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日本労働年鑑 第74集 2004年版
The Labour Year Book of Japan 2004

特集 若年労働者の就業をめぐる諸問題


第二章 若年労働者の労働条件

一 若年労働者の賃金

 若年労働者の賃金は、正規雇用の場合は年功賃金カーブの始まりの段階にあるので、中高年労働者の賃金より低くなる。厚生労働省「賃金構造基本統計調査」により、一般労働者(この範疇には正規雇用労働者だけでなくパートタイム労働者でも正規従業員と同じ労働時間で働くものも含まれる)の所定内賃金の賃金カーブの上がり方をみると、〇二年では大企業(一〇〇〇人以上の規模)で働く男性労働者は、一八〜一九歳を一〇〇として、二〇〜二四歳で一二一、二五〜二九歳で一四八、三〇〜三四歳で一八六、四五〜四九歳で二八一、そして五〇〜五四歳で二九四となる。一〇〜九九人規模の中小企業で働く男性労働者は、一八〜一九歳を一〇〇として、二〇〜二四歳で一一七、二五〜二九歳で一四〇、三〇〜三四歳で一六三、そして四五〜四九歳で二〇五となる(第6表)。このように、三四歳までの若年層を含め賃金カーブは大企業のほうが、中小企業よりも上がり方が急である。また、女性の一般労働者をみると、賃金カーブは一〇〇〇人以上の企業で働く労働者の方が一〇〜九九人規模の企業で働く労働者より急な上がり方をしている。しかし、企業規模にかかわらず、女性労働者の賃金カーブは男性労働者の賃金カーブよりも上がり方が緩やかである。

 パート労働者の時給を〇二年の「賃金構造基本統計調査」でみると、調査対象の六月の時給は一八〜一九歳で男性が八四四円、女性が八〇一円である。しかし、時給の上がり方には男女差がある。一八〜一九歳から三〇〜三四歳までの時給増加割合は男性が二七%、女性が一六%である(第6表)。一般労働者の所定内賃金とパート労働者の月例換算の賃金(時給×所定内実労働時間数×実労働日数)を比べると、男性一般労働者は一八〜一九歳で一六万八三〇〇円であるのに対し、同じ年齢階級のパート労働者の賃金は六万一九八三円となる。また、三〇〜三四歳では、一般労働者二九万二六〇〇円、パート労働者一二万一九五二円である。女性一般労働者は、一八〜一九歳で一五万八二〇〇円であるのに対し、同じ年齢階級のパート労働者の賃金は五万七二七二円となる。また三〇〜三四歳では、一般労働者二三万四七〇〇円、パート労働者九万九九七三円である。所定内賃金に含まれていない残業手当や賞与を考慮すると、一般労働者とパート労働者の賃金の差はさらに広がる。総務省統計局の『労働力調査報告(詳細報告)』(二〇〇二年平均)によると、一五〜三四歳の雇用者一九四八万人のうち、「パート・アルバイト」は三九六万人で二〇・三%を占める。もし「賃金構造基本統計調査」が対象とする六月の賃金データが他の月にも当てはまれば、若年層の雇用者の約二割がそれのみでは生活を維持することは困難な水準の賃金を受け取っていることになる。

一般労働者所定内賃金の男女別、企業規模別の年齢階級別指数、パート労働者の男女別の時給と時給の年齢階級別指数

 若年労働者は自分たちが受け取る賃金水準をどのように評価しているのだろうか。正規従業員の賃金に対する評価は、〇二年の「連合生活アンケート」でみることができる(〇二年の調査では、連合加盟の単組組合員など約四万四〇〇〇人対象、回収率五三%)。同調査によると、「あなたは現在の年間賃金総額に満足していますか」という設問に対し、全体で「満足」(十分に満足している+まあ満足している)の割合は二八・三%、「不満」(やや不満がある+おおいに不満がある)の割合は六八・九%である。これを年齢階級別でみると年齢が上昇するほど満足の割合が減少し、不満の割合が上昇する傾向にある。たとえば、二五〜二九歳の男性労働者では満足が三一・七%、不満が六六・四%、四五〜四九までは満足が二〇・〇%、不満は七七・二%となっている。なお、女性労働者をみると、満足の割合が全年齢階級において男性の割合を上回っている。二五〜二九歳の女性労働者では満足が四五・九%、不満が五〇・二%、四五〜四九歳では満足が二六・一%、不満は六九・九%である。三四歳までの若年層は三五歳以上の中高年層よりも相対的に不満の割合は少ないが、男女とも若年層のどの年齢層でも不満の割合は満足の割合を上回っている(巻頭色別り第1図)。同調査を行った連合労働条件局は、〇二年調査で四〇代以降の男性で不満の割合が高まる理由として「住宅費や教育費の負担が増えている」ことを理由の一つとしてあげている。若年層については、このような経済的負担が少ないため、不満が相対的に低くなっていると考えられる。

