アジア・太平洋地域の諸国民が、戦争の脅威をとりのぞくため、もっとも早い機会に、地域的平和会議をひらくことがのぞましいということが、一九五一年にひらかれた世界平和評議会のベルリン会議、ウィーン会議で決議された。また、一九五一年一〇月、全インド平和評議会が、北京でこの会議をひらく仕事を中国へ委託すると提案した。
一九五二年三月二一日、中国人民救済会主宰宋慶齢、中国平和擁護委員会会長郭沫若、中国総工会副会長劉寧一など一一名連名で、つぎのよびかけがおこなわれた。(アジア太平洋地域平和会議招集のよびかけ)
いまの国際情勢で、アジア・太平洋地域の平和をまもることは、世界の平和をまもるうえの重要な要素となっている。サンフランシスコの単独講和条約と、さいきんの日米行政協定調印によって、日本軍国主義の復活は急激に速度を加えた。朝鮮の休戦交渉はながびき、停滞し、さいきんでは非人道的な細菌戦の手段がとられた。世界支配を企だてている侵略者どもは、さらに大規模な侵略戦争の開始を準備して、アジアの各所に軍事基地を建設した。かくして、アジア・大平洋地域の平和と安全は重大な脅威にさらされ、アジア・太平洋地域の諸国民は、あたらしい武力侵略の危険に直面している。
しかし、アジア・太平洋地域の広汎な大衆は、熱烈に平和をのぞみ、平和を要求している。世界の他の地域の諸国民と同じく、アジア・大平洋地域の諸国民は、国際情勢の悪化について、もっとも大きな不安を感じている。太平洋地域は、第二次世界戦争中に、日本帝国主義によってもたらされた災害の傷手がまだ回復せず、当時の苦しい経験は、記憶なおあらたである。ごく少数の侵略者をのぞけば、戦争をのぞむものはないし、善良で正直な人で平和をのぞまぬ人はない。この事実こそ、アジア・太平洋地域諸国民が、戦争の脅威をのぞき、平和をまもることを可能とする重要な要素である。これあればこそ、われわれは新世界戦争をさけることができると信じているのである。平和は、待つべきものではない。
平和は、平和を愛する諸国民の団結によって闘いとるべきものである。アジア・太平洋地域の平和は、この地域の人民が、平和の闘いに動員されるならば確保することができる。
われわれの前にある任務は、固く団結してアジア・太平洋地域の安全をまもるために、アメリカによる日本再軍備に反対することであり、諸国の独立と主権を保全し、異なる制度をもつ国の平和的共存を保証するために、どこの国でも他国の内政に干渉することに反対することである。また、現在の紛争を平和的に解決し、正常な通商関係と諸国間の文化交流を回復し発展させることである。
以上の情勢を基礎として、下に署名するわれわれ(中国人民救済会主宰宋慶齢、中国平和擁護委員会会長郭沫若、中国総工会副会長劉寧一など一一名)は、アジア・太平洋地域平和会議を早急に開催することが、緊急にして大きな意義をもつものであると考える。すでに一九五一年、平和をまもるための諸問題について総括的な意見の交換をおこない、諸問題の解決に適当な方法をみいだすために、アジア・太平洋地域平和会議を開催することが、アジア諸国および他の地域の平和のために闘っている人々から提案された。この提案は、アジア・太平洋地域の広汎な平和を愛する大衆から支持され、かれらは一致して、ただちにその実行に着手することに賛成したのである。インドの平和運動指導者は、この会議を北京でひらくことを提議した。中国人民は、アジア・太平洋地域平和会議を北京で開催するという考えかたを心から歓迎し、平和を愛し正義のために闘うすべての国の人民とともに、ただちに会議招集のよびかけを発することを厳粛な義務であると考える。
この会議を準備し開催するために、われわれはつぎの提案をする。
(1)会議の代表は主としてアジア・太平洋地域の国民からなり、人権、社会層、信教、政治的見解を問わず、できるだけ広汎な層を代表するものでありたい。戦争に反対し、平和を愛する人はだれでも−−科学者、教育者、作家、教授、芸術家、ジャーナリスト、労働組合指導者、農民運動指導者、青年、学生、婦人の指導者、平和運動活動家その他平和を愛する個人−−歓迎される。
