ここでは主として、新開配達をしている年少者と、人身売買による年少者の労働状態についてみることにする。資料の関係で、このようないわば特殊な場合に限定されざるを得なかった。
労働状態(注)この調査は、一九五三年三月、東京都内の新聞販売所三五カ所に働く年少者二四一名について行ったもので、年齢は一〇才から十七才までで、一三〜一五才が大部分、勤続年数は比較的短く、六ヵ月以上一年未満の者が最も多い。また新聞配達を始めた理由は、直接間接に家庭の貧困によるものが大部分であった(第183表)、なお、この新聞配達に従事する年少者は、一五才未満の者が最も多く働いている職種で、同じく婦人少年局の調査によると、一九五一年四月から五二年三月までの間に、労働基準法による使用を許可した年少者数は四九一一人(男三九五三人、女九五八人)、このうち新聞配達は三二八一人(男三一〇〇人、女一八一人)で六七%を占めていた(労働省婦人少年局「学びながら働く年少者」一九五二年七月、参照)。
(イ)労働時間−朝刊は四時半〜六時、夕刊は四時〜五時頃までの間に配達するが、朝夕刊の配達を行う者の労働時間は一日四時間以上に及び、勉強との関係から相当の重労働である(第184表)。そのため朝夕に余裕の時間がなく、学校を遅刻、早退するなど直接勉強に差支え、疲れを訴えるものも多い。
(ロ)賃金−賃金は固定給が五三%、歩合給が三〇%となっていて、朝夕刊の配達をするものの金額が一番多いが、それも二、三〇〇〇円にすぎず、毎日三時間から四時間以上の労働に対するものとしては低い(第185表)
次に「売られた児童」の労働状態を、同じく婦人少年局の「年少者の不当雇用慣行−実態調査報告(東北篇)−」によってみよう。これは、一九五三年秋に、東北各県を出身地とする人身売買の疑いある児童とその親元、及びその児童の雇用先について調査した結果の報告であって、売られた児童の奴隷的といってもよい程の労働環境や労働条件が述べられている。
(イ)労働時間−ここでは例として農家の作男、作女(第186表)、工員(第187表)、漁夫及び土工(第188表)の各状態を掲げておくが、雇主(購買者)による意のままの働かせぶりがよく現れている。そして冬ひびが切れている手を水の中に入れるのでつらい(子守兼家事手伝−女子)、一人で畠などうなうのはつらい(農業手伝−女子)、九時頃店を閉めてから後始末などで寝るのは一一時すぎになり、朝の支度などもさせられるので睡眠時間が足りない(料理店女中)。朝早いこと、夜遅いこと、いやらしいこと(特飲店女中)、雨の日、雪の日の配達と水仕事(魚屋店員)、などと彼等は仕事のつらさを訴え、又涙を流すだけで話し得なかった女工や雇主の手前をはばかって言わなかったものもいた。
(ロ)賃金−いわゆる賃金の形態をとっているものはほとんどなくて、大部分は小遣程度にすぎなく、使用者の恣意にまかせられている状態である。このうち実物給与は、盆、暮に着物や日用品を支給する程度である(第189表)。
健康・疾病労働省婦人少年局が一九五一年一〇月、全国の定時制高等学校四二四校における生徒一三万五五一五人中三万一九七九人について調査した「高等学校定時制課程生徒の健康調査結果報告」によると、この年少労働者の体格は、一般の高等学校生徒の体格(一九五一年度文部省調査)に比較して、胸囲、座高、体重などがとくに劣っており、又結核の羅患率も二倍の高率を示している(第190・191・192表)。
(注)以上紹介したものの外に、労働省婦人少年局が、年少労働者の状態について行った調査として、次のようなものが発表されている。長欠児童
(1)「炭鉱に働く年少者の実態」 一九五二年五月〜六月、北海道、福島、山口、福岡の各県の炭鉱各一カ所に働く年少者五三五人について、その雇用経路、労働内容、賃金、災害、疾病などを調査したものである。
(2)「危険有害な業務に使用されていた年少者」 これは、一九五三年二月、労働基準法第六条で禁止されている危険有害な労働に従事している年少者の実状を、一九五二年中に発生した基準法違反事件を対象として調査したもので、中小企業に働く年少者の劣悪な労働状態をよく示している。すなわち、これによると、五二年中の違反は一一〇件、年少者数は一八八人、規模別では一〇人以上五〇人未満の事業所が五〇件(四五・五%)、一〇人未満の事業所が三五件(三一・八%)と、五〇人未満の事業所が全体の六一%を占め、産業別では、自動車修理業一八%が最も多い。そのうち、災害を受けた者は三五人(一七%、うち四人死亡)、木工用かんな機、軸面取機を用いる業務、重量物を取扱う業務などが多くなっている。