二 若年労働者の労働時間

 大企業を含めた多くの企業は近年採用した労働者に対して即戦力を求めるため、若年労働者の仕事の責任や負担が増大して長時間労働など労働条件が悪化しているという指摘がなされている。たとえば、労働政策研究・研修機構が民間企業一一〇社を対象に〇三年に行った「第一回ヒジネス・レーバー・モニター調査」(回答社数一〇四社)は、若年正社員(二九歳以下の管理職についていないもの)が担当する仕事の内容のこの五年間の変化をきいている。それによると、仕事量が「増えた」あるいは「やや増えた」と回答した企業は五三・九%、仕事の範囲が「拡がった」「やや拡がった」と回答した企業は六〇・五%、仕事の内容が「高度化した」「やや高度化した」と回答した企業は五六・八%、そして仕事の責任が「重くなった」「やや重くなった」と回答した企業は四六・二%であった(巻頭色刷り第2図)。

 労働条件のなかで最も重要な要因である労働時間はどのような状況だろうか。正社員の場合、新規採用の抑制により「後輩」が職場に入ってこないため「業務の末端としての仕事がどんどん増え続ける」「何時になっても仕事が終わらない」、あるいは不況のため一人あたりの業務のノルマが高まったことなどが、若年労働者の長時間労働の要因として指摘されている(玄田、二〇〇一年、一六、一三七頁)。また、一部の企業は「体力的にも無理のきく若い世代を使うだけ使って、数年で辞めていくのを見込んで経営している」という指摘もされている(大木、二〇〇三年)。

 総務省「労働力調査年報」により、非農林業で働く就業者(男女、非正規労働者を含む)の平均週間就業時間をみることができる。同調査で二〇歳から四九歳までの各年齢階級の九一〜〇一年の推移をみると、九八年までは各年齢階級の週間就業時間は減少傾向にあったが、九八年以降三〇〜三四歳、二五〜二九歳、三五〜三九歳で増加傾向に転じた(巻頭色刷り第3図)。とくに、三〇〜三四歳、二五〜二九歳の週間就業時間の増加傾向が目立つが、これらの年齢層の仕事の責任や負担が増加したことを反映したものとみることができる。なお、二〇〜二四歳の週間就業時間は一貫して減少傾向にあるが、これはパート労働者など短期間労働者がこの年齢層で増加したことが影響していると考えられる。

 総務省「就業構造基本調査」(二〇〇二年)によると、年間就業日数が二〇〇日以上の就業者のうち「ふだん一週間の実労働時間」が六〇時間以上の「超長時間」労働者は男女あわせて約七一〇万六〇〇〇人いる。六〇時間以上の男性労働者が、年間就業日数二〇〇日以上の男性労働者に占める割合を年齢階級別にみると、最も割合が多いのは三五〜三九歳の二三・五%で、三〇〜三四歳(二二・八%)、四〇〜四四歳(二一・五%)、二五〜二九歳(二〇・八%)が続く。若年層のなかでは、六〇時間以上を占める割合は年齢階級が上がるほど増加する。また、九七年の前回調査と比較すると、すべての年齢階級において週間就業時間が六〇時間以上の男性労働者の割合が増加しており、とくに二五〜四四歳の各年齢階級では五ポイント以上増加している(第7表)。また、週間就業時間が週六〇時間以上の若年女性労働者の割合は、男性労働者よりも低いものの、〇二年と九七年調査を比べると四四歳以下すべての年齢階級で割合が増加している(第7表)。なお、週六〇時間働いた場合、年間の労働時間は三一二〇時間(六〇時間×五二週)と、「過労死予備軍」になるとされる年間三〇〇〇時間を上回る(川人、一九九八年、一六二から一六三頁)。

三 若年労働者の能力開発・キャリア形成

週60時間働く労働者が年間就業日数200日以上の就業者に占める割合(年齢階級別)
 若年労働者のキャリア形成の考察は、次の点で重要である。これまでの「日本型雇用システム」のもとでは、正社員として採用された新卒者の入社後の数年間は、「企業内での実務経験や教育訓練を通じて急速に職業能力を高めていく時期」で、「試行錯誤を含めて、それぞれのキャリアの方向性が明確化していく時期」でもあった。その意味で、入社後数年間の実務経験や教育訓練は、若年労働者のみでなく、勤労意欲や技術力形成の側面で社会全体にとって重要な意味をもつ(小杉、二〇〇三年、七九頁)。

 しかし、このような人材形成のモデルは、九〇年初めに日本経済が平成不況に陥って以来変化しつつある。旧日経連が九五年に発表した「新時代の日本的経営」は、従業員を、(1)「長期蓄積能力活用型」、(2)「高度専門能力活用型」、(3)「雇用柔軟型」に分け、長期雇用とそれを前提にした企業内キャリア形成は(1)および(2)の一部の労働者に適用することを提案した。新卒者が正社員として雇用される機会(とくに大企業)の縮小や、新卒者における非正規雇用の拡大、あるいは中途採用の増加は、「新時代の日本的経営」の提案に沿った人事・採用政策が多くの企業でとられていることを物語っている。

