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日本労働年鑑 第61集 1991年版
The Labour Year Book of Japan 1991

特集 労働組合組織化の新たな動向


組織率低下の要因と構造−はじめに

■ 一五年間連続の低下

 一九九〇年六月現在の推定組織率は二五・二%である。なんと七五年の三四・四%から、一五年間連続して下がりつづけている。もっとも労働組合員数それ自体は、伸び悩んでいるとはいえ、減少しつづけているわけではない。七五年に、戦後最高の一二五九万人を数えた組合員数は、九〇年には一二二六万人と三三万人少なくなっている。ただ、その減少比率は一五年間で二・六%と僅かであり、またこの間、一方的に減りつづけてきたわけでもない[1]。

 組合員の絶対数はそれほど大きく減っているわけではなく、また一方的に減りつづけているわけではないのに、なぜ組織率だけが、「また今年も低下!」なのであろうか。答えは簡単である。組織率は労働組合員数を雇用者数で割って算出される。分母となる雇用者数は七四年以来増えつづけ、しかもその増加傾向は少しも衰えをみせないからである。分子が一定で分母が増えれば、その商である組織率が減りつづけるのは自明の理である。

 だが疑問は残る。それではなにゆえ、労働組合員数は雇用者数と並んで増えないのだろうか。

■ 環境要因説

 答えは大きく分けて二つある。一つは、環境要因説とでも呼びうるものである。産業構造が変わり、もともと組合員の少なかった第三次産業で雇用労働者が増えている。就業形態も変わり、パートタイマーなど正社員でない人々が増えている。もともと、非正社員はめったに組合に加入しなかった。産業構造や就業形態の変化が、これまで組合員の主流をなしてきた人々とは異なるタイプの労働者を増やし、その結果、労働組合員数の伸びは鈍る、というのである。

 だが、環境要因の変動を指摘するだけで、はたして組合員数の停滞傾向を説明したことになるのだろうか[2]。そうではあるまい。なぜこれらの新しい人々は組合員にならないのかを説明しなければ不十分であろう。しかし、ここから先の議論ははなはだ曖昧になる。

 たとえば、パートタイマーは労働組合になじまないとか、組合離れが生じているというような説明がなされる。これらの議論はほとんど検証されることなく、一応もっともらしい説として流布している。だがもしそうなら、同じような環境変動にさらされている先進工業諸国のすべてで同様の事態が生じないのはなぜなのだろうか[3]。こうした疑問をつぎつぎに発していくと、結局、この環境要因説だけで組合員数の停滞傾向を説明するのは無理があることに気づく[4]。

■ 組織化の当事者に目を向ける説

 そこでもう一つの答えが出てくる。組織化の当事者に目を向ける説である。未組織労働者が当事者の一員であることはいうまでもない。彼らの間に組合離れが生じているとか、そもそも組合にはむかないなどという議論はこの説の一つである。だが、この議論は先に指摘したように、実証研究によって十分に裏づけられてはいない。今後の研究課題であろう[5]。

 当事者は未組織労働者だけではない。彼らに組織化を働きかける既存の労働組合、組合に対抗する経営者もまた当事者の一員である。既存の労働組合は未組織労働者の組織化に本当に熱心に取り組んでいるのだろうか。あるいは経営者はこれまで以上に反組合的姿勢を強めているのだろうか。組合の組織化努力の少なさ、経営者の抵抗の両方、またはいずれか一つが組合員数の停滞傾向をもたらしているのではないだろうか。

 日本における組織率低下の原因を探るには、こうした点を確かめることこそが必要なのではないか。だが、残念ながら経営者の組合に対する姿勢がどう変わってきたのか、あるいはそこには変化がみられないのかどうかを確かめることは、ここではできない。紙幅がかぎられており、何よりも資料が不足しているからである。

■ 組織状況のアンバランス

 労働組合組織率が九〇年六月現在、二五・二%であることは、さきに述べた。しかし、どの分野にも四人に一人の組合員がいるわけではない。民間部門と公共部門、あるいは企業規模によって大きな違いがある。『平成二年労働組合基礎調査報告』によれば、「公務」では七四・九%、民営企業の企業規模「一〇〇〇人以上」では六一・〇%と組織率は高いが、「一〇〇〜九九九人」では二四・〇%となり、「九九人以下」では二・〇%とほとんどゼロに近い数字となる。

 また日本の組織労働者を、官と民、企業規模でみた場合の分布状況をみると、「一〇〇〇人以上」の民間企業にその四六・二%がおり(なかでも企業規摸五〇〇〇人以上に二八・五%が集中)、また「国公営」に二二・〇%が集中し、双方で日本の労働組合員のおよそ七割を占める。

 要するに、日本の労働組合員の大多数は民間大企業の従業員と公務員であり、中小企業では未組織労働者が圧倒的に多いのである。いいかえれば、労働条件が比較的良好な分野に労働組合があり、労働条件が劣悪で、労働組合をより必要とするであろう分野に労働組合が組織されていない。さきにみた官民、企業規摸別の組織率の分布は、一九六〇年にさかのぼってもほとんと変化せず、しかも、この間に減量経営と行政改革などを通じて増えたのは、パートなどの非正規従業員や民間中小企業の労働者なのである。つまり、公務員と民間大企業で組織率が高いのは戦後日本の労働組合の歴史的・構造的特質なのであり、労働者のなかでのその比率の減少が組織率の低下に直結せざるをえない構造になっている。したがって、労働組合組織化の課題の一つは、このような歴史的な構造自体を突き崩すことにもあるといってよいであろう。

 いずれにせよ、環境の変化と組合の主体的取り組みの遅れのなかで、組合の組織率は一貫して低下をつづけてきた。そして、民間大企業と官公部門に偏重した日本の組合組織の構造も、変わることなく現在にいたっている。それは、はたしてやむをえない結果なのか。組合の魅力を回復し、組織率の低下を逆転させるための条件は、どこに存在しているのか。この特集では、これまでの労働組合の組織化活動の経験と現状、問題点、そして新たな取り組みのいくつかを明らかにすることによって、労働組合の組織化活動を活発にし、組合員の増加をもたらすためのヒントを採ってみることにしたい。

日本労働年鑑 第61集
発行 1991年6月25日
編著 
法政大学大原社会問題研究所
発行所 労働旬報社
2006年12月1日公開開始


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