(2)アジア・太平洋地域の諸国は、それぞれの国で平和のために貢献し、名声ある、真の平和愛好者を、平和会議の発起人会の一員として指名してほしい。
(3)アジア・太平洋地域諸国は、会議参加の準備をすすめるため、また会議の重要性を広く宣伝して広汎な大衆のなかに、会議の理解を浸透するために、それぞれの国でアジア・太平洋平和会議準備委員会を設けるべきである。北京で適当な時期に準備会議を開催する。
以上、われわれのよびかけについてのあなたがたの御意見と回答および提案を早急に知らせてくださるようお待ちしている。
六月三日から四日間、北京で準備委員会がひらかれた。この会議に、日本準備会代表として、大山郁夫、松本治一郎、宇田耕一、神近市子、桜沢如一、畑中政春の六名を送ることに決定していたが、日本政府は旅券の発行を拒否した。だが、そのころちょうど、高良とみ、帆足計、宮腰喜助の一行が、ソヴェトから北京に到着していたので、日本準備会は、準備委員会に日本代表として出席するよう要請し、上記の三名が「アジア・太平洋地域平和会議準備委員会宣言」に署名した。
九月二日、日本準備会は六〇名の代表団を決定した。一〇日、東京で「旅券獲得期成大会」をひらき、松本治一郎団長も九州から上京して討議に参加した。しかし、日本政府は、二〇日にいたりまたもや旅券の発行を拒否したのである。
一方、九月下旬、北京には、金子健太、亀田東伍、中村翫右衛門ら八名が現れ、またヨーロッパをまわって南博が到着し、さらに巴商事常務取締役の桜井英夫が日中貿易具体化のため香港から中国へ入国していた。日本準備会は、これら一四名を、正式の日本代表として承認した。
アジア・太平洋地域平和会議の本会議は、一〇月二日にひらかれ、一三日に終った。同会議は、(一)世界人民にたいするアピール、(二)国連へのメッセージ、(三)日本問題に関する決議、(四)朝鮮問題に関する決議、(五)文化交流に関する決議、(六)経済関係に関する決議、(七)民族独立問題に関する決議、(八)婦人の権利と子供の福祉に関する決議、(九)五大国平和条約締結運動の強化に関する決議、(一〇)アジア・太平洋平和連絡委員会の設立に関する決議、(一一)諸国民平和大会の招集を支持する決議をおこなった。議長団には、日本代表団から松本治一郎(中村翫右衛門が代理)、金子健太、南博が参加した。
(日本問題に関する決議)なお、日本キリスト者平和の会は、九月一八日、つぎのような「中華人民共和国キリスト教会に寄せるメーセージ」を送った。
アジア・太平洋地域平和会議は、アジア・太平洋地域と世界の平和と安全をまもるためには、日本が軍事基地にされ、ふたたび軍国主義化されたためにいっそうはげしくなった新しい戦争の危険を防止しなければならないと考える。
サンフランシスコで調印された単独「講和条約」と「日米安全保障」条約が、一九五二年四月二八日に効力を発して以来、アメリカ政府とその日本占領軍は、吉田政府に代表される日本軍国主義分子とむすびつき、日本国民をいっそう圧迫し、日本の民族独立を破壊し、ふたたび侵略にいで、平和を破壊しようと企図している。かつて気狂いのように世界支配をくわだてた日本人戦犯は公然と起用され、軍国主義者の支配のもとで日本国海軍は急速に再建され、軍需産業と軍事基地は大規模に拡張され、自らの対外政策と通商政策を自由に決定する日本国民の主権は乱暴にうばいとられ、さらに日本国民の民主的自由は横暴にも破壊された。これらの行動はあきらかに日本国民を永久に奴隷にし、さらに新しい侵略戦争を開始することを目的としている。
もともと日本軍国主義がたおれてのち、日本は独立・民主・自由・平和の国とならねばならず、日本の国民は自らの問題を解決し、独立・民主・自由・平和の新日本をまもるために必要な自衛のための武装をもつ権利をふくめて、かれら自身の政治・経済・文化生活をみずから決定する権利をもつべきであった。しかるに、アメリカ政府は日本が独立・民主・自由・平和の国となることを欲しておらず、反対に、日本を極東における侵略の軍事基地にするために、日本の軍国主義者を公然と利用している。これによって、アジア・太平洋地域の平和と安全は、重大な脅威にさらされている。