 キャリア形成の面では、企業は(3)「雇用柔軟型」に対応するパート・アルバイトあるいは派遣労働者などの非正規従業員に対して中長期視点にたった能力開発政策をもたない。そのため、企業における仕事や研修を通じた能力開発の機会があまり与えられず、これらの労働者の職業能力の蓄積がされないという問題点が指摘されている(小杉、二〇〇三年、一三三〜一三六頁、久本、二〇〇三年、一七九頁)。とくに流通・外食産業などのサービス産業では、「企業のなかで企画立案管理などを担う『中核労働者』とマニュアルどおりに働けばよい『使い捨て』労働者」の二極化が若年労働者のなかで起こっているという指摘もされている(山田、二〇〇二年)。

 若年労働者の能力開発、キャリア形成の全体像を統計資科で把握するのは難しい。しかし、旧日本労働研究機構が〇一年に実施した「能力開発基本調査」の企業調査(一万企業を対象、有効回収率二一・八%)により、正社員として働く若年労働者に対する職場での能力開発(OJT)の状況の一端を窺うことができる。同調査によると、OJTの促進方法(複数回答)として「新入社員に見習い期間を設けて教育する」企業は五一・三%と最も割合が高く、「新入社員の教育係を決めて指導する」(四五・八%)、「職場ごとの改善提案を奨励する」(二二・七%)、「複数の業務を経験させるため計画的な配置を行う」(二一・六%)が続く。これらの能力開発促進方法は、企業規模が大きくなるほど実施率が高くなる(「複数の業務を経験させるための計画的な配置」については企業規模間の差はあまりない)。また業種別でみると「見習い期間を設ける」は運輸・通信業や卸売・小売業・飲食店で実施率が高く(それぞれ五八・三%、五五・一%)、「教育係を決めて指導する」は金融・保険・不動産業やサービス業などで実施率が高い(それぞれ、五六・五%、五一・三%)。また「職場ごとの改善提案を奨励する」は製造業や電気・ガス・水道・熱供給業で、「複数の業務を経験させるための計画的な配置」は金融・保険・不動産業や製造業で、それぞれ実施割合が高い。この調査から、正社員として働く若年労働者の教育訓練の全体像をつかむのは難しいが、新入社員に対する「即戦力」の要求が強まっているとはいえ、依然一定の見習い期間や先輩社員の指導が必要と考える企業の割合が高いことがわかる。また、「日本型雇用システム」の教育訓練の特徴の一つとみなされている、複数の業務を経験してキャリア向上をする方法をとっている企業の割合が意外と低いこともわかる。

 また、同調査の従業員調査(調査企業の従業員三万人対象、有効回収率一八・九%)は、正規従業員がキャリア形成や能力開発に対してもつ不安をきいている。それによると、「自分の能力が他社で通用するかどうかわからない」不安をもつものは全体で四五・九%、そのうち二四歳以下と二五〜二四歳がそれぞれ五一・五%、五三・二%なのに対し、三五〜四四歳、四五〜四九歳がそれぞれ四六・二%、三七・八%と、年齢が若いほど不安をもつものの割合が高い。また「どういう能力を開発したらよいのか、わからない」不安をもつものは全体で一九・九%であるが、二四歳以下が三三・五%ととくに割合が高くなっている(二五〜三四歳は二三・九%、三五〜四四歳は一八・九%)。この質問に対する回答から、若年労働者の多くが転職にも対応できるように他の企業でも通用する職業能力やキャリアの形成を希望するが、仕事の経験が浅いためか具体的に必要とされる能力について明確なイメージがつかめない傾向にあるといえる。

就業形態別業務内容

 パート・アルバイトなど非正規労働者については、内閣府が〇三年に実施した「若年層の意識実態調査」(無作為に抽出された二〇歳から三四歳の男女三〇〇〇人対象、有効回答率六一・一%)が、これらの労働者の能力開発・キャリア形成の問題点を指摘している(内閣府『平成一五年版国民生活白書』)。同調査によると、パート・アルバイトで自分の業務が「責任ある仕事を任されている」「新しい仕事に取り組む機会がある」「職業訓練を受ける機会がある」「業務を指導する立場にある」と回答した割合は、正社員より低くなっている(第8表)。すなわち、パート・アルバイト労働者は定型的あるいは補助的な仕事を担当する傾向にあるため、能力開発を可能とする業務を担当する機会は正社員と比べると低い(内閣府、二〇〇三年、六六、一六二頁)。しかし、「責任のある仕事を任され」たり、「新しい仕事に取り組む機会がある」業務を担当しているパート・アルバイトの割合は、それぞれ六五・二%、四三・二%と、正社員に比較すると低いものの、一定の割合を占めている。これは、流通業界など非正規従業員が多い業界で、パートを積極的に活用する戦力化の動きが進んでいることを反映しているとみることができる(本年鑑前年版、一三五頁参照)。

日本労働年鑑 第74集
発行 2004年6月25日
編著 法政大学大原社会問題研究所
発行所 旬報社
2006年7月28日公開開始


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