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日本労働年鑑 第74集 2004年版
The Labour Year Book of Japan 2004

特集 若年労働者の就業をめぐる諸問題


第四章 若年労働者の就業促進に向けての対策

一 産業界から学校教育への要望

 これまでに見てきたような新たな状況が生じてきた結果、新しい政策課題が浮上することになった。すなわち、こうした若年労働者が失業者やフリーター、あるいは就業意欲を喪失した無業者になることに歯止めをかけ、若年者の就業機会を確保し、いったん就職したらその企業での定着率を高め、若年労働者の転職率を高めないという課題である。こうした政策課題は、若年労働者個人にとっても本人の技能形成やキャリア形成に役立つだけでなく、将来にわたって彼らが不安定就労者に陥ることを防ぐ意味合いをもつ。また日本の産業界にとっても、若年労働者が職場で必要とされる技能、訓練を継承することで職場の技能の世代間の継承が可能となるし、職業能力の高い人材を育成することが可能となる。

 総務省「労働力調査」によれば、〇二年度の一五〜二四歳層の完全失業率は九・九%であり、就業者全体の失業率五・四%のおよそ二倍近い高さとなっている。バブル崩壊後の九二年時点で四・五%に過ぎなかった一五〜二四歳層の失業率は、この一〇年間、一貫して上昇傾向にある。こうした若年者就業の実態の推移に対して、政府や関係諸団体はたんに手を拱いていたわけではない。若年者就業促進のためにいくつかの提言、政策を実施してきた。そこで以下では、こうした提言と政策について、その有効性と効果を及ぼす範囲について検討する。

 若年者は一八歳で高校卒業するまでに、あるいは二二歳で大学卒業する前に卒業後の進路、いわゆる就職先を決定する。それまで学校生活しか知らなかった若年者が、生まれて初めて社会人として社会に出て行くのであるから、就業先の決定については高校、あるいは大学での進路指導、職業教育の影響が欠かせない。

 しかし、現在の学校教育のなかで、進路指導は正規の授業科目となっていない。高校までのカリキュラムにおいて職業に関して授業内(主として公民のなかで)で教える内容は、第一に職業選択の自由、第二に職業に貴賎はないことの二つの項目だけである。前者は近代社会の成立にかかわる基本的な市民の権利であり、後者も市民の間の平等の権利を保障する基本的な認識である。こうした近代市民社会の基本的な原理に関する授業内容と、目前に迫った高校生の進路選択の間には大きな隔たりがある。そのうえ、進路指導は国語、英語などの授業科目を担当する教員がクラブ指導と同様に兼任するのであり、進路指導担当者の熱意はさておくとしても、制度上、そのための時間が格別に授業内で設定されているわけではない。また、若年者の将来を決定する進路指導そのものが学校教育のなかで可能かどうかという根本的な問題点については、これまで問われることがなく、担当教員や学校のフリーターを排出させまいとする熱意と指導力に期待することによって、進路指導の不十分さの解決がはかられてきた。

 進路指導を含めて従来から産業界では学校教育に対する不満が潜在的には存在していたが、若年者就業が問題となったここ数年、こうした潜在的な不満が学校教育への要望となっていくつかの文書に現れてきている。それを以下に見てみよう。

 内閣府『人間力戦略研究会報告書』(〇三年四月)では「はじめに」の部分で以下のように書かれている。

■本研究会の特色−教育界と産業界の接点
企業の中で働く有能な人間を育てることが、産業界からの「ニーズ」であり、それを「人材の供給側」である教育界に期待することになる。
 一方、教育界、とくに学校教育の分野では、社会における「自己実現」を基本的な理念としているものの、現実には、教科学習を中心としたアカデミズムと、学校組織という枠という中での社会性の涵養に重きがおかれ、産業界からの要請に直接応えようとすることには抵抗感が強い。(中略)

■人間力戦略の基本スタンス−社会の見える教育環境の構築
前述のように、もとよりわが国の教育は現実の社会と乖離しがちであるという問題が指摘されており、「何のために学ぶのか」という目的意識を不明確にしたまま、一方では受験競争による外発的な動機から、他方では知的好奇心や教養といった教科の内在的価値から学習にむかわせようとしてきたということは否定できない。

