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日本労働年鑑 1951年版(第23集)
The Labour Year Book of Japan 1951

第二部 労働運動

第一編 労働争議


第二章 主要な争議

第四節 東宝争議(つづき)
 いま此の間に於ける争議の進行状況をみれば会社側は四月二二日日劇ダンシングチームの四名を解約し同二二日全映演に対しても一三〇名の馘首を行い、かつ企業分割を表明、同二六日撮影所への製作費送金を停止し、被馘首者の入所を禁じ、同三〇日には撮影所を休業し六月一日遂にこれを閉鎖した。此のほか会社側は日映演、全映演の差別なしに全国に渡つて整理をおこなつた。また五月六日撮影所分会が先手を打つて東京地方裁判所へ組合委員の地位保全を理由として仮処分を申請したのに対し、会社側も同月一〇日、撮影所の保全を妨害するものを排除したき旨をもつて逆に東京地裁に仮処分を申請している。組合側は四月二〇日から開かれた日映演全国大会に於いて全組織をあげて強力な闘争を展開することが決定された。さらに組合側は撮影所においては不服従運動を行い、これに加えて、北海道分会(六月一九日)全国三五直営館(六月二九日)中部分会(七月一日)がそれぞれ短期間のストを行うなど複雑柔軟な戦術をとつた。外部に対しては労働者、農民、市民を含めた観客層を対象に広範な宣伝活動を展開し、争議団は六月一日からの賃金不払にも係らず、全国巡回公演、行商及び資金力ンパ等によつて争議財政を賄いさらに、馘首された組合員に或る程度の生活資金を分配しつつ、苦しい闘争を続けた。この組合の闘争の成果は労農市民文化団体による「日本文化を守る会」の結成(六月一八日)をみ、地方においても、経営、工場、学校等を中心に「東宝映画を守る会」「日本映画を守る会」等が組織されていつた。それらの組織のうちの一つとして九名の監督、脚本家の提唱による「日本映画を守る会」結成のアッピールを左にかかげる。

日本映画を愛する皆様ヘ
 皆さん、最近パリーで映画人の大デモ行進が数日に亙り行われました。「悲恋」「美女と野獣」等の主役を演じたジヤン・マレーや、名女優フランソアズ・ロジエ等も先頭に立つてパリジヤンに呼びかけました「フランス映画を外画の攻勢から守れ」と。

 皆さん、これはフランスだけの話でしようか。日本映画も今や同じ運命にあります。資本も少く機械設備も悪いのを芸術的良心と労働強化で、おぎなつて居る日本映画は、外画の進出の前に苦闘して居ますが、資本家はこれに便乗して日本文化のこと等は考えもせず、日本映画を圧殺し、低級なエロ・グロ映画を製作して日本映画を三流以下の見世物的存在に陥し、金もうけの為には俗悪な文化反動を敢てやろうとして居ります。

 これは既に昨年中「戦争と平和」「今ひとたびの」「素晴しき日曜日」「四つの恋の物語」「新馬鹿時代」「銀嶺の果て」「第二の人生」「酔いどれ天使」等々の名画を製作した東宝撮影所で行われ、優秀な芸術家、技術者が馘首され、企画も一方的なもうけ主義企画に変えられようとして居ります。これを守る者、それは皆さんの民族文化への愛情以外に有りません。そこで私達映画関係者は皆さんの良識に訴え、日本映画を守り、これを世界水準にまで高め、民族的文化として誇り高く世界に市場を求める素地を作りたいと思い、ここに「日本映画を守る会」を提唱する次第です。右の趣旨により「日本映画を守る会」に御賛同願えれば幸いと思います。

 提唱者
 山本嘉次郎、衣笠貞之助、五所平之助、黒沢明、滝沢英輔、小田基義、牛原虚彦、千葉泰樹、八住利雄、八木保太郎

 この組合の活動に対して世論も概ねこれを支持した。社会党文化部は四月二四日声明を発して働く者の文化を守れと訴え、共産党は「組合運動と民主民族文化」を守るために全組織をあげて東宝争議を支持した。朝日新聞は東宝争議に関連して「興行資本家」を攻撃した(朝日、四・二四)。六月二日には衆、参両院の文化、労働委員会合同会議が日映演松本書記長から東宝問題につき説明を聴取している。

 日映演の宣伝闘争はかように広汎に展開されたが、他方においては組合側の戦線から脱落するものもあつた。すなわち日映演を脱退した演劇従組、東宝従組、撮影所民主化クラブ、営業分会等と全映演傘下の第二組合は七月一八日東宝労連を結成し(約一、五〇〇名)直ちに会社側と協定を結んだ。さらに東宝労連側組合員は書記局を設置しようとして八月九日撮影所内に押し入つたが日映演の反対にあい失敗し、この事件後日映演側は友誼団体による防衛態勢を固めていつた。

 会社側は、六月一日の撮影所閉鎖後、一九日、組合の給与、馘首撤回、撮影所再開に関する交渉申入れを拒否し、二五日には正式団体交渉が開かれたがこれも二八日に決裂している。その後は七月末に撮影所のマネジメント・スタツフ、芸術家グループを交えて渡辺社長らと会見したが結論をみず、芸術家グルーグは「渡辺、馬淵両氏がいる限り東宝で仕事をしない」と声明(八月一二日)した。

