内部労働市場と年功賃金を前提とした「日本型雇用システム」では、新卒者は正社員として毎年採用されてきた。企業にとっての若年労働者採用のメリットは、相対的に安い賃金コストと教育訓練に対する高い適応力である。さらに、年功秩序を維持するために、ピラミッド組織の底辺部分である「企業内大衆」を若年労働者によって形成する必要もあった。「企業内大衆」である若年労働者は、OJTを中心とした教育訓練を通じて能力・技能を取得することで昇給・昇進し、年功秩序内の地位がしだいに上昇していった。しかし、平成不況による企業業績の低迷や産業構造の変化(製造業からサービス産業へのシフトや海外移転による製造業自体の空洞化)などにより、企業は事業再構築や雇用慣行の見直しを進め、そのなかで「日本型雇用システムの対象者の絞込み」も行っている(上林、二〇〇三年)。その結果、若年労働者採用のメリット自体はなくならないものの、新卒者の採用数は減少傾向にある。
「日本型雇用システム」がどのように見直されているかは、旧日経連・東京経営者協会が九八年に実施した『第二回「新時代の日本的経営」についてのフォローアップ調査報告』(一九九八年六月実施、一八三八社対象、有効回答率一三・九%)でみることができる。同調査によると、今後の採用方針については「新卒の一括採用重視」と回答した企業が一六・五%であったのに対し、「新卒一括、中途採用の折衷」が七〇・五%と最も多かった。また、キャリアを重視した人材の採用に関する方針をみると、「職種別採用と新卒採用の組み合わせ」と回答した企業が五二・五%と、「新卒中心に採用し、社内で人材育成」と回答した企業(三四%)を上回った。このアンケート結果から、新卒者採用の雇用慣行は急速に衰退することはないものの、企業の採用計画のなかの地位がしだいに弱まってきていることがわかる。
さらに、大企業を中心とした新規採用の抑制も、新卒者採用数の減少の要因となっている。旧日本労働研究機構の『事業再構築と雇用に関する調査』(〇二年実施、一万七六一企業対象、有効回答率一五・六%)によると、五二%の企業が人員削減を実施あるいは計画している。削減方法としては「自然減」(定年、自己都合退職、従来からある早期退職優遇制度・出向転籍制度の活用)が八二%と最も多いが、次に多いのが「採用抑制」(新卒、中途、非正規を含む)の七七%である。また、玄田有史は「中高年がすでに得ている雇用機会を維持する代償として、若年の雇用機会が奪われている」と論ずる。そして、この「置換効果」仮説を実証するため厚生労働省「雇用動向調査」にもとづき統計分析を行った。そして、事業所における「四五歳以上比率」の係数が高くなるほど、その事業所における求人予定数がすべての学歴において減少する傾向にあるという統計的に有意な結果を示した(玄田、二〇〇一年、六六〜七一頁)。
高校新卒者の就職状況は、公共職業安定所および学校で取り扱った求職、求人、就職状況をまとめた「職業安定業務統計」(厚生労働省)で把握することができる。第1表は高校新卒者の求職者数、求人数、就職者数の九一年から〇三年までの推移を示す。九一年から〇三年の一三年間に、求職者数、求人数、就職者数はそれぞれ六七%、八六%、六八%減少した。求人数の減少率が求職者数の減少率を上回ったため、求人倍率は九一年の三・〇九倍から一・二七倍に低下した。また、就職率(就職者が求職者に占める割合)も過去一三年間で低下傾向にあり、九〇年代初めにはほぼ一〇〇%であった就職率はとくに九九年以降大幅に低下した。高校新卒者に対する求人の減少は、不況により企業が新規採用の抑制や中止をしたことによるところが大きいが、その他の要因として、企業が新規採用の対象を高卒から専修学校卒・短大卒・大学卒にシフトしたこと、高卒者を採用するかわりに非正規従業員あるいは中途採用者を採用したことなどもあげることができる(小杉、二〇〇三年、第二章)。
