OISR.ORG へようこそ 大原社会問題研究所

日本労働年鑑 戦後特集(第22集)
The Labour Year Book of Japan post war special ed.

第二篇 労働組合

第三章 労働組合運動


第四節 企業整備対策運動

 終戦以来所謂「軍需補償のうちきり」がやかましく論議された。この問題について一部の金融資本を代弁する人々の強い反対があつたにもかゝわらず、昂進するインフレーションは生産の基礎を崩壊せしめることになつたため、ついに「戦時補償特別課税法」が公布されて「軍需補償」は原則的にうちきられることになつた。もつともこれによつて「軍需補償うちきり」の問題は徹底的に解決されたわけではないが、此の時に於て海員、国鉄の首きりが行われようとしたことは周知の事実である。労働組合の企業整備に対する闘争はこの時の海員、国鉄の馘首反対闘争から始められたと言つてもよい。しかし此処で特にとりあげるのは「軍需補償のうちきり」によつてこうむつた金融資本の損失を緩和するために公布された「金融機関経理応急措置法」「会社経理応急措置法」「企業再建整備法」(昭和二十一年十月施行)等の一連の法律と、「過度の経済力集中排除法」(昭和二二年十二月施行)とに対する労働組合の対策運動である。

 以上の諸法令は、体制的危機に瀕した日本資本主義の再建を目的としたものであり、具体的には擬制資本の温存・金融資本と無関係な企業の切捨、大量馘首と低賃金等がその中心的な内容となつている。すなわち、擬制資本の温存は、評価換による損失補償、新勘定の債務承継、新株式の転換等の手段によつておこなわれ、全融資本と無関係な企業の切捨は、所謂産業別集中生産方式の過程を通じて行われる。このような擬制資本の温存は必然的に賃銀を圧迫し、又集中生産方式による企業合理化は過剰人員の整理=大量馘首を結果するのである。

 我々は以上の如き内容をもつた企業整備に対する労働組合の運動を、企業再建整備法に対する闘争と過度の経済力集中排除法に対する闘争にわけて説明しよう。

 

一、企業再建整備法に対する闘争

 戦前の日本資本主義の産業構成は低位にあつたが、戦時中一応第一部門の強化確立を通じて産業構成は高度化した。それによつて機械器具・金属・化学等の諸工業が占める割合は比較的増大し、生産力拡充の基礎がきずかれた。しかるに戦後は見返物資等の為の繊維工業を中心とする第二部門に重点をおく生産復興へ転換を示し、利潤率の少い第一部門、特に金属産業部門に企業整備が集中してきたのである。したがつて此の問題をいち早くとりあげたのは金属部門の労働組合であつた。全日本機器労働組合の、企業整備に対する闘争方針は次の通りである。(全日本機器労働組合運動方針より)

 

企業整備・賠償撤去に対する闘争

(一)敗戦後の日本がぼう大な軍需国の生産から平和産業に転換するためには、多大の犠牲を必要とする。然しこれをたれが負担するか、労働者か?大資本家か?こゝに問題があるのである。終戦後混迷状態から立直つた資本家階級は、着々とその矛先を労働階級に向けつゝある。官僚と結託した独占的全融資本家は、資本家的企業整備法の実施によつて、全面的にこの敗戦の負担を労働階級に負わせようとしている。日本銀行発表の七月十五日現在までに提出済の特別損失概算によれば、

提出数            一、五一三社

このうち特損のないもの      七六二社

評価換を行はないもの       三〇二社

評価換を行つたもの        四六〇社

特損のあるもの          七五一社

このうち払込資本金九割以内    三六八社

公称資本九割以内          二〇社

債権を切り捨てるもの       三六三社

 このようにして擬制資本は少しの痛手もうけずに温存されて、彼らは労働者に全ての負担を負わせようとしているのだ。資本九割を切捨ててた後も、債権は〇−七割ということは実にギマンに満ちたものである。

 更に独占禁止法や経済力集中排除法のために、真向から金融資本の独裁を振りかざせなくなつた彼らは、企業整備によつて大量首切と低賃金とによつて搾取率を高めるために官僚と結託することから、更に一歩を進めて、片山首班の連立内閣を前面に押立てて、この社会党内閣の美名の下に反労働者的企業整備を強行しようとしている。しかもこれは単に法の適用を受ける企業だけではなしに、日本の産業にこの様な枠をはめることによつて、全労働者を奴隷的状態に置かんとするものであることを銘記すべきである。

