OISR.ORG へようこそ 法政大学大原社会問題研究所

日本労働年鑑 第72集 2002年版
The Labour Year Book of Japan 2002

特集 労働時間法制の改編と運用の実態


 第三章 労働基準法改正による時間短縮の効果

 一 着実に進む所定労働時間の短縮と週休二日制の若干の停滞

 八七年の労基法の改正で週四〇時間制(労基法三二条)が導入されたが、急速な時間短縮による企業の過重負担を考慮して段階的に実施することとし、九七年三月末まで一定の業種・規模の事業場について猶予措置が設けられた。九七年四月からこの期限が切れ、週四〇時間制が全面的に適用されるようになったが、労働者数が一〇人未満の商業、興行(映画製作業を除く)、保健衛生業、接客業の事業場については特例措置として四四時間に据え置かれている(労基法施行規則二五条の二)。

 法定労働時間の短縮により企業の所定労働時間は確実に短縮された。「平成一三年就労条件総合調査」によると、〇一年の労働者一人平均週所定労働時間は三八時間四三分とされ、週所定労働時間が四〇時間以下の企業は九六年の五三・二%から〇一年には九六・七%にまで増加している。小規模事業所の時間短縮も進んでおり、〇一年九月分の「毎勤調査」によると、五〜二九人の事業所の年間総実労働時間は一八二六時間(月間総実労働時間一五二・二時間×一二ヵ月)となっている。また、厚生労働省「平成一三年毎月勤労統計調査特別調査」(労働者規模一〜四人の事業所を対象に毎年七月に調査)によると、七月の出勤日数が平均二一・五日で日実労働時間が七・三時間となっているから、年間総実労働時間は一八八三・三時間程度となる(二一・五日×一二一ヵ月×七・三日)。この二つの数値から、事業所規模一〇人未満の年間総実労働時間はだいたい一八二〇〜一八八〇時間台であると推計される。

 これに対し、週休二日制の普及率についてはここ数年若干のかげりがみられる。前掲「就労条件総合調査」(旧「賃金労働時間制度等総合調査」)によると、〇一年の週休二日制の普及率は適用労働者の割合で九五・〇%、完全週休二日制は五七・六%となっているが、九六年と比べた場合、それぞれ一・五、一・七ポイント下がっている。また、同調査によると、〇一年の労働者一人平均の年休取得日数と取得率も若干低下しており、九六年の九・四日(五四・一%)から八・九日(四九・五%)に下がっている。これらの調査報告は数値が下がった理由を説明していないが、この間の景気後退が影響しているものと思われる。

 二 労働時間短縮計画と時短促進法の繰り延べ

 労働時間法制の改編とその時間短縮効果に関してもう一つ触れるべき点は、時短促進法の廃止期限が再度延長されたこと、それに伴い労働時間短縮計画が一部見直されたことである。もともと時短促進法は、八七年の労基法改正以後もなかなか時間短縮が進展しないことから、九二年に企業間の競争、同業他社との横並び意識、取引慣行の問題といった時短を阻害する日本的な特殊事情を踏まえて労使の自主的努力による時間短縮を促進することを目的に制定された。しかし、その後、政府の時間短縮目標の達成が困難となったため、九七年三月に同年八月末とされていた本法の廃止期限が〇一年三月末まで延長され、さらにこの期限内の達成も不可能となり、〇六年三月末まで毎度延長されることになった。それに伴い、九二年に策定された政府の「労働時間短縮推進計画」も九七年に続いて〇一年八月に再度変更され、結局、労働者一人平均年間総実労働時間一八〇〇時間への短縮という目標も、〇六年三月末まで繰り延べられることになった(平一三・八・七厚生労働省告示二六九号)。

 第二章の一ですでにみたように、一八〇〇時間への短縮を達成するためには、時間外労働の削減と年休の取得率の向上が必要とされる。そのためか、〇一年に改定された「労働時間短縮推進計画」は、年休の完全取得の促進と所定外労働時間の削減に重点を置いている。しかし、行政指導を中心とした従来の手法を踏襲するだけでは一八〇〇時間の壁を乗り越えることはかなり困難と思われる。

 三 時間短縮手段としての弾力的措置の効果

 八七年の改正以来、労働基準法は法定労働時間の短縮のほかに、新たな労働時間の弾力化も時間短縮の手段と位置づけて、その拡大をはかってきた。一ヵ月または一年単位の変形労働時間制については、業務量の変動にあわせた労働時間の効率的配分による休日増=時間短縮が政策のねらいとされた。また、フレックスタイム制や裁量労働制でも、労働者による労働時間の自己管理である程度の短縮が期待されていた。これらの弾力化政策はねらい通りに、時間短縮効果を上げることができたのであろうか。

 この点についての政府統計はないが、連合総研『ゆとりある就労と豊かな生活時間に関する調査研究報告書』(一九九八年)が興味深い調査結果を公表している。この調査は、連合加盟の六〇〇労働組合(有効回答総数四二三件)を対象に、フレックスタイム制、裁量労働制、変形労働時間制のそれぞれが、総労働時間の削減や年次有給休暇の消化、残業時間の削減にどのような効果を与えたのかを調査している。

 第2表が示すように、これら三つの弾力化措置の総労働時間削減について、効果があった(非常に効果があった+やや効果があった)とする回答が、フレックスタイム制が四七・六%、裁量労働制が三三・四%、変形労働時間制が三一・五%で、政策的に最も時間短縮効果が期待された変形労働時間制が最も低い割合となっている。また、年次有給休暇の消化促進については、三つの措置とも効果があるとする回答が一〇%以下である。残業時間の削減については、フレックスタイム制が五二・九%、裁量労働制が四一・七%、変形労働時間制が三三・七%というように、効果ありとする回答が総労働時間の削減と比べてやや高めの数値となっている。しかし、削減効果が最も期待された変形労働時間制が低い割合となっている。

弾力化措置の時間短縮効果

 このように、変形労働時間制は期待された時間短縮・所定外労働時間削減の効果を十分に発揮せず、労働時間の短縮はフレックスタイム制のような労働時間の管理を個々の労働者の主体性にゆだねた方法のほうがより効果的だといえる。

 それでは、こうした労基法上の労働時間制度は実際にどのように用いられ、そこでどのような問題が発生しているのであろうか。以下では、労基法上の主要な労働時間制度の実際の運用とその問題点をもう少し詳しく検討する。

日本労働年鑑 第72集
発行 2002年6月25日
編著 法政大学大原社会問題研究所
発行所 旬報社
2006年8月11日公開開始


■←前のページ  日本労働年鑑第72集【目次】 次のページ→■
日本労働年鑑【総合案内】

法政大学大原社会問題研究所(http://oisr.org)