このような状態は、すでに日本国民および世界の諸国民のつよい反対をよびおこした。アジア・太平洋地域と世界平和と安全をまもるために、また日本国民の合理的要求を支持するために、アジア・太平洋地域平和会議は、満場一致でつぎのことをみとめた。
(1)不法なサンフランシスコ単独「講和条約」の締結が、アジア・太平洋地域にもたらした緊迫状態にかんがみて、すべての関係諸国はポツダム宣言および日本問題にかんするその他の国際協定の原則と精神にしたがって、日本と全面的な真の講和条約をむすばなければならない。
(2)日本軍国主義の復活に反対し、これを防止し、独立・民主・自由・平和の新日本を建設しようとする日本国民を支持する。
(3)すベての外国軍隊はただちに日本の領土から撤退すべきである。いかなる外国も日本で軍事基地をもつことはゆるされない。いかなる外国も日本の内政に干渉することはゆるされない。
(4)外国政府が日本の平和的建設と外国貿易の上に課したすベての人為的制限は、撤廃されなければならない。また日本は、日一日と悪化している日本国民の生活状態を改善するために、平等・互恵にもとづくすべての国との正常な通商関係を保証されるべきである。
以上の諸要求を実現するためには、日本国民とアジア・太平洋地域の各国民との相互関係と理解をすすめるための具体的な措置がとられねばならない。アジア・太平洋地域平和会議は、平和代表訪問団がえらばれて平和のためにたたかっている日本国民を訪問すべきであると考える。またアジア・太平洋地域と日本の平和事業に努力している団体が、たがいに定期的に訪問し合うことを提案する。
アジア・太平洋地域平和会議は、外国の占領と自国の軍国主義の復活に反対してたたかっている日本国民の偉大な努力に敬意を表するとともに、アジア・太平洋地域平和会議は、アジア・太平洋地域と世界の諸国民にたいし、独立・民主・自由・平和をめざす日本国民の英雄的闘争を積極的に支援するようによびかける。
(民族独立の問題にかんする決議)
アジア・太平洋地域平和会議は、平和と民族独立とがきりはなすことができないことであると確信する。もしもいずれかの国の領土と主権とが侵犯されるならば、平和も必ず脅威をうける。したがって、平和を保障するためには、すベての国の主権と独立と領土の保全が尊重されなければならず、侵犯をゆるさないし、各国の人民が自らの政治制度と生活方式とを決定する権利と自由が保障されなければならず、どんな形式によっても、どんな口実によっても干渉を加えることはゆるされない。異った政治制度と異った生活方式の国々は平和に共存できるのである。これらの目標は、国連憲章がしめしている原則や世界平和評議会が民族独立問題についてとってきた行動と完全に一致している。
本会議は、この地域の若干の国家の民族独立が日一日と脅威をうけている重大な状況に大きな関心をはらい、それが平和にたいする脅威であるとかんがえている。ある国々は、まさに外国の軍事侵略をうけている。ある国々は、他の国家にたいする侵略軍隊によって占領され、軍事基地の提供をしいられている。ある国々の内政と経済上の主権はすでに外国の支配をうけている。さらに多くの国々は、経済封鎖と文化圧迫の犠牲とされ、他の国家と経済的文化的関係を維持し発展させる自由をうばわれている。
本会議は、このような横暴な政策は、他の国家の民族独立にたいする侵犯であり、世界平和にたいする脅威であるとかんがえる。本会議は、民族独立をたたかいとるための正義の闘争を支持し、平和を実現するためのつぎのような手段を提案する。
(1)すべての国の主権の独立と領土の保全を尊重し、一国が他国の領土の保全を破壊し、他国の内政に干渉する行為には断乎反対する。
