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日本労働年鑑 第24集 1952年版
The Labour Year Book of Japan 1952

第二部 労働運動

第一編 労働争議


第二章 主要な争議

第七節 東宝争議

 一九五〇年五月一七日の人員整理通告に始まり同年一二月二八日の妥結に至るまで、その間困難な条件の下に多くの脱落者を出しながらも二二六日の長きに亘って闘われた日映演の東宝第四次争議は、次第に激しさを加えて来た資本攻勢の圧力に屈せず闘争を展開し労働組合の力の未だ衰えざるを示したという意味で、日立争議と並んで五〇年度の組合運動に於ていわば記念碑的な意味をもっていたというに止まらず、文化産業としての映画の特殊性から、ひいては文化の在り方に対する資本家的な考え方と労働者的見解との基本的な相違をうきぼりにさせ、日本映画を守るための闘争としての意義を荷うものであった。

 四八年四月、東宝株式会社の企業整備(=人員整理)の強行も、却って日映演による大争議を誘発し業務はこれがため数ヵ月休止のやむなきに至って多大の損害を蒙り、又整備それ自体も会社の意図のままにはなしえなかった。その後会社は組合側のいわゆる「興行主議的」な方針の下に経営をすすめたが、経済九原則によるいわゆる「安定化」政策の強行を背景として赤字は却って累積し、新東宝との紛争問題や社内の派閥争い等のこともあり、経営の危機は深まる一方であった。五〇年一月末現在で借入金その他の債務は約一三億円、赤字は一億五千万円を累算するに至ったのである。かゝる事態に対して日映演・全映演はそれぞれ積極的な再建案を提示してきたが会社側の容れるところとはならず、五月一七日一、三〇〇名の大量解雇を含むほぼ次のような再建案を提示し、これについての団体交渉を日映演・全映演両組合に申入れた。

 提示された再建案及び交渉申入書は左記の如くである。

 東宝再建案
 一、略
 二、再建の根本方針
 (1)映画製作の根本方針
 (イ)月産二本を目途に一切の機構人員を圧縮整備する。
 (ロ)貸スタジオ制を改め自主製作体制を明確にする。
 (ハ)一本の製作直接費は平均最高九五〇万円とする。
 (2)配給の根本方針
 自主作品を中心として外部作品の買取新版上映、邦洋混合番組等時宜に適した配給方法をとる。
 (3)興行の根本方針
 日劇・名宝劇場、梅田劇場等の大都会の劇場は自主経営を行わしめる。舞台製作所は独立せしめ自主経営を行わしめる。日劇ダンシングチームは独立採算制を実施する。

 三、略
 四、人員整理
 (1)整理対象者数
 現在人員三、五〇〇名中一、三〇〇余名。
 (2)人員整理基準
 (一)業務縮小機構簡素化のため剰員となり配置転換困難な者
 (二)勤務年数の短い者
 (三)嘱託、臨時雇
 (四)年少者にして比較的転職の容易な者
 (五)高年令者
 (六)経営効率に寄与する程度の低い者
 (a)欠勤遅刻早退の多い者
 (b)勤労意欲なく業務に熱意のない者その他会社の経営方針に協力の程度の少ない者
 (c)技能低位にして将来習熱の見込のない者
 (七)病弱者
 前各項に拘らず会社の再建に必要な特殊業務に従事するものはこれを除く。
 (3)退職諸手当
 希望退職者には現行規定による退職手当の外に扶養家族を有する者は一率に基準月収の二ヵ月分、扶養家族の無い者は一率に基準月収の一ヵ月分及平均賃金の三〇日分解雇予告手当を支給する。

 五、六、略
 申入書
 会社の経営が正に破局にひんしている事は貴組合に於ても熟知されるところであります。会社はこの危機を切り抜けるべく凡ゆる角度から検討を加え、ここに会社再建案を得ました。よって会社はこの再建案の実施について是非貴組合の御協力を得たく左記により会社再建案を議題にして団体交渉を申入れます。

 なほ本団体交渉の趣旨は貴組合に対する義務といふことでなく、飽くまで組合の建設的意見を聴くためのものであります。しかし貴組合も御承知の通り、会社の現況は一刻もゆるがせに出来ませんから、貴組合が故意に交渉を遷延されるような事があれば不本意ですが会社原案を執行せざる得ません。右念のため申添えます。

 記
一、議題 別紙「東宝企業再建整備について」
二、日時 昭和二五年五月一七日自午後一時〜至午後二時
三、場所 本社三階会議室
四、交渉人員、会社組合ともに一二名以内の代表及双方書記一名
昭和二五年五月一七日
                   東宝株式会社 社長 米本卯吉
  日本映画演劇労働組合東宝支部
        委員長 寺田昌業 殿


 右の申入書に見る如く会社側のいわゆる団体交渉なるものの趣旨は、会社再建案そのものについて労資双方が討議するというよりは「会社原案は最後案であり、変更の余地なきものである」ことを前提した上で、それに対して組合側の「建設的意見」があれば「とるべきはとり、捨てるべきは捨て、経営権に基く本案実施の可否を決したい」(五月二〇日付会社側申入書)と云うにあり、組合側からすれば本来の団体交渉のあり方とは著しくその趣を異にした一方的な態度であり、当初から問題の平和的解決の可能性をうばうものであった。だが「会社の主張する経営権とは法律的に何等根拠を有するものではなく、人員整理の如き組合員の労働権を剥奪する大問題が対等の立場における組合との団体交渉に於いて解決さるべきことは労働法規に基く明白な公理である」従って「事態を平和的に解決し、徒らな紛争を避け」るため「今次人員整理案に関する一切の問題を労働組合法に基く団体交渉により解決をはかること」「右の交渉に於て結論を得るまでは会社は個人に対し整理通告を発する等一方的措置を行わぬこと」などを要求する。「右の要求を会社がなお拒否し、整理案を一方的に強行するならば、組合はやむを得ずポツダム宣言、極東委員会一六原則、日本国憲法並びに労働組合法に規定された労働組合の正当な権利を行使して、組合員の労働権と生活権を擁護せざるを得ない」(五月二〇日附組合側申入書)とする組合側の意見と、「企業整備案の立案と其の実施に就ては会社と組合との間に無協約の今日に於ては会社は協約上の拘束を課せられてはいない」故「組合に対して同意、承認とかの義務は負って居らない」よって「今回の団体交渉は以上の立場から見て組合からの意見を求めるという点にその性格があると信ずる」さきの組合側の申入れは「会社企業再建の一日も放置すべからざる今日に於て其の解決を故意に遷延せしむるもの」である「従って、この段階に於ては整備案実行の可否は会社の経営権に基ずき最終決定すべきものと考える」(五日二〇日附会社側申入書)との会社側意見とは、何等の歩みよりもみせず、二一日夜会社側は一、三〇〇名のかく首個人通告を発送した。よって組合側(日映演)は左の通告を発してこれに応じた。

日本労働年鑑 第24集 1952年版
発行 1951年10月30日
編著 法政大学大原社会問題研究所
発行所 時事通信社
2000年6月1日公開開始


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