 このように労資両者は力を尽して争い、かつその立場を主張して譲らず、組合側は財政的に困難を加え、使用者側も映画製作を行うことができないので赤字は増す一方だつたといわれる。この行詰りの状況を打開しようとして会社は撮影所の仮処分を強行しようとし、八月一四日、会社側は執行吏と共に春田、三宅両弁護士を派遣して来たが、当日は組合側に拒否され一応ひきとつた。事態の緊迫化に伴い末弘都労委会長は急拠争議調停案を作成し労使両者にこれを提示した。その内容は大むね次の通りである。一、会社は日映演砧分会と協議して撮影所の再建案を立てる。二、人員整理問題は再建案の一部としてこれを解決すること。三、当事者はいずれも現在以上積極的行動に出ないようにされたい。即ち(一)会社は仮処分を待つ、(二)撮従は八月一〇日のあつせん案の線に留る、(三)組合は部外者をたちのかせバリケードなどを撤去する、(四)協議成立の上は組合は速かに一切の提訴を取下げる。(五)以上諸点解決の上は諸組合は単一化に努力されたい。この調停案を組合側は細部修正の上受諾したが、会社側はこれを拒否し、末弘会長はついに調停を断念するにいたつた。

 こうして会社側の仮処分は必至となつた。組合側は既に友誼団体員とともに共同防衛体制を固め、連日連夜数百の組合員、友誼団体員がたてこもつて仮処分に備えていた。

 調停の拒否された翌日、すなわち八月一九日ついに仮処分は強行された。その日の状況について一人の外人記者は次のように書いている。

 

……一九日米国の第一騎兵師団は五〇名の兵士と四台の戦車を出動、万一の事態に備えた。……第一騎兵師団ウヰリアム・C・チェイス少将は飛行機で同所上空を飛び非常事態の警戒にあたつた……東宝争議に新しい運命の日を迎える一九日午前八時半土田警備隊長総指揮の武装警官隊約二、〇〇〇名は渋谷区緑岡町青山学院前に待期、同時刻に田中警視総監、堀検事正の(抵抗を止めろ)の勧告文を成城署長を通じて組合側に手交、同九時半に執行吏が撮影所にのりこみ、これと同時に午前には撮影所を中心に一キロの範囲内八ヶ所の交通しや断包囲陣をしく、正門前道路上で行われた組合側と会社側との交渉は一○時四五分執行を円満に行う事に意見一致を見、組合側が所内で開いた最後の拡大職場会議からインターナショナルの高唱がとどろきわたり、一種凄愴の気がみなぎつた。いよいよ猶予期限の一一時、組合側は第二ステージに集合……土屋委員長から「我々は明日への闘争の基盤を得た、決して負けたのではない、只今から全員撮影所を退去」との宣言があり、同四五分四列縦隊に肩をくんだ組合員が労働歌を高らかに合唱しつつしゆく然と撤退、一三〇余日の籠城に矢つき刀折れて本陣を明渡す組合員の頬には涙が光つていた。……撮影所を撤退の組合員は一たん付近の幼稚園に引上げたが午後五時頃仮処分執行が終るとともに撮影所内にもどり、特に第一組合のために設けられた仮処分執行除外の場所に落着いた(U・P・アーネスト・ホープライト記――世界日報、四八年八月二〇日所載――日本映画演劇労働組合東宝撮影所分会のビラ「世論は『東宝争議の大弾圧』をどうみるか?」より転載)。

 また日映演の「中闘日報」は次のように述べている。

「一九日午前八時半東京地裁勝田検事の指令下警視庁特別警備隊その他約一三〇〇名の警官が青山学院に集結、撮影所に向つた。九時三〇分勝田検事、春田弁護士ほか執達吏が撮影所へ現われ、分闘執行部代表と面会、仮処分執行を妨害行動のないよう申入れて来た。撮影所の周囲には大量の武装警察官並びに小型自動車、装甲車が約二三、四台配置されていた。又撮影所の上を低空で飛行機が飛んでいた。分会はただちに執行部会を開き申入れに対し討議した結果、権力の暴圧が余りはげしいので彼我の力関係を見極め無暴な出血をさけるため、ひとまず仮執行を受けることに決定、同一〇時四五分、このむね回答し、全員所内から整然と退去演技研究所へ集結した。官憲弾圧来るの報に友誼団体から多数組合員が早朝より応援にかけつけたが成城駅、祖師ヶ谷大蔵駅にて官憲が通行を阻止し、青いリボンを胸につけた民同(東宝労建)のみ撮影所へ通した。ここに仮処分は官憲の圧力をかりで執行されたが撮影所再開の主体勢力は依然としてわが方に確保されている」(日本映画演劇労働組合中央闘争委員会、中闘日報 No.51 一九四八年八月一九日発行)。