(2)朝鮮、ヴェトナム、マレーその他の諸国における侵略戦争を中止し、これらの諸国におけるすべての外国軍隊が撤退すること。
(3)日本に駐屯する占領軍やその他の諸国における外国軍隊の撤退、一国が他国の領土に設定した軍事基地の放棄、日一日と強化される軍国主義化を中止し、戦争を煽動するきまざまな侵略的条約を廃止すること。
(4)すべての国がその自国の天然資源を開発、利用し、他国と自由に交換し、さらにこれらの資源とその国民の生活条件の改善とその平和経済の発展のために活用する権利が尊重され、一国が他国の天然資源を奪うことにたいして断乎反対する。
(5)封鎖と禁輸の措置に反対する、平等互恵にもとづく各国間および各国人民間の自由な貿易を尊重すること。
(6)人種別差別待遇をけしかけ、諸民族間の離間を挑発するすベての行爲と、戦争を煽動するすベての悪意ある宣伝に反対し、あらゆる国の信教の自由、自国の文化を発展させる自由および他国との文化交流を維持する自由を尊重すること。
アジア・太平洋地域平和会議は、これらの目標を実現するために、各国人民が互いに助けあってともに奮闘するよう呼びかける。本会議はまた、アメリカ、フランス、イギリスの人民が、この闘争に支持と協力をおくることを熱望する。
主にある兄弟姉妹。
私どもは、アジア・太平洋地域平和会議を通じて、中華人民共和国における主にある兄弟姉妹に、このメッセージを送りうることを、喜びとし、光栄とするものです。 私どもは、いまこのメッセージをお送りするにあたって、これをまず私どもの謝罪の言葉をもってはじめなければなりません。私どもキリスト者は、日本があの暴戻な侵略戦争に突入してゆくのをみながら、それにたいしてほとんどまったくなんの警告も抗議も発せず、むしろ消極的にではあるがこれに協力さえしてきたことを、告白しなければなりません。ただ、私どもは、神が私どもの罪をイエス・キりストの十字架のゆえに許してくださることを祈り、あなたがたが主にある愛をもって私どもの手を執ってくださることを願いうるのみです。
しかし、私どもが、いまあなたがたにこのような謝罪の言葉を記す場合に、それでは私どもの国は、このような謝罪の言葉にふさわしい態度をあなたがたに対して示しているかといえば、遺憾ながら、けっしてそうではないといわざるをえません。日本政府は、まっさきに講和を結ぶべき貴国を除外して、サンフランシスコで講和条約に調印し、その結果、日本を基地とした飛行機が、貴国の人々を殺戮している状態です。私どもは、あなたがたが、このような事実を、どのような心持でみていられるか、十分に想像することができます。
日本政府が、貴国に対してどのような態度をとり、ふたたび貴国に対して脅威をあたえるような再軍備をいそぎつつあるとしても、その反面に、国民のなかには、それに反対する平和的な力が、しだいに成長しつつあります。キリスト教界だけについていっても、日本政府の方針に反対し、抗議し、もしこんご戦争がおこった場合にも、こんどこそは協力しないことを誓っている多くの兄弟姉妹があります。私どもは、あなたがたが、このようなたたかいのなかにある弱い私どものために祈り、はげましてくださることを願います。
私どもは、貴国の教会もまた、私どもとは別の試練と、たたかいと、誘惑のなかにあることを想像します。私どもは、それぞれの置かれたところにおける苦しみを、主より賜った苦しみとして喜んで担いたいと思います。そして、それぞれの国が、主の御意にかなう国となるために、とりなしの祈りを祈りつづけましよう。そして、一つ望みに生きるものとして、たがいに祈りをかわすとともに、すでに平和の福音をきいた者の証しの業として、平和のためのたたかいを、手をとりあってたたかいたいと思います。
主にある平安を祈ります。
日本キリスト者平和の会
日本労働年鑑 第26集 1954年版
発行 1953年11月20日
編著 法政大学大原社会問題研究所
発行所 時事通信社
****年**月**日公開開始