 しかし、少子化により全体としては受験競争も緩和され、子どもの価値観や興味・関心も多様化した現在、これらの方法だけで学習意欲を喚起していくことには限界がある。むしろ、学ぶことの実質的な意義にたちかえり、職業行動をはじめとして、社会生活を営むことを視野に入れた学びのあり方を、教育に携わる人々にも子ども自身にも考えてほしいというのが、今回の報告の基礎にある考え方である。

 以上の内閣府の報告では、現実の社会に生き、社会をつくる人間の資質・能力を人間力と定義し、この人間力をキーワードとしながら、若年者が教育の場で、市民生活、文化生活面と、社会生活のうえで最も重要となる職業生活面で活発に活動できるような資質・能力を涵養する必要性を主張している。

 また、日本経済団体連合会『若年者の職業観・就労意識の形成・向上のために』(〇三年一〇月)は、「フリーターや若年失業者の増加は、本人にとってのマイナスはもとより経済社会の活力を著しく損なうことになる」という問題意識から出発している。そして「昨今の若者には自立の遅れとともに職業観、就労意欲の低下が指摘される」ことにフリーター増加の主たる原因を求め、若年者の職業観、就労意識の形成に対して企業としてどのような貢献が可能か、という対策、提言が盛り込まれている。

 この提言では、家庭教育、地域社会をも視野に含めているものの、その直接的な対象は学校教育であり、教員の再教育が意図されている。その内容は後に触れるが、学校教育の問題点と教員の再教育については以下のように記されている。

 望まれる進路指導と職業観養成教育の充実
 これまで学校は国語・算数(数学)・理科といった一般教育科目の習得には注力しても、本来その前提となるべき「将来どのような職業に就き、どのような人生を送るのか」について考え、学ぶ職業観教育にあまり力を入れてこなかったのではないだろうか。自分の将来の進路を描き、その実現を目指す過程で初めて勉強の意味そのものを理解、納得することができるのである。
 これからは子供たちの成長・発達段階に応じ、初・中等教育においては工場(職場)見学、就業体験や奉仕活動への参加等、職業観を養成する教育を継続して実施していく必要がある。

 教員に企業体験実習を
 大学を卒業し直ちに教員になったものが多いことから、企業や社会の実態を十分理解する機会が少なく、適切な職業指導を行うことが難しい状況もあると考えられる。職業観や勤労観を育む教育を行うためには、教員自身が社会的視野を拡大し、意識改革を図っていくことが不可欠である。今日のように変化が激しく、先行き不透明な社会に教え子を送り出す以上、教員自身が激動する社会の動向を学び、子供たちにそうした社会で生きていく力を植え付けていくことが求められるのである(一三〜一四頁)。

 工場見学、就業体験(インターンシップ)が学生の職業観養成にどの程度の役割を果たすか、後に触れるが、第二の点、いわゆる教員自身に対して相当厳しい評価がなされていることが分かるだろう。職業指導が学校教育で難しい現状を、学校教育制度そのもののなかにではなく、教員自身の社会的視野の狭さに求めているために、現在の教員への評価が厳しくなっている。学校教育の目的が基本的な躾と知識を与えることにあり、人の生き方は教えられないという点への反省が、この文書にはみられない。さらに、教員の視野の狭さを公的文書で指摘することにより、そうでなくても社会的評価が低下している教員に対する不信が公のものとなって、学生が教員の教える内容そのものに信頼を置かない、すなわち教員の教育力を低下させる、というマイナスの随伴結果さえ生じる可能性もある。

