OISR.ORG へようこそ 大原社会問題研究所

日本労働年鑑 戦後特集(第22集)
The Labour Year Book of Japan post war special ed.

第一篇 労働争議

第二章 主要な争議


第二節 高萩炭鉱争議

 茨城県多賀郡高萩町

  高萩炭礦株式会社

  高萩炭礦労働組合連合会(第二次争議の際は全日本炭礦労働組合高萩支部)

一、第一次争議

 高萩炭礦は小規模な斤先堀の坑を逐次拡大したものでありその組織は未だ整備されず、すべてが社長の独裁にゆだねられていた。

 すなわち、主任、礦業所長には何等の実権がないばかりか、社則は勿論、社員、礦員の給料、昇給内規に関する規定すら確立されず、厚生物資の出納も亦不明確であり、経営並びに労務管理上幾多の欠陥を内包していた。かゝる状態にあって組合側は、二十一年三月上旬各坑別労働組会連合会の名によって人事対策、賃金対策、増産対策、福利厚生対策、物資配給対策の各委員会を設置することを要求し、労資双方より委員を出して委員会が組織されたが、社長の独裁力が強く運営意の如くならなかったため、組合側の不満は強かった。

 折から三月末会社倉庫に保管中の米を隠匿物資として警察当局に摘発されたのを組合側は加配米の「頭ハネ」分であるとして、会社の不正を追及する事件が起った。然るにその結末も確然とつかない中に商工局の斡旋による毛布の配給をめぐって会社側と組合側とに意見の相違があり、折衝中であつたが、偶々毛布が盗難にかゝったことから直ちに倉庫の内容検査を組合幹部によって実施されることになった。その結果食料品、作業用物資等の隠匿物資が発見され、組合側はこれを配給品の頭ハネの分であると言つて会社側と対立するにいたった。四月一日に組合幹部は更に前日の検査未了分の倉庫の検査を要求したが、該倉庫中の品には社長の私物があり、又鍵は社長が保管しているとの理由で鑛業所長の自由にならない旨を主張して承諾を与えなかったため、組合側は所長を無能なりとして退職を要求した。組合側は更に社長の反省する必要があるとの見地から社長私宅を訪問し、交渉は二日払暁に及び、結局決裂した。かくて組合側は四月二日生産管理を実施する旨を発表し、常盤石炭統制株式会社に炭代の支払を要求して拒絶されたが、日本石炭統制株式会社より炭代を支払うという回答があった。(此の炭代支払問題における日炭社員組合の敢闘は特筆されねばならぬ。この闘争は全国の炭礦労組に巨大な支持と鼓舞とを与えた。)

 四月五日組合は北方坑に於て大会を開き、要求事項(経営協議会規約)を決議しこれを会牡側に提出したが、社長はこれを否認したため、組合側はついに四月六日生産管理を実施した。かくて組合側は事務所及倉庫を占有し、所長の出勤を拒否したが、倉庫及金庫の鍵は会社側が留保し、所長は毎日出勤した。

 生産管理実施組合は資金と資材に行詰りを感じて種々打解策をこうじ、資金については日炭から支払はれる炭代で経理することゝなった。五月十八日に至り、労働団体より茨城地方労働委員会に調停方提訴され、直ちに小委員会を設けて調査することゝなったが、会社側は自主的に解決することを要求し組合も一応これに従った。組合側は更に十三項目の追加要求を提出し、数次の交渉を重ねて七十日にわたる生産管理も結局左の条件で解決することゝなった。

    高萩炭礦経営協議会規約

 第一条 経営協議会ハ高萩炭礦労働組合聯合会ヲシテ積極的ニ労働者ヲ経営ニ協力セシメ以テ産業ノ民主的運営発展ヲ期ス

 第二条 本協議会ハ左ノ委員ニ依リ組織ス

 (1) 会社側代表 (2) 組合側代表

  委員ノ構成ハ労資同数トス但シ組合代表委員ガ第一条ノ目的ヲ阻害スル場合ハ之ヲ罷免スルコトヲ得

 第三条 本協議会ハ左ノ事項ヲ協議シ之ヲ実行スルモノトス

 (イ)生産予定数量ノ決定

 (口)技術ノ向上設備ノ補修改善ニ関スル事項

 (ハ)民主化ニ必要ナル適正経費使用ニ関スル事項

 (ニ)資材獲得分配ニ関スル事項

 (ホ)食料其他厚生物資ノ獲得並ニ其ノ配分ニ関スル要項

 (ヘ)礦業所内ノ民主的運営ヲ計ル為職制諸制度諸規則ニ関スル事項

 (ト)経営協議会ニ於テ必要ト認メタル工業所内ノ帳簿ノ閲覧在庫品ノ調査事項

 (チ)其他協議会ニ於テ必要ト認メタル事項

 第四条 協議会ハ毎月一回常例的ニ開催ス但シ会社又ハ聯合会ニ於テ要求アリタル場合随時開催スルコトヲ得

 第五条 本協議会ノ下ニ各坑経営協議会ヲ構成スルコトヲ得

 第六条 本協議会ノ決定事項ハ即日実施ス(原案 本協議会ノ決定事項ハ聯合組合ノ承認ヲ得タル後社長並ニ協議会ノ委員ニ於即日実施ス)

