江絹糸の少女から」(国民、一九五四年一一月号)
 ○解説「近江絹糸闘争の新しい発展」(アカハタ、五四・八・一六)
 ○阿部真之助「力ずく争議の結末」(サンデー毎日、五四・八・二九)
 ○「近江絹糸の資本の現状」(法政大学大原社会問題研究所資料室報、一九五四年七月号)
 ○静岡大学教育学部歴史学研究会「女工小唄」(歴史評論、一九五四年二月号)
 ○夏川嘉久次「人我れを民衆の敵と言う」(文芸春秋、一九五四年八月号)
 ○水沢宏・今泉良子「鉄条網を越える愛情」(文学の友、一九五四年九月号)
 ○「東京へ移った夏川大本営」(週刑サンケイ、五四・八・一)
 ○西村信雄「近江絹糸争議の問題点」(労働法律旬報、一九五四年八月上旬号)
 ○「近江絹糸スト調査資料」(無署名、活版刷り、資本家側発行)
 ○「女工哀史は生きている」(サンデー毎日、五四・六・二〇)
 ○中島徹三「近江絹糸争議を顧みて」(官公労働、一九五四年一一月号)
 ○滋賀労働基準局「近江高等学校生徒に関する労働基準法問題」(一九五三年一一月)
 ○加藤きよ子「世の中が一ぺんにかわったよう」(アカハタ、五四・八・五)
 ○内田穣吉「近江絹糸白書」(経済評論、一九五四年八月号)
 ○「争議の性格を解剖する」(毎日新聞、五四・六・一七)
 ○仲川衛「私は信書開封係だった」(読売新聞、五四・六・一八)
 ○社説「近江絹糸スト至急解決せよ」(読売新聞、五四・六・一九)
 ○松崎芳伸「違反にならなければ」(朝日新聞、五四・六・一九)
 ○「前世紀の職場、近江絹糸の実態」(朝日新聞、五四・六・一九)
 ○社説「ひどすぎる近江絹糸争議」(毎日新聞、五四・六・二〇)
 ○赤松常子「近江絹糸の女工員と少年工」(朝日新聞、五四・六・二二−二四)
 〇「格子なき獄舎」(毎日新聞、五四・六・二四)
 ○「近江絹糸女工員、お国元の心配」(朝日新聞、五四  二七)
 ○全繊同盟近江絹糸民主化闘争委員会「現代女工哀史」(一九五四年二月)
 ○秦成光「近江絹糸労働争議の真相」(凡友社、一九五四年九月、資本家側の立場にたつ)
 ○近江絹糸紡績株式会社「近江絹糸労働争議の真相」
 ○劇団泉座研究公演「帰郷」(つる・たつじ作、演出、一九五五年二月)
 ○特集「全繊同盟・近江絹糸抗争」(国民評論、一九五四年六月号、資本家側の立場にたつ)
 ○磯田進「近江絹糸事件の意味するもの」(改造、一九五四年八月号)
 ○志賀健三「夏川一家」(改造、一九五四年八月号)
 ○「あきれた人権スト」(サンデー毎日、五四・六・二七)
 ○「近江帝国のワンマン」(週刊朝日、五四・六・二七)
 ○「ゆれる乙女ごころ」(週刊朝日、五四・七・二五)
 ○藤野一雄「近江絹糸争議にわく疑問」(週刊朝日、五四・七・一一)
 ○「近江絹糸に関する十五問」(週刊朝日、五四・八・一)
 ○「解決されなかった解決」(週刊朝日、五四・八・一五)
 ○外尾健一・佐藤進・戸坂嵐子「近江絹糸の労働関係」(繊維経済、一九五四年一〇月号)
 ○静岡県労働部労政課「近江絹糸紡績富士工場労働争議概要」
 ○近江絹糸紡績株式会社「近江絹糸」(社報)
 ○近江絹紡績労働組合津支部「若人の叫び」
 〇「一九国会衆議院労働委員会議事録」第三一−三四号
 ○「近江絹糸の経営機構」(繊維経済、一九五四年一〇月号)
 ○岸本英太郎「近江絹糸事件の意味するもの」(朝日新開、五四・七・一三)
 ○森長英三郎「近江絹糸争議と三つの問題点」(労働法律旬報、一九五四年七月中旬号)
 ○座談会「近江絹糸争議の問題点」(労働法律旬報、一九五四年八月上旬号)
 〇「近江絹糸の娘たちは語る」(新読書、五四・七・一〇)
 ○「夏川社長の経営憲法百三条」(週刊読売、五四・八・八)
 ○近江絹糸紡績労働組合富士宮支部教宣部「富士宮情報」(謄写版刷り)
 ○臼井吉見「人権にめざめた娘たち」(婦人公論、一九五四年八月号)
 ○滋賀県労政課「近江絹糸長浜工場争議状況」
 ○多田道太郎、加藤子明「新しい魂の誕生」(中央公論、一九五四年八月号)
 ○「近江絹糸の歌ごえ」(新女性、一九五四年八月号)
 ○「私たちはもうなかない」(文学の友、一九五四年八月号)
 ○「近江絹糸ストの背景」(週刊読売、五四・六・二七)
 ○南博「近江絹糸ストの訓えるもの」(世界、一九五四年九月号)
 ○全繊同盟教育宣伝部「解放の歌よ高らかに」
 ○静岡大学教育学部歴史学研究会「私たちの要求はぜいたくなのでしょうか」(歴史評論、一九五四年九月号)
 ○労働経済研究会「労働経済四季報」第六集(労働経済社)
 ○主張「勝利した近江絹糸の斗いが教えるもの」(アカハタ、五四・一〇・二〇)
 ○「近江絹糸富士宮工場訪問記」(週刊労働、五四・一〇・一二)
 ○滝田実「近絹争議の一断面」(週刊労働、五四・九・二八)
 ○「近江絹糸争議報告書」(週刊労働、五四・九・二八)
 ○竹林千秋「中小紡の苛酷な労働」(労働経済旬報、一九五四年七月上旬号)
 ○太田薫「近江絹糸のストライキ」(労働経済旬報、一九五四年九月上旬号)
 ○近江絹糸紡績彦根工場有志「ふるさとからのたより」
 ○全繊同盟法政部「近江絹糸法廷闘争資料」

日本労働年鑑 第28集 1956年版
発行 1955年11月20日
編著 法政大学大原社会問題研究所
発行所 時事通信社
2002年3月5日公開開始


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