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日本労働年鑑 戦後特集(第22集)
The Labour Year Book of Japan post war special ed.

第三篇 労働協約

第二章 経営協議会


第一節 概説

 終戦後に於ける労働運動発展の中で注目すべきものに労働者の経営参加の問題がある。急速に発展した労働運動が最初の賃上げ、組合承認、団体交渉権の確立要求の段階を脱するに及んで労働者の要求のなかには「労働協約の締結」「労働組合経営参加が含まれるようになつた。それは戦後の民主的諸改革の中に於ける産業民主化の要請にともなう企業経営に対する労働者の発言権獲得を意味するものであつた。労働者の経営参加は労働協約に成文化せられ、多くは経営協議会の形態をとるにいたつた。即ち厚生省労政局の報告によれば経営協議会の設立状況は二十年十二月に三、翌二一年一月に七、二月に十四、三月に六九、四月八九、五月一一五、六月一三八と急増し、二一年六月末迄に厚生省に到着したところによれば、報告せられた協約数三五四の内、協約内容の不明なもの二五件を除き、協約中に経営協議会その他、経営参加機関の設置を規定するもの二〇七件(六一%)に達している。

さらに同年八月には協約締結数八二一件のうち経営協議会の設置を規定したもの五二〇件(六三%)に達した。

 さらに二一年末には一、五八八件、二二年末には協約締結組合数一二、九〇六件のうち、実に一一、八八三件(締結数に対して九二%、全組合数に対して四二・四%)に達し産業別では鉱業、製造工業、ガス電気水道業、商業、金融業、運輸通信業に多く、地域的には北海道、東京、神奈川、愛知、大阪、兵庫、福岡等が多くを占めている。

 此のように労働者の経営参加は急激に増加したのであるがこれと深く関連して「生産管理」をめぐる諸問題がある。生産管理は終戦後の労働運動の中であみ出された新しい争議戦術であるが、二十年末から二十一年末にかけて最も有効な争議手段として多くの労働組合によつて利用され、事実、当時の資本陣営に多大の衝撃を与えたのである。これについて政府当局も二一年二月一日の四相声明を発表し、労働争議にともなう暴行、脅迫、所有権侵害等に対して警告を発し、さらに同年六月十三日の「社会秩序保持に関する政府声明」によつて生産管理否認と、その取締につき態度を明かにするとともに「経営者側及労動者側の代表で構成する経営協議会等を各企業に設け争議を必要としないような措置を予めととのえておくことが望ましい」といい、同時に「経営協議会に関する書記官長談」をもつて政府の経営協議会に関する見解をのべ、労資双方に対してその設置を慫慂した。

       経営協議会に関する内閣書記長談

現実になにより必要なことは、企業者側と労働者側との民主的な協力によつて生産を増すことである。政府はこのために企業ごとに経営協議会の組織内容については、政府としては中央労働委員会等の団体が企業の実情に応じた適当な案を作成して発表されそれらの案を参考として、各企業の特殊性を加味して実際に役立つ立派な協議会が設けられることを希望するものであるが、極めて大筋の点について政府の考えを述べてみたい。

 経営協議会は企業者側と労働者側の同数の委員をもって組織し大体つぎのような事柄を協議し、協議会で決定したことについては企業者側も労働者側も十分に責任をもって之を実行することにしたい。

 (1)生産計画及びこれを実行するために必要な作業計画に関係ある事柄

 (2)作業研究、技能改善その他労働能率の向上に関係ある事柄

 (3)労働配置その他作業条件の合理化に関係ある事柄

 (4)危険防止その他作業環境の整備に関係ある事柄

 (5)労働時間、賃金の支払い方法及び決定基準その他労働条件の適正化に関係ある事柄

 (6)労働衛生、労働能率の向上と労働強度の調整その他労働力の保全に関係ある事柄

 (7) 食糧その他の配給物資の割当基準及び配給方法に関係ある事柄

 (8) 従業者住宅、医療施設その他厚生施設の整備改善に関係ある事柄

 (9) 厚生基金制度その他厚生制度の設置運用に関係ある事柄

   なお規模の大きい企業では経営協議会に例えば生産協議会と労務協議会の二つを設けて、主として生産そのものに関係ある事柄と、労働條件に関係ある事柄と別々に協議する方法をとつたり、危害防止委員会、能率増進委員会、配給委員会、厚生施設管理委員会等の特別委員会を設けたり、一つの職域だけで処理出来る事柄については職域協議会を設けて協議する等のことも適当であろうと思ふ。要はどこまでも実情に応じた弾力性のある協議会とすることである。