  附  則

 本協議会規約ノ改廃ハ協議会ノ決定ニ於テ実施ス

右承認ス

 昭和二十一年六月十四日

            会社側代表 印    組合側代表 印

      誓   釣   書

一、本日高萩炭礦経営協議会規約調印ニ当リ当然之ニ附随スベキ細則ノ作成間ニ会ハザル為後日細則作成ノ際必ズ左記事項ヲ挿入シ若シ之ヲ守ラザル場合ニ於テハ規約全部破棄スルモ差支ナキコトヲ茲ニ誓約候也

第一 経営協議会ノ議長ハ社長トス 但シ社長事故アルトキハ取締役ヲ以テ之ニ代ルコトヲ得

第二 経営協議会ニ於テ高萩工業所即チ秋山(保安部ヲ含ム)千代田、北方、手綱、関口、各抗及運輸部ノ自動車、倉庫ニ関スルモノニ限リ之ヲ議スルモノトス

 昭和二十一年六月十四日

      高萩炭礦労働組合 代 表 者 印

(社長宛)

      約   束   書

人事ニ付

 柳沢良助 阿部正壽 長谷川林三 大貫義夫 大葉孝 上田秀四郎 五ノ上智学 西内一豊 三浦喜代美 大島芳 山本儀太郎 古賀善雄 井上和夫

 以上ノ人事ハ濱田所長ニ一任

一、三月十二日協約セル出勤賞与ハ存続ノコト

一、争議費用ノ全額会社負担

一、五月十六日ヨリカーバイト半額会社負担

一、争議中ノ従業員ニ対スル一人当金五拾円支給

一、争議団ヨリ犠牲者ヲ出サザルコト

一、争議解決及其ノ後ニ於テモ櫛形礦業所別個ニ切離スコト

一、保安部従業員ノ賃金ヲ坑外従業員並ニ六月一日ヨリ引キ上ゲルコト

一、争議円満解決調印ト共ニ柳澤所長ノ告訴問題取リ下ゲルコト

 昭和二十一年六月十四日

       争議解決交渉会社側委員  濱 田 元 輔

 高萩炭礦争議団  御中

右約束書ハ六月十四日午前十時松風館ニ於テ受領セルニ付念ノ為

 昭和二十一年六月十四日

         高萩炭礦争議団代表 佐々尾 清

 争議解決交渉委員 濱田元輔殿

二、第二次争議(ゼネスト)

 六月十四日の調印の際締結された協約の履行は、組会員の待望するところであったが、争議解決の日から七日間のうちに処理すると約した人事問題も、賃金の引上げも一向に実施されなかった。その後組合側は協約の実施を社長に要求したが、七月十四日に社長は人事問題の処理を担否し、協約を白紙にかえすことを要求するにいたった。かくて組合側は十五日緊急連合委員会を開催し、一応社長の申し入れを受諾することを決議した。この決議は先づ千代田坑の委員会にかけられて決議された。しかるに七月十七日会社側の暴力団が千代田坑を襲撃したため労働者は憤激し、再度緊急連合委員会を開催した結果、社長の態度を追求することに一決し、組合は他各山二名の交渉委員をあげ、協約即時履行を要求した。十九日社長はこの要求を拒否したため組合は同日四十八時間以内に協約の実行をせまった。これに対し社長は二十一日(一)人事問題はすみやかに解決する、(二)経営協議会は人事解決の日より五日以内に開催する、(三)全炭地方支協部議会との団体協約は認めない、全炭を解散すれぼ全要求に応じると回答するにいたった。この回答に対し組合側は二十二日山一炭礦と共に千代田坑で共同闘争連合大会を開催して、共同闘争委員会を結成した。然るに此の日千代田坑に二十名の暴力団がおしよせ、更に二十五日には百余名の暴力団をもって襲撃してきた。かくして青年部を中心とする自衛団と乱闘一時間にわたり、北方、秋山、大東、山一等からかけつけた労働者の来援によって、暴力団は退散した。組合側は更に追跡して暴力団を逮捕し、これを警察にひきわたした。

かくして六月二十六日宣言を発すると共に山一、大東の両坑と共同闘争に起ち上がったのである。(大東炭礦も一、団体協約の締結、二、増産対策協議会の設置等十項目の要求を以てすでに闘争に起ち上がっていた。)

 七月二十六日に至って全炭茨城支部協議会加盟の七組合はゼネスト宣言を発し八月一日までに誠意ある回答に接しない場合は一斉にゼネストを決行することに決定した。しかしながら八月一日にいたるも回答に接し得ず遂に共同ストライキに入った。

 八月六日になって茨城地方労働委員会は調停にのり出し、八月九日第三回委員会に於て先ず大東が、ついで山一炭礦が全面的に要求を貫徹し、十二日には高萩炭礦も組合の要求を承認せしめた。

日本労働年鑑 第22集/戦後特集
発行 1949年8月15日
編著 大原社会問題研究所
発行所 第一出版
2000年2月1日公開開始


■←前のページ  日本労働年鑑 戦後特集(第22集)【目次】  次のページ→■
日本労働年鑑【総合案内】

大原社会問題研究所(http://oisr.org)