 以上に見たような内容が、学校教育終了後の若年者を受け入れる企業や産業界からの学校教育への要望である。学校教育に対しては、「社会生活を営むことを視野に入れた学びのあり方」(人間力戦略研究会)、「職業観の養成」(日本経団連)などの要望がある。こうした要望は、知識・学力の向上などの具体的な目標と異なって抽象的であるため、実現されたかどうかの測定は難しい。ただここで明らかな点は、現在の学校教育に対して、知識や学力の向上以上に、職業教育を実施してほしいという産業界のニーズの緊急性である。若年者のフリーター化や若年者失業、若年転職者の増加に歯止めをかけるには、まず学校教育の改革から、という考え方は理解できよう。

二 学校段階での職業教育改善施策

 1 指定校制・一人一社制の見直し

 そこで学校教育段階では、若年者の就業促進に対してどのような具体的施策を講じることが可能であろうか。その内容についてそれぞれ検討しておこう。

 高校卒業者の就職・採用慣行として、これまで卒業予定者は就職先について一社しか応募できなかった。高校が事実上、企業側の求人と学生側の求職を進路指導としてマッチングさせていたからである。学生は学校推薦によって、応募した企業から不採用通知をもらうことなく必ず就職可能となり、他方、企業も学校から安定的に良い人材を確保できるという求職側・求入側双方にメリットがあったため、こうした慣行の存在意義があった。そして何よりも、短期間に多くの学生と企業との間でマッチングを行うには、複数応募を認めず、したがって内定辞退というリスクのない一人一社制のほうがはるかに効率性が高かったのである。また指定校制は特定の学校にしか求人を行わない制度であり、企業にとっては採用の手間を省きながら、しかしなお一定の質の労働力を確保できるために、合理的な方法であった。

 けれども、こうした慣行は高卒労働市場の変容により不合理な側面が大きくなってきた。第一に、高卒者向け求人数の激減によって、指定校ではない高校の生徒は最初から求人対象とはならない場合がある。これまで採用実績がある高校にのみ求人が集中し、そうではない高校は初めから求人の枠外となる。そして実績校の生徒でさえ、学校推薦がとれない場合は、企業による選考試験を受けることがそもそも難しく、翌年の一月や二月に選考がずれ込むようになっている。

 一五歳時点で進学した高校によって就職機会がそもそも限定されてしまうことが不公平、不平等であるだけでなく、職業選択の自由、という原則を高校の教科として教えても、実際には進学先の高校やそこでの成績によって就職先が決まってしまうという現実、進路指導の教員の勧めで就職先が決まってしまうという現実に多くの高校生は納得がいかないであろう。社会全体は事務・販売職種が増大している傾向にあるのに、高卒求人に限ってはこうした傾向に逆らった形で生産工程・労務作業職種が増大しており、進路指導の教員の進める就職先それ自体が高校生にとっては魅力がなく、減少した就職機会ではあっても、求職する生徒側は嫌々、就職を決めている場合も少なくない。

 結果として、高卒求人が少なくなったことが、学校推薦の枠を小さくしてそこからはずれる者を生み出している。同時に、たとえ就職ができても、就職の選択の余地が狭まったことで、また学校の指導で就職したことにより、本人の希望するような就職先に就職できず、せっかく就職した企業での定着率を低めてしまっている。学生や生徒は卒業後の就職先選択、いわゆる進路指導について学校の果たす役割への期待を持ちにくくなったといえる。

 他方、企業側も求人について学校の果たす役割への期待が小さくなった。高卒求人難の時期には学校推薦に頼れば何とか求人数を確保できたが、高卒労働市場が昨今のように買い手市場となると、学校に依存する必要性が低くなった。自分の企業で採用する人は学校が推薦する人をそのまま採用するのではなく、いろいろと選考を重ねて自らの手で選びたいと各企業が考えるようになった。

 こうしてこれまで合理的な慣行であった指定校制や一人一社制への見直しが主張されるようになった。文部科学省が〇一年二月に発表した「高校生の就職問題に関する検討会議報告」ではこうした慣行見直しを提言している。その内容は、指定校制の弾力的運用と、二〜三社を上限に同時応募を認める、公務員との併願を認める、というものである。従来の指定校制や一人一社制もそれなりの合理性を維持しているために、具体的な方法は各都道府県の裁量に委ねている。その結果、多くの県では、「報告」に載せられていた事例案のように一人一社制で採用が決定しない場合は、一定期間後に二〜三社への同時応募を認めるようになってきている。