「工業的事業に働く年少者の身体的適性に関する実態調査−I・L・Oの条約に基づく調査」 一九五二年九月、軽作業の多い通信機工場、重作業の多い鋼管工場に働く年少者各二二名について労働内容、疲労、体力状態などを調査したものである。
文部省調査によると、一九五二年四月〜五三年三月の一年間における長期欠席児童(欠席五〇日以上)は、小学生と中学生を合せて総数三四万〇五四六人で在学者数の二一%、このうち家庭の生活困難によるものは五万四〇六〇人で長期欠席者総数の約一六%を占めている。小学生一万三八二三人に比して中学生四万〇二三七人が多く、欠席者総数にたいする生活困窮による欠席者は小学生九%、中学生二二%、又男子に比べて女子が多い(第193表)。こうした欠席者の家庭の職業は、自由労務、農業、無職などが多く、これらの生活の苦しい状態を示している(第194表)、又欠席した児童は主に家業の手伝いに従事しており、労働の種類としては、小学生は農業、留守番、子守など、中学生は男子の農漁業、女子の女中、子守などが目立っている(第195表)。そしてこうした長期欠席児童の状態は、それがとくに家庭の貧困による場合においては、次に述べる人身売買と無関係ではあり得ない。すなわち、人身売買の被害者が義務教育年齢のものであれば、それはまず長期欠席の形をとって現われるであろうからである。
人身売買一九五三年の夏から秋における冷害と風水害による農村の窮乏化とともに、農村からの人身売買の増加が新聞に報ぜられ始め、その対策論議が盛んに行われている。もちろん、冷・水害の人身売買に与える影饗は大きいものがあろうが、しかし人身売買の増加は単に冷・水害の原因によるのみではなく、又それは農村だけの専売ではなくなって来て、今やその源泉は国民のあらゆる働く階層に広まりつつあるのであり、人身売買もこの点から、あらゆる職業に働く者の生活の破壊の問題として捉えるべきであろう。
次に、労働省婦人少年局「いわゆる人身売買事件第五回資料調査報告」によって、一九五三年におけるその実態をみよう。但し、この報告は、都道府県庁、地方労働基準局、国家地方警察、自治体警察、法務局、家庭裁判所、地方検察庁および地方婦人少年室などの各関係機関が把握した資料に基づいて労働省婦人少年局がまとめたもので、その調査自体極めて限られたものであり、人身売買の実状を知らせるものとはいえない。またこれは一九五二年七月から五三年六月末日までの一年間についての調査であるから、冷・水害による影響は未だ反映されてないとみてよいであろう。
この間に売られた児童の数は一八八三人で前年度の約一・三倍の増加となっており、このうち女子は一七五六人、男子は一二七人、年齢では一六〜一八才が最も多い(第196表)といった状態であるが、実際はどの位あるのか見当もつかない程だと言われる。この調査を年度別にみると被害児童数の動きは
第三回調査 一九五〇年七月−五一年六月 六七四人その出身地及び受入地は第197表の通りであるが、主な受入地のうち東京、神奈川は東北、関東出身の児童を受入れ、愛知は中部、近畿の出身者を、北海道は東北から、福岡は地元と九州各県からそれぞれ受入れている。親元の職業は農業、日雇、無職の順で多く、日雇、漁夫、工員などの増加したのが注目される(第198表、第2図)。その他、北海道の漁夫の家庭が身売児童を多く出し、福岡、北海道の炭鉱夫で子供を手離したことなど指摘されている。前借金は一万円以上のものが七二%を占める(第199表)。そして、五万円以上のものは一般に売春婦関係で、このような高額な前借金は何年働いても消えぬばかりか、働けば働くほどふえて行くものが多いことが指摘されている。就業業務については(第200表)、女子は接客婦が大部分で人身売買が売春婦の主要な供給源となっていることを示している。男子は農夫、工員が多い。又、女工の五四人が注目される(売られた児童の労働状態については本節の年少労働者の労働状態の項参照)。なお、この報告書には、一六才の売春婦の次のような聴取書が掲げられていた。
私は家が貧しいので帰りたくありません。かりに帰っても直ぐ何処かへ売り飛ばされるにきまっています。北海道では米飯は一日に一度しか食べられません。後はジャガイモか他の代用食です。 こちらでは食事情がよくて三度米が食べられます。ここで辛抱したいと思っています。……北海道では私がパンパンに来ていることをよく知っています。
日本労働年鑑 第27集 1955年版
発行 1954年11月5日
編著 法政大学大原社会問題研究所
発行所 時事通信社
2001年10月16日公開開始