 かくの如く労働者の犠牲で行はれる資本家的企業整備に対してわれわれは全てを挙げて闘はなければならない。われわれは完全雇用と生活必需品の完全配給を前提として、労働者の生産復興の立場から、断固として闘はなければならない。

 然らば如何に闘うか? この闘争は企業内での闘争と、企業外での闘争に一応区別することが出来る。

(二)企業内の闘争ではまず第一に、会社に対して整備案の公開を要求し、これを検討しなければならない。そして次の点については断固として反対し訂正せしめると共に、常に賃上げ闘争と結びつけて同時に要求せられねばならない。

(1)首切の反対、完全雇用

(2)最低賃金を支払えぬ企業整備計画反対

(3)移動設備の不当な分離と売却反対

(4)従業員に必要なる厚生設備の売却反対

(5)住宅及移転に必要な物資の裏付のない配置転換反対

(6)不当な又は企画性のない配置転換反対

(7)現在保有している原材料の評価益を出すための低資金、労働強化反対

(8)不当利益の取得反対

(9)業種別平均式賃金制による賃金ストップ給与反対

(10)退職金制度を有利ならしめる

(11)一切の経営の公開

(12)新発足会社の旧勘定借入金と、金融機関よりの旧勘定借入金のたな上げ

(三)企業外の闘争としては、まず非民主的反動的な旧議会で作られた経済再建整備関係法規の全面的改正の要求と、完全雇用と生活必需物資の完全配給を目指す、社会主義的総合計画経済を立てるための必要な時間的余裕を得るために、整備計画提出期限を廷期させなければならない。そのためには次のような活動がある。

(1)労働組合の全面的な発言と、承諾の法的規定の確立

(2)特損補償の順位を変更する債権、資本金、積立金、評価益

(3)認可の民主化として

 (イ)中央・地方・都道府県に経済再建整備委員会を設け、その中に現場労働者を基盤とする代表者を二分の一以上入れ、この委員会に認可の決定権を与える。

 (ロ)労働者の生活を保証出来ないような整備計画に対しては認可せず、修正を命ずる。

(4)新勘定債務承け継ぎの全面的打切リ

(5)但し大企業の下請工場に対する債務は、新旧勘定を問はず優先的に返済する。

(6)更に労働者の生活を保証するための立法上の要求として

 (イ)総ての利益金処分に対し、賃金支払を優先させるための法の制定

 (ロ)賃金支払保証法と最低賃金法の確立

 (ハ)国家と資本家の全額負担による社会保険の制定

 (ニ)生活を保証する退職金法と、失業保険法の制定

 (ホ)但し大企業の下請工場に対する債務は、新旧勘定を問はず優先的に返済する。

(四) 以上われわれは資本家的企業整備に対する具体的闘争として、企業内、企業外の闘争を区別して規定した。然しこれは機械的に区別し併列的に考えられてはならない。これらは企業の内外での闘争として、こういう方法があるということを示したのであつて、これらの闘争は相互に関係して闘はれなければならない。特に重要なことは、企業整備に対する闘争は、法の規定するところに従つて闘うのではなく、労働者の立場から、この反動的な法をのりこえて闘うことである。そのため各企業で会社の整備案を公開させ、これに組合が検討を加え、労働者に不利益なところは修正させるように闘うことであり、同時に首切り反対、解雇手当の制定(少なく共実収の一ケ年分以上)生活を保証出来る賃金獲得のために闘うことである。

 然もこの闘争は単に一企業、一工場の闘争として闘うのみでは不充分である。われわれは今や全国各地で闘はれている労働者の生活確保のための賃上闘争と結合して、この資本家的企業整備と闘はなければならない。

 このように金属労働組合によつて積極的にとりあげられた企業整備に対する闘争も、組合幹部の理解と指導力の不足、又労働者の法律、経理数字に対する無関心等に起因して、運動は必ずしも大衆化しなかつたが、とも角、二二年一二月十二日に法律を改正せしめ、経済再建委員会に労働者代表を送りこみ、労組を利害関係人として認めさせて、整備計画に対する法的発言権を獲得したのである。

 かくして獲得した法的発言権を利用して、労働組合は積極的に、意見書或いは異議申立をやると同時に、労働組合独自の生産計画を樹立して生産復興のイニシヤティーブをとつた組合もあつたのである。

 