高校新卒者の就職先はどのように変化したのだろうか。入職者・離職者の状況を明らかにする目的で行われる厚生労働省「雇用動向調査」で高校新規卒業者の入職者数をみると、高卒入職者は減少傾向にあり、九一年から〇一年まで一一年間で四七%減少した(第2表)。この期間に一〇〇〇人以上の大企業に入職したものと三〇〇人未満の中小企業に就職したものの割合は、前者で減少傾向、後者で増加傾向にあるものの、一貫した減少や増加はみられない。また、製造業に入職したものの割合の推移をみると、二〇〇〇年までは減少傾向(九一年から二〇〇〇年までに一〇ポイント減少)にあったが、〇一年には増加に転じた。サービス産業(運輸・通信、卸売・小売、飲食店、金融保険業、サービス業など)への入職者の割合には明確な傾向はみられない。
なお、第1表「雇用安定業務統計」の就職者数と、第2表「雇用動向調査」の入職者数の数値が一致しない(後者の数が常に多い)理由として、二つの理由をあげることができる。第一に、「雇用安定業務統計」は公共職業安定所および学校で取り扱った就職者数であるのに対し、「雇用動向調査」は入職者の入職経路として職業安定所と学校だけでなく、民営職業紹介、新聞・雑誌等・インターネット等の募集広告、縁故採用なども含んでいる。第二に、「雇用安定業務統計」は三月卒の高卒者で六月までに就職したものも新卒の就職者としてカウントしているが、それ以降に就職したものはカウントしていない。一方「雇用動向調査」は、無業者が卒業した年の一二月までに就職すれば入職者としてカウントする。

高校新規卒業者が就いた仕事のうち、正規、非正規雇用の割合はどのように変化したのだろうか。「雇用動向調査」によって、これまで未就業であった一九歳以下の新規学卒者の入職者数を雇用形態別(「一般労働者」「パートタイム労働者」)に把握することができる(第3表)。一九歳以下の未就業の学卒者数は、高校新卒者の入職者数の大まかな指標である。なぜなら、このカテゴリーには、中卒で一九歳まで無業であったものあるいは中卒で入職前一年間に就業経験のないものも含まれているためである。なお、パートタイム労働者は「常用労働者のうち一日の所定労働時間がその事業所の一般労働者より短い者、又はその事業所の一般労働者と一日の所定労働時間が同じでも一週の所定労働日数が少ない者」を意味する。パートタイム労働者でも正規従業員と同じ労働時間で働く「フルタイムパート」は正規従業員とともに「一般労働者」に含まれる。

九一年からの雇用形態別の入職者数および割合を示した第3表をみると、一般労働者として入職した一九歳以下の学卒者の割合は減少し(九一年から〇一年の一一年間に二八・一ポイント低下)、パートタイム労働者として入職した一九歳以下の学卒者の割合は増加した(一一年間で二八・一ポイント増加)。男女別でみると、九一年のパートタイム入職者の割合は男性一一・一%、女性一三・六%とそれほど差異はなかったが、一一年間に男性は二一ポイント増加して三一・女性は三五ポイント増加して四八・四%となった。このデータから、企業は高校新卒者採用自体の非正規化を女性中心に進めていることがわかる。
大学新規卒業者の就職動向は、高校の場合と違い求人内容が公共職業安定所に届けられていないので、「雇用安定業務統計」のような職安や学校を通じて把握された求人数や就職者数を示したデータはない。大学・大学院新規卒業者の求人倍率は、民間調査機関の調査(リクルートワークス研究所「ワークス大卒求人倍率調査」)によって把握されている。この調査は、全国の民間会社を対象としたアンケート調査と文部科学省「学校基本調査」にもとづいて、採用予定数と民間企業就職希望者数をそれぞれ推計し、求人総数を就職希望者数で除して求人倍率を算出する。大学・大学院新卒者の求人倍率は、九一年三月卒から九六年三月卒にかけて二・八六倍から一・〇八倍に減少し、その後いったん増加するが再び減少し、二〇〇〇年三月卒の求人倍率は〇・九九倍と最低水準を記録した。その後、再び増加し、〇四年三月卒の求人倍率は一・三五倍と予測されている(第4表)。