 また、社会経済生産性本部の雇用政策特別委員会提言「若年者雇用対策への新たな提案」(〇四年三月)は、一人一社制の完全廃止を主張している。そうした主張の根拠は、「職業選択の機会をできる限り広げること」(三頁)にあるとされている。

 ところで「職業選択の自由」という権利は近代社会が生み出したいくつかの権利のうちの最も基本的な権利である。シチズンシップ、近代社会の市民的権利は一般に、個人の自由を保障する自由権、政治的参加を保障する政治権、一定水準の生活を営む権利である社会権、の三種類の権利で構成されているが、そのうち職業選択の自由は経済的自由の権利として最初に認知された。

 しかしながら、この職業選択の自由という原則と、就職に直面した高校生が自分の就職先を選び、選択するという現実の間には大きな乖離がある。早晩、社会人になるために学校を卒業する高校生にとって、就職先は進路指導の教員との話し合いの結果にもとづく一つの会社か、あるいは一人一社制が見直されたとしても、せいぜい二社か三社に過ぎない。「職業選択の自由」という理念と、目の前の数社の就職先という現実の間を埋めるには、どのような考え方に立てばよいのだろうか。学習指導要領にはこうした考え方は示されていないから、教師としては、生徒の現実的な利害、生涯を通した生活の安定などを目安として本人に良い就職先を紹介する方法しか残されていないのではないか。

 これまでみてきたように、指定校制、一人一社制は進路指導上、再考すべき制度であるといえるだろう。しかしそれ以上に労働市場において高卒求人数が減少した結果、企業は自主的な選抜方法へと傾斜して学校推薦を却って桎梏であると感じるようになったこと、また高校生も学校紹介企業に対して就職する魅力を感じなくなったこと、こうしたことも高卒就職希望者に対する学校の役割を低下させている。さらに教員の側は、職業選択の自由という理念と、現実の不自由の間を埋める論理を利害によって埋める用意しかなされていない場合が多い。求人・求職のマッチング機能としての学校の役割は小さくなっていることを認めてよいのではないだろうか。

 2 就業経験(インターンシップ)

 在学中に短期間だけ職場で働く経験、いわゆるインターンシップも職業教育改善策の一つとして実施されてきている。この施策の目的は、学校とはまったく異なる職場生活を短期間でも経験すれば職業生活に対する学生の理解が深められるので、就職後の様相が少しでも予想がつき、若年労働者の早期の離職や不要な転職を防げるという点にある。仕事をめぐる企業と学生の間のミスマッチを事前に予防するという目的である。

 こうした就業体験は、すでに九八年ごろから兵庫県、富山県などいくつかの自治体が若年者就業対策支援事業の一環として進めてきた経緯がある。また東京都は〇一年から技術専門校(職業訓練校)でインターンシップを開始した。

 文部科学省、厚生労働省、経済産業省、内閣府の三省・一府は合同で「若者自立・挑戦戦略会議」を立ち上げ、〇三年六月「若者自立・挑戦プラン」を発表した。その具体的政策では、キャリア教育、職業体験等の推進のために、「小学校段階からの組織的・系統的な職業体験学習、インターンシップ等の推進による勤労観・職業観の醸成」という施策が掲げられている。「インターンシップについて、単位認定を促進、期間の多様化などにより内容を充実し、実施の拡大を図る」とされている。学生にとっては単位認定による促進、また受け入れ企業には受け入れに伴う費用への補助などが見込まれて、その普及が目論まれている。

 インターンシップは実際に学生が職場で就業を体験するものであるから、職業の実態を知るには最も有効な手段である。しかしいくつかの限界もある。第一に、職業人としてはまったく未経験、未熟練の学生を職場に導入するには企業のほうでそれなりの準備が必要であり、彼らを教育するための人的配置が必要である。これは企業にとってはコストがかかるということを意味し、学生受け入れ企業の数を限定してしまう。インターンシップの有効性が広く認知されれば、地方自治体や国をとおしてこの施策への補助金が拡大することは予想されるものの、この施策の成立条件として受け入れ協力企業の存在が必要である。インターンシップそのものが成立するためには、進んで未熟練労働力である学生を受け入れる企業の存在が不可欠である。