 以上の資料からも明かにされるようにこの仮処分は非常に大規模なものであつた。この仮処分の状況が全国に伝えられるや、まず八月二一日、北海道、東北、中部、東海各地方の日映演系劇場、映画館は二四時間の抗議ストに入り、二三日には、関東、東海、東北、大阪各地の劇場映画館松竹大船、同本社、新世界、日映の各分会は抗議スト第二波を決行した。特に、松竹大船撮影所で不当弾圧反対大会を開いて、東宝撮影所分会員の生活を応援する、撮従の仕事に協力したものはフリー、組合員を問わず大船撮影所組合員は一緒に仕事をしないと決議した。

 こうして仮処分の強行は、かえつて組合側及び世論を刺戟し争議解決はいよいよ困難となつた。会社側は、九月八日になつて、日映演を相手とせずに撮影所再開方策をとるという再建案を発表し、東宝労連も協議の用意があると発表したが、現実には日映演を除いて問題解決は考えられなかつた。組合側も長期間の争議態勢の持続にようやく疲労の色をまし、かくして九月三○日、会社と組合は「再建のため双方誠意をもつて交渉に当る」との覚書を交換して正式交渉に入つた。一〇月一日会社側は撮影所再開、人員整理の承認、提訴の取下げ等の條件つきで提案した。一方、組合側は交渉の当初から長期全国ストの態勢をととのえ、五日に至つて、撮影所再開については、映画の質的低下を来たさない、再建案は馘首対象者を吸収しうること、組合員に九、〇〇〇円を再開促進の前に貸付ける、馘首問題については他の問題との関連において検討する、提訴は理由がなくなれば取下げてもよい等を内容とする解決案を提示した。しかし両者は人員整理、貸付金の問題をめぐつて折合わず、一五日に至つて組合側は、会社側に対し、一、都労委のあつせんを求める、二、撮影所再開の期日を確約する、三、交渉再開と同時に貸付金を支給する等の期限付き申入れを行つた。しかし会社側は拒否的回答を行つたので日映演中闘は一九日から参加の全東宝分会に対し長期ストを行うよう指令した。このとき事態の重大化に鑑み、局面打開のため会社側渡辺、馬淵正副社長、組合側伊藤委員長、宮島委員らの間で非公式幹部会談を行い「組合幹部二〇名の辞職」を条件として了解点に達した。よく一九日、全国スト突入のなかに正式交渉が再開され、次の如き「争議解決に関する覚書」に仮調印した。かくして一九五日にわたる争議は一応の妥結をみたのである。

覚書
 会社と組合は相互に以下の各項を確認し、ここに争議解決に関する覚書に仮調印を行う。
一、組合は会社の経営形態、規模、生産計画、所要人員の決定に関する一切の権限は経営者に属することを認める、ただし会社は組合員の労働権を尊重し生活権に対し十分な理解を与えることを約束する。

二、組会は日映演に属する従業員についての会社の整理案を一応承諾することを前提とし次の処理を速かに行うことに同意する。

(1) 全国を通じて組合幹部(氏名略)は自発的に会社に辞表を提出する。
(2) 撮影所に就いては左の通りとする。
イ、会社は教育映画関係者(旧資料調査室員を含む五〇名)については目下会社で立案中の別会社の設立または他会社との提携によりできるだけ多く就業の機会を与えるよう努力する。

ロ、会社はイ項ならびに退職手続完了者を除く一般従業員については撮影所の再建計画ににらみ合せて、再雇傭をはかることとし、その数は最低八○名を下らないことを約束する。

ハ、会社は契約者四〇名については、目下新設準備中の芸術家および演技者集団の運営方針の決定をまつて他の契約者と同様に取扱う。

(3) 会社は本社および各地支社従業員については、合計一〇名内外を雇傭することとし、本社または各地方支社毎に協議を行う。

(4) 会社は演劇部従業員については配置転換をはかることを前提とし若干名再雇傭する。
三、会社と組合は、都労委、地裁、地検に対する諸提訴を相互に取下げる。
四、組合は従来の団体協約は、昭和二三年三月三一日で有効期間満了となり、従つて現在は無協約であることを確認する。

五、組合は会社の撮影所再建案を承認する。
六、組合は三月二五日付四要求を撤回する。
七、会社は社内の平和と秩序を保持するために事業場内に於ける政党活動に対し必要な制限を加える。
八、組合は会社内の他の組合が併存している間は相互に尊重し合い絶対に剌戟的行為を慎しむと共に会社と組合は他の組合の意向を尊重し、今後の組合の統一について誠意を以てその達成に努力する

九、前記各項を組合が認めることを条件として会社は直ちに撮影所のロツクアウトをとき組合員に対し東宝労連と同一条件による貸付金を支給する。

十、以上の処理の実施についての細項は別にきめる。
 昭和二三年一○月一九日
          東宝株式会社社長 渡辺銕蔵
       日本映画演劇労働組合
         東宝分会連合会議長 宮島義男


日本労働年鑑 第23集/1951年版
発行 1951年1月1日
編著 法政大学大原社会問題研究所
発行所 時事通信社
2000年2月15日公開開始


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