 又企業者は協議会に対して企業の全般的な計画や経理状況を報告説明して人事の一般方針等も相談して、労働者側の正しい希望は之を出来るだけ企業経営の各方面にとり入れて行くべきである。政府としては、企業者側も労働者側もお互に対手の立場を十分に尊重し理解し経営協議会を立派に活用し、生産を増すために一段と努力して下さることを切に希望する次第である。

 右の書記官長談の中にあるように、政府は、厚生大臣の名に於て六月十七日に中央労働委員会に対し「経営協議会の組組織運営等に関する参考例の作成」を諮問した。中央労働委員会の内部に於ては労働者側委員より、かかる参考例の作成について不要有害であるとの意見もあったが結局、小委員会附託となつて原案が作成され、七月十七日の総会で決定をみた。

政府に答申した「経営協議会指針」は左の通りである。

 

第一 経営協議会の本質

 経営協議会は産業民主化の精神に基き労働者をして事業の経営に参画せしめる為使用者と労働組合との協約に依つて設けられる常設の協議機関であつて、使用者と労働者との代表が平等の立場において協議するものであり、決定事項は双方にその実現の義務を負う。しかし乍ら事業幹部の経営全体を統括指揮する権限と職責とには変化はない。労働者に株式を与え株主総会に参加せしめ又は組合の推薦するものを重役に加える方法は経営協議会とは全く別個のものである。労働者と使用者とは併立の状態になければならない。

 第二 経営協議会の設置

協議会は労働協約に基いて設置される。協約に基かず一方的に使用者が労働者の経営参加を認めるものは含まれない。

 第三 経営協議会の構成

 協議会は協約の定むる処により労資双方の代表を以て構成される。

1、委員数 労働協約により任意に定める。

2、使用者代表使用者側から何人を出すかは幹部の自由である。

3、労働者代表 組合が正規の手続によつて自主的に定むべきである。代表は組合員全部よりの完全な代表権を持つものでなければならない。

4、第三者代表 第三者を加うるや否や協約によつて規定される。事業によつては公衆代表を参加せしめうる。

 第四 経営協議会の権限

 協議会の権限、即ち労働者に許される経営参加の程度は各事業の特殊性に従い協約をもつて適宜に定められる。事業の性質又は当該組合の実力に依り条理上自ら一定の限界が存在する。その限界に関しては現行法上強制法規は存在しない。

 1、協議事項 一般的なものを挙げれば次の如くである。労働時間、賃金の支払い方法及び法定基準、労働条件の適正化に関係ある事項、労働衛生、労働能率の向上、保全、厚生施設、生産計画等であるが、之等に限定されておるわけではない。

 2、労働者の人事、雇入解雇、職制等である。具体的人事は寧ろ協約中に収めおくことを適当とする。

 3、利益配当、重役その他の幹部の人事を協議することは違法ではない。しかし乍ら会社の定款にその趣旨の規定を設け問題の発生を予防する用意がないと協議会で決定したことは法律上株主総会を拘束し得ない。

 4、紛争を生じた時は協議会にかけた上でなければ争議行為を行わない旨の条項を設ける予防手段を設けるべきである。その他経理内容の公開も必要である。

 第五 経営協議会の性格

 1、決議は通例満場一致が原則である。多数決制は殆どない。

 2、重要問題の決議は一対一の結果となり解決困難となる故予め第三者の調停仲裁に附する条項を設ける必要がある。

 3、決議の効力は労働協約と同一の効力を有する。双方は実現の義務を負う。決議事項が株主総会の承認なき時は決議は法律上会社を拘束しない。しかし乍ら実情を考慮する如く株主総会を会社幹部は指導すべきである。定款中法的拘束力を規定すれば右の如き問題は起らない。

 右の書記官長談、あるいは中央労働委員会の「経営協議会指針」によつて、政府当局の経営協議会に対する態度を知り得るのであるが「指針」によれば「経営協議会は産業民主化の精神に基き労働者をして事業の経営に参画せしめるため使用者と労働組合との協約に依つて設けられる常設の協議機関」であり決定機関でも懇談機関でもなく、経営者の権限と責任には経営協議会設置の故を以て何らの変化もない。経営協議会でとりあげられるべき事項は企業の特殊性に従い協約に於て適宜定めるべきであるが、普通には労働時間、賃金、労働衛生、厚生施設、物資配給、及び生産計画ならびに作業計画等々の労働者に直接利害関係のある事項であり、具体的人事、或いは重役その他会社幹部の人事を協議会にかけることは望ましくない。利益配当等についても同様である。さらにこの指針中注目すべきは経営協議会に一種の紛争處理、争議予防機関的な性格を与えようとしていることであり、この点に政府当局の経営協議会に対する期待がおかれていたことは、さきの「社会秩序保持声明」に於ても明かである。

