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日本労働年鑑 第28集 1956年版
The Labour Year Book of Japan 1956

第二部 労働運動

第一編 労働争議


第三章 主要な争議

第八節 近江絹糸の争議

 全国繊維産業労働組合同盟(全繊同盟)近江絹糸民主化闘争委員会は、一九五四年の年頭にあたって、つぎのようなビラ(「友愛だより」)を、近江絹糸紡績株式会社の労働者へ配布した。

 近江絹糸の皆さん
   明けましておめでとうございます
 昨年中は大変ご苦労様でした。どうか、本年もまた元気でおたがいにがんばりましよう。

 扨て昨年末十二月二十二日には既に皆さんにお知らせいたしました通り津工場で解雇された中岡〔長一〕君が中央労働委員会から「工場に帰って昔通り仕事をしなさい。会社は中岡君をクビにしてはいけない」と命令されましたし、また近く来る一月十九日には三年前の昭和二十六年九月五日に彦根工場をクビになった植村〔節〕君の裁判があって、クビにした会社が正しいか、組合運動をした植村君が正しいか、その判決が下されます。おそらく植村君の方が正しいと言うことになって、中岡君と同じように工場へ帰ることになるでしょう。〔一月三〇日、大津地方裁判所、解雇無効の判決〕

 サア!!そうすると今年こそは皆さんに取っては最良の年になりそうです。ということは今後皆さんは、会社がどんなことを言って皆さんを弾圧してもそれは絶対に法律が許さないことを中岡、植村の両君が証明してくれたために、皆さんが思い切って組合活動ができるからです。

 本年こそがんばりましょう。

 近江絹糸紡績株式会社では、一九四五年一二月、当時の実習生(現在の近江高等学校生徒)が一斉職場放棄の闘争をおこなったのを皮切りとして、敗戦直後の労働運動昂揚期には大小いくつかの労働者の抵抗が組織された。

 一九四七年、会社は職制をつうじて御用組合をつくり、労働者の抵抗のもりあがりをくいとめようとした。この動きにたいし、「労働組合へ介入してはならない」との滋賀地方労働委員会勧告があったのを契期に、御用組合反対の闘争がおこされ、一時は成功するかにみえたが、解雇・配置転換・買収などの弾圧によって押しつぶされてしまった。

 (注)近江絹糸紡績に入社すると、労働者は、「鑑」と称する手帳を二〇円で買わされる。その内容は――
  社憲

 大慈悲の仏心を体得しわが心身を照護し給う如来の大恩に報ずるため、あらゆる行業に全力をあげて尽すを以て、人間普通の大道とす、わが社は之を奉じ、これを実践する道場なり。

   社歌
 大慈大悲のみほとけの
  知慧のひかりに照らされて
 まよいの暗をはらしつつ
  この世あの世のわかちなく
 身も世もなべてみ仏に
  うちまかせてぞすすみなん
 このおほいなる御めぐみを
  朝な夕なにおもひいで
 大御こころをこころとし
  こころあわせて人のため
 世のためつくす一すじの
  道こそ吾が社のつとめなれ
   わが誓願
 一、今日一日、過分の欲を起しますまい。
 一、今日一日、腹を立てますまい。
 一、今日一日、愚痴、不平、不足を申しますまい。
 一、今日一日、うそを申しますまい。
 一、今日一日、人の悪口、かげ口を申しますまい。
 一、今日一日、清い静かな心、温い情、つつましやかな態度でくらしましよう。
 一、人を憎みねたみますまい。
 一、今日一日、心身を害うすべての欲望から遠ざかりましよう。
 一、今日一日、食事は御仏よりのたまものと思い合掌礼拝して頂きましよう。
 一、今日一日、もろもろの御恩を思い感謝のうちに過ごさして頂きましよう。
 一、今日一日、私の仕事におのれを空しくし全身全力をあげて尽さして頂きましよう。

 「社歌」は、毎朝入場前に広場で合唱させられ、「わが誓願」は、毎夜就寝前に各部屋ごとに朗読させられる。そして、男子は毎水曜日、女子は毎木曜日に、連絡日と称し、全員を「仏間」に集め、「鑑」に印刷された「正信念仏偈」を読経させられる。

 近江絹糸紡績株式会社発祥の地、彦根工場では、一九四八年、共産党細胞が中心になって職場放棄を組織したが、失敗に終り、参加者全員が解雇された(共産党滋賀県委員会「近江絹糸ストの三ヵ月」、前衛、一九五四年一一月号)。

 一九四九年一月一九日、全繊同盟は、「近江絹糸民主化闘争委員会」を設け、この日から五年間にわたり、ねばり強い組織活動が開始された。「私の方は出入商人に化けて寮へ入ってゆき、連絡したものですよ……と〔全繊同盟〕組織部長はすでに遠い昔の出来ごとかのように回顧する」(多田道太郎・加藤子明「新しい魂の誕生」、中央公論、一九五四年八月号)。

 (注)全繊同盟は十大紡を中心とする組織であって、未組織の紡績企業としては、近江絹糸紡績がもっとも大きかった。

日本労働年鑑 第28集 1956年版
発行 1955年11月20日
編著 法政大学大原社会問題研究所
発行所 時事通信社
2002年3月5日公開開始


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