 東京都の若年者に関する調査報告書は、インターンシップがすでに採用慣行と結びついているアメリカの例をあげながらこの制度の成立条件を示している。しかし、企業が学生の訓練コストをかけてもインターンシップを受け入れる背景には、企業にとって優秀な学生をインターンシップという形で青田買いをし、訓練という形で働かせながら学生の能力や人柄を観察するというメリットがある。一方、学生の側も就職先選択に必要な情報を得る手段としてこのインターンシップを利用する。結局、インターンシップが成立している理由はエリート学生の確保という実質的なメリツトが存在しているからであり、そうではない学生がインターンシップを経験しているわけではないという。日本でインターンシップが成功するには、インターンシップの期間を長期にすること、また指定校制度と同じように学校の銘柄や学生の成績で対象者を制限すること、の二つの条件が必要であるとする。そうすれば企業にとって学生受け入れコストの問題は解決するからである。

 日本のインターンシップの現状は、アメリカの制度とは異なり、就職予定学生(高校生・大学生)の就業前の予備的体験という意味合いが強い。当然、企業が受け入れ高校、大学を指定するわけではなく、その分、受け入れコストも高まる。受け入れ学生を教えられるだけの能力をもった人は当然、職場でも中心的な存在であるから、そうした人材が通常の業務を離れることによって生ずる機会費用は、多少の補助金額を上回ることは想像に難くない。インターンシップの意図と有効性は明らかであるものの、その普及の程度が限られていることに問題があると言えよう。

三 職業訓練の改善施策

 若年者の就業促進のためには、学校段階の施策と同時に学校卒業後の職業教育のあり方の再検討も行われている。このひとつの施策が日本版デュアルシステムの導入である。以下でその内容を紹介しておこう。

 デュアルシステムとは元来「二重システム」という意味であり、ドイツの職業訓練システムとして有名である。一六歳から一八歳の若年者(高校段階)が職業学校の教育と企業内訓練を並行して受講し、修了試験を経て職業資格が付与される。技能の高いマイスター制度を支え、とりわけ高度の職人、熟練工を育成するために有効に機能していると評価された。学校へ通学する日と職場に通勤する日とを組み合わせながら、学校教育と職業教育との融合をはかるものとされた。

 日本版デュアルシステムとはドイツの制度に倣う形で、企業実習を積極的に職業教育訓練に導入しようという施策である。〇四年三月、厚生労働省職業能力開発局は「日本版デュアルシステム協議会報告書」を発表した。ここでは、とくに学卒未就職者、無業者、フリーターなど三五歳未満の者を対象とし、公共職業訓練施設や専修学校が一〜三年の期間にわたって訓練校での教育訓練と企業での実習を組み合わせ、能力評価を経たうえで、常用フルタイム就労につなげようという施策である。

 先のインターンシップが学校教育期間中における就業体験を重視したように、このデュアルシステムでは既卒の若年者を対象に、公共職業訓練校在学者、専修学校在学者が企業で就業体験を得ることを目標としている。この体験がフルタイム就業につながることを期待しての施策である。それ以外の目的として、若年者の雇用確保が困難な分野、たとえば後継者確保が難しい地場産業、伝統産業に企業実習という形態で若年者を短期間配置し、見せ掛けやイメージで職業を選択しやすい若年者の食わず嫌いをなくし、そうした分野で若年者が就業する可能性を追求することがある。具体的には支援措置として受け入れ事業主に対する費用助成、受講する若年者への資金貸付などがこの施策に盛り込まれている。