同調査は九六年三月卒の調査から企業規模別の求人倍率を算出している。それによると、従業員規模一〇〇〇人以上の企業と一〇〇〇人未満の求人倍率は、九六〜〇四年卒の平均でそれぞれ〇・四九倍、二・二五倍である。一〇〇〇人以上の大企業への就職は厳しい状況にあり、「日本型雇用システム対象者の絞込み」が行われていることが窺われる。一方、一〇〇〇人未満の中堅企業・中小企業では求人数が求職者数を上回っている。すなわち,大学新卒者は依然「大企業志向」をもち、大企業への雇用機会が少なくなった状況でも「中小企業志向」を強めていないのである(相田、二〇〇四年)。
大学新卒者の雇用状況の悪化は、卒業者数全体に就職者が占める割合「就職者比率」によっても示される(文部科学省の「学校基本調査」)。同比率は、九一年の八一・三%から〇三年の五五・一%と、ほぼ一貫して低下している(第4表)。なお、「就職者」とは「給料、賃金、報酬、その他の経常的な収入を目的とする仕事に就いた者」を意味する。一方、卒業者のうち「一時的な仕事に就いた者」(パート、アルバイト、契約社員など「臨時的な収入を目的とする仕事に就いた者」)が占める割合は、九一年はわずか〇・八%であったが、〇三年には四・六%に上昇した。なお、非正規の従業員でも「経常的な収入」を得ているものは「就職者」としてカウントされる。また、卒業時に無業者で「就職者」「一時的な仕事に就いたもの」にカウントされなくても、卒業後に非正規の仕事に就く場合がある。そのため、大卒者のなかでパート、アルバイト、契約社員など非正規の仕事に就いたものの割合は、第4表の第五列が示す割合より高いと考えられる。
大学新卒者の就職状況は、「雇用動向調査」でも把握できる。同調査により、九一年から〇一年まで一一年間の大学新規卒業者の入職者数と入職先企業をみると、大卒の入職者数は増加傾向にあり、九一年の二七万七八〇〇人から〇一年の三五万一五〇〇人に増えた(第5表)。不況にかかわらず大卒入職者が増加した理由の一つとして、企業が新規採用の対象を高卒から大卒にシフトしたことをあげることができる。しかし、不況の影響による大企業の新規採用抑制は、企業規模別でみた入職者の割合の変化から窺うことができる。一〇〇〇人以上の大企業に入職した新卒者の割合は九一年の五二・四%から〇一年の三一・〇%に二一・四ポイント減少したのに対し、三〇〇人未満の中小企業に入職した新卒者の割合は九一年の二三・〇%から〇一年の四六・九%ヘ二三・九ポイント増加した。新卒者が依然大企業志向をもっているのにかかわらず中小企業に就職した新卒者の割合がこのように増加したことは、大卒者が働くことを希望する企業あるいは仕事と、実際に大卒者が就職する会社あるいは就く仕事の間に「ミスマッチ」が生じていることを示唆している。

入職先企業を産業別にみると、製造業の企業へ入職した大卒者の割合が減少傾向(九一年から〇一年までに九・五ポイント減少)であり、サービス産業の企業へ入職した大卒者の割合は一貫していないものの増加傾向にあるといえる。産業構造の製造業からサービス産業への転換が新卒者の雇用機会におよぼす影響は、高校新卒者よりも大学新卒者に、より明確に現れているとみることができる。
日本労働年鑑 第74集
発行 2004年6月25日
編著 法政大学大原社会問題研究所
発行所 旬報社
2006年7月28日公開開始