二、過度の経済力集中排除法に対する闘争

 集中排除法はあらゆる部門に於ける独占的傾向、財閥コンツェルン的形態を解体して適正規模にした創意を充分生かし得る企業形態にきりはなすことを目的として出されたものであつた。これに対して労働組合側は、集中排除法による企業の細分割が経済の発展法則を無視したものであり、生産力の発展は不可能となる。従つて民主的国家をつくるためには、集中した経済力を細分化し、生産力を破壊することではなくて、むしろ生産力を増大せしめるために、これを阻害している一部少数の独占資本家の私的所有を廃止することであるとの観点から闘争を開始した。又、分割を口実として赤字工場をきりすて採算のとれる工場のみを残すことによつて企業整備を行う絶好の機会を提供するものであるとし、前にのべた企業再建整備法に対する闘争との関連に於て、積極的にとりあげることになつた。

 かゝる間に於て二月八日、鉄工業部門に於ける集中排除の第一次指定が行われた。かくして鉄工業部門の指定企業の五五労働組合の代表者が、金属共同闘争委員会集中排除法対策会議に参集して、次の様な闘争方針を決定した。

(一)基本的闘争方針

 (イ)企業の分割によつては日本経済の民主化は達成されるものではないことを主張し同法に反対する。

 独占企業の民主化は重要産業の国営人民管理を,中軸とする社会化によつて達成されるものであり、日本経済の民主化には資材資金、電力の民主的配分が必要である。

 (ロ)同法が日本経済の生産力に悪影響を与えることのある事実に基きこれに反対する。

 現実にすでに人的物的に多くの混乱を惹起し極度の危機に追込まれつゝある日本の諸産業に更に一層困難を加重し、生産に著しい悪影響を与えつゝあり、日本の平和産業の回復を阻害し経済再建をおくらせている。

 (ハ)同法が日本経済の自重を危くする倶れある事実に基きこれに反対する。

 企業の細分化は悪条件のもとにある企業の多くを倒壊せしめ現在随所に起りつゝある企業の倒壊、失業、低賃金は恐るべき勢を以て拡大し、ポツダム宣言が許容している日本の経済的自立を危うくする。つまり外資導入のみに依存しようとする売弁的復興方式ではなく、民族資本の蓄積によつて日本経済の復興をおこない、しかも其後民主的方法で外資を導入すべきである。

 (ニ)同法が日本経済の具体的再建プランに基く納得し得る建設的意図をもたぬが故に反対する。

 政府は予備報告提出前に政府の長期計画を公開し、民主的検討に委ね、これを基礎として日本経済の平和的再編成をおこなうべきである。資本家階級が同法に名をかりて一方的に労働者を犠牲にし、資本の利潤を確保する再建方式は容認できない。

(二)具体的闘争方針

 (イ)企業内闘争

 (a)宣伝活動を活溌に行い、大衆を啓蒙し、大衆運動を展開する。

 (b)企業整備法、集中排除法の統一性に注意をむけなければならぬ。

 (c)予備報告、再編成計画書等を会社に事前に提出させ至急我々の方針を織込んでゆく。

 (d)陳述書、出頭届、資格証明書の作成の準備を直ちに行うこと。

 (e)会社の派閥抗争にまきこまれ黒字工場と赤字工場との利害対立より労組までその階級的連帯心をすてゝ争うことは労働戦線を分裂、弱化せしめる事を特に注意すること。

 (ロ)企業外闘争

 (a)持株会社整理委員会の民主化

 集排指定企業の日本経済に占める圧倒的な比重より、此の問題の決定権を握る持株会社整理委員会の構成運営は非民主的であり、その常務委員は労資双方の外広く農民、中小商工業者、一般市民より大衆的に選出すべきこと、又その運営を民主的公開的にすること。

 (b)同法関係手続の民主化

 予備報告並びに再編成計画書類の提出期間を現行規定の二倍に延期すると共に、予備報告、再編成計画に対する労組の発言権、聴聞会の労組の発言の自由の確保、手続当事者としての労組に制限をつけないことを明文化せしめること。

日本労働年鑑 第22集/戦後特集
発行 1949年8月15日
編著 大原社会問題研究所
発行所 第一出版
2000年2月1日公開開始


■←前のページ  日本労働年鑑 戦後特集(第22集)【目次】  次のページ→■
日本労働年鑑【総合案内】

大原社会問題研究所(http://oisr.org)