 これまで中高年者向け訓練を重視してきた職業教育訓練を、若年者向けに再構成するという観点がこの日本版デュアルシステムの眼目であろう。従来から存在している公共職業訓練制度、すなわち施設や設備、教育訓諌にかかわるスタッフ、運営のノウハウ、訓練校とつながりを持っている中小企業、など一朝一夕には築きにくいリソースを前提に、若年者向けに職業訓練の見直しを行おうとしているのがこの制度である。

 ひとつの問題は、今日若年無業者、フリーターとなっている人たちは、意図的に、あるいは半意図的に従来の学校教育から脱落した人々である。こうした人々が再度、考えを改めて公共職業訓練施設に入学するのかという問題である。いまや半ば義務教育化された高校と異なり、こうした訓練校は通学への強制力をもたない。その意味では自分の意志で訓練施設へ入所することを選ぶこと自体、越えることが難しいハードルであり、これをクリアすればその後は就業へと結びつきやすいであろう。

 第1図は同じく職業能力開発局が「若年者の就職能力に関する実態調査」(二〇〇四年)を実施した報告書に掲載されたものである。若年者が中学から高校へ、高校から大学・短大へと進学していくなかで、進学も就職もせず、無業者、早期離職者として滞留している実態を概念図として示している。日本版デュアルシステムで掬い上げられる若年者はおよそ四万人とごく一握りであることが柄杓の図で示されている。人数としては一握りではあるが、長い伝統をもつ職業訓練体系を現在の若年者失業問題の解決に生かす道として、この日本版デュアルシステムが位置づけられていることが理解されよう。

若年者の就職状況

四 若年労働市場の整備

 新たに若年者就業支援対策として、ジョブカフェという施策が経済産業省が中心となって〇四年度から開始された。「若年者のためのワンストップサービス」としてジョブカフェを各都道府県と連携して創設、若年者向けの企業説明会、職場見学会を実施するとともに、インターンシップなどの就業経験のために企業紹介など企業に若年者を斡旋する仕事を行う。あくまでも地域の主体的な取り組みを中心として、地域の産業振興という観点から若年者の雇用が考えられている。第2図はこうした地域を示したものである。施策対象は、若年者や企業のみならず、高校生の保護者、進路指導担当の教員など幅広い層を前提にしている。

【ジョブカフェ】モデル地域の特徴

 具体的には一五箇所のモデル地域が選択されており、ジョブカフェの施策はようやく構想の段階から実施の段階に入ったばかりである。その成否については今後に明らかになるであろう。

 若年者の就業促進という新たに生じた政策課題に対して、現在、急速に施策が整備されつつある。まだ施策としては構想の段階かあるいは開始されたばかりで、その評価は今後を待たねば明らかにできない。しかし、インターンシップにしろデュアルシステムにしろそれがカタカナ語であることに示されているように、元のアイデアはアメリカやドイツの事例から導入されたものだ。こうしたアイデアを文化や慣行の異なる日本社会でどのように有効性のあるものにするか、再度、日本の従来の慣行との摺り合わせが問われるであろう。

【参考資料】(本文で明示したもの以外)
(1)上林千恵子「労働市場の変化と若年者失業」犬塚先編『新しい産業社会学』有斐閣アルマ、二〇〇三年、(2)小杉礼子『フリーターという生き方』勁草書房、二〇〇三年、(3)玄田有史『仕事のなかの暖味な不安』中央公論新社、二〇〇一年、(4)久本憲夫『正社員ルネッサンス』中公新書、二〇〇三年、(5)山田昌弘「フリーターの置かれている現状と将来展望」『労働の科学』五七巻二号、二〇〇二年、(6)大木寿「崖っぷちに立つ若者の未来を切り開こう」『労働運動』二〇〇三年二月、(7)相田利雄「中小企業の若年者就業状態と労働組合等の取り組み(下)」『大原社会問題研究所雑誌』二〇〇四年四月、(8)川人博『過労自殺』岩波書店、一九九八年、(9)内閣府『平成一五年版国民生活白書』ぎょうせい、二〇〇三年。

日本労働年鑑 第74集
発行 2004年6月25日
編著 法政大学大原社会問題研究所
発行所 旬報社
2006年7月28日公開開始


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