 この政府当局の態度に対して経営者側は当然賛意を表し、経営協議会は、株主総会、重役会の権限を制約しない程度に決定権をもつべきであり、この意味で人事、営業方針への発言は越権で、労働条件と工程管理の範囲に止まるのが穏当であるとした(二一年六月一五日、日本経済)。さらに争議予防の点については、たとえば二一年十月十六日に開かれた関東経営者協会の経営者団体連絡会の席上提案された「経営協議会対策」をみると「経営協議会規約締結にあたつて注意さるべき点は、経営協議会に於ける交渉が決裂しない限り、労働組合側は争議に入らないといふ一項目を確約せしむべきである。これさへ確約されているならば協議会がとりあげる協議事項の範囲は問題にならない」と強調しその意図を明にしている。しかし経営者側に於ても、一部のグループによると、例えば化学工業連盟並びに化学工業労務管理研究委員会の二十一年八月発表した「経営協議会の設置および運営規準試案」をみれば懇談機関諮問機関としての性格を否定し、通常の業務運営については最高決議機関にまで発展することが望ましいといい、やや異つた見解をのべているのが注目される。

 一方労働組合側も既述のように経営参加、経営協議会設置をその主なる要求の一としているが、如何なる観点からこれを取上げているか。産業別労働組合会議の経営協議会に対する見解は、協約に於て詳細な規定を行い、経営協議会はむしろ日常闘争の場とするにあるが、同会議傘下の全日本化学労働組合の経営協議会基準(二一年十一月)によれば「経営協議会は『労働者の手による産業の復興』という吾々のスローガンを実際に実現するための戦場である。政府は労働組合の闘争が多少の政治性を帯びざるを得ない現状にもかかわらず其の目標を狭い経済的なものに限定しようとし、むしろ常設的な経営協議会を以て一切の労資の紛争を解決せしめる為の機関として労働組合運動を骨抜にしようと企図し罷業権絞殺の為に活用せんとしている。吾々は之を十分警戒してしつかりと吾々の主張に沿つた日本経済の再建を図らねばならない」といつて、政府ならびに経営者側の経営協議会を争議予防機関たらしめようとする意図に反対している。この点に於て明確な態度を表明した他の一例をあげれば、二二年九月に統一団体協約締結他七項について中労委に提訴した日本電気産業労組の経営協議会についての見解であつて、同組合は同協約案中に経営参加の章を設けているが、この解釈において経営協議会を経営参加の機関となし、労働条件の設定その他はすべて団体交渉によつてのみ行うとしている。二一年十月三十日に決定した産別会議の統一団体協約規準案に於ては「団体協約に反しない範囲に於て経営協議会を設け、経営の民主化につとめ」「経営協議会で決定したことを会社と組合との双方が認めたときは本団体協約と同じ効力を有する」として協約と経営協議会との関連を明かにし、かつその注意事項に於ては「経営協議会の決定事項を団体協約と同じ効力をもつと規定したものがあるが、これは組合の自主性、民主性をそこなうものであり、幹部の妥協にみちびき易い、又経営協議会を単なる諮問機関とすることもあるがこれでは経営民主化を実現することは出来ない」と指摘している。

 産別系労働組合のこのような考え方に対し、総同盟は、やや対蹠的な態度をとつている。二一年十二月十三日開かれた総同盟中央委員会は労働協約要綱、同基準案、経営協議会規約案、経営協議会規約案を決定しているが、まず協約との関連に於ては「協約は運用に重点を置くべきであるから、基本的な権利義務の外は経営協議会にゆづること」として協約は極めて概括的にとりあつかい、経営協議会については、(一)労資間における唯一の協議決定機関とすること、(二)協議事項は労資の諒解によつて決定すること、(三)協議決定事項は労働協約とすること、(四)協議事項は客観的条件と組合の実力に応じてとりあげること、(五)協議会の協議整わざるときは労資双方によつて設ける調停機関にかけるようにすること等をあげ、協議事項は賃金、労働条件、人事、厚生福利、生産、制度の改廃運営、会社の経営方針その他を網羅している。このように総同盟は経営協議会を重視し、例えば上の第五項或いは協約規準案第五条「会社及び組合は第三条により労働協約を締結するため交渉協議を行ふも妥結にいたらないときは会社及び組合双方から各二名あて選任した調停委員会に付議する。此の決定以前に工場閉鎖又は同盟罷業を行はない」と規定し、やや政府、中央労働委員会、及び経営者側に近い見解を示している。以上のような産別会議及び総同盟の考え方は、経営協議会に対する労働組合内部の対立的な見解であるが、その他の中立組合の態度も、この何れかに属すると考えてよいであろう。

日本労働年鑑 第22集/戦後特集
発行 1949年8月15日
編著 大原社会問題研究所
発行所 第一出版
2000年2月1日公開開始


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